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黒い光に照らされて。  作者: ユウソン


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第七話 翼を下さい

話し声が聞こえる。最初はそれだけだった。

少しずつ意識が戻ってくると同時にその話し声が聞き覚えのある声だと気付く。

「おう。目ぇ覚めたか。」

顔のいかつい男に睨まれながら最悪の目覚めを体験し、俺は叫んだ。

「どわぁっ!せっ先輩!?」

目の前には俺の行きつけのガールズバーのケツモチであり、暴走族時代の先輩がしゃがみ込んで俺を睨んでいた。

全く状況が読めない。

(なんだコレ。なんで先輩が?あれ、俺何してたんだっけ?そうだ!後輩は!?)

色々な考えが頭の中を走り回る。もう思考回路の大運動会である。

ふと目を先輩の後ろへ向けると後輩が普通に立ってこちらを見ていた。

(良かった。無事だったのか。)そう思いながらも立ちあがろうとするも、身体が上手く動かせない。

(なんだ?)と思いながら自分の身体に目をやるとなんと、パンツ1枚でロープに縛られて手足の自由が無くなっていた。

「…え?」コレが精一杯。疑問とかじゃなくて「え?」なのである。

「お前、何ウチのこと嗅ぎ回ってるんだコラ。」

さっきと同じ体制のまま先輩は言った。

「は!?いやいや、俺がそんな事するわけないじゃ無いですか!誤解ですよ!」必死に弁解をしつつも、自分がどこにいるのかを理解しようと目を配らせる。

どこかの屋上に居るみたいだ。

「ちょっと、先輩、何か勘違いしてますよ〜やだなぁもう」少しでも機嫌を取ろうと笑顔を見せた瞬間に顔に痛みが疾る。そろそろ現実が見えてきた。

俺は先輩に殴られたのだ。

その後気絶して、今に至るのだと。



「あのぉ〜。このビルってもしかしてぇ〜。」


嫌な予感が当たらない事を祈りつつ先輩に上目遣いで尋ねた。

「ウチのビルだよ馬鹿野郎。」

OUT!OUT!OUT!スリーアウトチェンジ!

さよなら現世!ありがとう過去!よろしく来世だ!

「終わった…。」

できる事なら今後関わりたく無い先輩のビルへと知らずとは言え、潜入し、張り込み。写真を撮ってしまったのだ。

俺は、この後生きて帰れるのだろうか。

「まぁとりあえず座れや。」

(アンタがぶっ飛ばしてこうなってんだろうがっ!)と思う俺をよそに、無理矢理姿勢を直される。


「ほんでよぉ。コソコソと何を嗅ぎ回ってたんだぁ?あ?」


俺もトイレに行っておけば良かったと考えながらも、なぜか後輩が無傷な事に疑問を覚えた。


「あ、いや、その、お仕事で近くに来てまして〜………ところでなぜ、私だけこんな格好に?」


そう聞いてみると先輩は後輩の方に軽く目をやり再びこっちを見て言った。


「アイツは一般人だろ。」


「いや、自分も一般人ですけど。」


ついついツッコミが口から出てしまった。

いや、ツッコミというより、事実を伝えたまでなのだが。

先輩が突然俺を掴み立ち上がらせ、フェンス際へと押しやる。

「お前、バンジー好きか?」


「は?」


「バンジーは好きかって聞いてんだよ。」


「いや、まぁいつかは経験してみたいなぁとは思った事ありますけど。」

そう答えた瞬間に自分の足元に目をやると、

俺を縛っているロープが4、5mほど余りがある事に気付く。

「え、ちよ、冗談…っすよね?」

子犬の様なすがる目を先輩に向けるも、先輩は

「練習しようや」

そう言ってニヤリと笑い俺を持ち上げフェンスの外へ落とした。

「ぎゃぁあああああぁぁあぁ!!!!!!」

ビルの屋上から真っ逆さまに落下し、視界が地面に向かって早送りされる様子に一瞬走馬灯を見た気がするが、そんな事どうでもいい。

俺は2度とバンジーだけはやらないと心に決めた。

生きて帰れたらの話だが。

「オラァ!何嗅ぎ回ってんだって聞いてんだよてめぇごらぁ!!」

ブチギレて周りの見えなくなった先輩にこのままだと本当に地獄まで落とされそうな気がして、

守秘義務とかそんな事どうでも良くなり俺は叫んだ。

「言います!言います!全部話しますぅ〜!助けてください〜!」



屋上になんとか引っ張り上げられて服を返してもらい、先輩の舎弟?らしき人にロープを解いてもらう。

「あ、どうも、なんかすんませんね」生気のない俺の態度に後輩は爆笑していた。

怒る気力も無い代わりに、(コイツはいつか必ず殴る)と以前誓った事を思い出し、改めて胸に刻んだ。

こうなった以上は仕方がない。

俺も人間だ。法律を守った所で、そもそも相手は法律の向こう側の住人。護られる保証は無いのである。

俺は全てを話した。

依頼を受けた経緯から今日この状況まで全て。

「コイツの言う通りだな。」先輩は俺から目を離さずに右手の親指を立て、後方にいる後輩へとその指先を向けた。

(聞いてたんならなんで拷問かけたんだよ!)

とは言えず「はいぃ…。」と情けない声が空を切る。

誤解が解けた事で、先輩が誰かに電話し、屋上へ上がって来いと指示を出した。

誰が来るのかと固唾を飲んだところに、マッシュの彼女が登場したのである。

俺は潜入がすでにバレていて先輩は後輩に聞かずとも大体の事情は察していた事に気づいた。

このゴリラ。もとい先輩はずっとビルの中に居て、監視カメラで俺を見ていたのだ。

(もう、アンタが探偵やってくれよ…。)

そう心の中でつぶやいた声は自分にも分かるほど情けなかった。

マッシュの彼女はやましい気持ちがあって働いていたのでは無く、病気の母親の借金の返済の為だと言う。俺が無事に帰れる条件はマッシュにこの事を言わない事だったが、あんなキノコ頭なんかよりも自分の命の方が大事なので、快く快諾した。


「コレにて一件落着ってわけだなぁ!がはははははは!!」大笑いする先輩を横目にどっと疲れが溢れ出し俺はそのまま横に倒れた。




コンクリートの床が程よく冷たく眠気を誘う。そんな気候の23時55分。

街はまだ活気にあふれ、眠る気配は無い。

そんな4月の夜である。

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