第三話 すまない…。
変な夢のおかげで、全く眠れずにいた。
とりあえず、布団から立ち上がり、事務部屋へ行き、タバコを吹かしてパソコンを開く。
ここ数日は依頼も来てないので、そろそろ何か一つ仕事でも取らないと、また金欠探偵に逆戻りだ。
探偵の依頼は基本的には高額になる。
特に俺みたいな奴は正直言うと少し吹っかけてしまう。1人で開業し、経営ノウハウも何もないので仕事一つ逃すと飯も食えない。今ある仕事が終わったら、この先依頼が途絶える可能性もある。
ソレを分かっていながら酒は飲む。タバコは吸う。
広告も疎かにするわでとんでもない探偵だ。
不良探偵と言われるのも納得である。
パソコンの前に座ったは良いものの、
特にやる事も無く、すぐにパソコンは閉じた。
まだ朝の6時だ。こんな朝っぱらから、携帯なんて鳴るはずも無い。起きているだけ無駄だな。
そうは言うものの変な夢のせいで眠れない。
ふと、携帯の履歴のやり取りを見てみる。
俺は金が入ると依頼を断る癖があるので、過去、俺を訪ねてきた依頼人とのやりとりで不発に終わった依頼人に連絡を入れてみたりする。
「ご無沙汰しております。その後はいかがお過ごしでしょうか。無事に問題解決した事を切に願っております。また、ご相談があればいつでもご連絡ください。」
こんな感じでメッセージを送ると、30件に1件ほど再依頼が来ることがあるのだ。
名付けて
《引いてダメなら押してみる作戦》だ
数件メッセージを送った後にふと、例の依頼人の名前が目に止まる。
過去のやりとりに目を通す。
とてもじゃないが失踪するような前兆は見られない。
無性に気になって、依頼人のSNSを探そうとした時、知らない番号から連絡が来た。
びっくりして、携帯を投げ出したが、すぐにヤバい!と思いなんとかキャッチする。
「ったく!こんな朝っぱらから誰だ!」
とりあえず、知らない番号はいったん出ずネットで番号を検索して、詐欺電話や変な営業、勧誘の電話じゃ無い事を調べてからシャワーを浴びる事にした。まだ朝も早い。あと2時間ぐらい後ででも良いだろうと。
朝に浴びるシャワーは好きだ。
スッキリ感が夜と比べて比じゃないほど違う。
身体がじわじわと起きてくる感じがする。
水道代とガス代が勿体無いのでシャンプーだけして、すぐに上がる事にする。
その頃にはすっかり着信の事など忘れて、
今日のガールズバーの女の子の出勤情報を検索していた。
「あら、今日はFカップちゃんお休みかよ〜。」
少し残念な気持ちになり肩を落としながら、パンツも履かずに朝食のパンをトースターに入れた。
寝室の散らかり様を見てそろそろ片付けないとなぁとか思いながらまぁ良いかと言う気持ちが勝ち、結局、その考えもまたすぐに消えていくのである。
そんなこんなで、朝食のパンを齧りながら、
広告や集客の方法を考えていた。
ホームページなんて難しくて分からないし、今まではずっと紹介や、委託業務でやってきた。
個人で来る客なんて珍しく、例の依頼人以前はもう半年も前である。
「あ。そういえば電話かかってきてたな。」
やっとのことで思い出し、気付けばアレから3時間が経っていた。
考え事をそんなにしていたのかと思いながら電話に手を伸ばす。
「……もしもし。」
電話越しに聞こえた声は、若めの女の人だった。
(ん?ガールズバーの子か?いや、依頼したいただの一般人か?)
「あ、お電話あったので掛け直したんですが…。」
少しだけ間をおいて、再び女性が話し出す。
「探偵さん…ですか?」
分かっててかけてきたんじゃないのか?と思いつつ返事をする。
「はい。そうですが…。ご依頼の相談でしょうか?」
「あの、例の事件で、少し相談が…。」
(例の事件?失踪の事か?いや、コイツが何者か分からない以上あんまり下手に話さない方が良いな。面倒くさいし。)俺にしては良く回る頭の回転だと感心しながら、とぼける事にした。
「例の事件?なんの話してます?事件なら警察に相談する事をお勧めしますよ。」
少し突っぱねるような言い方をしてあしらい電話を切る事にした。
「あのっ!失踪のっ」そこまで聞いて俺は電話を切った。
探偵に事件の相談して何になるってんだか。
全く。最近は名探偵気取りのバカが多くて困るなとテレビをつける。
ニュース番組なんて普段全く見ない俺は
児童向けの朝の番組(ゲームとかアニメとか雑誌?)の《朝スタ?おはなんちゃら?だっけ?》を見ながらコーヒーを淹れる。
ふとテレビの上部に速報が入る。
《失踪の妻とその夫 遺体で発見》
バクンッ!
一瞬だけ心臓が跳ね上がる。
「あ、いや、まさかな。」
少しだけ震える手でチャンネルを切り替える。
テレビに映る見知った顔。
テロップに淡々と写し出される事件の概要。
俺はコーヒーを机に置き
テレビ画面にすがるように捕まり
震える声で絞り出した。
「すまない…。」
霊感なんて信じちゃいない。
でも、もしかしたら、万が一があるのなら
彼女からの最後のメッセージだったかもしれないと
テレビに映る依頼人に決して届かない謝罪をした。
ここ数日。毎日の様に起きた目紛しい出来事は、非現実と現実の狭間を往来していた。




