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勇者パーティ、聖女様以外ぜんぶ偽物でした~自分だけが偽物だと思っている遊び人たちの最強パーティ~  作者: 黒華レン


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12/26

気難しい鑑定士、再び

ミルド工房へ珍しいドロップ品を持っていきます

 王都に戻った翌朝、俺たちは再びミルドさんの工房を訪ねることにした。


 昨日のダンジョン探索で見つけた宝箱には、見たこともない魔道具がいくつも入っていた。


 赤く輝く魔石に、銀色の腕輪。青い宝石が嵌め込まれた短剣。そして、以前見つけた物とよく似た二枚目の魔導板。


 どれも普通の道具屋では見かけない品ばかりだ。


 特に魔導板は、二枚を近づけた途端に光り始めた。


 あの現象が何だったのか、ぜひ知りたい。


「それにしても、またあのお爺さんのところへ行くことになるとはね」


 サキが楽しそうに笑った。


「今度は何を持ってきたんじゃ、って怒られたりして」


「いや、あの人なら喜ぶんじゃないか?」


 ガイが大きな斧を背負い直す。


「珍しい魔道具が好きそうだったからな」


「そうですね。前回も魔導板を見た途端、すごく熱心に調べてくださいましたし」


 アステリアが頷いた。


「今回は四つもありますから、きっと驚かれますよ」


「楽しみですね!」


 俺は鞄を軽く叩いた。


 中には昨日の戦利品が入っている。


 もちろん、壊れたり傷ついたりしないよう、布で丁寧に包んであった。


 ただ、一つ気になることがある。


 前回、ミルドさんは俺の指輪に興味を示していた。


 あのときは何とか話を逸らせたけれど、また同じことを聞かれたら困る。


 できれば、今日は魔導板の話だけで終わってほしい。


「ユウさん?」


「ひゃいっ!?」


 突然アステリアに声をかけられ、俺は飛び上がりそうになった。


「どうしたんですか?さっきから右手を握ったり開いたりしていますけど」


「あ、いや、ちょっと手の準備運動を!」


「手の準備運動?」


「これは剣を握るとき握力が大事なんで!」


「なるほど!勇者様は普段からそういうことを意識されているんですね」


 アステリアが感心したように頷く。


「私も杖を持つ前にやってみようかしら」


「それがいいと思います!」


 俺は笑顔で答えた。


 何とかごまかせた。


 そうこうしているうちに、見覚えのある看板が見えてきた。


『魔道具鑑定・修理 ミルド工房』


 相変わらず、店の前には物騒な注意書きが並んでいる。


『冷やかしお断り』


『値切り交渉お断り』


『鑑定中の質問お断り』


『店主の機嫌が悪い日は営業しません』


「ふふっ、今日は機嫌がいいといいですね」


 アステリアが微笑んだ。


「とりあえず、呼んでみましょう!」


 俺は扉を叩いた。


 コンコン。


「すみませーん!」


 返事はない。


「ミルドさーん!先日お世話になった冒険者です!」


 すると、建物の奥から怒鳴り声が聞こえた。


「聞こえとるわ!朝から騒がしい!」


 ……うん。


 今日も元気そうだ。


 しばらくすると扉が開き、丸眼鏡をかけたミルドさんが顔を出した。


「何じゃ、お前たちか。また来たのか」


「はい!約束どおり、珍しい物を見つけたので持ってきました!」


「ほう?」


 ミルドさんの眉がぴくりと動いた。


「何を見つけた?」


「それは中でお見せします!」


「もったいぶるな!さっさと入れ!」


 俺たちは笑いながら工房へ入った。


 店内は前回と変わらず、古い本と魔道具で埋め尽くされていた。


 ただし、作業台の上には前回見なかった大きな水晶球が置かれている。


 水晶の中には細い銀色の線が幾重にも走り、ゆっくりと回転していた。


「わあ、綺麗ですね!」


 アステリアが目を輝かせた。


「それは今調整中の鑑定器じゃ。勝手に触るでないぞ」


「はい!」


 ミルドさんは椅子を引き寄せ、作業台の前に腰を下ろした。


「それで、何を持ってきたんじゃ?」


「まずはこちらです!」


