第三十話 ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ
先輩は、藤沢康介の監禁を解いた。
しかし、まだ自由では無い。軟禁状態だ。
事務所の中は許可があれば動けるが、外出は先輩と一緒だ。
「とりあえず、お前、銃取ってこいよ。」
先輩は俺に言った。
「えぇ!?マジすか?俺ぇ?」
「今、手ぇ空いてんのお前しか居ねぇだろ。行け。」
と言うことで、俺は今車の中だ。
「クッソォ。あのゴリラ。あんな危ねぇモン持って俺が捕まったらどうしてくれんだ!」
俺はダッシュボードに踵落としをした。
「まぁ、それだけ愚痴が出るって事は、危機的状況は脱したって事だな。」
後輩もいつもの調子を取り戻している。
「…はぁ〜。まぁとりあえず今の所はな。」
俺はタバコに火をつけた。
何だか久しぶりに吸った気がする。
1つ懸念点がある。
まだ五島と言う男がどんな男なのかが分からないのだ。
役者はほぼ出揃ったが、当の五島本人が見当たらない。
(まぁ、名前だけ出てきたチンピラだろ。加藤の舎弟とかそんなところか。)
階段を登り、202号室の前へ。鍵を開け玄関に入る。まっすぐ歩き、扉を開けて、仕事部屋へ。
引き出しからブツを取り出す。
「人使い荒いよなぁ。ホント。」引き出しを開けて新聞紙に包まれた銃を取り出し、上着にくるんでコソコソと車に戻った。エンジンをかけてギアを入れた瞬間に、辺りが暗くなる。
「何だ?でっけえ雲か?」
その瞬間にフロントガラスが真っ黒になり割れた!
「どわぁ!」
俺たちはすぐに車から飛び出した。
「な、何だ!?」
車のフロントに大男が突っ込んできた。
「お、おい、あんた大丈夫か!?」
俺は遠くから声を掛けた。
男はのっそりと立ち上がる。
フロントガラスの破片が男からパラパラと落ちてくる。
「お前ら…202から出てきたな。誰だ?」
2メートルに届きそうな程の大男は俺たちを見下ろしながら聞いてきた。
(デケェ〜!)
「穏やかでは無さそうだな…お前こそ誰だ?」
俺は距離を取りながら聞く。
「五島悟ってんだ。で?誰だよお前ら。」
直後に緊張が走る。
五島を名乗る男は会話をしてはいるものの、すでに臨戦体制だ。
(くそったれが!早えんだよ!フラグ回収がよ!)
先ほどまで気にしていた本人がまさかの目の前に現れた。かなり体格が良く、先輩よりもデカい。
「だ、誰だったら嬉しい?」
俺は周囲を確認しながら、自分に有利な立地を探し聞いた。
「あー。そうだな。加藤の所の組の人間か、俺たちを嗅ぎ回ってる探偵がいるらしいからそうだと嬉しいな。ぶっ殺してやろうと思ってたからよぉ。」
(あ、大正解です。)
「あ、大正解です。」
途端に(あっ!)と言う顔をして、口を押さえたが、ちゃんと聞かれてしまった。
「ダハハハ!お前面白えな!どうやって死にてえ?選べねえけどなぁ!」
そう言って前蹴りを繰り出してきた五島の脚はぐんぐんと伸びて俺に命中した!
(リーチ長すぎんだろ!!)
ドガシャーン!!
俺は後方にあった自転車置き場にぶっ飛ばされた。
「ぐおっ!」
(コイツはやべえ!)
脳裏に出てきたイメージはまるで先輩だった。
すぐさま後輩は五島の死角から膝裏を蹴る。
膝カックンの様な攻撃を喰らい、片膝を付いた瞬間に顔面に向かってハイキックを当てた!
「ブフッ」
そう言って五島は仰け反ったが、無理矢理上体を起こしてきた。
「お前は少し手こずりそうだな。」
そう言って体制を瞬時に整えて、後輩へタックルをする。
「速っ!?」
後輩は腰を前からしっかりとホールドされたが、
すかさずフロントチョークを取る。
「ダハッ!経験者か!テメェ!」
そう言って笑いながら五島は俺の車に自分ごとぶつかりに行った!
バコン!
凄い勢いでぶつかったので、挟まれた後輩の手が緩んだ。車には大きな凹みができていて、破壊力の大きさを物語る。
「あー!テメェ!またやりやがったな!」
フロントガラスを割られ、おまけにデカいクレーターまで作られて俺はキレた。
後輩に向かって馬乗りになる五島に向かって走り出し、子供用の自転車を脳天に叩きつけた!
「やべ。やっちゃったか?」
そう呟いた瞬間に、鳩尾に肘鉄を喰らい倒れ込んだ!
(がっ!い、息がッ!!)
五島は俺の胸ぐらとベルトを掴み車に叩きつけた!
ドカン!
今度はボンネットが凹む。
背中を強打し激痛で悶絶する。息もまだ吸えていない。
続け様に俺をもう一度持ち上げ、立ち上がった後輩に向かってぶん投げた。
俺と後輩は駐車場の敷地にある花壇へぶっ飛ばされる。
「ガハっ!」「グエっ!」
花壇には膝上ぐらいの植木があり、俺たち2人はその中に消えた。
俺は、ようやく息が整ってきたので、怒り任せに立ち上がる。
「くそやろぉ…。テメェはシュワちゃんの隠し子か何かか?」
「ゴリラとシュワちゃんのハーフだろ。」
後輩も立ち上がる。
そうしているうちに五島は車の中から新聞紙に包まれた銃を取り出した。
「コレは俺たちのもんだから返してもらうぞ。」
そう言って銃の包装を解き、ズボンと腹の間にしまう。
「組の銃盗んで逃げた野郎共がいったい何をほざきやがる。お前の事育てたゴリラの母ちゃんに伝えとけ!人間社会では盗む事はいけない事ウホってなぁ!」
俺は変顔をしながら挑発した。
「お前、ムカつくな。」
五島はこちらに向かってダッシュしてきた。
こっちだって愛車をボコボコにされてムカついている。
「悟なんて、上品な名前つけたゴリラを恨みやがれ!」
そうして、俺はさっき拾った短めの鉄パイプでカウンターを狙う。
五島は空中に飛び上がり俺たち2人目掛けてドロップキックを放った。
見事に被弾し、壁に叩きつけられて、俺はダウンした。
後輩は、すぐに立ち上がり蟹バサミを仕掛けて体制を崩す。
バランスを崩した所で、
地面に手を付き、脚を振り上げカポエラの様な動きで蹴った。
被弾はしたものの、五島はかなりタフで、倒れず。
むしろ楽しんでいる様子だ。
「ダハハハ!お前器用だなあ!」
五島が仕掛けようとした所で、サイレンの音が鳴る。
「チッ。…もったいねえ。」
その瞬間に油断した後輩の鳩尾に横蹴りをぶち込み後輩をぶっ飛ばした。
「グハッ!」
後輩は俺の近くまで転がってきた。
「お前ら結構面白い奴らだからもう少し遊んでたいが、警察がくるとちょいと分が悪いんでな。」
そう言って五島は去っていく。
数秒後に、白いフェアレディZが道を横切る。運転しているのは五島だ。
「絶対、泣かしてやる……。」
俺はそうして気を失った。
昼間から乱闘騒ぎを起こし、パトカーが5台。
救急車も来て、俺たちは病院に運ばれることになった。
収まりかけた事件は、再び五島の登場により火がついた。
事態はより混沌とし、いつまで経っても平和が訪れそうにない。




