第二階層探索!
情報を集め第二階層へ挑戦します
ミルドさんの工房で魔導板を鑑定してもらった翌朝。
俺たちは王都の冒険者ギルドを訪れていた。
目的は、地下遺跡の第二階層について情報を集めることだ。
昨日、ミルドさんが二枚の魔導板を使って見せてくれた立体地図には、第二階層の奥に大きな研究施設らしき区画が描かれていた。
そこに第三の魔導板があるかもしれない。
もちろん、ただの予想だ。だが可能性としては高いはずだ。
せっかく二枚も見つけたのだから、最後まで調べてみたい。
何が記録されているのか……
「受付のお姉さーん、教えてください!」
ユウが受付の女性に訊ねる。
「もう、いいかげん私の名前覚えてください!ほら名札も付いてるんですからー」
名札にはリリア・フェルメルと書いてある。
「こほん。ではリリアさん、地下遺跡の第二階層に挑みたいんですが何か情報はないでしょうか!」
「第二階層の情報ですか?」
受付のお姉さんは、俺たちの話を聞いて少し驚いた顔をした。
「はい!昨日は第一階層を探索したので、今日はその先へ行こうと思っているんです!」
「なるほど……少々お待ちくださいね」
リリアは受付の奥から分厚い資料を取り出した。
表紙には『王都北東部・地下遺跡調査記録』と書かれている。
「こちらの遺跡は、過去に何度か冒険者による調査が行われています。ただ、第二階層については十分な情報が残っていないんです」
「そうなんですか?」
「はい。第一階層に比べて魔物が強く、奥へ進んだ冒険者も少ないようでして、ほとんど情報がないんです」
リリアは資料を開き、何枚かの紙を俺たちに見せてくれた。
そこには魔物の名前と特徴が書かれていた。
「確認されているのは、アイアンリザード、マジックバット、それからガーディアンと呼ばれる魔法仕掛けの守護兵ですね」
「ガーディアン?」
ガイが興味深そうに尋ねた。
「古代の施設を守るために作られた魔導人形だそうです。普通の魔物と違って、壊れたあとに魔石を残すことがあるようですね」
「へえ!それはすごいですね!」
俺は資料を覗き込んだ。
鎧を着た人形のような絵が描かれている。
いかにも古代遺跡らしい敵だ。
「ただし、魔法への耐性が高い個体も確認されています。無理に戦おうとせず、危険だと思ったら撤退してくださいね」
「分かりました!」
俺たちは礼を言い、ギルドを後にした。
必要な情報は少ないが手に入った。
あとは準備を整えて挑むだけだ。
「今回は少し長くなるかもしれないわね」
道具屋へ向かいながら、サキが言った。
「そうですね。食料も多めに買っておきましょうか」
アステリアが頷く。
「松明も必要だな。第二階層は明かりが少ないかもしれん」
ガイがそう言うと、俺は鞄の中を確認した。
回復薬に魔力回復薬、縄、携帯食料。
昨日のうちに使った分は補充してあるけれど、もう少し余裕が欲しいところではある。
「よし!今日はしっかり準備してから出発しましょう!」
「ええ。別に慌てる必要はないものね」
サキが微笑んだ。
こうして俺たちは、しっかりと準備を整え午前中には地下遺跡へ向けて出発した。
地下遺跡の入口に到着したのは、昼を少し過ぎた頃だった。
前回と同じように、崩れかけた石造りの入口が森の奥に口を開けている。
周囲には鳥の鳴き声が響き、穏やかな風が木々を揺らしていた。
「さて、行きましょうか!」
俺が声をかけると、三人が頷いた。
遺跡の中は相変わらず薄暗い。
松明に火を灯し、俺たちは慎重に通路を進んでいく。
第一階層の構造は、もうある程度分かっている。
途中でアーマーラットが二匹現れたけれど、サキとガイがあっという間に倒してくれた。
「よし!順調ですね!」
「第一階層は一度、前に来て道を覚えている分だけ楽ね」
サキが剣を鞘へ収めた。
そのまま通路を進み、やがて大きな広間に出る。
ここは、以前ストーンゴーレムと戦った場所だ。
壁際には、俺が偶然見つけた隠し通路も残っている。
「あの部屋、もう一度確認しておくか?」
ガイが尋ねた。
「うーん……前に隅々まで調べましたし、今日は第二階層を優先しましょう!」
「そうね。第三の魔導板があるとしたら、もっと奥でしょうし」
サキが頷く。
俺たちは広間の奥にある階段へ向かった。
階段は石造りで、かなり長い。
壁には古い魔法文字が刻まれ、ところどころに青白い光を放つ結晶が埋め込まれていた。
「綺麗ですね……」
アステリアが小さく呟いた。
「これ、何百年も前から光っているんでしょうか?」
「どうなんでしょう?古代の魔法ってすごいですね!」
俺は結晶を眺めた。
これだけ長い間、魔力が尽きずに光り続けるなんて、いったいどんな仕組みなんだろう。
ミルドさんなら何か分かるかもしれない。
そんなことを考えながら階段を下りていると、先頭を歩いていたガイが足を止めた。
「止まれ……何かいるな」
「え?」
俺たちは一斉に前を見た。
階段の先。
暗闇の中で、何かが動いている。
カリカリと石を引っ掻くような音が聞こえた。
やがて、松明の光に照らされて姿を現したのは、全身を金属のような鱗で覆われた大きなトカゲだった。
「アイアンリザード……!」
サキが剣を抜いた。
ギルドの資料に載っていた魔物だ。
体長は二メートルほど。
四本の太い脚で床を踏みしめ、鋭い牙を覗かせている。
「グルルル……!」
低い唸り声が響いた。
「気をつけろ。鱗がかなり硬そうだ」
ガイが大斧を構えた。
「まずは俺が!」
俺も剣を抜き、前へ出る。
アイアンリザードは俺たちを見るなり、勢いよく突進してきた。
「うわっ!?」
予想以上に速い!
