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黒い光に照らされて。  作者: ユウソン


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第二十八話 深層

事務所に入り、舎弟の人に挨拶をする。

「おはようございます。兄貴は今日はまだ来ていません。」

舎弟の人は深々と頭を下げて、俺たちに挨拶をした。

ここでの今の立ち位置は先輩の客人扱いである。

「あ、おはようございます。分かりました。ありがとうございます。」

俺もちゃんと頭を下げて挨拶した。

「地下、失礼しますね。」

そう一応断りを入れてから階段を降りる。

地下の扉に付いた窓口を除く。

男は退屈そうに横たわっていて、手には包帯が巻かれていた。

扉を開けて中に入る。

「治療してもらったのか。良かったな。」

皮肉じゃなく本心だ。今の所ちゃんと人質としての価値がある事にホッとした。

「貴方ですか。」

藤沢は俺をみて答えた。

誰とも話していないのか、藤沢は、少し饒舌だった。

「なんだか久しぶりな感じがしますね。どうですか?何か分かったことはありますか?」


(コイツ…会話に飢えているな。)


この症状はなかなか良い兆候だ。

警察などが取り調べで取る手法の内でもあると聞いた事がある。

留置所に入った人間はやる事がなくて暇だという。

時間はあるが、やる事がない。人と話す事が禁止されているので、取り調べ以外では滅多に話さない。

そうすると、取り調べの時に饒舌になり、自白しやすくなると言う。

藤沢は、今、これに近い状態にある。カマがかけれそうだ。

「正直さっぱりだ。」

そう言って藤沢の前に座った。

「仮説しか立たないな。聞いてみるか?」


「ぜひ。」藤沢は少し楽しそうだ。


「俺の仮説は、お前が知っているのは奴らの居場所だ。おそらく足取りが掴めない事から、拠点を転々としているのだろう。ここまでは良い。だが、問題はそれ以前にある。俺たちは加藤の顔も、五島の顔も知らない事だ。顔と居場所が分からず、その上、人に悟られないようにしているのなら尚更だな。」


「うーん。少し正解ですね。」

藤沢は楽しそうだ。


「少しか。ぶっちゃけあんたの方がだいぶやり手だよ。追い詰めたと思ったが、結局アレから何も進展しない。」

俺は両手をあげて降参だと言うジェスチャーをした。そして続ける。


「少し疲れた。世間話でもしよう。好きな食べ物あるか?」俺は富士山をスコップで解体するほど地道に攻めるようにした。

「好きな食べ物ですか?そうだなぁ。蕎麦ですかね。」


「ほー。意外だな。(中谷)さんはもっとガッツリ食う人かと思ったよ。脚も速いし、昔運動してたでしょ?」


「元々はサッカー部でしたから。今でも趣味でやるんですよ。」


「ほえー。良いなぁ。やるって、趣味仲間とか?」


「草チームですが入ってるので。」


「さすがだな。ポジションは?」


「フォアードですね。」


「凄いな。通りで速いわけだ。俺は将来子供が出来たらサッカーさせようかなと考えた時期はあるな。」


「独身なんですね。」


「中谷さん俺の事尾けてたから知ってるでしょ笑

逆に結婚はしてるの?」


「離婚してます。」


「おっと失礼。」


「良いんですよ。」


「子供は居るの?」


「いいえ、子供は居ません。」


「そうか。まぁこんな仕事をしてるからな。作る気もやらないよな。」

(子供の存在を隠した?自分の子供を危険に晒したくないという親心か。居ると聞いたらそこに当たられるのは当然だからな。)


「実は私、副業してるんですが、そっちの方も忙しくてね。それで作る暇が無かったと言うところですか。」


「そうだったのか。それは驚きだな。何の仕事してるんだ?あ、いや言えないか。」


「行政書士ですね。」


「良いのか?言っちゃって?それに士業だと?頭良いんだな。」

(なかなか応えてるな。ペラペラ言葉が出てくる。)

携帯のアラームが鳴った。

「おっと悪い。時間だ。また来るよ。」

そうして立ち上がり、後輩と一緒に部屋を出る。


「加藤は見つかりましたか?」


俺は食いつきそうになったのを制して部屋を出た。

鍵を掛けて階段を登る。扉を開ける。

先輩はまだ来ていないようだ。

(さて、まだ先輩の来てないウチにさっさと出よう。)

「失礼しました。また来ます。」

そう言って事務所を出た。


「アイツ、最後引き止めようとしてきたな?」

俺はそう言って周りを確認し、タバコに火をつけた。

最近は歩きタバコにうるさいボランティアみたいな奴らが居るのだ。車まで2分程だ、多めに見て欲しい。


「加藤の名前までチラつかせてきたな。」

後輩はポケットからフリ○クを出して口に入れる。


「もう2日ほど放置しようか。口を緩めよう。」


「2日で良いのか?ギリギリまで置いてみたらどうなんだ?コッチにはそれなりにカードはあるじゃないか。」


「決定打が無いな。それと正直言って時間はかけたく無い。アイツの寿命も先輩が握っている。もう一つは、あそこの部屋時計が無いんだ。」


「時計?それがどうかしたか?」

後輩は眉毛をくいっとあげながら首を傾げて聞いてきた。


「時間の感覚が無く、娯楽もない。きっと地獄の様な退屈を味わっているに違いない。2日分の放置は倍以上の感覚だろう。」

そうして車に乗り込み、俺達は一度帰宅する事にした。


事務所兼アパートに帰り、机の上に資料を並べて考える。

(さて。何から考えようか。アイツの持ち物と、部屋で見つかったもの。ここから辿る道はあるか?)


ビデオカメラ。着替えの服。車検証。携帯。車の鍵。家の鍵。免許証(偽物。本物。加藤の。)

土地の権利書。藤沢の家族写真。銃の写真。

聞き込みのメモ。顧客リストのファイル。


(手札は多いんだがなぁ…。)

俺はとりあえずビデオの中身を見る事にした。


数件の録画がある。

最初の動画を再生する。


夜の街で、ガラの悪い集団がたむろしていた。

(ラブホテルの前だな。)

集団はチラチラとこちらを見ている。

(何だよコイツ。カメラバレてんじゃん笑)

鼻でフッと笑って早送りする。

すると、ホテルに入っていく男女何人かが動画の端っこに写った。

(なんか見た事あるな。何でだ?)

既視感はすぐに分かった。

ラブホテルの向かいの建物の影から俺がカメラを構えてこちらに向けていた。

「あ!最初の発端になった時のか!」

そうしてホテルから、当時俺のターゲットである男女が出ていった瞬間に俺はその後をつけてこちらに向かって歩き出す。

藤沢は何やらゴソゴソと身の回りを漁っている様だ。

「カズ。誰かカメラで撮ってるぞ。車の正面から歩いてくる。」

画面の中の藤沢がそう言うと、ガラの悪い集団の車の窓から手が出てきた。

外に立っている集団に指示を出している様だ。

そうすると集団は俺を見て何かを叫びながら俺を追いかけて行った。


「コイツ今、カズ。って言ったか?藤沢和人か?」


しかし、車の中が見えなくて分からない。


「あ、俺も動画撮ってるからそっち見れば良いじゃん。」


そうして俺は自分のカメラを取り出し、パソコンに繋ぐ。

少しだけ前進した状況に俺は期待と不安が広がるのであった。

何だか見ないといけないが、見てはいけないような。

事件の真相に近づくほどに俺の心臓に死神の鎌が近づいているような感覚になる。

俺は再生ボタンを押した。


時刻は22時29分。

後戻りする距離はとうに超えた。

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