第六話 先生
カキンッ
刃と刃のぶつかる音が聞こえる。
「おわっ」
耐えれなかったのか、そいつは地面に尻もちをついた。
私はいそいそと、そいつの元へと行く。
「‥‥‥あ?何でここにいるんだよ。剣術なんぞ人生で微塵もいらないだろうが。聖女様は」
生意気なそいつに、短気な私はイラッとした。
なんだこいつは。せっかく私が教師に頼まれて教えに来たってのに。
「そんな口を利いても良いのですか?」
「あ?」
「これからは私が先生なんですよ。‥‥‥アルト君」
そう言う私の手には、剣が握られていた。
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「げ‥‥‥まじかよ‥‥‥じゃなくて!お前剣術なんか出来んのかよ!!」
「こう見えて、あなたの父とは永遠の引き分け状態です」
なんだかこいつには聖女をあまり演じなくても良いと思った私は、現在バチボコに煽っている。
折角の機会だ。こいつに私という存在を理解させてやろう。
「は!?嘘だろ!?だって歳の差三十くらいあるじゃねぇか!」
「そこ?‥‥‥あ。‥‥‥とにかく、今日から私は君の専属教師です。崇め称えるように」
思わず突っ込んでしまった。反省。
まずは剣術の腕前を見たいところだが、その前にやるべきことがいくつかある。
「私は君を知らないですからね‥‥‥まずは基礎。剣術場五周して来て」
「いや、さっきまで戦ってたんだからちょっと休憩‥‥を‥‥」
アルトの声が途切れた理由?そんなん見ればわかる。
私が手に持ってた剣を、アルトの頭に当たる寸前で止めていたからだ。
「はーい。今文句言ったから十周けってーい」
「お前ホントに聖女かよ!」
数十分後———‥‥
十周走って見事にくたばっているのは、騎士団長の息子だ。仕方ないので、上から水をかけてあげる。
「ぶほぉっ‥‥‥やめろやめろそれバケツ!!」
「あー‥‥起きちゃった」
本気で残念がる私を、突然真剣な表情でアルトが見てきた。
こっち見んな。
「お前さ‥‥‥本当に聖女か?」
「何でそう思うんです?私は正真正銘聖女ですが」
「それだよ!それ!ていうか本当だったらお前は自分で自分の事を崇め称えろなんて言はないだろ!」
「‥‥‥‥‥‥大丈夫です!あなたは才能がありますから!私も手伝うのでこれからも一緒に頑張っていきましょうね!」
「なんか‥‥‥急に気持ち悪くなったわ‥‥‥」
ひどいな。折角人が聖女をしてあげたのに。文句言う奴は嫌いだ。すぐに言動が矛盾する。
「この厳しさは君に特別してるだけです。喜んでください」
「喜べるか!‥‥‥ていうかさ、お前そういう感じをバンバン出してけばいいのに」
そう言って、アルトは驚いた表情をする。
アステリアがすごく悲しい顔で笑っていたからだ。
私を出す‥‥‥それが出来たら、どれ程までに良かったのか。
「アルト君。人々は完璧を求めるんですよ‥‥‥今無神経な事言ったから二十周」
「ふざけんな!てかアルトって気安く呼ぶなよ」
「だって君の名前忘れたし。どーせ困ったことないでしょ?じゃあいいじゃん」
「お前‥‥‥たまにめっちゃ毒吐くよな‥‥‥」
‥‥‥やだな、この時間が。今の私にはとてつもなく苦しい。
楽しいのに、楽しいと思えないから。思ってはいけないから。
「では、私からのプレゼントです。二十周したら私と戦う権利をあげましょう」
「二十周は確定なんだ‥‥‥」
数十分後———‥‥
カンッカンッ
木剣がぶつかり合う音がする。今はアルトが力尽きるまで、全力を出すという項目だった。もちろん私は手加減している。
違うのだろう。この子は父親に騎士になることを望まれていないのだろう。それでも、尚私に向かってくる君の目は、輝いていた。
あぁ、嫌いだ。諦めずに進む君が嫌いだ。大嫌いだ。
私とは違うから。全てを諦めても進むしかなかった私とは‥‥‥違うから。




