第二十九話 着地地点
「俺は最初から持っていたのか……。」
唖然とした顔でパソコンを見ている。
画面の中には、加藤と云う偽物の免許証に写る顔と同じ顔が映っていた。
加藤と、藤沢和人という人物を別人で考えていたが、違ったのだ。
藤沢和人=加藤
だったのだ。
闇探偵の中谷圭吾=藤沢康介。
その息子が藤沢和人=加藤。
「加藤はアイツの息子だ。」
聞き込みで聞いたグレた息子、見た目の悪そうな息子。なるほど。半グレに落ちた息子ならば納得がいく。
藤沢が加藤について喋らない事も、加藤の名前にだけ、少し反応していた事も。
最後に会った時の「加藤は見つかりましましたか?」の意味も変わってくる。
問題は、この情報を先輩に渡して良いものかどうかだ。
あの人が何を欲しがっているのかがいまだに分からないのだ。
あの人は情報を引き出せと言ったが、何の情報かを俺達に伝えてない。
そして、タイムリミットをつけた事で、精神的に俺達を追い詰めて、俺達が逐一報告する様に仕向け、その情報の中から有益な情報だけを取るつもりだ。きっと俺達は今、
ババ抜きの最終局面の様な状態なのだろう。
先輩のカードが分からない。
何を待っているのか。俺達はどこまで握ってしまったのか。
(藤沢に先に会うか。先輩に会うか。)
この選択はかなり重要になってくる。
俺は後輩と一緒に名古屋に向かう。
どちらにしろ、藤沢と先輩。2人には会わなければならない。
「……どうなるかなぁ…。」
「さぁな…。」
後輩には全て話した。
まだ、確認をしていないが、推理の段階である事を承知の上で。
事務所に着く。
扉を開けて中に入ると先輩はソファに座って待っていた。
「5分前行動じゃねぇか。優秀だな。」
時刻は20時55分。
「お疲れ様です。一応、電話で話した通りなんですが、まだ、確認しないと分からない事もあります。」
俺は、先輩と後輩。藤沢の4人で立ち会う事にした。多分だが、俺らの前で藤沢が用無しになったからといって、始末する事は無いだろう。
多分。
地下へ降りて扉の鍵を開けた。
藤沢は、横になっていた。
こちらに気付き顔を向ける。
「どうも。」
そう言って起き上がり座った。
「今日は何だか様子が違いますね。僕は殺されるのでしょうか?」
藤沢は覚悟を決めた様な顔をしている。
「いや、正直分からない。先輩次第だろう。」
そう言う俺の後ろで先輩は腕を組み仁王立ちしていた。圧が凄い。
俺と藤沢の会話が始まった。
今回は先輩は、手を出さないと言う約束だ。
「まずは、中谷圭吾。本名は藤沢康介。小牧市の市営住宅に住んでいるな?部屋は202号室。」
そう伝えると、明らかに目の色が変わった。
「な、何を突然…。」
「俺たちも忘れていたから、正直この言葉は俺にも刺さるんだが、車の事を忘れていたな。爪が甘かった。」
「………。」
(しまった。)と言う様な感じで藤沢は下を向いた。
「申し訳ないが、部屋にお邪魔させて貰ったよ。」
そうして、俺は目の前に藤沢の家から持ち出した物を並べた。
「不法侵入ですよ。」
苦し紛れに言った。
「不服なら、ここを生きて出られた後に俺を訴えろ。」
俺は続けた。
「まずはこの写真について聞きたい。あんた、子供は居ないと言ったが嘘だな?」
俺は小出しに話をまとめながら詰めていく。
写真の男の子はよく見ると泣き黒子がある。
そして、加藤の偽の免許証を出した。
「!」
藤沢は明らかに動揺している。
「加藤の免許証だ。泣き黒子の位置がこの写真の子と一緒だ。面影もある。」
黙秘を続ける藤沢に俺は容赦なく続けた。
「藤沢康介の息子は(加藤)の名前で行動している。藤沢和人だ。」
すると後ろで仁王立ちしていた先輩の空気が変わった。
「なにぃ?」
先輩は動いたが、すぐに俺が制した。
「先輩。約束守ってください。カタギとの約束反故にできるほど廃っちゃいないはずだ。」
先輩は一瞬だけぐわっと顔に皺を寄せたが、焦る必要が無かったのだろう。俺に拳骨を喰らわせて元の位置に戻った。
「イッテェ〜。すぐ人殴るのやめて下さいよ。」
「続けろ。」
俺の意見を無視して、先輩は顎で促す。
「…ったくもう〜。わかりましたよ。」
視線を藤沢に戻して、座り直す。
「コレであんたが加藤の居場所を吐かない理由は分かった。それと、引き出しの中と本棚の裏を確認させて貰った。」
そこまで言うと藤沢は観念した様に頭を地面につけた。
「…言います。全て。だから約束して欲しいです。息子を……息子を、殺さないでください。」
そう両手を後ろに縛られたまま土下座する藤沢を見て先輩の方へ顔を向ける。
先輩は、暗くて顔が見えないが、額に青筋を立てて腕を組んでいる。
(怖ぇぇ〜。)
腕組みを解き、俺と藤沢の近くに座った。
そして、扉の方を見て、後輩に向かって言う。
「扉閉めてくれ。」
後輩は扉を閉めた。コレでこちらの声と音は外に漏れる事は無くなった。
(何を考えてるんだ?殺されるか?)
