第四話 今だけは
「二人共、戦うのは辞めて。こっちに来てください」
まだ戦っているアルトとクロルに話しかける。
「こ‥‥この状況でどうやってそっちに行けばいいんだよ!!」
「そうだよ!抑えるだけでも大変なのに!」
‥‥‥このままだと二人は死ぬな。私だって攻撃をしたいが、あの二人が邪魔すぎる。しょうがない、
隙を作ってあげるか。
「殿下‥‥剣を貸して頂きます」
「‥‥‥? 一体何を―——」
答えるまもなく、私は剣を投げた。
ドォンッ
ネロールの後ろにある木が倒れて土煙が舞う。驚いたネロールたちは一瞬動きを止める。その隙に、アルトとクロルはアステリアの方へと逃げてきた。
ネロールたちが警戒して後ろに下がる。奥に行ったのか、姿が見えなくなった。
「‥‥‥アステリア。今のうちに逃げるぞ」
「なぜです殿下。私がここに来たのはあなた達を助けるためではありません。ネロールを倒すためなのですよ」
「おい」
「シエルさん。先生たちが来るまで結界を張っておいてください。では」
「待っ————」
呼び止めようとするレオンの声を無視して私はネロールの元へと走った。
■
‥‥‥さっきからかすかにガサガサと音がするのに、ネロールが見当たらない。よほど警戒しているのか。さすがだな。
うーん、服が汚れるのは嫌だけど仕方ない。
「きゃっ」
私は土から出てた石に躓いたふりをしてわざと転んだ。その瞬間、ネロールが茂みの中から飛び出してきた。
『浄射』
光の球が飛び出してきたネロールたちにぶつかったと思えば、途端に体が飛び散った。
神の力を宿した光の球。当たれば当然、魔物はチリひとつ残さずに死ぬ。近年、『神の祝福』は守りと癒ししか使い道がなかった。だが研究と改良を繰り返して、攻撃にも使えるようにしたのだ。
「数が‥‥‥少ないな」
さっきざっくり見たが、こんなにもネロールの数は少なくなかった。
だとしたらどこに‥‥音、視覚、聴覚、気配、匂い‥‥‥
「下か」
私は地面を蹴り上げて垂直に飛んだ。その直後、残りのネロールたちが地面から飛び出してきた。やれるにはやれるが、一発ずつ打つのは時間の無駄だな。
『浄射』
そして、私が出した大きい光は‥‥‥一瞬でネロールたちの命を刈り取った。
「こんなもんか」
もうちょっと苦戦すると思ったんだけどなぁ。ちょっと残念。
暇だし、適当に森でも探索してよっと。確か、何十年も前からある噂によればこの森の奥には美しい草原があるとかないとか。見てみたいな。
と、ぶらぶら歩いていたら、奥に光が見えた。
「まさか」
つい歩くスピードが速くなる。気づけば走り出していた。
「あ‥‥‥‥」
私は光の先にある光景を目にして声を上げた。そこに広がっていたのは美しさの欠片もない、枯れた草原だったのだ。
‥‥‥そりゃそうだよな。何十年も前からある噂だし、手入れもされていないならな尚更枯れていて当たり前。しょうがない、戻るか。
(‥‥‥ここまで来たのに?ネロールも倒したのに?人を助けたのに?泥だらけにもなったのに。)
でも、私は聖女だ。私利私欲で動いてはダメ。なら、なら‥‥‥この枯れた草原を助けたことにすればいいのでは?だけどどうやって‥‥‥あ。
『神の祝福』があるじゃないか。
「こればかりは、神に感謝だな」
ごめんなさい。父上。きっと、人以外の者を助けたらあなたは怒るのでしょう。ですが今だけは
‥‥‥お許しを。
『蘇光聖地—華原』
ありったけの魔力を込める。すると、枯れていた草原がみるみると淡い光に包まれていった。
‥‥‥とある昔々の話。昔の土地は、荒れていたらしい。そのせいか犯罪も多く、どうしようもなかったらしい。
その時、その時代の聖女が土地を『神の祝福』を使って地を救ったのだ。
枯れていた草原が更に光を増し、眩しくて見えなくなる。フィナーレだ。
パァンッ
落ちてくる光の粒子と共に見えたのは、花が咲きほこっている、枯れていたはずの草原だった。




