第一話「春を待つ少女」
第一話は初投稿です。
村を出て三日ほど経った頃、私は街道を歩いていました。
空は灰色の雲に覆われています。
風は冷たく、吐く息は白くなり始めていました。
道端には昨夜降った雪が薄く積もっています。
まだ冬が始まったばかりでした。
私はマントの襟元を押さえます。
「寒いですね……」
思わず呟きました。
村を出てからの三日間は、思っていたより慌ただしいものでした。
最初の日は行商人の馬車へ乗せてもらいました。
歩いていた私を見て気を遣ってくれたのでしょう。
御者のおじさんも、行商人夫婦も、みんな親切な人たちでした。
二日目には少し打ち解けていました。
道中で話をしたり、食事を分けてもらったり、荷物運びを手伝ったり。
久しぶりに賑やかな時間だった気がします。
その中で、一つの話を聞きました。
行商人たちの取引先の一つ、この近くに小さな海辺の村があるそうです。
そこで病気の子どもが寝込んでいるのだと。
医者ももう難しいと言っていること。
家族が付きっきりで看病していること。
この冬を越せないかもしれないこと。
そんな話でした。
私は何も言いませんでした。
けれど、その話が頭から離れなかったのです。
そして二日目の夕方。
雪で道が滑りやすくなっていたのです。
馬を落ち着かせようとした御者のおじさんが足を滑らせました。
悲鳴が聞こえます。
馬車も止まりました。
駆け寄ってみると、おじさんの腕が不自然な方向へ曲がっていました。
周囲は騒然となります。御者がいなければ馬車は進めません。
近くに医者もいるような場所ではありませんでした。
私はおじさんの苦しそうな顔を見ました。
そして、少しだけ迷います。
本当に少しだけ。
けれども、結局見過ごすことはできませんでした。
その後、馬車は再び動き出しました。
御者のおじさんも元気そうです。
行商人の夫婦もほっとしたような顔をしています。
私はその様子を少し離れた場所から見ていました。
皆が無事なら、それで十分でした。
私は胸元の手帳を握ります。
それから静かに立ち上がりました。
「それでは、これで……」
近くにいた商人の旦那様が振り返ります。
「もう行くのかい?」
「はい」
私は頷きました。
「目的の村が近いので」
「そうか……」
少し残念そうな顔をします。
それが少し嬉しくて、少しだけ寂しくもありました。
「この近くに知り合いの農家がある」
行商人の旦那様が一通の手紙を差し出します。
「これを見せれば泊めてくれるはずだ」
私は目を瞬かせました。
「そんな……」
「遠慮するな」
旦那様は笑います。
「若い娘の一人旅だ。心配くらいさせてくれ」
胸の奥が少しだけ温かくなりました。
私は頭を下げます。
「ありがとうございます」
すると奥様が苦笑しながら言いました。
「あなた、本当に優しいから」
私は首を傾げます。
「そうでしょうか」
「そうよ」
奥様はため息混じりに笑いました。
「誰にでも優しくしたらだめだからね」
「……善処します」
私がそう答えると、
奥様は「この子は分かってないわね」とでも言いたげに苦笑します。
たぶん、言っても聞かないと思われているのでしょう。
御者のおじさんもこちらを見ました。
腕はもう問題なく動いています。
おじさんが声をかけてくれました。
「大丈夫かい、お嬢ちゃん」
本当は私の方が心配される立場だったのでしょう。
旅人で、若くて、頼りなく見えるから。
私は小さく笑いました。
「はい、大丈夫です」
それだけ答えて頭を下げます。
そして私は馬車を後にしました。
車輪の音が少しずつ遠ざかっていきます。
馬車の後ろ姿もじきに見えなくなるでしょう。
私はそれに背を向けて歩きます。
振り返りませんでした。
振り返ったら少しだけ寂しくなりそうだったからです。
その夜は紹介された農家へ泊めてもらいました。
手紙を読むなり、
「そりゃ大変だったねえ」
とお婆さんが笑い、温かいスープまで出してくれました。
