第七話 聖女の過去 ~前編~
『神の祝福』とは、生まれつきに持っているわけではない。
人を超える常軌を逸した感情や想いが‥‥‥人を変えるのだと。そして人とは違うものが「聖女」として崇められる。
これは‥‥‥私が『神の祝福』を手にした時の話だ。
■
「ねえアステリア‥‥‥あなたはお母さんとお姉ちゃんと‥‥‥一緒よね?あの男とは違うわよね?」
肩に爪が食い込むほどの力で母親が掴んでくる。
痛かった。悲しかった。怖かったのだ。泣きながら怒鳴るあの人が。
「‥‥‥何で?皆一緒だよ。全然違くないよ!」
当時の私は幼く、理解することもままならなかった私は、間違った返答をしたのだと‥‥‥あの時、心から思った。
「‥‥‥ッ どうしてっ、どうして分かってくれないの!?私の思ってることが違うって言ってるのかな!?」
「あ‥‥‥」
私に向かって手を振り上げてくる母親を止めたのは、紛れもなく父上だった。
母親を乱暴につかんでは私から引き離す。それでもまだ、母親は一心不乱に暴れていた。
「そうだ。お前が間違っているんだ」
「違うわよ!あなたが私たちの自由を奪ったのよ!!離して!!もうあなたとは縁を切るわ!!」
その時の父上の表情は覚えていない。ただ、「そうか」と呟いていた。
その後———母は姉と共に家を出ていった。
■
母と姉が出て行って数週間後———‥‥
遺体としてまた戻ってきた。
「あの娘が例の‥‥‥」
「姉の方も可哀そうに。優秀さで決めるから‥‥‥」
周りの人の声が聞こえる。
分からなかった。私に言っているのか、父上に言っているのか。
「だから間違っていると言ったんだ」
「父上‥‥‥?」
「いや、何でもない。お前も疲れただろう。少し遊んでくるといい」
「うん!」
私は前々からお気に入りだった、ある森へと向かった。
しばらく歩いて、木陰の下で私は座る。
「今日は暑いなぁ」
私は寝転ぶと、気の周りを転がり始めた。そして、私はふと思う。
死因は何だっけと。
「事故だっけ。自殺だっけ。病気だっけ」
「違う。俺に殺されたんだ」
後ろから声が聞こえ、驚いて振り返ると‥‥‥人の形をしている、角やしっぽの生えた生き物が立っていた。
「魔物?」
「違う。魔族だ」
魔族‥‥‥?聞いたことも見たこともない。けれど、幼い私にも一つだけ分かることがあった。
こいつから逃げないと死ぬことが。
「貴様、俺が怖いと思っただろう。逃げようとしただろう」
気づけば私は宙を舞っていた。そのまま私は木にぶつかり落ちた。
「見れば分かる」
「カハッケホッゲホッ」
手加減しているのだ。私が早く死なないように。長く、ゆっくりと痛めつけれるように。
‥‥‥楽しんでいるのか。殺しを。
「俺は魔物の上位互換と言ってもいいな」
その口元には、うっすらと笑みが含まれていた。
母上と、姉様は、自由を求めて出て行ったのに。私が出させてあげたのに。‥‥‥おかしいよ。割に合わないよ。‥‥‥なんでだよ。
「次は――――」
「ねぇ‥‥」
「あ?」
「何で母上と姉様を殺したの?別に他の人でも良かったじゃん。最悪だよ。私が家に残ることで二人を出してあげたのにさ。迷惑だよ。迷惑。ざっけんな」
分からない。分からない。魔族の考えてることも、母上も姉様も、父上も。あいつら皆被害者面しやがって。許せない。許せない‥‥‥
「許さない」
「‥‥‥‥‥ッ!!」
魔族は思う。こんなにもキレているのに、絶望しているのに。あの娘から出る光は何なのかと。
「まさか‥‥‥『神の祝福』か‥‥‥?」
だとしたら‥‥‥逃げなければ。相手が違う。関わってはダメだ。
魔族は逃げようと空を飛ぶ。
「‥‥‥!?」
突然何かに掴まれた感覚がしたのと体が地面に叩きつけられたのは同時だった。
「易々と逃げれると、思うなよ」