先輩はしばらく黙っていたが、深呼吸の様な溜め息を吐いて静かに話し始めた。
「お前ら、誰にも言うなよ。言ったら殺すからな?」
脅しじゃ無い。宣言に近い言葉を聞いて、俺たち3人は頷いた。
「加藤が和人だと言う事は分かっていた。アイツは元々、俺が組をかまえる前に居た親父の組の人間だ。」
(そんな気はしていたが、やっぱりか。)
先輩は続ける。
「アイツは俺が組を持つ事になった時にやっていたシノギを盗んで逃げた。俺に狙われるのがよっぽど怖かったのか、親父の組の銃を護身用にな。」
「あ、なるほど。机の引き出しにあった銃はそれか。」
俺は先輩に写真を見せた。
「お前、何で持ってこなかったんだよ。」
「持ってこれる訳無いでしょうに!こんな危ねぇモン!」
「根性なしが!…まぁいい、それでアイツが持っていったシノギってのが土地の権利書だ。コイツは市が絡むそこそこデカいシノギだな。」
そうして、先輩は俺が持ってきた権利書を手に取ってパタパタと振った。
「なるほど。藤沢は行政書士だ。この権利書の名義変更はできるかもな。それで先輩は藤沢和人を探していたんですね。」
「そうだ。親父からも探せと言われている。親父は組織の直系にあたる二次団体だ。このままだと面子が立たねぇ。」
(あー。コレは殺すなと言う方が難しい問題になるな。)
直系の意味は割愛するが、分かりやすく言うと、組織のトップに君臨する組長と直接盃を交わした者と言っておこう。
「和人はこの土地の権利書を、言わば土地の立地を利用して密輸事業に手を出した。ここ最近若い奴らの間で薬物や何やらが流行っている理由だ。」
「なら、もう手遅れじゃ無いですか?」
「……。そうでもねぇと言っておいてやる。」
俺と藤沢は先輩の話に前のめりになる。
(?。どう言う事だ?)
「コレを知っているのは俺だけだ。」
ここで扉を閉めさせた理由が分かる。
「アイツは俺の初めての舎弟だ。情がないと言えば、嘘になる。無事に済ますつもりはねぇができれば殺したくねぇ。
事が今のうちに収まれば、親子揃って海外に逃してやる。だがこれ以上は見過ごせねぇ。親父がこの権利書を使ってシノギをしている事を知ればもう俺にも助けられん。親父は銃を取られただけだと思っているからな。土地の話はまだ知らん。」
(先輩にも、人間らしい意外な一面もあるんだな。)
少しだけ希望が見えた。
決して丸くは収まらないが、歪なりに形は綺麗とは言い難いが収まりそうだ。
「ふぅ〜。」
俺は大の字に倒れた。
「良くはねぇけど、命取られる訳じゃ無いって聞いて安心しました。」
長らく緊張していたものが解放された所為なのか、
俺は屁をこいてしまい、先輩に脇腹を蹴られることとなった。
痛みがあるのは生きてる証拠だと心から実感できたそんな時間になった。




