第2話 桃太郎と三獣招来
桃太郎になった。
その事実を理解するまでに、少し時間がかかった。
俺は鬼門の先で立ち止まり、もう一度ステータスを確認する。何度見ても、表示されているジョブは変わらない。
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名前:高槻 桃矢
種族:人間 Lv.18
ジョブ:桃太郎 Lv.1[NEW]
【ジョブスキル】
・刀術 Lv.5
・三獣招来 Lv.1[NEW]
【共通スキル】
・身体強化 Lv.4
・気配感知 Lv.2
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「……桃太郎、ねぇ」
吉備に生まれ育った身としては、あまりにも馴染みのある名前だった。とはいえ、なぜ俺が桃太郎になったのかは分からない。鬼門を初めて通ったことが関係しているのだろうが、それ以上のことは考えても答えが出そうになかった。
なら、今は新しく手に入れた力を確認するほうが先だ。
「三獣招来」
口にした瞬間、ステータスの一部が切り替わった。
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【三獣情報】
桃犬:Lv.1
桃猿:Lv.1
桃雉:Lv.1
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「……本当に3匹いるのか」
表示された名前を眺めながら、まずは桃犬を選ぶ。
目の前の空間が淡く揺れた。
次の瞬間、そこに1匹の犬が立っていた。普通の犬より一回りほど大きく、灰色の毛並みをしている。俺を見上げると、少し首を傾げた。
「犬……だよな」
見た目だけなら、少し大きな犬にしか見えない。
試しに手を差し出すと、桃犬は鼻を近づけて匂いを嗅いだ。それから俺の周囲を一周し、満足したようにこちらを見上げる。
何となく、俺のことを確認しているような気がした。
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種族:桃犬 Lv.1
【種族スキル】
・嗅覚強化 Lv.1
・牙撃 Lv.1
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「嗅覚強化と牙撃か」
名前だけでも、役割はだいたい分かる。
「お前は匂いで探すのと、噛みつくのが得意ってことか」
桃犬は答える代わりに、少し離れた場所へ鼻を向けた。
何かの匂いを感じ取ったのかもしれない。
「……まあ、詳しいことは使ってみれば分かるか」
次に桃猿を選ぶ。
今度は小さな猿が現れた。
茶色い毛に覆われた身体は直立すれば身長110cmほど。小学校低学年くらいの子供を思わせる大きさだ。だが、その腕や脚は筋肉質でしっかりしている。
桃猿は召喚されてすぐ、地面に転がっていた拳ほどの石を拾った。
「それ、何するんだ?」
返事の代わりに、桃猿が腕を振る。
石が飛んだ。
勢いよく飛んだ石は、少し離れた木の幹にぶつかり表面をえぐる。
「……おいおい」
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種族:桃猿 Lv.1
【種族スキル】
・怪力 Lv.1
・投擲 Lv.1
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「なるほどな」
怪力と投擲。
さっきの石の勢いにも納得できる。
「お前は力持ちで、物を投げるのが得意ってことか」
桃猿は胸を張った。
どうやら褒められたと思ったらしい。
「分かりやすい奴だな」
最後に桃雉を召喚する。
現れたのは、普通の雉よりも一回り大きな鳥だった。羽を広げるとかなりの大きさがあり、桃色がかった羽根が混じっている。
桃雉は俺を見ると、すぐに翼を広げた。
そのまま上空へ舞い上がる。
「うわ……」
あっという間に木々よりも高いところまで上がっていった。
俺が見上げていると、桃雉は旋回したあと、一気に高度を落とす。
そのまま俺のすぐ横を通過した。
風圧で髪が揺れる。
桃雉は少し離れた場所に着地した。
「攻撃までできるのか」
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種族:桃雉 Lv.1
