第五話 内緒
綺麗だ。
蘇った草原を前に感想はたったそれだけだ。それ以外に何も思い浮かばない。けれど‥‥‥それ程までに、私の感情はなかったのだろうか。
ただ、花畑と化した草原が目の前にあるとしか思えなかった。
「‥‥‥こんなもんか」
風が吹き、花びらが宙を舞う。
いっその事、皆に自慢してやろうかな。私がこの地を蘇らせたのだと。
「あー!いた——!聖女さ~ん!!」
ふと声がし、振り返ってみれば、シエルが手を振っていた。しかしシエルの後ろにはレオンしかおらず、他の二人が見当たらなかった。
「ここら辺が光ってると思ったら~やっぱり聖女さんもいたんですね!」
「僕らにはその光とやらは見えなかったが‥‥‥『神の祝福』を持つ者同士、何かを感じたのかい?」
レオンが不思議そうに尋ねてくるが、それは私が術を使ったからだろう。それにしても、『神の祝福』がない奴はあの光も見えないのか。こりゃいいな。
「えー!やっぱり聖女さんもあの光を見てここに来たんですかぁ!?」
「まあ、そういうところです」
何故だか分からないけどちょっと笑いそうになってしまった。人が勘違いしてるのってこんなにも面白いものだったんだな。
「あれぇ!?聖女さん、服汚れてるよ!泥だらけじゃ~ん」
シエルが近づいて、手を伸ばしてきた。しかし、途中で彼女の手は止まった。
「あ‥‥‥えっと‥‥‥やっぱ、先生たちも聖女さんの事心配してるみたいだし、レオン君も‥‥‥早く戻ろっ」
「え、うん」
自分が王子ということも忘れて地面にしゃがみながら花冠を作ってたレオンは、先に行くシエルを慌ただしく追っていった。
「アステリアは?」
「あ‥‥後で来るって!!」
会話が少し遠くの方から聞こえる。
それにしてもシエルはめっちゃ動揺してたなぁ。でも、あんなに怯えなくてもいいのに。
そんなに”私”を見せた顔が怖かったか?
■
シエルは早足で歩きながらアステリアの事を考えていた。
怖い。怖い怖い!私が聖女さんの服を触ろうとしたときのあの表情が‥‥‥怖い!!
人というものはあんな表情をするものなの!?
「大丈夫か?シエル。何でそんなに早く歩くのさ」
「え‥‥‥あ、確かに‥‥‥ごめんね。ゆっくり歩こっか!」
慌ててペースを落とす。後ろを振り返ると、聖女の姿は見当たらなかった。
‥‥‥そんなにも服を触られるのが嫌だったのかなぁ?あの表情凄く怖かった!
怯えるシエルはふと、立ち止まった。
「あれ‥‥?どんな顔だったっけ」
「どうしたんだ?今度は急に立ち止まって」
「ううん、何でもない!それよりも早くみんなのとこに行かなくちゃっ早く行こっ」
手を振ってくる仲間たちの中にはいつの間にか聖女さんもいる!
どことなくいい匂いがしてきて、レオンと私は走り出した。
■
シエルが私に近づいてきた。
「聖女さんって私達よりも来るの早かったけど、どうやって来たの~?」
パチパチと火花が飛ぶ音が聞こえる。実は今、教師たちがレオンたちを助けに行く途中に倒した「ミノモルガ」という極上の肉が手に入る魔物を食べている。全く、生徒が大変だという状況に何してんだか。
「私は運が良いので‥‥‥近道をすぐに当てれちゃうのです」
ふふっと私が笑った時、私の周りにいた男たちがざわめいた。
「笑った顔も美しい‥‥‥」
「肉を食べてるだけなのに、こんなにも絵になるとは‥‥‥」
「どんな姿でも綺麗すぎる‥‥‥」
ところどころから色んな声が聞こえてくる。人気者は大変だな。特に私とか。
それにしても、シエルが忘れてくれて良かった。これで安心だ。
「せっいじょさぁん!今聞いたんだけど、聖女さんがネロールを全部倒したんですかぁ!?どうやってぇ!?」
うるさっ、テンションどうなってんの。
至近距離で話しかけてくるシエルに、私は思わず顔をしかめそうになる。そして少し、笑いそうにもなってしまった。そんな私を不思議に思ったのか、シエルがきょとんとした顔で見てくる。
「‥‥‥聖女さん?」
今度はキラキラした顔で見てくる。感情どうなってんだろ。
私は少し考えたそぶりを見せると、シエルにニヤッと笑って見せた。
「内緒」




