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地獄へ





「クシナダ姫、本当に私に同行するおつもりですか……?」


 次の日の朝。

 二人で朝食を済ませた後、クシナダ姫は僕とタイタニスの旅に付いていきたいと言ってきた。しかし、いくら強いタイタニスが居たところで安全な旅になる保証もなく、当然僕はそれを断ったのだが、もう30分以上も言い合いを続けているのに彼女はまるで諦めようとしない。


「ああ、付いていかせて貰う。大した戦力にはならんだろうが、常にそのタイタニスとやらに乗り続けている訳にも行かんだろう? その間ぐらい、私が護ってやる」

「いや、しかし……」

「私が王族であることに引け目を感じているのか? 元はただの農民であったから、王族に護られるなど有り得ないとでも考えているのだろう」

「それもですが………僕は、貴女に死んで欲しく無い」


 クシナダ姫は良い人だ。正直、政治やら難しい事にはてんで疎い僕でも、この人には国の上に立つ素質があると感じる。今は精神面での弱さは感じられるが、その程度。

 将来、僕とタイタニスがこの世から魔物を全て殺し尽くして、また国を作り直そうとなった時に、彼女は(しるべ)を失った民を纏め、導く国の礎になれる。


「何、最初から死ぬつもりなど無いさ。ただ、私はこの目で戦いを最後まで見届けたい。私には、その責任があるように思うんだ」

「でも、多対一に向いたタイタニスでは貴女を護るどころか、貴女を殺してしまうかもしれない……」

「うっ、それを言われてしまうと難しいな……」


 頬をかきながら苦笑いする彼女を見て、諦めてくれたかとほっと胸を撫で下ろす。とは言え彼女をこの場所に放っておくと言うのも無責任に感じられる。

 いつこの場所を魔物達に見付けられて、襲撃を受けるかもわからないのだ。何処か、少しでも安全な場所があれば良いのだが。


「あれ……タイタニスの腕輪が」

「何だ? 光って、いるな」


 突然、タイタニスの腕輪が暖かな光を放ち始めた。あの日から、此方から話し掛けない限りウンともスンとも言わなかったのに突然どうしたのかと思っていると、背後で佇んでいたタイタニスがゆっくりと動き出す。


 そして、機械の腕を僕と『クシナダ姫』に伸ばした。


「えっ、ちょっ、待てタイタニス! 彼女は違う! 彼女はお前を動かせるだけの魔力は持っていない!」

「な、何だこれは!? 急に、掴ん――」


 抵抗する間も無く僕とクシナダ姫はタイタニスの中に飲み込まれ、僕は強制的にタイタニス装着状態にされてしまった。


「突然何が………っ!? 武聖殿! 大丈夫なのか!」

『クシナダ姫! 其方こそ大丈夫ですか!? 魔力を吸われていたりはしませんか!?』

「ぶ、武聖殿……? 先程から全身を機械で拘束され、目を瞑ったまま動かないから死んでしまったのかと………私には特に変わりは無い、大丈夫だ」

『そうですか……良かった。僕の身体に関しては問題無いですから安心して下さい。今、タイタニスの身体にあわせて身体の中身の部分だけ引き伸ばした感じになっているだけなので』


 自分の身体の中から彼女の声が聞こえる。先程まで面と向かって話し合っていただけに奇妙な感覚だ。だが元気そうな彼女の様子に安心する。


「しかし………これは、護られていると言うことで良いのか?」

『………そうみたいです。タイタニスが、「こういう事も出来る」って教えてくれた感じだと思います』

「成る程。なら………付いていくのも構わない、かな?」


 タイタニスでは護れないと思っていたから断っていたのに、タイタニスにそれを否定されてしまっては断る理由が無くなってしまった。今、彼女の願いを断れるだけの上手い言い訳も見つからない。


『………わかり、ました。ついてくるだけならば』

「それは良かった。これから宜しく頼む」

『はい………此方こそ、宜しくお願いします』


 渋々彼女の願いを聞き入れ、腹を括った。彼女はタイタニスを装置していない時の僕を護ると言ったが、そんな事は絶対にさせない。人々の未来の為にも彼女は必要な人だ。一瞬だってこの人を危険に晒すような真似はしない。


 この命に代えても。
















 魔王を探し、魔王軍を追い掛ける。

 世界各地に分散して人類の国を滅ぼし続ける魔王軍に対して、此方はタイタニス一機のみ。世界中にいる魔王軍から、魔王が直接率いている軍隊を引き当てるのは至難の技であり、また襲撃を受けている国々を見捨てるわけにも行かず、ひたすら魔物を殺しながら人々を救う、そんな旅があの日から幾度となく続けられた。