俺は慌てて横へ飛び、突進を避けた。
魔物の巨体がすぐ横を通り過ぎ、石壁に激突する。
ドゴンッ!
壁が大きく揺れた。
「すごい力ね!」
サキが目を丸くした。
「だが、所詮はトカゲ、動きは単純だ!」
ガイが大斧を振り下ろす。
ガキィン!
金属同士がぶつかったような音が響いた。
「むっ!?」
ガイの斧が、アイアンリザードの背中の鱗に弾かれた。
「硬いな!」
「なら、隙間を狙うわ!」
サキが素早く回り込み、脚の付け根へ剣を突き出す。
しかし、アイアンリザードは尻尾を振り回し、彼女の攻撃を妨害した。
「きゃっ!」
「サキ!」
「大丈夫!避けたわ!」
サキは軽やかに着地し、再び構え直した。
どうやら、ただ力任せに攻撃するだけでは難しそうだ。
それなら……。
「アステリアさん!魔法をお願いします!」
「はい!」
アステリアが杖を掲げる。
「《ホーリー・ショット》!」
光の弾が放たれ、アイアンリザードの側面に命中した。
「ギャアアッ!」
魔物が悲鳴を上げる。
おおっ!
効いている!
「やっぱり魔法には弱いのかもしれません!」
「なら、もう一度!」
アステリアが杖を構え直した。
その間に、俺は魔物の注意を引こうと前へ出る。
「こっちだ!」
剣を構えた、そのときだった。
なぜか俺の足が勝手に動いた。
「……え?」
右足を前へ。
左足を後ろへ。
そして、くるりと一回転。
もう何で!?
俺は剣を持ったまま、妙に軽快なステップを踏んでしまった。
最後に両手を広げて決めポーズ取る。
や、やばい!
また踊っちまった!
「ユウさん!?」
アステリアが驚いた声を上げる。
「敵を挑発して注意を引くんです!」
「すごい!」
アステリアが目を輝かせた。
「確かに、魔物がユウさんを見ています!」
いや、そうだけど!
本当はそういうつもりじゃなかったんだけど!
すると、俺たちの体が淡い光に包まれた。
「……あら?」
サキが不思議そうに手を見つめる。
「なんだか体が軽いわ」
「俺もだ。力が湧いてくるな」
ガイが大斧を握り直した。
「もちろん、勇者の加護も発動しました!」
どうやら、今の妙な踊りで何かの強化効果が発動したらしい。
ふぅー助かった!
「今です!一気にいきましょう!」
「ええ!」
サキが地面を蹴った。
さっきまでとは比べものにならない速さで、アイアンリザードの懐へ飛び込む。
「はあっ!」
鋭い一撃が脚の付け根を捉えた。
「ギャッ!」
魔物が体勢を崩す。
そこへガイが大斧を振り上げた。
「これならどうだ!」
ドガァンッ!