 俺は鞄から二枚の魔導板を取り出した。


 一枚は前回見つけた物。


 もう一枚は昨日、隠し部屋の宝箱から手に入れた物だ。


 ミルドさんは二枚目を見た瞬間、勢いよく立ち上がった。


「……何じゃと!?」


「どうしました?」


「お前たち、こんな短期間でもう一枚見つけたのか!?」


「はい!」


「どこでじゃ!?」


「前回のゴーレムがいた広間です。隠し通路が見つかって、その先の保管室にありました」


「保管室……?」


 ミルドさんの目つきが変わった。


「まさか、あの遺跡にそんな場所が残っておったとは……」


「やっぱり珍しい物なんですか?」


「珍しいどころの話ではないわ!」


 ミルドさんは二枚の魔導板を並べ、眼鏡をかけ直した。


「前回も言ったが、これは古代の魔法研究施設で使われていた記録板じゃ。それが二枚も揃うとは……」


 ミルドさんは引き出しから小さな水晶を取り出し、魔導板の上にかざした。


 水晶を通じて慎重に魔力を流し込み、二枚の魔導板に刻まれた術式を確かめていく。


 ミルドさんは目を細め、指先で古代文字をなぞった。


「ふむ……こちらの術式と、もう一枚の術式が繋がっておるのか……」


 何度か魔力の流し方を変えながら、二枚の魔導板を近づけた。


 すると、青白い光が広がった。


「おおっ!」


 俺たちは身を乗り出した。


 前回は一枚だけだったため、文字が光るだけで何も起こらなかった。


 しかし、今回は違った。


 二枚の間に細い光の線が現れ、空中に複雑な模様を描き始めたのだ。


「これは……!」


 ミルドさんが息を呑む。


 やがて、光の線は小さな立体図へと変わった。


 そこには、いくつもの部屋と通路が描かれていた。


「地図……ですか?」


 アステリアが尋ねた。


「そのようじゃな」


 ミルドさんは立体図を覗き込んだ。


「これはおそらく、あの地下遺跡の内部構造じゃ」


「本当ですか!?」


 俺は思わず声を上げた。


 地図には大きな広間があり、その奥に階段が描かれている。


 見覚えがある。


「あっ!ここ、ゴーレムがいた場所じゃないですか?」


「そうね!この階段も同じ形だわ!」


 サキが指差した。


 俺たちが昨日見つけた隠し通路も、細い線で描かれている。


「間違いないな」


 ガイが頷いた。


「俺たちが探索した場所と一致している」


「ふむ……」


 ミルドさんは地図をじっと見つめた。


 その表情が、次第に真剣なものへ変わっていく。


「お前たち、第二階層にはまだ入っておらんのじゃな?」


「はい。昨日は隠し部屋を見つけたので、そこで引き返しました」


「それは賢明じゃったな」


 ミルドさんが地図の一角を指差した。


「見ろ。ここに大きな区画があるじゃろう」


 第二階層のさらに奥。


 そこには、ほかの部屋よりもずっと大きな空間が描かれていた。


「これは何ですか?」


「まだ分からん。ただ、周囲の文字を読む限り、研究施設の中心部だった可能性がある」


「研究施設の中心部……!」


 俺は胸が高鳴るのを感じた。


「じゃあ、そこに行けば古代の研究記録が読めるかもしれないんですね!」


「そう簡単にはいかん」


 ミルドさんが首を振った。


「この地図も完全ではない。見ろ、奥の部分が途切れておるじゃろう」


 確かに、地図の端はぼんやりと霞んでいる。


「やはり残りの記録板が必要ということですか?」


 アステリアが尋ねた。


「おそらくな。貴重な魔導板がまだどこかに隠されているのじゃろう」


「なるほど……」


 俺たちは顔を見合わせた。


 つまり、あと一枚。


 それを見つければ、もっと詳しいことが分かるかもしれない。


「よし!次の目標が決まりましたね!」


「ええ。第三の魔導板を探すのね」


 サキが笑った。


「ただし、今度は第二階層の本格的な探索だ。昨日より危険な魔物がいるかもしれないぞ」


 ガイが慎重な表情になる。


「そうですね。準備はしっかりしておきましょう」


 アステリアも頷いた。


「まったく、お前たちは……」


 ミルドさんが呆れたように笑った。


「危険だと言われても、冒険に行く気満々じゃな」


「だって、俺たち冒険者ですから!」


