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巨神降臨



◆◆◆


 勇者一行が魔王に敗北し、二つの大国が滅んでから数日。魔王の軍勢は人類の領域に対して侵攻の手を緩めず、僅か数日間で更に国が3つも滅ぼされると言う前代未聞の事態を起こしていた。

 魔王が現れるより前にあった人類の国は全てで52ヶ国。それが今では半数を切って21にまで減少し、並み居る列強が魔王軍に敗北した事もあって人々の間には絶望的な空気が常に漂っていた。


 東の島国『ヤマト』でもそれは例外でなく、海を越えて来た魔王の軍勢にヤマト軍はあっと言う間に劣勢となり、国の首都にまで攻め入れられる寸前となっていた。

 


「姫様、これ以上は持ちませぬ。どうかお逃げくだされ」

「………出来ぬ」

「姫様、後生で御座います。姫様さえ生きておられれば国は立て直すことが出来るのです」

「私一人が生きていた所で何になる。土地も、民も無ければ国など成り立たん。ハンゾウよ、これで話は終わりだ。父上が亡くなられた今、私の不在で残された者達の士気を下げるわけには行かぬ。私は前線に戻らせて貰うぞ」

「姫様!」


 黒装束に身を包んだ老人は、甲冑を着込んだ少女が街の外へと出て行こうとするのを必死に止める。西の海で艦隊を率いて海竜の群れと戦い、散っていった主からの最後の命令を果たすために、この少女だけは絶対に死なせてはならないのだ。

 そんな彼の制止も虚しく、少女は街の外へと出るための門の前に立った。だが、街の内側に立っていた門番の二人がその行く手を阻む。


「………通せ、覚悟は出来ている」


「出来ませぬ」

「皆、戦えぬ民と国の命である姫様を守る為に必死に戦っているのです」


「父上は死んだ………ならばお前達の主君は誰だ! 私の命令が聞けないのか!」


「ならば姫様は我等の覚悟を無下になさるおつもりか!」


 門番の男が叫ぶ。

 今、魔王の軍と戦っている誰もが敗北を確信していた。それなのに誰一人としてその士気を落とさず、最期まで全力で戦い続けられる理由。それは『護らなければならない人』が居たから。例え一秒でも良いから、繋いだ時間がそうした人々が逃げる隙を産み出す事を願って。


「姫様、逃げましょう。私と共に、さあ」


「っっ………!」


 少女は思わず手を強く握り締める。自分達はここで死ぬのだと、そう決めた彼等の覚悟を折って門を抜けていくだけの言葉が見付からなかった。


 振り向けば、ハンゾウが膝をついて彼女を見上げていた。


「………わかった、行こう」


「では此方へ。手筈は整っております」


 二人は人気の少なくなった街を駆け抜けて、城の中へと入る。そして地下へと続く通路を通り抜けて暫く行くと小型の船が一艘、地下に作られた水路の上にぷかぷかと浮かんでいた。


「これが……」

「この水路は島の外へと直接繋がっております。さあお急ぎ下さい。いつ追い付かれるとも判りませぬ」


 ハンゾウに急かされるまま船に乗り込むと、彼も続いて船に乗り込み船を発進させる。船は近年本格的にエネルギーとして使われるようになった電気によって動くもので、魔力ほどの力強さは無いものの魔法玉を使用したものと比べて1.3倍まで継続しての航行が可能だ。おそらく何かあった時、これを使って逃げる人数も数人程度が想定されていたのだろう。二人程度ならこのボートでも問題なく動き、長距離を移動して逃げられる。


 ボートは滑るように走り出し、天井が低く長い地下水道を駆け抜けていく。やがて外の光が見えてきて、水道を抜けるとそこは海だった。

 後ろを振り替えると、見えたのは断崖絶壁。その下の方に小さく、ぽっかりと穴が空いていた。穴は打ち寄せる波と時折海中から除く岩の数々によって目立たず、傍目には自然に侵食されて出来たような洞穴に見える。


「随分と上手く作ったのだな」

「もしもの時に、陛下と姫様が逃げられるようにと」


 数人の脱出の為だけにあれほどの長い地下水道。作るのには恐ろしいほどの労力を必要としたはずだろうに。


「何故、皆はあれほど自身を犠牲にしてまで私達を守ろうとするのだ。さっきも言ったが、私一人が生きていた所で何になる。私一人では生きていようが死んでいようが国が滅びるのは変わらない。一人でも多くの民が生きていてくれた方がずっと……」

「姫様………」


 国を脱出し、海へと出て、今更になって後悔が押し寄せてくる。

 ふと街がある方角の空を見上げると、もう夜も深いと言うのに燃える街によって空は夕焼けのように赤くなっていた。大量に見える胡麻粒のようなものは空を飛ぶ魔物の群れか。

 いったい何人の兵士があの街で命を落としたのだろうか。戦いが始まってすぐに避難させた住民達は逃げきれただろうか。


「ハンゾウ………どうしても、私は生きなければならないのか」

「……何があろうとも」

「そうか」


 座席に深く腰を下ろし、遠ざかる故郷の空をじっと眺め続ける。その時だった――


「何だ、あれは……?」


 赤く染まった故郷の空よりも更に遠く。

 突如として空を覆う雲が裂け、金色の光が天を突いた。

 次の瞬間、空を飛んでいた魔物の群れの動きが遠くから見てもわかる程に乱れ、光の見えた大陸の方角へと飛んで行くのがわかる。


「……戻れるか?」

「少し様子を見ましょう」


 絶望に満ちたこの世界で、何かが変わろうとしている。

 何の根拠も無いが、闇を切り裂いて現れたあの光に希望を見た。




【ヤマト】

 東の海に浮かぶ島国。周囲を海に囲まれているために漁業が盛ん。国としてはあまり大きな方では無く軍隊も小規模だが、海上戦闘には非常に長けており、その点においては並み居る大国とも対等に渡り合えるだけの力を持っている。五人の英雄の一人、剣聖ザックの出身国でもある。



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