 時には、既に滅ぼされていて手遅れであったり。

 時には、護りきれずに多くの犠牲者を出してしまったり。

 既に国を滅ぼされ、逃げる民を護りながら魔物と戦ったり。


「武聖様、ありがとうございます」

「感謝致します。このご恩は一生忘れません」


 心を磨り減らしながら戦いを続ける中で、助けた人々からの感謝の言葉は救いだった。

 彼等の言葉が次への戦いへの熱となり、救えた筈の人々の死は魔物達への憎しみを肥大させた。

 民を護る戦いで共に戦ってくれた人々には、強さでは正直役に立たなくても不思議と頼もしさすら感じた。


「武聖、殿……私も戦いに………」


 ただ、クシナダ姫だけは絶対に戦わせなかった。どんなに彼女が『自分も戦わせてくれ』と懇願してきても、答えは変わらない。


 僕が彼女に許したのは僕の旅に付いてくると言う事だけ。

 確かに彼女は強いのだろう。多分、生身であれば彼女は僕よりも強い。だが、勇者アレクや剣聖ザック、聖女サラや賢者カミラよりも強いかと言うと、否だ。

 魔王軍の魔物との戦いでは彼等四人の力をもってしてもギリギリの戦いが続いた。なのに、彼等四人の誰よりも弱い彼女が戦えばどうなるか。容易に想像ができる。


『貴女が戦う必要はありません。戦った所で、無駄死にするだけです』

「だ、だが……」

『勇者一行がどうなったか、貴女は僕よりも詳しいのでしょう?』

「う………」


 カミラ達は魔王を相手に手も足も出なかったと聞く。話を聞くには、それを言っていたのは魔王その人だそうだから真偽は怪しいものだが、軽く見れるような話でもない。寧ろ、あのギリギリの戦いを見続けていた身からすると、信憑性はかなり高い。

 心を鬼にしても、彼女を『死んでいったその他大勢』にするつもりは無かった。どんなに立派な人物でも、死んだら皆同じ。その場その場での個人の意思を優先させて無駄死にさせてしまう事がどれだけ愚かな事なのか、ロクな教養が無い自分でもわかる。

 優しく、誰かを護ろうとする気持ちが人一倍強い彼女の事だから、きっと戦いたがるだろうとは思っていたが、全くその通りだった。彼女自身も自身が戦う事が良くない事だとは理解しているからか、すぐに引き下がってくれてはいるが、心に溜まったストレスは既に相当なものだろう。



「………なあ、武聖殿。何故そなたは戦うのだ?」


 暫くそんな日が続いたある日の事。

 不意に彼女は僕にそう聞いてきた。

 答えは決まっている。


『護りたいからです』

「酷いことを言うが………今生きているのはそなたとはまるで関係の無い赤の他人ばかりなのだぞ? それに、信じていた仲間に裏切られた身として、人を恨むような事は無いのか?」

『誰であろうと、僕は人を護るために戦います。何があろうと、僕は罪無き人々を嬲り、凌辱し、殺す魔物共を許しません。それに………彼等に裏切られたのは自業自得のようなものですから。恨みなど、これっぽっちも無いですよ』

「そうか………おかしな事を聞いたな。すまない」

『いえ、疑問を持つのも当然ですよ。これだけ戦い続けていたのですから、正気を疑われたって文句は言えませんね』


 答えを聞いた彼女は何処か煮え切らない様子だった。

 よくあることだ。納得はしたが、理解は出来ない。


「だが………時には『誰か』では無く、そなた自身の事を考えて欲しい。そなたは『英雄』ではあるが『人外』ではない。そなたも一人の人間である事を、どうか忘れないで欲しい」

『………』

「頼む」


 互いに互いの立場や、すべき事は理解している。

 だから、彼女の言葉に僕は答えない。


 僕自身に力は無い。だが、僕に力は与えられた。他を寄せ付けぬ程の、圧倒的な力。

 自身で身に付けた力を振るうのは勝手だ。だが、与えられた力には、それ相応の責任がある。果たさなければならない指名がある。たとえ僕が人外であってもそれは変わらない。


 だから、僕は僕自身を普通の人間として扱うわけには行かない。

 自分自身は弱いままでも、皆の希望を絶やさぬように、絶対的な強者を演じ続けなければならない。


 それが『英雄』にならなければならない僕に課された使命だから。






 旅を初めて数ヵ月後。

 助けた国を通して、僕達のもとに魔王を見付けたとの知らせが届いた。





読んで下さりありがとうございます。

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