優しい人でした。
翌朝。
私は手帳を開きました。
昨夜のうちに書いた文字があります。
『御者のおじさん ——さん』
『商人の旦那様 ——さん』
『商人の奥様 ——さん』
『御者の方の腕を治しました』
『馬車に乗せてくださいました』
『優しい人たちでした』
私はしばらくその文字を見つめました。
顔はもう曖昧です。
会話もほとんど残っていません。
この名前は本当に御者のおじさんのものだったでしょうか。
本当に商人の旦那様のものだったでしょうか。
本当に商人の奥様のものだったのでしょうか。
本当に分かりません。
声が。顔が。何も思い出せないのです。
一緒に笑って、食事をして。
でも名前だけが残っていて。
その名前が本当にその人のものか分からないのです。
私は小さく息を吐きました。
「本当に不思議ですね」
忘れてしまうのに。
優しかったことだけは覚えていました。
温かかったことだけは覚えていました。
私は荷物をまとめて立ち上がります。
すると、お婆さんが見送りに出てきました。
「もう出るのかい?」
「はい」
私は頭を下げます。
「お世話になりました」
「いいんだよ」
お婆さんは笑いました。
「——さんの紹介なんだろう?」
私は一瞬だけ目を瞬かせます。
その名前は手帳に残っています。
聞き覚えはもうありません。
どんな顔だったのでしょう。
どんな声だったのでしょう。
分からないのです。
それでも、黙って私は頷きました。
「はい」
そして少しだけ迷ってから。
控えめに尋ねます。
「それと、一つ聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「どこか体調の悪いところはありませんか?」
お婆さんは不思議そうに首を傾げました。
「急にどうしたんだい」
「えっと……」
私は苦笑します。
上手く説明できませんでした。
「気になったので」
お婆さんは少し考えてから笑いました。
「それなら腰かねえ」
そう言って腰を叩きます。
「最近ずっと痛くてねえ」
私は小さく頷きました。
「手を握ってもいいですか?」
「手かい?」
「はい」
お婆さんは不思議そうな顔のまま手を差し出します。
私はその手を握りました。
そして、小さな光が生まれます。
優しい光でした。
お婆さんは目を丸くします。
けれど、光はすぐに消えました。
「これで大丈夫だと思います」
「はあ……?」
お婆さんはますます不思議そうな顔をしていました。
けれど。
「なんだか腰が軽い気がするねえ」
と笑います。
私も小さく笑いました。
理由は説明しません。
明日には忘れてしまうからです。
私は頭を下げます。
「それでは」
「気を付けるんだよ」
私は微笑みました。
「ありがとうございます」
しばらく歩いた後。
私はふと思い出します。
「あっ」
胸元の手帳を開きました。
昨夜泊めてもらった家のことを書こうとして。
手が止まります。
私はお婆さんの名前を聞いていませんでした。
「それでもいいですね」
小さく呟きます。
手帳へ書きました。
『町のはずれの農家』
『優しく泊めてくれた』
しばらく考えて、さらに一行だけ書き足します。
『腰が痛そうだった』
それから少し笑いました。
明日にはその人の顔も曖昧になっているかもしれません。
それでも優しかったことだけは忘れない気がしたのです。
遠くに小さな村が見えました。
昨日聞いた話の村です。
病気の子どもがいる村。
私は小さく目を閉じました。
本来なら、関係ありません。
私はただの旅人です。
会ったこともない子です。
名前も知りません。
それでも。
ただ助けたいと思って、この村まで来てしまったのです。
本当にお節介だと思います。
自分でもそう思います。
けれど、苦しんでいる人がいると聞いてしまったら。
私は放っておけないのでした。
村へ近付くにつれ、潮の香りが強くなってきました。
遠くから波の音も聞こえます。
どうやら本当に海辺の村らしいです。
