第2話「ようこそ、上海へ」
空港。
越境審査で俺は審査官に3つのパスポートを手渡す。
審査官はそれを順に開く。
1つ目、名前はカルヴァ・ジュロン、性別は男性、俺だ。
2つ目、名前はミロス・ジュロン、性別は女性、俺の妻だ。
3つ目、名前はヴィクトリア・ジュロン、性別は女性、俺と、妻との子だ。
審査官は判子を押す。
「ようこそ、上海へ」
そして3つのパスポートを俺は受け取った。
空港内を俺達は歩く。
「ずいぶん楽しそうだな」
ヴィクトリアは俺とミロスの前をウキウキで歩いていた。
「ずっと楽しみにしてたのよ、この子たち」
ヴィクトリアが後ろを振り向き、俺達を見た。
「凄い!人がたくさん!」
腕を広げるヴィクトリア。
この旅行の提案者は彼女だ、さぞ楽しみだったのだろう。
「ちゃんと前を向いて歩いて、人が多いからぶつかっちゃう。ああ」
ミロスは腕を伸ばし、ヴィクトリアの服を引っ張る。
ヴィクトリアの後ろに、アジア人の男がいた。
男はぶつかるであろうヴィクトリアと俺達をじろじろと見ていた。
「ほら、危ないでしょ」
男を避け、空港内を歩く。
空港には人種問わず多くの人がいた。
多くの人の目的は隕石だろう。
1ヵ月ほど前に上海近郊に落下したそれは、小さいながらクレーターを作り、多くの人の注目の的となっている。
俺達の旅行の目的はそれではないが。
空港から地下鉄のホームに降りる。
ヴィクトリアが言っていたように人が多い。
25年前に、ここの人口も8割なくなったんだよな。
電車が到着し、俺達は乗り込む。
電車内もほぼ満席となっていた。
空いている席がないかと探し、そこにヴィクトリアとミロスを座らせ、つり革を掴んだ。
しばらくすると地下から高架に昇る。
同じようなビルが並んでいる。
ヴィクトリアは後ろを向き、上海の景色を楽しそうに眺めた。
30分ほど乗っていた時だった。
急ブレーキがかかり、強く前方に体重がかかる。
ミロスの肩にヴィクトリアがぶつかる。
何だ?
運転手のアナウンスがかかる。
「ただいま列車にお客様が接触しました。そのためこの列車は現在地でしばらく停車します」
駅の手前で電車が停まった。
電車内でどこかから話声がする。
「なんか、当たったやつ様子おかしかったらしいぞ」
「様子がおかしい?酔っぱらってたのか?」
「いや、なんか突然気を失ったようにその場に動かず立ってたようだぞ」
「薬でもやっていたのか?」
「さあな」
俺ははその声がする方をちらっと見ると、すぐにミロスとヴィクトリアの方を見た。
何も起きなければ良いが。




