第7話 桃太郎と初進化
大学が始まってから、数日。
大学での環境にも少しずつ慣れてきた頃、俺は再び品川ダンジョンに来ていた。
大学を優先すると決めたはずなのに、結局こうしてダンジョンに来ている。別に大学が嫌なわけじゃない。講義もそれなりに面白いし、後藤とのやり取りも悪くない。ただ、家に帰ると自然と3匹のことを考えてしまう。
特に気になっていたのが、3匹のレベルだった。
全員がLv.9になってから、しばらく上がっていない。
Lv.10を前にして、何かあるのかもしれない。
「まあ、戦ってればそのうち分かるか」
俺は3匹を連れて、品川ダンジョンの奥へ進んだ。
5階を越えると、出てくる魔物の強さが一段上がる。
特に厄介なのがオークだ。
5階以降では、2体同時に現れることも珍しくない。
とはいえ、今の俺たちなら無理な相手ではない。
桃犬が先行して敵の位置を探り、桃猿が石を投げる。桃雉が上空から隙を狙い、俺が最後に刀で仕留める。
何度も戦っているうちに、3匹の動きもかなり良くなっていた。
そして今日、俺たちは7階まで来ていた。
目の前に現れたのは、2体のオーク。
桃犬が先に飛び出し、片方の足へ噛みつく。動きを止めたところへ桃猿が石を投げ、もう1体の顔面を狙う。怯んだ隙に桃雉が急降下し、俺が刀を振るった。
数度の攻防の末、2体のオークが倒れる。
その直後だった。
桃雉の身体が、淡く光った。
「……お?」
光が消える。
桃雉がこちらを振り返った。
俺はすぐにステータスを確認する。
レベルが、10になっていた。
「最後はお前だったか」
これで、3匹全員がLv.10だ。
俺は3匹の情報を確認する。
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【三獣情報】
桃犬:Lv.10
桃猿:Lv.10
桃雉:Lv.10
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「……全員、Lv.10か」
ここまで来るのに、思ったより時間がかかった。
Lv.9になってからは、何度戦っても変化がなかった。それだけに、3匹ともLv.10になった今は、妙な達成感がある。
以前調べた情報では、魔物には進化する個体がいるらしい。
条件は魔物によって違う。
Lv.10がきっかけになる例もあるらしいが、必ずそうなるわけではない。
ただ、今の3匹を見ていると、なんとなく分かる。
3匹とも、いつもより落ち着かない。
「……やっぱり、何かあるんだな」
周囲を見回す。
近くに探索者の姿はない。
念のため桃雉を飛ばして、周囲を確認させる。
しばらくして戻ってきた桃雉が、問題ないことを示すように俺の肩へ止まった。
「よし」
ここなら大丈夫そうだ。
俺は最初に桃犬へ手を伸ばした。
「お前からいくか」
桃犬の身体から、淡い光が溢れた。
光は一瞬で全身を包み込み、身体の輪郭が変わっていく。
四肢が太くなり、肩や胸周りに厚みが増していく。耳は以前より立ち、鼻先も少し長くなった。最後に牙が伸び、犬らしい愛嬌を残しながらも、明らかに狩りをするための身体へ変わっていく。
やがて光が消えた。
そこにいたのは、以前より一回り大きくなった犬だった。
「……結構変わったな」
俺はすぐにステータスを確認する。
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種族:狩犬 Lv.1[NEW]
【種族スキル】
・嗅覚強化 Lv.4
・牙撃 Lv.3
・追跡 Lv.1[NEW]
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「狩犬……」
種族名から「桃」が消えている。
「……桃、なくなったな」
まあ、進化したんだから、そういうものなのかもしれない。
それより気になるのは、新しいスキルだ。
「追跡」
名前だけなら、効果は分かりやすい。
俺は少し離れた場所まで歩いた。
「試してみるか」
狩犬は地面に鼻を近づける。
少しの間、その場を行ったり来たりしたあと、突然走り出した。
「……速いな」
進化前より明らかに速い。
しかも、ただ走っているわけじゃない。
俺が歩いた跡を辿るように、迷うことなく進んでいく。