近付くにつれ、妙な空気を感じました。
人はいるのです。
ですが。
誰もがどこか暗い顔をしていました。
「可哀想になあ。――さんのところ。」
「まだ十歳だろう」
「この冬は越せんかもしれん」
聞こえてきた言葉に、私は足を止めました。
十歳。冬を越せない。
胸の奥がざわりとします。
どうやら、馬車で聞いた話は本当だったようです。
私は思い切って声を掛けました。
「あの」
話をしていた男性たちがこちらを見ます。
「なんだい?」
「その子の家を教えていただけませんか」
私がそう尋ねると、男たちは顔を見合わせます。
「知り合いか?」
「いいえ」
私は首を横に振りました。
「ただ、少し気になって」
男たちは不思議そうな顔をしました。
当然です。
私だって逆の立場ならそう思います。
会ったこともない子どもを心配して訪ねてくる旅人なんて。
怪しいとしか思えません。
けれど、年配の男性が小さく息を吐きました。
「港の近くだ」
そう言って海の方を指差します。
「あの白い屋根の家だよ」
私は頭を下げました。
「ありがとうございます」
「だがなあ」
男性は少し言いにくそうに続けます。
「覚悟はしておいた方がいい」
その言葉に私は黙って頷きました。
誰もが助からないと思っているのでしょう。
だからこそ胸の奥が重くなりました。
私は小さく息を吸います。
そして、教えられた家へ向かって歩き出しました。
潮風が頬を撫でます。
波の音が聞こえました。
海の近くに建つ、その小さな家へ。
家の前で立ち止まります。
白い屋根の小さな家でした。
海風に晒されているのでしょう。
壁にはところどころ傷みが見えます。
玄関先には漁網が干してありました。
壁には使い込まれた船具が掛けられています。
どちらもすっかり乾いていて、最近は使っていないようにも見えます。
私は小さく息を吸います。
胸の奥が少しだけ重くなっていました。
助けられる保証はありません。
もしかしたら間に合わないかもしれません。
今更になって、そんな当たり前のことを考えてしまいます。
それでもここまで来たのです。
私は扉を叩きました。
しばらくして、ゆっくりと扉が開きます。
現れたのは疲れ切った顔の女性でした。
目の下には濃い隈があります。
何日もまともに眠っていないのでしょう。
「あの……」
私が口を開くと女性は警戒したようにこちらを見ました。
当然です。知らない旅人なのですから。
「どちらさまですか?」
「突然申し訳ありません」
私は頭を下げました。
「娘さんのお話を聞きました」
女性の表情が曇ります。
痛いところを突いてしまったのでしょう。
私は慌てて続けました。
「すみません。ただ……」
言葉が止まります。
助けたい。心配です。そう言えばいいのかもしれません。
けれど、それはあまりにもお節介な気がしたのです。
女性はしばらく私を見つめていました。
やがて小さく息を吐きます。
「少しだけなら」
そう言って道を開けました。
私は再び頭を下げます。
「ありがとうございます」
部屋の中には薬の匂いが漂っていました。
窓際のベッド、そこに一人の少女が寝ています。
十歳くらいでしょうか。
顔色は悪く、頬は痩せていました。
呼吸も苦しそうです。
その姿を見た瞬間。胸の奥が締め付けられました。
どうしてなのでしょう。知らない子です。
今日初めて会った子です。
それなのに、ひどく悲しく思えました。
少女がこちらへ顔を向けます。
「……お姉ちゃん?」
弱々しい声でした。
私はベッドの横へ座ります。
「こんにちは」
少女は不思議そうに首を傾げました。
「お医者さん?」
私は首を横に振ります。
「違います」
「神官様?」
「それも違います」
少しだけ考えて。
私は答えました。
「ただの旅人です」
少女はくすりと笑いました。
「変なの」
「そうかもしれません」
私も少し笑います。
しばらく沈黙が流れました。
少女は窓の外を見ています。
窓の向こうには冬の海が広がっていました。