先ほどは弾かれた斧が、今度は硬い鱗を砕いた。
「おおっ!」
俺は思わず声を上げた。
「すごい!」
「今だ、ユウ!」
「はい!」
俺は剣を握り、倒れかけた魔物へ駆け寄った。
狙うのは、ガイが砕いた鱗の隙間。
「せいやっ!」
剣を突き出す。
刃が深く突き刺さり、アイアンリザードは大きく体を震わせた。
「グギャアアッ!」
そして、床へ倒れ込む。
しばらく痙攣していたが、やがて動かなくなった。
「やった!」
俺は剣を引き抜いた。
「第二階層の魔物も倒せましたね!」
「ええ。でも、なかなか手強かったわ」
サキが息を整えながら笑った。
「最初はどうなるかと思ったぞ」
ガイも大斧を肩に担いだ。
「皆さん、お疲れさまでした!」
アステリアが近づいてくる。
「それにしても、ユウさんのあの動き……すごかったですね!」
「えっ!?」
「魔物の注意を引くだけでなく、勇者の加護まで。おかげでみんなが硬いアイアンリザードを倒せました!」
「そ、そうですかね!?」
俺は慌てて笑った。
「いやあ、たまたまですよ!たまたま!」
「ふふっ、ユウは勇者なのに謙虚なのね、何処かで見た勇者とは大違いね」
サキが微笑んだ。
「さすが勇者様です!」
アステリアも嬉しそうに頷く。
……お願いだから、あまり褒めないでほしい。
自分でも何が起きたのか分かっていないんだから。
そんなことを考えていると、ガイが倒れたアイアンリザードのそばで何かを拾い上げた。
「おい、見てみろ」
「どうしました?」
「魔石だ」
ガイの手には、鈍い銀色の魔石が握られていた。
「おおっ!」
俺は目を輝かせた。
「またドロップ品ですね!」
「それだけじゃないぞ」
ガイは魔物の足元を指差した。
そこには、銀色に光る小さな鱗が何枚も落ちていた。
「これも素材として使えるんじゃないか?」
「確かに!」
俺たちは鱗を拾い集めた。
数えてみると、全部で十二枚。
魔石も一つ手に入った。
「なかなかいい収穫ですね!」
「そうね。まだ一匹しか倒していないのに」
サキが笑った。
「普通はこんなに落とすものなのかしら?」
「どうなんでしょう?」
俺は首を傾げた。
「鱗だからいっぱい落ちるんじゃないですかね」
前回もいろいろ拾ったけれど、これが普通なのかどうかは分からない。
「ギルドで聞いてみればいいんじゃないか?」
ガイが言った。
「そうですね!」
俺たちは戦利品を鞄に収め、さらに奥へ進むことにした。
第二階層は、第一階層とは雰囲気がまるで違っていた。
通路は広く、壁には古代の魔法文字がびっしりと刻まれている。
天井には青白い結晶が並び、松明がなくても周囲を見渡せるほど明るかった。
「なんだか、本当に研究施設みたいですね」
アステリアが壁を眺めながら言った。
「そうね。第一階層はただの遺跡みたいだったけど、こっちは人が使っていた感じがするわ」
サキが頷いた。
「大昔は研究所として使われてたんでしょうね」
俺は言った。
通路の左右には、いくつもの扉が並んでいる。
中を覗くと、壊れた机や棚、古びた研究器具が残されていた。
どうやら、昔はここで何かの研究が行われていたらしい。
「これ、全部古代の魔道具なんでしょうか?」
俺は机の上に置かれた金属製の器具を手に取った。
丸い輪が三つ重なり、その中心に小さな水晶が浮かんでいる。
「さあ……。でも、壊れているみたいね」
サキが覗き込む。
「一応、持って帰ってみます?」
「そうしましょう!」
俺は器具を布で包み、鞄へ入れた。
ミルドさんなら何か分かるかもしれない。
それからも、俺たちはいくつかの部屋を調べて回った。
古びた書物はほとんど読めない状態だったけれど、小さな魔石や金属片など、使えそうな物はいくつか見つかった。
「ずいぶん荷物が増えたな」
ガイが鞄を持ち上げた。
「そうですね……」
俺も自分の鞄を見た。
まだ余裕はあるけれど、この調子で拾っていたらすぐにいっぱいになりそうだ。
「どれが貴重な物なのか、その場で分かればいいんですけどね」
「鑑定士でもいれば便利なんだろうな」
ガイが何気なく言った。
「確かに鑑定士がいれば、いらないもの置いていけますもんね」
俺は頷いた。
「でも、ミルドさんをダンジョンに連れてくるわけにもいきませんし」
「ふふっ、あのお爺さん、絶対に嫌がりそうね」
サキが笑った。
「わしを荷物持ちにする気か!って怒りそう」
「あはは!言いそうですね!」
俺たちは笑いながら通路を進んだ。
やがて、前方に大きな扉が現れた。
ほかの扉とは違い、分厚い金属で作られている。