少し先で立ち止まると、狩犬がこちらを振り返った。
「なるほど。追跡か」
嗅覚強化で匂いを捉え、追跡でその匂いを辿る。
狩りをする犬として、かなり分かりやすい能力だ。
「悪くないな」
狩犬は尻尾を振った。
「次」
俺は狩犬とともに元の場所に戻り、桃猿を見る。
桃猿は待っていたと言わんばかりに前へ出てきた。
「お前もいくか」
桃猿の身体から光が溢れる。
身体を包んだ光の中で、肩や腕が徐々に大きくなっていく。身長はそれほど変わらない。だが、腕は明らかに太くなり、手も一回り大きくなっていた。
全身の毛も少し濃くなり、以前より力強い印象を受ける。
光が消える。
「……やっぱり腕だな」
俺はステータスを確認した。
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種族:岩猿 Lv.1[NEW]
【種族スキル】
・怪力 Lv.3
・投擲 Lv.4
・岩生成 Lv.1[NEW]
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「岩猿……」
こいつも「桃」がなくなった。
そして、新しいスキル。
「岩生成」
名前からして、かなり分かりやすい。
「使えるか?」
桃猿が手を前へ伸ばす。
その手のひらの前に淡い光が集まり、次の瞬間、小さな岩が落ちた。
ゴトッ。
「……本当に岩が出たな」
桃猿は岩を拾い上げる。
俺は少し先にある岩を指差した。
「投げてみろ」
桃猿が振りかぶる。
直後、岩が飛んだ。
ドンッ!
数十メートル先の岩に直撃し、その表面が大きく砕けた。
「……便利になったな」
今までは、投げるための石をその辺から拾う必要があった。
これからは違う。
自分で岩を作って、自分で投げられる。
桃猿は満足そうに胸を張った。
「最後は、お前だな」
俺は桃雉を見る。
桃雉が翼を広げる。
その身体から光が溢れた。
光は羽毛のように舞い、翼を包み込んでいく。
翼が少しずつ大きくなる。
尾羽も伸び、身体は以前より細く、しなやかな形になっていった。
やがて光が消える。
そこにいたのは、以前より一回り大きくなった雉だった。
特に目を引くのは翼だ。
羽根が長くなり、翼そのものが大きくなっている。
「……飛ぶための身体になった感じだな」
俺はステータスを確認する。
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種族:迅雉 Lv.1[NEW]
【種族スキル】
・飛翔 Lv.4
・急降下撃 Lv.3
・空中加速 Lv.1[NEW]
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「迅雉……」
やっぱりこいつも「桃」が消えている。
そして新しいスキルは、
「空中加速」
これも名前だけで大体分かる。
「飛んでみろ」
迅雉が地面を蹴る。
大きく羽ばたきながら上昇し、俺たちの頭上を旋回する。
そして次の瞬間。
迅雉の身体が、一気に加速した。
「……速っ」
さっきまで目で追えていた身体が、一瞬だけ視界から外れる。
迅雉はそのまま大きく旋回し、再び上空へ戻っていった。
進化前とは明らかに違う。
飛べるだけじゃない。
空中で一気に速度を上げ、その勢いを攻撃に乗せられる。
「急降下撃と相性良さそうだな」
迅雉が上空からこちらを見下ろす。
どうやら自分でも、新しい力を理解しているらしい。
俺は3匹を順番に見る。
狩犬。
岩猿。
迅雉。
全員、進化した。
そして、全員の名前から「桃」が消えていた。
「……進化すると、桃がなくなるのか」
当然、答えはない。
ステータスにも説明はない。
「まあ、この不親切さはいつものことか」
3匹とも、明らかに変わった。
狩犬は敵を追う力を手に入れた。
岩猿は、自分で投げる岩を作れるようになった。
迅雉は、空中で一気に速度を上げられるようになった。
それぞれの戦い方が、進化前よりはっきりしている。
「……試したくなるな」
俺は模造刀を握り直した。
大学はある。
明日も講義だ。
だから今日は、無理をするつもりはない。
それでも。せっかく進化したんだ。
少しくらいなら、試してみてもいいだろう。
「行くか」
3匹がそれぞれ動き出す。
俺たちは7階の奥へ向かって歩き始めた。