灰色の空。
灰色の海。
冷たい風。
少女がぽつりと呟きます。
「海、前は好きだった」
私は静かにその言葉を聞いていました。
「前は?」
私はそっと聞き返します。
少女は小さく頷きました。
「お父さんが出ていく時も、帰ってくる時も海だったから」
私は黙って耳を傾けます。
「船が見えると嬉しかったの」
少女は少しだけ笑いました。
「お父さんかなって思って」
私は微笑みます。
「船乗りさんなんですね」
「うん」
少女は頷きました。
「今年の夏に出ていったの」
その声は明るいものでした。
けれど、どこか寂しさも混じっているように聞こえました。
「遠い海だから、どこにいるかも分からないんだって」
「そうなんですね」
「手紙も届かないし」
少女は苦笑します。
「でも春になったら帰ってくるの」
その言葉だけは迷いがありませんでした。
疑いもなく。
当たり前のように。
そう信じている声でした。
私は胸の奥が少し痛くなります。
「約束したんですか?」
「うん」
少女は嬉しそうに頷きました。
「春になったら帰るって」
それから少し恥ずかしそうに笑います。
「いっぱいお土産を持って」
私は思わず笑ってしまいました。
「楽しみですね」
「うん」
少女は本当に嬉しそうでした。
病気で苦しいはずなのに。
その話をしている時だけは元気そうに見えます。
私は尋ねました。
「春になったら何をしたいですか?」
少女は少し考えます。
それから、ぱっと顔を上げました。
「お父さんのお土産を見る」
私は思わず笑いました。
「毎年あるんですか?」
「あるよ」
少女は嬉しそうに頷きます。
「変な貝とか」
「貝ですか」
少女は毛布の中から、よくわからない渦を巻いたような形の貝がらを取り出しました。
少女は続けます。
「変な像とか」
「変な像、ですか……?」
「うん。なんの生き物かも分からないの」
ふと視線を逸らすと奇抜な形をした人形が彼女の机の上にありました。
「あと知らない国のお菓子」
その時は、本当に楽しそうな顔をしていました。
「去年はすっごく甘い飴だったの」
「美味しかったですか?」
「うん!」
少女は明るく笑います。
けれど、その笑顔はすぐに小さくなりました。
「だから」
ぽつりと呟きます。
「春まで頑張るの」
私は視線を落としました。
胸の奥が痛みます。
この子は生きたいのです。
春を迎えたいのです。
お父さんとまた会いたいから。
ただそれだけのために。
それが当たり前の願いだから。
私はこの子を知りません。
今日初めて会った子です。
それなのに、この子には春を迎えてほしいと思いました。
理由は分かりません。
ただ、春を迎えられなかった誰かを思い出しそうになるのです。
暖かな日差し。
咲き始めた花。
春を楽しみにしていた誰かを、私は知っているような気がしました。
けれど思い出せません。
誰だったのでしょう。
何があったのでしょう。
何も分からないのです。
ただ、言葉にならない悲しさだけが胸の奥に残っていました。
私はそっと少女の手を握ります。
細くて、冷たい手でした。
「きっと会えますよ」
少女が私を見ます。
「本当?」
その瞳は助けを求めるような、春を願うような目でした。
私は頷きます。
「きっと春は来ます」
少女はしばらく私を見つめていました。
そして少しだけ笑います。
「お父さんも帰ってくるかな」
私は微笑みました。
「帰ってきますよ」
根拠なんてありません。
約束だってできません。
それでも、そう言わずにはいられなかったのです。
少女は安心したように笑いました。
その笑顔を見た瞬間。
私は決めていました。
この子に春を迎えてほしい。
そして帰ってきたお父さんに会わせてあげたい。
そう強く思ったのです。
私は少女の細い手を見つめました。
助けられます。
そうすればこの子は生きられる。
春を迎えられる。
お父さんにも会えるでしょう。
手帳の文字が脳裏をよぎります。
『力を使うと忘れられる』