中央には丸いくぼみがあり、その周囲に複雑な魔法文字が刻まれていた。
「これは……」
俺は足を止めた。
「何かありそうですね!」
「待て、ユウ」
ガイが俺の肩を掴んだ。
「まずは周囲を確認した方がいい」
「あ、そうですね!」
危ない危ない。
つい興奮して近づくところだった。
俺たちは扉の周囲を調べ始めた。
すると、サキが壁の一角を指差した。
「ねえ、これ見て」
「どうしました?」
「ここだけ、文字が違うみたい」
壁には古代文字が刻まれている。
しかし、その中の一列だけ、ほかよりも深く彫られていた。
「何て書いてあるんでしょう?」
俺は首を傾げた。
ミルドさんにもらった古代魔法文字の対応表を取り出し、照らし合わせてみる。
「ええと……」
読める文字を一つずつ探していく。
どうやら、いくつかの単語が並んでいるらしい。
「『研究』……『管理』……それから……」
俺は指で文字をなぞった。
「『許可』?」
「研究管理許可?」
サキが首を傾げる。
「何かの許可が必要ってことかしら」
「そうかもしれませんね」
俺たちは扉の中央にある丸いくぼみを見つめた。
何かを嵌め込む仕組みなのだろうか。
「魔導板じゃないか?」
ガイが言った。
「え?」
「前に見つけた魔導板も、この施設の記録を読み出す物だったんだろう?何か反応するかもしれないぞ」
「なるほど!」
俺は鞄から二枚の魔導板を取り出した。
すると、二枚が淡く光り始めた。
「おおっ!」
俺たちは顔を見合わせる。
どうやら、何か反応しているらしい。
俺は魔導板を扉へ近づけた。
すると、中央のくぼみが青白く輝いた。
ゴゴゴゴ……。
低い音が響く。
「えーほんとに開くの!?」
サキが驚いた声を上げた。
しかし、扉は動かなかった。
「やっぱダメだったかー」
代わりに、くぼみの周囲に三つの小さな光が現れた。
そのうち二つが青く点灯し、最後の一つだけが赤く光っている。
「……なるほど」
俺は思わず呟いた。
「やっぱり、あと一枚必要なんですね!」
「そういう事みたいね」
サキが頷いた。
「第三の魔導板を見つけないと、この扉は開かないってことか」
ガイも納得したように腕を組んだ。
「じゃあ、まずは残りの魔導板を探しましょう!」
俺たちは扉から離れ、別の通路へ向かった。
ところが、そのときだった。
カシャン。
背後で金属の音がした。
「……ん?」
俺が振り返ると、通路の奥に人影が立っていた。
いや、人ではない。
全身を古びた鎧で覆い、顔の部分には青い光が二つ浮かんでいる。
片手には長い剣。
もう片方には大きな盾。
「ガーディアンだ……!」
ガイが大斧を構えた。
ギルドの資料に載っていた魔導人形だ。
ガーディアンは無言のまま、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
その足音が、静かな通路に響いた。
「どうやら、簡単には通してくれないみたいね」
サキが剣を抜いた。
「皆さん、気をつけてください!」
アステリアも杖を構える。
俺は二枚の魔導板を急いで鞄に戻し、剣を握った。
「よし!みんな、いきましょう!」
ガーディアンの青い目が、ひときわ強く輝いた。
そして、長剣を振り上げる。
「来るぞ!」
ガイの声と同時に、ガーディアンが地面を蹴った。
金属の巨体が、想像以上の速さで迫ってくる。
「うわっ!?」
俺は慌てて剣を構えた。
ガキィィン!
激しい金属音が響き、両腕に衝撃が走る。
重い!
さっきのアイアンリザードとは、また違う強さだ。
「ユウ!」
サキが横から斬りかかる。
しかし、ガーディアンは盾を持ち上げ、その一撃を防いだ。
「もう、硬いわね!」
「なら、俺が!」
ガイが大斧を振り下ろした。
ガァンッ!
今度は盾が大きく揺れた。
けれど、ガーディアンは倒れない。
それどころか、盾を押し返すようにしてガイを弾き飛ばした。
「ぐっ!」
「ガイさん!」
アステリアが叫ぶ。
「大丈夫だ!」
ガイはすぐに体勢を立て直した。
「こいつ、なかなかやるな!」
俺は剣を握り直した。
目の前のガーディアンは、再び長剣を構えている。
この先へ進むには、どうやらこいつを倒さないといけないらしい。
「よし……!」
俺は大きく息を吸った。
「みんな、もう一度いきましょう!」
俺たちは互いに頷き合い、ガーディアンへ向かって駆け出した。
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よろしくお願い致します。




