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シアワセなミライ





「行くのか、本当に」

「行きます。それが僕の使命ですから」


 決戦前日の夜。

 いつものように二人並んで焚き火で暖をとっていた時、ふと彼女がそう聞いてきた。


 シンプルな問いに。シンプルな答え。

 短く言葉を交わし、それっきり二人とも押し黙る。


 二人っきりの森は素晴らしく静かだった。

 生き物の動く音も、虫の鳴く声も、魔物共の不快な鳴き声もしない。


 何千、何万もの魔物を休むこと無く殺し続け、気付いた時には魔物の数はすっかり減っていた。広い平原で、地平線まで見渡しても、一匹も魔物が見付けられない程に。


「………もう、あれから4ヶ月にもなるのだな」


 再び、彼女が静かに口を開く。

 クシナダ姫を連れて、魔王を殺す旅を初めてから3ヶ月が過ぎ、あと少しすれば4ヶ月。この三ヶ月と何日かの間、ひたすらに魔物を殺し続けた。

 僕がタイタニスの全力でもって魔物の群れを蹂躙し、クシナダ姫はタイタニスの中から、戦いにもならない戦いを眺め続ける毎日。

 どんなに魔物を殺しても尽きない怨嗟と、自信の使命と正義感との板挟みになる心。二人の心は磨り減り続け、互いに互いの限界が近いことを悟りつつあった。


「ハルト、お前は大丈夫なのか」

「問題無いです。魔王をこの手で殺すまでは」

「違う! そういう、事では………」


 何かを言おうとした彼女の言葉から急に力が抜けていき、ぐったりと項垂れてしまう。


「いや、やはり、何でもない……」

「…………」

「何でもない、のだが」


 ゆっくりと彼女は顔を上げ、幽鬼のようになってしまった顔を此方に向けてくる。光を失った瞳からは、ある種の悟りや諦めのようなものが感じられた。


「そなたは………魔王を倒した後、どうなるか。わかっているのだろう?」

「………ええ、まあ」

「学こそ無いが、聡いそなたの事だ。気付かぬはずなど無い事はとっくにわかっていた。だが! …………っ、そなたは、それで良いのか?」


 今まで圧倒的な戦いを見せつけてきたタイタニスが負けると言う考えは最初から無い。例え魔王が相手だとしても、その考えが変わらないのは彼女も同じだ。故に心配しているのはそれより先の事。

 今まで魔王軍に対して優勢に戦えていたのは一部の強国の軍隊や、死んでしまったカミラ達四人の英雄。しかし魔王に勝利出来るほどの強さを持つ兵器や人間など、世界中探しても何処にもいない。何故なら魔王の強さは他の魔物と比較しても規格外だから。


 そんな絶望の象徴を倒してしまう存在が、自分達の側に現れたらどうなるか? 多くの国が崩壊し、世界は行き場を失った人々で溢れ、残された土地を残った国々で分け合い。



 そして、誰が無敵の戦士(タイタニス)を取る?



「………今は、考えるべきでは無い事です」



 今、ここで戦いをやめてしまえば、魔王はその進撃を続けるだろう。魔物は再び増えていき、いずれ元のように数えきれないほどの大量の魔物が世界の各地で暴れまわるようになる。

 既に半壊状態であり、抵抗する力をほとんど持たない人々は為す術なく殺されていき、いずれ人類は絶滅するだろう。後で下らない争いが起こる未来よりも、もっと悪い未来が訪れる。


「そうか、そなたは犠牲になるつもりなのだな」


 彼女はそう言って、ぎゅっと自身の身体を抱き締めて踞った。何だかんだでこの数ヶ月間ずっと共に過ごしてきた仲だ。彼女なりに、僕に対して思うところがあったのかもしれない。僕も彼女に対して何か思うところが無いと言うのは嘘になる。


「犠牲、ですか」

「そなたのやろうとしている事は正しいのだろうな。私もそれには同意するとも。私情が入ってしまうことが良くない事もまた理解はしている。だから、他に方法は無いのだろうかと、どうしても考えてしまうのだ。どうにかしてそなたの力だけでなく、多くの人々の力を借りて皆の力で魔王を倒すことが出来れば、想定したような事態にはならないんじゃないか、なんて」


 僕は何も答えられない。


 果たしてこれは犠牲と呼ぶべきものなのか。

 そこまで悲観的になる事なのか。


 わからない。


「そんなことが有り得ない事だって、私もわかっているさ……」


 とん、と右から暖かな重みがかかってくる。

 長旅で休む暇もほとんど無く、滅多に風呂にも入れていない事もあり、ちょっと臭う。だけれど、今はそれすら含めて愛おしく感じられた。


 今、ここに過去の仲間達も居たらどんな感じだろうかなんて、ふと考える。

 大鍋でぐつぐつと煮込まれた料理を囲んで語らう五人の英雄とヤマトの姫君。僕との許嫁の関係を正式に解消し、恋人になったアレクとカミラが誰の目も気にすることなく二人寄り添って幸せそうにしている姿が目に浮かぶ。生粋のお嬢様であったサラは、クシナダ姫と互いの国の将来について色々と話していて、ザックと僕は戦いが終わったらやりたい事について語らっている。


 有り得るはずの無い光景が、浮かび上がっては消えていく。

 皆が幸せになれたかもしれない、そんな未来が見える。


「ずっと、こうしていられたらな……」


 静かな夜を。

 ただの二人でいられる最後の夜を。


 今はただ、存在を確かめ合うように寄り添って。





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