助ければまた忘れられます。
話したことも、笑い合えたことも、全部なくなります。
でも、それでいいのです。
私は小さく目を閉じました。
怖くないと言えば嘘でした。
優しかった老夫婦を思い出します。
温かかった食卓。笑い声。畑。
けれど、私はもう二人の名前も顔も思い出せません。
それが今でも少しだけ苦しいのです。
少女を見ました。
春になれば、お父さんが帰ってくる。
家族が揃う。
笑い合える。
その当たり前を私は守りたいと思いました。
だから私は少女の手を握ります。
答えは最初から決まっていました。
私はきっと何度忘れられても同じことをしてしまうのでしょう。
「大丈夫ですよ」
私はそう言いました。
そして光が生まれます。
小さな光でした。
けれどそれは少しずつ広がっていきました。
春の日差しのような優しい光でした。
少女を包み込みます。
身体から力が抜けていきます。
頭もぼんやりしてきました。
それでも光は消えませんでした。
その時でした。
少女が小さく呟きます。
「……女神様?」
やがて少女の呼吸が落ち着いていきました。
顔色も戻っていきました。
青白かった頬に血の気が差します。
少女は目を瞬かせました。
それからゆっくりと身体を起こします。
「……あれ?」
掠れていた声に力が戻っていました。
お母さんが泣きました。
「よかった……!」
少女も泣いていました。
私はその姿を見て微笑みます。
よかった。本当によかった。
その時でした。
「ありがとうございました」
声を掛けられて顔を上げます。
少女ではありません。
お母さんでした。
涙で目を赤くしながら、何度も頭を下げています。
「娘を助けてくださって、本当にありがとうございます」
私は少し困ってしまいました。
感謝されるために助けたわけではありません。
こういう時、何と言えばよいのか分からないのです。
小さく微笑んで答えました。
「どういたしまして」
すると、今度は少女が私を見ます。
「ありがとうございました」
私は少し驚いて。
それから嬉しくなりました。
「どういたしまして」
すると少女は首を傾げます。
「お姉ちゃんのお名前は?」
私は答えました。
「フィリアです」
「フィリアお姉ちゃん」
胸の奥が温かくなりました。
ただ名前を呼ばれただけなのに。
それだけで嬉しかったのです。
忘れられると分かっているのに。
それでも嬉しかったのでした。
けれどその時間は長く続きませんでした。
「あれ……」
少女の表情が曇ります。
私は悟りました。
もう忘却が始まっているのです。
「あの……」
少女は困った顔をしました。
「お姉ちゃんのお名前……」
私は少しだけ悲しくなりました。
それでも、少女は生きています。
春を迎えられます。
お父さんにも会えるはずです。
それだけで十分でした。
私はそっと頭を下げて家を出ました。
家を出た私は、村外れの岩場へ腰を下ろしました。
冬の海を見ながら手帳を開きます。
新しいページです。
そこへ書きました。
『春を待つ少女』
そこで手が止まります。
名前を書こうとして。
私は気付きました。
聞いていなかったのです。
「また失敗しましたね……」
思わず苦笑しました。
それからもう一行だけ書き足します。
『春を迎えられそう』
『お父さんに会えますように』
その文字を見ていると、胸が少しだけ温かくなりました。
名前は残らなくてもあの子は生きている。
春を迎えられる。
お父さんにもきっと会える。
そうなってほしいと思いました。
私は手帳を閉じます。
そして立ち上がりました。
誰にも知られず。
誰にも覚えられず。
それでも。
もし目の前で誰かが助けを求めているなら、私はまた手を伸ばすのでしょう。
理由は分かりません。
けれど誰かが泣いているのなら、私はきっと、また手を伸ばしてしまうのでしょう。
それだけは確かな気がしていました。
冬の海から吹く風を受けながら。
私は静かに次の町への道を歩き始めたのでした。




