第百九十話 おっさんの背中は頼もしくあれ
まさか異世界に来て自分の人生経験の無さを、これでもかと思い知らされ忸怩たる思いしかない。冷静ぶろうと難しい言葉を並べてみたが、ただただ恥ずかしいだけであり、自分でも混乱しているのが手に取るように分かる。
エイレアへの覚悟を決め受け入れてくれたと言うのに、この様では愛想をつかされるのも時間の問題だろう。四十過ぎたおっさんだというのにこの情けなさは、本当に酷いものだなと呆れた。
「総督! 皆さんと干物作りをもっとやりたいんですけど、網を作りたいです!」
「え!? あ、ああ。エリザベスに聞いておくよ……」
「エリザベスさんですか……?」
自分が歩いているのか止まっているのかもわからず、エリザベスの名を出されて何で知ってるんだ? と驚いて我に返った。見ると自分はいつのまにか里の中央におり、横にはエルザがいてまた驚き飛び跳ねてしまう。
どうしたんですか? と聞かれただけなのに、慌てふためいてしどろもどろになる。明らかにこちらが変なので気を使ってくれ、また後にしますねと言ってエルザは去っていった。
総督という立場で仲間に不安を与えてはいけない、そうエルザを見て気づきこのままでは不味いと考え、急いでマナの木の麓まで行って流れる水に頭を突っ込み、冷静になろうと試みる。
だが何度なろうとしても、エイレアとの二人きりの時間が蘇ってしまった。思春期の少年じゃあるまいしとは思いながらも、もっと早い年齢で恋愛をしておくべきだったと後悔している。
チャンスがなかったからこうなっているのだけど、それにしてもどうにかならなかったのか、水に頭を突っ込む度に自問自答してしまう。
「あ、あの、王……」
何度やってもダメなので繰り返していたところ、パルダスの声が後ろからして振り返り、何かあったかと聞くとそれはこちらのセリフですと返された。
ちょっと色々あったから冷静になるまで待って欲しい、そう言うとご無理をなさらずと言いながら彼はゆっくり下がる。
嬉しい事と自分に対する絶望が交互にあって、生まれて初めての体験のため処理が追い付かない。何をすると冷静になれるのだろうか。滝を探して打たれてみるか?
「おい」
とりあえず座禅を組んで深呼吸しているところに、勇太の声が聞こえてきて目を開けると仁王立ちしていた。
悪いけど少し待ってくれというも、どうでもいいから剣なり槍なり取れという。今そういう気分じゃないと断るが、剣を引き抜き斬りかかってくる。
慌てて横へ転がり避けたが勇太はそれを追撃してきた。冗談ではなく本気で攻撃を仕掛けてきている。ただ殺気は感じないので、彼なりの配慮というか気にかけての攻撃だと思い、手を突き地面を押して飛び上がって立ち上がった。
「それでいい。大して頭も良くない癖に考えて解決しようなど、文官にでもなったつもりかコーイチ」
今日はどこまでも自分のダメさを思い知らされる日らしい。自分に呆れ果てたが今のみっともない自分を受け入れ、引きずってでも前に進まなければと歯を食いしばりつつ、剣を引き抜き勇太の一撃を受け止める。
「おっさんがしょぼくれてるだけで見ていられない。前を歩いている男が背中を丸めるな」
的確に痛いところを突いてくる勇太に対し、確かにその通りだ礼を言うと告げた後で、思い切り押して飛ばし距離を取らせた。
「腕は鈍っていないようだな……ならばこちらも本気を出すぞ!」
切っ先を右斜め下の地面につけて構え、そういうと突っ込んでくる。どうやらこちらの改善に付き合ってくれるらしい。元々ミーファの願いを叶えるため、悪役を買って出たくらい勇太は良いやつだ。
頼りにされている大人として、これ以上情けないところはみせられない、恋愛以外では。そう決意を新たにこちらも気合を入れて迎え撃つ。
勇太も現在は鎧を着ておらず互いに普段着のまま剣を交えていたが、スピードは黒騎士の頃よりも上がっているように感じた。
モンスター討伐班として日々戦いの中に身を置いているので、勇太は腕が鈍るどころか鍛え続けている。最近は自分は指示がメインになっていて、鍛錬はおろそかになっていた。
色恋どうこうよりも自分の鍛錬不足からくる鈍りが、精神的な混乱を招いていた気がする。今の勇太にこのままやっていては勝つどころか手加減されてしまう、そう考え冥府渡りを発動させ加速した。
「さすがだなコーイチ!」
それはこちらのセリフだと返す。驚いたのはこちらの加速に対し、勇太は多少遅れるくらいで付いてきており、明らかにレベルが上がっている。
思えば彼も転生者であり、何だったら先にこの世界に来て多くの戦いを経験していたし、黒騎士の頃はこちらが圧倒されていたのだから、安定した環境で鍛錬に勤しめば強くない訳がなかった。
認識の甘さを反省し、代理総督の前に自分が戦士であったことを思い出す。敵は減るどころか増える一方なのに、色恋で動揺して混乱していたのでは、次の相手に寝首を掻かれかねない。
大切なことを教えてくれた勇太に対し、歯を食いしばって全身全霊を込めた攻撃を浴びせる。こちらが二刀なのに対し勇太は一振りなのに、それでもよく捌き弾き受けていた。
「まだまだ俺は足りなかったようだな」
「ありがとう、勇太。お前のお陰で自分を取り戻せた」
それでも時が過ぎて行けば行くほど手数の差は影響が出て、ついには彼の手から剣を弾き飛ばすことに成功する。
剣を鞘に納めた後で改めて礼を言うと何があったのかと聞かれ、実はエイレアに告白したようなかんじになったというと、彼は拾いかけた剣をまた落とした。
職業:エルフの里代理総督
役職:エイレア(総督補佐官)
ヴァルドバ(食材調達班隊長)
士元勇太(モンスター討伐班隊長)
エイミー(総督補佐官)
ジンネ・ダーント・ミエナ(環境調査班)
ミケ・ザ・キャットとお供二人(資産運用班)
アルヴたちダークエルフ(モンスター討伐班)
パルダス(総督直轄兵)
騎乗馬:サジー(白毛の小さめの馬)
名産品:里の川魚の干物(予定)
人口:二百人
所持品
メイン武器:ソードブレイカー・右
サブ武器:ソードブレイカー・左
魔神の三又槍
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
エルフのマント