「わっはっは!まあ、冒険者とはそういうものか」


 ミルドさんは魔導板を慎重に布の上へ置いた。


「ほかにも何か見つけたと言っておったな?」


「はい!」


 俺は鞄から残りの品を取り出した。


 赤く輝く魔石。


 銀色の腕輪。


 青い宝石が嵌め込まれた短剣。


 三つを作業台へ並べると、ミルドさんはしばらく無言になった。


「……お前たち」


「はい?」


「本当に昨日一日で、これだけ見つけたのか?」


「そうですよ!」


「運良く隠し部屋を見つけてそこの宝箱に入っていましたからね!」


 アステリアが嬉しそうに答えた。


 ミルドさんは額を押さえた。


「何という幸運じゃろうか……」


「そうなんですよ!」


 俺は笑った。


「隠し通路も偶然見つけたんです!」


「偶然?」


「はい!俺が転びそうになって床に手をついたら、いきなり開きまして!」


「……は?」


「それで、扉を開けるための球も三つ必要だったんですが、全部偶然見つかりました!」


「……何じゃと?」


 ミルドさんは目を瞬かせた。


「そんな偶然あるのか?」


「一つは天井から落ちてきて、もう一つはガイが斧を壁にぶつけたら出てきて、最後はサキがくしゃみをしたら見つかったんです!」


「…………」


 ミルドさんはしばらく黙っていた。


 そして、ゆっくり椅子に座り直した。


「……そうか」


「はい!」


「お前たち、妙なところで運がいいんじゃな……」


 なぜか、少しあきれたような声だった。


「まあよい。まずは魔石からじゃ」


 ミルドさんは赤い魔石を手に取った。


 表面の状態を確認すると、目を閉じて魔力の性質を探り始めた。


 しばらくして、ミルドさんが目を開いた。


「ふむ……これは珍しい」


「何ですか?」


「紅蓮魔石《ぐれんませき》じゃ」


「紅蓮魔石?」


「火属性の魔力を大量に蓄えた特殊な魔石じゃな。普通の魔石よりも純度が高く、強力な魔道具の材料になる」


「おおっ!」


「市場に出回ることは滅多にない。売ればかなりの値がつくぞ」


「本当ですか!?」


 俺は思わず身を乗り出した。


「いくらくらいですか?」


「状態にもよるが、金貨二十枚は下らんじゃろうな。もちろん魔道具、武器や防具にも加工できる」


「金貨二十枚!?」


 俺たちは声を揃えた。


 かなりの大金だ。


「すごいわね……」


 サキが目を丸くした。


「こんな物が宝箱に入っていたなんて」


「ただし、売るかどうかは慎重に考えろ」


 ミルドさんが言った。


「さっきも言ったが、これほど純度の高い魔石なら、将来強力な魔道具を作るときに役立つかもしれん」


「なるほど……」


 俺は頷いた。


 確かに、今すぐお金に換えるのはもったいない気がする。


「じゃあ、ひとまず保管しておきましょう!」


「そうね。その方がよさそう」


 サキも賛成した。


 続いて、ミルドさんは銀色の腕輪を手に取った。


「こちらは……ほう」


 腕輪の表面に刻まれた文字を確認し、指先から少量の魔力を流す。


 銀色の光がふわりと広がった。


 ミルドさんはその反応を確かめながら、腕輪に組み込まれた術式を読み解いていく。


「《守護の腕輪》じゃな」


「守護の腕輪?」


「装備者の防御力を高める魔道具じゃ。常に効果があるわけではなく、強い攻撃を受けたときに魔力の障壁を生み出す仕組みじゃな」


「おおっ!便利そうですね!」


「ただし、一度発動すると魔力を消耗する。連続して使うことはできん。しばらくのクールタイムが必要ってことじゃな」


「それでも十分すごいわね」


 サキが頷いた。


「誰が装備する?」


 ガイが尋ねる。


「前衛の誰かがいいんじゃないかしら」


「そうですね……」


 俺は少し考えた。


 ガイは頑丈な鎧を着ているし、サキは素早く攻撃を避けられる。


 それなら……。


「アステリアさんが使うのはどうでしょう?」


「私ですか?」


 アステリアが驚いた。


「はい!アステリアさんは回復魔法を使ってくれますし、もし敵に狙われたときに守れるようにしておきたいんです。後衛なので連続して狙われる可能性も低いでしょうし、うってつけかと」