【種族スキル】
・飛翔 Lv.1
・急降下撃 Lv.1
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「飛ぶのと、急降下攻撃……」
3匹を順番に見る。
犬は周囲の匂いを探り、猿は石を弄び、雉は頭上を飛び回っている。
昔話の犬、猿、雉。
それぞれが、それらしい能力を持っている。
「……本当に桃太郎なんだな」
何とも言えない気分になった。
ただ、能力を確認しただけでは意味がない。
実際に魔物と戦わせてみる必要がある。
俺は刀を抜いた。
3匹がこちらを見る。
「行くぞ」
3匹を連れて森の中を進む。
木々の間を抜け、しばらくすると少し開けた草地に出た。
そのときだった。
桃犬が足を止めた。
「どうした?」
桃犬は鼻を地面に近づける。
それから、ゆっくりと前方へ歩き始めた。
俺も気配を探る。
少し遅れて、こちらへ近づいてくる存在に気づいた。
「いるな」
草むらが揺れる。
飛び出してきたのは、レッサーウルフだった。
低階層に出る狼型の魔物。
何度か戦ったことのある相手だ。
「ちょうどいい」
俺が構えた瞬間、桃犬が飛び出した。
レッサーウルフが牙を剥く。
2匹がぶつかった。
桃犬は右側から噛みつき、そのまま首元に食らいつく。
レッサーウルフが身体を振って振り払おうとするが、桃犬は離れない。
「やるな」
その隙に桃猿が地面から石を拾う。
「投げろ!」
命令を理解したのか、それとも偶然なのか。
桃猿は迷わず腕を振った。
石がレッサーウルフの胴体に直撃する。
魔物がよろめいた。
その瞬間、頭上から影が落ちてくる。
桃雉だ。
急降下した桃雉が爪を振り下ろし、レッサーウルフの背中を掠める。
魔物が大きく体勢を崩した。
「今だ」
俺は地面を蹴った。
身体強化によって強化された脚力で一気に距離を詰める。
左側から刀を振り抜く。
刃がレッサーウルフの脊椎を捉え、レッサーウルフは力なく倒れこむ。
魔物の身体が崩れ、やがて光の粒へと変わっていく。今回はなにもドロップしなかったようだ。
「……倒せたな」
刀を下ろし、3匹を見る。
桃犬はまだ周囲を警戒している。
桃猿は新しい石を探している。
桃雉は木の枝に止まり、こちらを見下ろしていた。
「なるほど」
3匹とも、ちゃんと役割がある。
桃犬は敵を見つけて足止めする。
桃猿は遠くから石を投げる。
桃雉は空から敵の隙を作る。
そして俺が刀で仕留める。
思っていたより、ずっと戦いやすい。
「悪くないな」
刀士だった頃の俺なら、基本的には自分1人で戦っていた。
それが今は、3匹の魔物を従えている。
ただ、気になることもある。
こいつらはどうやって成長するのだろう。
俺と同じようにレベルが上がるのか。
レベルが上がればスキルも増えるのか。
それとも、別の仕組みがあるのか。
今のところ分かっているのは、3匹ともLv.1ということだけだ。
「まあ、最初から全部分かるわけじゃないか」
分からないなら、これから試していけばいい。
そう思ったところで、もう1つ気になったことがある。
「三獣招来」
念じる。
すると、目の前にいた桃犬の身体が淡い光に包まれた。
次の瞬間。
桃犬が消えた。
「……収納もできるのか」
もう一度、桃犬を呼び出す。
光とともに、さっきまでいた桃犬が現れた。
俺は思わず笑う。
「便利すぎるだろ、これ」
必要なときだけ呼び出せるなら、普段から3匹を連れ歩く必要もない。
桃犬、桃猿、桃雉を順番に収納する。
最後に、ステータスを確認した。
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【ジョブスキル】
・刀術 Lv.5
・三獣招来 Lv.1
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刀士だった頃の力は残っている。
そのうえで、桃太郎として新しい力を手に入れた。
「桃太郎……か」
まだ、このジョブが何なのかは分からない。
だが少なくとも、名前だけのジョブではなさそうだ。
俺は刀を鞘に収める。
目の前に広がる森を見渡した。
18歳。幸いなことに大学に入学するまで、まだ時間はある。
なら、その間にできることを試してみればいい。
俺の桃太郎としての探索は、こうして始まった。




