第8話 桃太郎と吉備団子
3匹が進化してから、数日が経った。
大学が終わると、そのまま駅へ向かう。電車に乗って品川へ行き、ダンジョンに入る。気づけば、それが俺の中で自然な流れになっていた。
大学が嫌なわけじゃない。講義も普通に面白いし、後藤と話すことも増えた。ただ、講義が終われば自然と足がダンジョンへ向くようになっていた。
今日もそうだ。
品川ダンジョンに入り、7階、8階と進んでいく。
進化した3匹の動きにも、すっかり慣れてきた。
狩犬は以前よりも敵を見失わなくなった。
俺が距離を取っても、一度追跡を始めれば迷うことなく追ってくる。
岩猿は石を探す必要がなくなった。
戦闘が始まれば岩を作り、それを投げる。
迅雉は飛翔と空中加速を組み合わせることで、以前なら一度の旋回で終わっていた距離を、一気に詰めるようになった。
そして、もう一つ。
試しておきたいものがあった。
「……そういえば、これも使ってなかったな」
俺はステータスを開く。
桃太郎になってから、いくつか変化している。
その中でも、ずっと後回しにしていたジョブスキルがある。
『吉備団子Lv.1』
桃太郎Lv.5になった頃、いつの間にか増えていたスキルだ。
ただ、その頃は3匹の成長の方が気になっていた。
全員がLv.9で止まっていたこともあって、吉備団子の検証は後回しにしていた。
今なら試してみてもいいだろう。
「吉備団子」
スキルを使う。
手の中に、白い団子が1つ現れた。
もう一度使ってみる。
もう1つ。
さらに使う。
3つ目が現れる。
そして、4回目。
「……出ないな」
どうやら、作れる数には上限があるらしい。
「見た目は普通の吉備団子だな」
手のひらに乗った白い団子は、丸くて少し平たい。ほんのり甘い餅の匂いがする。
岡山で育った俺にとっては、見慣れたものだった。子供の頃に食べたこともあるし、土産物として売られているのも何度も見ている。
「まさか、ダンジョンで吉備団子を作ることになるとはな」
俺は3匹を見る。
「食べてみるか?」
狩犬が近づいてくる。
俺が団子を差し出すと、狩犬は迷うことなく口に入れた。
続いて岩猿。
最後に迅雉。
3匹とも、あっという間に食べ終わった。
「……何か変わったか?」
しばらく観察してみる。
狩犬がその場で軽く走る。
岩猿が腕を振る。
迅雉が翼を広げる。
さっきまでと比べて、動きが少しだけ軽い。
「強化……か?」
この程度じゃ、まだ何とも言えないな。
そう考えていると、前方から魔物の気配がした。
狩犬が先に反応する。
耳を立て、前方を見つめている。
「いるな」
俺たちは足を止めた。
少し先の通路から、オークが姿を現す。
一体。
二体。
そして、その後ろからもう一体。
「……3体か」
9階に入ってから、オークの数も増えてきた。
今までなら、ここから俺も前に出ていた。
だが――
「今回は、任せてみるか」
俺は刀に手をかけたまま、一歩下がった。
オークたちが一斉に走ってくる。
その瞬間、狩犬が飛び出した。
正面からは向かわない。
一体の横をすり抜け、そのまま奥へ走っていく。
オークが狩犬を追う。
だが、狩犬は逃げているわけではない。
曲がり角を抜けたところで急に方向を変え、オークの横を取る。
追いかけていたはずのオークが、逆に追い込まれていた。
「追跡、こういう使い方もできるのか」
その間に、岩猿が手を前へ伸ばす。
岩が生まれる。
掴む。
投げる。
ドンッ!
岩がオークの肩に直撃した。
オークがよろめく。
そこへ岩猿が、もう一つ岩を作る。
「連続で作れるのは強いよな」
今度は狙いを変え、足元へ投げる。
オークが足を取られて体勢を崩した。
その頭上を、迅雉が通り過ぎる。
まだ攻撃はしない。
大きく旋回する。
距離を取る。
そして――
一気に加速した。
「速いな」
迅雉の身体が空気を切り裂くように迫る。
オークが棍棒を振り上げる。
だが、迅雉はその直前で軌道を変えた。
横へ抜ける。
そして再び上昇。
そのまま反対側へ回り込んだ。
「避けたのか」
以前の迅雉なら、あのまま突っ込んでいた。
空中加速を手に入れたことで、攻撃だけじゃなく、空中での動きそのものが変わっている。
そして次の瞬間。
迅雉が再び急降下した。
今度は避けられない。
急降下撃がオークの背中へ突き刺さる。
オークが地面へ倒れ込む。
残った2体も、もうまともに戦える状態ではなかった。
狩犬が一体を追い込み、岩猿がもう一体の足を狙う。
逃げようとしたオークの前へ、狩犬が回り込む。
岩猿の岩が飛ぶ。
迅雉が上空を旋回する。
最後のオークが大きな音を立てて倒れる。
魔石が3つ、地面に転がっていた。
俺はそれを拾い上げながら、倒れたオークを見る。
「俺、いらなかったな」
冗談ではない。
本当に出番がなかった。
7階で戦ったときも、3匹だけでかなり余裕があった。
だが、9階のオーク3体を相手にしても、この有様だ。
むしろ、進化前より余裕がある。
「強くなったな」
狩犬は息一つ乱していない。
岩猿は新しく作った岩を転がして遊んでいる。
迅雉も、何事もなかったように俺の肩へ戻ってきた。
「……お前、肩に乗るにはちょっとデカくないか?」
そっぽを向いている雉を含めて、3匹とも、まだ余裕がありそうだった。
9階は、もう苦戦する場所じゃないらしい。
なら、その先はどうなる。
俺は10階へ続く階段を見る。
10階。
そこには、この先へ進むためのボスがいる。
10階の最奥にはボス部屋があり、そのボスを倒さなければ11階へは進めない。
そして、10階と11階の間には転移結晶がある。
1階側にも同じ転移結晶があり、条件を満たした探索者なら、双方向の転移ができる。
ただし、使えるのは4級以上。
今の俺は準4級だから、1階側の転移結晶を使う資格はない。
4級への昇級条件は、10階ボスの討伐。
ボスを倒したら10階側の転移結晶から1階へ戻り、そばにあるダンジョン出張管理所で討伐記録を確認してもらう。
そこで必要な書類を受け取り、地上の管理所へ提出する。
手続きが終われば、4級だ。
つまり――
10階のボスを倒す。4級になる。転移結晶が使える。そして、11階へ行ける。
11階。
今まで一度も行ったことのない場所だ。
「行ってみるか」
別に4級になりたいわけじゃない。
ただ、ここまで来たなら、その先がどうなっているのか見てみたい。
俺は歩きながら、現在のステータスを確認する。
━━━━━━━━━━━━━━━━
名前:高槻 桃矢
種族:人間 Lv.21
ジョブ:桃太郎 Lv.6
【ジョブスキル】
・刀術 Lv.5
・三獣招来 Lv.2
・吉備団子 Lv.1[NEW]
【共通スキル】
・身体強化 Lv.4
・気配感知 Lv.3
━━━━━━━━━━━━━━━━
「結構、成長してるな」
俺はステータスを閉じた。
次は10階だ。




