第六話 ボウズのオ・シ・ゴ・ト♡
眺めていても、仕方が無い。
とにかく真実を暴かなければと、後輩と打ち合わせをしてビルに潜入を開始した。
しかし、店内や、敷地内での撮影はいくら探偵と言えども法律が許してはくれない。
カメラは持っていけないが、働いてない事実も加味して、まずは顔のバレている可能性の低い俺が確認に行く事にした。
(後輩は、昔一度会った事があるらしい。)
5階建てのビルを上から下へ潜入する作戦だ。
1番上は熟女専門店となっていて、望みは薄いが万が一がある。
店内に入り、ボーイに声をかけられて予約はあるかと聞かれた。
「いやぁ〜予約はしてないんだよねぇ〜。でもたまたま目に入って良さげだから来てみたんだ。」ひょうきんな客を演じて潜入し、キャストのパネル(顔写真)を見せてくれと頼む。
(先ほど、サイトを使って調べたが、それらしき対象者の写真が見当たらなかった。おそらく顔出しNGとして働いている可能性が高いと踏んだ。)
ボーイがパネルを何枚か持ってきて話しかけてくる。「この子は待ち時間無いっすね〜。この子だと10分ぐらい待ってもらう感じっす。あとこの子も10分〜15分ぐらいで〜……」
説明を受けながらパネルをチェックするがそれらしき人物は見当たらない。
こういう時店側は、その日まだ客のついていない所謂、《ボウズ》という状態の子をオススメしてくるのだ。
対象者がそこそこ人気な子なら予約で入られている可能性はある。
そこで俺は「サイト見ても良いですか?」こう言ってサイトを開く。サイトの中に写真は無くても、出勤情報の上がっている子がいる。
そこを狙ってパネルを引き出す。
「この、写真のない子は?」ボーイに携帯の画面を見せなが問う。
「あーこの子予約でいっぱいの子なんすよね〜。」
まぁそういうだろう。《ボウズ》を先に処理したいからな。
「パネル見せてよ。タイプだったら次は予約したいからさ。」ボーイはそう言われると、しぶしぶ受付の中へ入っていき、少し誰かと話をして戻ってきた。
おそらく店長や上司が中に居て、俺がどんな感じの客かを伝えたのだろう。
戻ってきたボーイにパネルを見せられる。
(この子では無いな…。)
読み通りこの店には居ないことを確認したので3回ほど咳払いをして合図した。
Bluetoothイヤホン越しに聞こえた咳払いを聞いた後輩が一度電話を切り、再び俺に電話をかける。
携帯の画面を突如として映し出される《部長》の文字。俺はわざとらしく
「げぇっ!?」と声をあげてボーイにジェスチャーですまんと謝り店を出た。
後輩の連絡先を《部長》として登録し、普通の会社員を演じる。
なぜこんなまどろっこしい事をしているかと言うと、風俗という業界は警戒心が強いのだ。
特に、ストーカー被害が多い。
女の子に対し、遊びと本気の境界線がわからなくなった痛客がスートカーとなる事は珍しくも無い。
そして何よりここは上下全てが風俗店の入ったビル。コレら全てが仮に系列店だった場合、無線1発で警戒に入られる。
そうすると、パネルを隠されたり、「今日は予約でいっぱいです」と門前払いを受けてしまう。
潜入打ち切りだ。
だからこちらとしても、人を探しに来たわけじゃ無いとアピールをしなくてはいけないのだ。
こんな感じの手法で4階、3階へと当たり、
2階の店に入る。
さっきと同じ様にサイトを見せながらボーイに聞く。
「この子はパネル無いの?」
ボーイが持ってきたパネルを見てピンときた。
加工はしてるが、対象者だ。
お決まりの流れで店を後にした俺は下で待っている後輩のもとへ行く。
「ビンゴだな。2階のいやらしいエステ店だ。」
あちゃ〜と言うセリフが似合いそうなリアクションをした後輩をよそに、張り込みのしやすそうな場所を探し出す。
「とりあえず出てきた所の面だけ撮ってその後また考えよう。」
ビルが街の角に面しているため撮影はそれなりに容易である。
後輩にもカメラを持たせ、俺は道を挟んだ向かいにある中華料理店のゴミ捨て場のブロックの影へ移動した。
この後いったい何時間ここで張り込むのだろう。
そう思いながらも、先日の失踪事件がまた頭を過ぎる。
やはり、例の依頼者は俺が見つけてあげたかったなと。事情を知っている俺なら、何か現場で手掛かりを見つけられたのでは無いかと。
(いかんいかん。今は目の前の依頼に集中せねば。)そう自分に喝を入れ、再び現実に意識を戻した。
後輩の方に目をやると、なんとも言えない表情をしている。
(まぁ、そりゃそうか。助けてくれと頼ってきた自分の後輩にこの後さらに追い討ちをかける様な状況だ。アイツなりにどう伝えるのか悩んでいるのだろう。)
少し声をかけて気を楽にさせてやるのも先輩の務めだ。イヤホンは繋がっている。
「マッシュには俺から伝えるよ。お前はとにかく仕事に集中してくれ。嫌な役は俺が買う。」
そう伝えると
「あぁ。そうしてくれるとありがたい。」
いつもより少し弱気な声が返ってくる。
(結構応えてるなぁ…。)と思ったのも束の間
「悪い。トイレ行きたい。」
コイツの神妙なツラは、マッシュよりも自分の膀胱の心配だった様だ。
「んだよ馬鹿野郎!さっさと行ってこい!」
肩透かしを喰らった俺はぶっきらぼうに言った。
目の前のコンビニに駆け足で向かう後輩の後ろ姿を見て、普段指示を出す時より機敏な動きをしている事に余計に腹が立った。
2時間ほど張り込んだ時だ。
対象者の彼女がとうとう店から出てきた。周りを気にしている。
(風俗にしてはやたら短い出勤だな。用事でもあるのか?それに、何か警戒している様だり)
少し違和感を覚えながらも映像に収めた事にとりあえず安堵し今日は一度帰ろうと、カメラをしまい歩き出したところで後ろから声をかけられる。
「おい。」
(ん?俺か?)そう思いながら振り返った瞬間に目の前に火花が散る!顔を叩く痛みの中、自分が倒れる事を察知した!
が!
かなり強烈な衝撃が疾るとともに意識が遠退いていくのが分かる。
気絶と現実の狭間の中で微かに聞こえた後輩の声がなんて言ったのか、記憶を取り戻した時の俺はもう覚えていなかった。
「あ、こんちゃーす。」




