第二話裏設定
<時系列>
第一話終了から約1週間後。
海辺の村を出たフィリアは北寄りの街道を進む。
吹雪によって小集落の宿屋へ足止めされる。
滞在期間は1週間。
<フィリアの懐事情>
フィリアは旅に出る前、老夫婦と暮らしていた。
二人は畑仕事や家事の手伝いをしたフィリアへ、毎週少しずつお金を渡していた。
「自分の好きなものを買ってもいいんだよ」
二人はそう言っていた。
しかし、フィリアには特に欲しいものがなかった。
服も必要最低限で足りる。
飾りも興味がない。
本も借りれば読める。
そのため、お金はほとんど使わずに貯め込んでいた。
例外は甘い物だった。
市場へ行った時だけ、少し高価な焼き菓子や砂糖菓子を買うことがある。
ただし自分のためではない。老夫婦へのお土産だった。
「美味しいですね」
「お前が食べなさんな」
「一人より三人の方が美味しいですから」
そんなやり取りをしていた。
結果として旅立つ頃には、同年代の少女としてはかなり多めの貯蓄があった。
しかし港町で、冬服・保存食・火種・靴の補修用品などをまとめて購入したため、一気に所持金が減る。
フィリア自身は「まだありますね」と思っていた。
実際、1週間宿泊するには十分だった。
しかし、ガストンはその額を見た瞬間、少女が無理をしていることに気付いていた。
この吹雪が何日続くか分からない。
そんな状況で、少なくとも旅慣れた人間なら、財布の中身を全部差し出すことはない。
宿代を払い終えた後のことを考えるからだ。
けれどフィリアは迷わなかった。
まずは安全な、泊まる場所を確保したかったから。
ガストンには、それが危なっかしく見えた。
だからこそ、泊める代わりに働かせる形を取った。
施しではなく、労働の対価として受け取らせたかったからである。
ちなみに旅立ちの日、ガストンが渡した給金は相場よりかなり多い。
本人は認めないが、「旅人の餞別みたいなもんだ」と女将に言っている。
ちなみにフィリアは気付いていない。
「宿屋のお仕事は意外とお給料が良いんですね」と本気で思っていた。
<宿屋の人々>
名前:ガストン
年齢:52歳
宿屋の主人。
元傭兵。
若い頃は王都周辺を転々としていた。
結婚を機に、生まれ故郷のこの町に戻ってきて宿屋を始めたらしい。
戦闘経験は豊富。
煙突修理を自分でやれるのもそのため。
見た目は怖いが面倒見は良い。
吹雪で困っている旅人は放っておけない。
フィリアを追い返そうとは最初から思っていなかった。
働いた対価として泊めた方が、少女の尊厳を守れると考えていた。
会ってすぐから、「娘と同じくらいだな」と思っていた。
名前:エリーゼ
年齢:49歳
ガストンの妻。
宿屋の実質的な切り盛り担当。
煮込み料理が得意。
フィリアがかなり瘦せていることに早い段階で気付いていた。
毎回少し多めによそっていたのは意図的。
フィリアのことを内心かなり心配していた。
ガストンへ何度も、「あの子、うちの子にしてあげれないかしら」と話している。
名前:ミア
年齢:17歳
宿屋の娘。
フィリアと最も年齢が近い。
だからこそ、フィリアの異質さにも気付いている。
普通の旅人ではない。過去の話をしない。
家族の話もしない。帰る場所も語らない。
けれど嘘をついている感じもない。
何か大切なものを失っている人に見えた。
そのため、「帰る場所はないの?」という質問をしている。
実は少しだけ、吹雪が終わらなければいいのにと思っていた。
もっとフィリアと話がしたかったから。
名前:ルドルフ
年齢:71歳
元猟師。熊のお爺さん。
近所に住んでいるが、ほとんど宿に入り浸っている。
妻に先立たれ、息子も独立したため家には自分以外誰もいない。
ガストンの小さいころから知っている。
熊と戦った話は完全な嘘。
実際には熊を見た瞬間に木へ登って逃げた。
本人もそのことを覚えている。
ただし数十年語り続けたせいで、半分くらい本当だった気になっている。
フィリアが信じていたため少し罪悪感を覚えた。
<宿屋の裏事情>
冬は基本的に赤字。旅人が減るため。
この近辺は有名な避暑地であり、夏の利益で冬を乗り切る。
吹雪で客が閉じ込められたため、この週だけは異例に賑やかだった。
<フィリアが気付いていないこと>
宿にいた人たちは皆、フィリアを気に入っていた。
ガストンだけではない。
エリーゼも。ミアも。ルドルフも。
そして、他の客も。
吹雪で閉じ込められていた旅人たちも。
理由は単純、フィリアがよく働くから。
文句を言わないから。
そして人の話を真面目に聞こうとするから。
ミアはフィリアへ、「吹雪が終わったら寂しくなりそう」と冗談混じりに言いかけたことがある。
けれど結局言わなかった。
フィリアなら困ったように笑ってしまう気がしたから。
<手帳の裏話>
フィリアが書いた内容。
『吹雪の宿屋』
『宿屋の主人、ガストン』
『宿屋の奥様、エリーゼ』
『宿屋の娘、ミア』
『また来たい』
実は最後の一文だけ文字が少し歪んでいる。
書いている最中に少し泣いてしまったから。




