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黒い光に照らされて。  作者: ユウソン


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第八話 髭面オネエ?

「生きて帰れて良かったな。」

ハンドルを握り俺に笑いかける後輩。

パンツ1枚で服を膝の上に置いた状態の俺は一度だけ目を合わせてすぐに下を向く。


無事に生きて帰れる事に安堵した俺は、服を着るという考えが頭になく、ビルからそのままの状態で歩き車まで戻ってしまった。

人々の痛々しい視線を浴びながら。

(もう、しばらくあの辺りは歩けないな。)

肩を落としながら名古屋の街を後にするのである。


アパートに帰り、今日撮った映像でマッシュに渡せそうな物だけを選別する。

「写真なんて渡しちゃって大丈夫なのか?」

よほど俺の醜態が面白かったのか後輩の顔はまだニヤけていた。

「いつまで笑ってんだ!……一応仕事だからな。先輩にも彼女にも許可は取った。仕事先から出た後は何事もなく家まで帰ったから、映像は撮ってないって適当に誤魔化すよ。」俺はかなり腑に落ちなさそうな、不満そうな表情で言った。

まだ鼻が痛い。鏡なんて無かったので車に乗ってから気付いたがどうやら鼻血を出していたらしい。

車の中で鼻に詰めたティッシュを引っこ抜きゴミ箱に投げ入れた。



「そうだったんですね!何かに巻き込まれていなくて良かったです!」

キノコ頭は安堵の表情を浮かべ緊張を解いた。


「あぁ、お母さんの為に掛け持ちなんていい子じゃねぇか。お前みたいに人を疑う事を知らない純粋な子だよ。」

俺はカップ焼きそばを啜りながらこの腐れキノコ、もとい、マッシュに嫌味ったらしく伝えた。

「なんか機嫌悪く無いですか?あと、お鼻腫れてますけど大丈夫ですか?」

少しムッとした表情で返すマッシュの言葉に昨日の出来事を思い出し、沸々と怒りが湧き上がる。

「ほっとけ!キノコ野郎!」

まだ飲み込んでいないカップ焼きそばを口に蓄えながら怒る。

「さっさと金払って消えろ!胸糞悪い!」

マッシュには関係の無いことだと分かっていても、コイツの依頼さえ受けなければという気持ちが抑えられない。

「わかりましたヨォ〜…。」

なんで怒っているか分からない俺に対して、マッシュは少しシュンとしながら財布を出し、そこから万札を1枚だけ出した。

「なんだコレ?」そう聞き返す俺に(ん?)という表情で俺を見たマッシュ。

「え、さっきコレくらいって…。」そう言ってマッシュは自分の顔の前に人差し指を立てた。

「馬鹿野郎!10万だよ!10万!万札1枚で探偵雇えると思うなよ!」


「えー!ぼったくりじゃ無いですか!たった1日でそんな金額!?」


「当たり前ぇだろ!お前のおかげでどんな酷い目に……いや、コレは関係ないか。なんでも良いからさっさと払え!」

結局財布の中に2万円しか入っていないマッシュの金を取り上げて乱暴に領収書をポケットに突っ込みアパートの扉から蹴り飛ばして追い出した。

(ったく!吹っかけて金ぶん取ってやろうと思ったのに逆に損したぜ!)

とりあえず気を落ち着ける為にタバコに火を着けようとするも、ちょうどガス切れでなかなか着かない。

カチッ。カチッ。……カチカチカチカチカチカチカチカチカチ

カコーン!

ライターをぶん投げて天を仰ぐ。

(ライターまで俺を馬鹿にしやがる…。)



時刻は16時14分。

俺は1人で車を走らせ、名古屋市は北区へと向かう。

珍しくまた、相談が入ったのだ。

(最近、調子が良いな。ツキが回って来たか?)そう自惚れながらタバコを吹かし、軽快なハンドル捌きでアクセルを踏み進む。

男性の相談者で、簡単な従業員の素行調査だ。

あまり聞き慣れないと思うが、経営者からのこんな相談は意外とある事だ。

建築会社を営むこの男性は、従業員がよく、工具を無くす事や、この従業員が入って来てから倉庫の備品の消費が早くなったという。

おそらく、勝手に持ち出して、どこかで売っぱらって居るのだろう。

素行の悪い自分だからこそ分かるのだ。

昔、俺たちの間で北ドンとか呼ばれていたドン・○ホーテを通り過ぎ、庄内川の橋から堤防へと曲がる。そこから少し走りたどり着いたコメ○珈琲店に入り相談者と面談した。


頭のハゲが気になる50代ぐらいの髭面の中肉中背の男は少し頼りなさそうな感じだ。

「こっ…こういう相談が初めてで、そのぉ、費用とかは結構掛かっちゃうんですかね?」

おずおずとした態度の男に大体の相場より少し高めの金額で説明をした。

「良かった〜。思ったよりも高くないんですね!」

(しまった。コイツこう見えて金持ってんのかよ!)少々吹っかけたつもりだったが、読みが外れた。

まぁいい。相場よりも高いし、これ以上傘増しして不信感を抱かれて契約が無くなっては元も子もない。

「それじゃ、欲しい情報なんですが…」

そう言って、事前にあると助かる情報を依頼主から出来るだけ引き出す。

「会社の住所はここね〜。新城市か…結構遠くから来たんですね〜。」

そう言ってアプリのマップを開き、航空写真で確認。


…違和感……


(なんだ…見た事あるぞここ…)

俺の脳裏に例の殺された依頼者が浮かぶ。

「!!!!!」

あっ!と大きな声を出しそうになったのを思いっきり抑えて、表情を殺す。

(遺体の発見現場の真隣じゃねぇか!)

バクバクと高鳴る心臓が痛いほど胸を叩く。

(何か突くか?いや、犯人と繋がっている可能性はあるか?流石に自分の敷地の近くではそんな事しないか?いや、実行犯と計画犯が別々の可能性もある。全く知らない可能性もある。ニュースで大々的に報道されたんだ。それくらいなら突っ込んでもいいか?いや、むしろリアクションしない方がおかしいか?)頭も中にこれらの考えが出てくるまでおよそ0.5秒ほどだった。

「なんか、見た事あるような。」俺は惚けた口調でボソボソと喋った。

すると、ハゲ親父は小指を立ててコーヒーを一口飲み、小声で顔を近づけて俺に言った。


「実は…最近殺人事件あったの知ってます?ニュースにもなってて。ほらあの、キャリーケースに詰められたやつですよ。」


(コイツは白だな)そう確信した俺は少しわざとらしくリアクションを取る。

「ああ〜!あの!」


「そうなんですよ。だから、地元で変な目で見られて困っちゃってて…」


「確かに。それはそれは、なかなか大変でしたね。犯人と鉢合わせにならなくて良かったですね。」


「ホントだよ!全く。怖いったらありゃしない。」


なんだかこの依頼人少しオネエ気質な気がするな。頼りなさそうな印象はこのせいかと納得して、解散をした。


思わぬ収穫に少しの兆しと恐怖を感じながら帰路に着く。




北ドンには今どき珍しい改造車のバイクが5台ほど止まっていたそんな奇妙な夕方だった。

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