「なるほど。それはいい考えだな」


 ガイが頷いた。


「俺たち前衛が守るつもりでも、何が起こるか分からないからな」


「そうね。私も賛成」


 サキが微笑む。


「アステリアが安全なら、私たちも安心して戦えるもの」


「皆さん……」


 アステリアは少し照れたように笑った。


「ありがとうございます。大切に使わせていただきますね」


 ミルドさんから腕輪を受け取り、アステリアは左手首に嵌めた。


 銀色の腕輪は細く、彼女の白い服にもよく似合っている。


「わあ、綺麗ですね!」


「ええ、とても似合ってるわ」


 サキが笑った。


「アクセサリーとしても素敵ですね」


 俺はアステリアさんに言った。


「ありがとうございます!」


 アステリアは嬉しそうに腕輪を眺めた。


「さて、最後はこれじゃな」


 ミルドさんが青い宝石の短剣を手に取った。


 刃は銀色に輝き、柄には細かな装飾が施されている。


「……ふむ」


 ミルドさんは刃と宝石の状態を確かめ、魔力を流した。


 すると、短剣の宝石が青白く光った。


 その魔力の性質を感じ取り、ミルドさんが頷く。


「これは氷霧《ひょうむ》の短剣じゃ」


「氷霧の短剣?」


「魔力を流すことで、刃に氷属性の力を纏わせる魔道具じゃな。攻撃した相手の動きを鈍らせる効果もある」


「おおっ!」


「ただし、技を使う際には魔力を消費する。使いすぎには注意が必要じゃ」


 ミルドさんは短剣を布の上へ置いた。


「剣士が予備武器として持つには悪くない品じゃな」


「じゃあ、サキが使う?」


 俺が尋ねると、サキは少し考えた。


「そうね。でも、私にはいつもの剣があるけど……」


 彼女は短剣を手に取り、軽く振ってみた。


「うん。軽くて扱いやすそう」


「なら、サキが持っておくといい」


 ガイが言った。


「剣が使えない状況もあるかもしれないからな」


「そうね。じゃあ、ありがたく使わせてもらうわ」


 サキは短剣を鞘へ収め、腰のベルトに取り付けた。


「それにしても……」


 ミルドさんが腕を組んだ。


「お前たちは本当に不思議な連中じゃな」


「そうですか?」


「そうじゃ。普通の冒険者なら、これだけレアな魔道具を手に入れるのに何年もかかることがある」


「ええっ!?」


「それをお前たちは、たった一日の探索で見つけてきたんじゃぞ」


「そう言われると、すごいですね!」


 俺は笑った。


「わっはっは!自覚がないのがまた面白いわい」


 ミルドさんは大きく笑った。


 そのとき、彼の視線がふと俺の右手へ向いた。


「……ん?」


 まただ。


(うっ……)


 俺は思わず右手を引っ込めそうになった。


 しかし、ミルドさんは何も言わず、すぐに視線を戻した。


「…………」


「どうしました?」


「いや、何でもない」


 ミルドさんは眼鏡を直した。


 よほど気になっているのだろうか。


「それより、魔導板のことじゃ」


「はい!」


「今の二枚だけでは、記録の全てを読み出すことはできん。だが、少なくとも第三の魔導板が存在する可能性は高い」


「じゃあ、やっぱり探しに行くしかないですよね!」


「そうじゃな。ただし、第二階層はまだ十分に調査されておらん。くれぐれも無茶はするなよ」


「分かりました!」


 俺たちは頷いた。


 ミルドさんは魔導板を丁寧に包み直し、俺へ返してくれた。


「それと、今回の鑑定料じゃが……」


 俺たちは顔を見合わせた。


 前回は無料だったけれど、今回はこれだけたくさん調べてもらった。


 さすがにお金がかかるだろう。


「金貨一枚でよい」


「金貨一枚!?」


 俺は驚いた。


「そんなに安くていいんですか?」


「本来ならもっと取るところじゃが、わしもこれだけ面白い物を見せてもらったからな」


 ミルドさんが笑う。


「それに、第三の魔導板が見つかったら、また持ってくるんじゃろう?」


「もちろんです!」


「なら、今回は特別料金じゃ」


「ありがとうございます!」


 俺たちは金貨一枚を支払い、深く頭を下げた。


「では、またお邪魔します!」


「次はもっと珍しい物を持ってこいよ!がっはっは」


 ミルドさんが笑いながら手を振った。


「頑張ります!」


 俺たちは工房を後にした。


 外へ出ると、昼過ぎの陽射しが裏通りを照らしていた。


「いやあ、すごかったですね!」


 俺は興奮気味に言った。


「まさか、あの魔石が金貨二十枚以上の価値だなんて!」


「本当に驚いたわ」


 サキも笑った。


「腕輪も短剣も、かなり珍しい物みたいだし」


「アステリア、その腕輪はどうだ?」


 ガイが尋ねる。


「とても軽いです。つけているのを忘れてしまいそうなくらい」


 アステリアが嬉しそうに答えた。


「皆さん、本当にありがとうございます」


「気にしないでください!しっかり効果があるといいですね!」


 俺は笑った。


「これからも一緒に冒険するんですから!回復役は大事!」


「ええ!間違いないわね」


 サキが頷いた。


「次は第二階層ね」


「そうだな。今度は何が待っているのか楽しみだ」


 ガイが笑う。


「でも、まずは準備ですね!」


 アステリアが言った。


「回復薬の補充も必要ですし、第二階層の情報もできるだけ集めておきたいです」


「そうですね!」


 俺たちは次の冒険について話しながら、賑やかな表通りへ向かった。


 魔導板はあと一枚。


 古代の研究施設には、いったい何が残されているのだろう。


 考えるだけでわくわくする。


「よし!次も頑張りましょう!」


 俺がそう言うと、三人は笑顔で頷いてくれた。


 その日の夕方。


 ミルド工房では、店主が一人、作業台に向かっていた。


「……ふむ」


 ミルドは先ほどの鑑定結果を書き留めた紙を眺めていた。


 二枚の古代魔導板。


 紅蓮魔石。


 守護の腕輪。


 氷霧の短剣。


 どれも珍しい品ばかりだ。


「まったく、運のいい連中じゃ……」


 ミルドは小さく笑った。


 そして、ふと思い出したように眼鏡を押し上げた。


「……それにしても」


 彼の脳裏に浮かんだのは、ユウの右手に嵌まっていた指輪だった。


 前回も気になったが、今日も同じような魔力の流れを感じた。


 普通の魔道具とは、どこか違う。


「……気になるのう」


 ミルドは机の引き出しを開けた。


 中から取り出したのは、古びた一冊の本。


『特殊職業と偽装魔道具の研究』


 表紙を開き、何枚か頁をめくる。


 そこには、さまざまな特殊魔道具の記録が残されていた。


「職業偽装の魔道具……か」


 ミルドは指で文字をなぞった。


「しかし、そんな物が本当に現存しておるのか……?」


 彼は首を傾げた。


 職業偽装の魔道具は、古い文献にわずかな記録が残されているだけの珍品だ。


 しかも、ギルドの職業鑑定を欺けるほどの物となれば、ほとんど伝説級に近い。


「……いや、まさかな。考えすぎかもしれんのう」


 ミルドは本を閉じた。


 あの指輪が何なのか、今のところは分からない。


 ただ、少しばかり興味が湧いてきたのは確かだった。


「次に来たら、もう少し詳しく見てみるか、ふははは」


 老人はそう呟き、再び作業台へ向き直った。


 窓の外では、夕日が王都の屋根を赤く染めていた。

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