第二十七話 手応え無し
アラームが鳴る。
俺は身体の節々がまるで油の切れた機械の様な感覚を感じながら携帯を探す。
なぜ人は、アラームを止める時に目を開けないのだろう。すぐに見つかり、この不快な音楽ともおさらばできるのに。
全く携帯が手に触れず、ようやく俺は目を開けた。
音のする方へ視線をやると携帯はアラームを響かせながらマットレスと壁の間に挟まっていた。
「ったく。」携帯を救出しアラームを止める。
時刻は9時00分。
久しぶりに自分の家で寝る事ができた。
やはり慣れた布団で寝るというのは良いものだ。
安心感が違う。
「ぐおぉお〜…」
大イビキをかくコイツさえ居なければ。
俺はアラームとタメを張るほどのうるさいイビキをかく後輩を引っ叩いて起こした。
「フガッ!…………。う〜。朝〜?」
寝ながら伸びをして後輩は起きた。
「残念ながら朝だ。」
俺は起き上がり顔を洗いにいく。
今日は昨日の土地の権利書に記載されていた住所に行く。
名義人の名前が、「藤沢和人」
と言う人物になっていた。
おそらく藤沢の息子だろう。
しかし、かなりの懸念点と言うか、行ってもどうしようもないというか…。問題があるのだ。
「ゴミ処理場か……。」
俺は濡れたままの顔でシンクの排水口を見つめつぶやいた。
とりあえず行くだけ行ってみるしかない。
気持ちを切り替え、顔を拭き準備に取り掛かる。
アイドリングの安定しないボロボロの軽自動車に2人で乗り込み発進する。
犬山城を背に国道41号線を小牧方面へ。
小牧の乗り口から、名古屋高速に乗り港区を目指す。
「ゴミ処理場に息子が居るとは限らなぇんだろ?」
後輩はまだ眠そうな顔をしながら俺に聞いた。
「まぁな。もしかしたら、見た目がいかついだけの社長とかかも知らねぇだろ?少なくとも場所も見ずに憶測で動くよりは良い。」
エンジンを唸らせながら車は走る。
ゴミ処理場は海に近く、磯の香りがした。
作業着に着替えて、業者を装う。
事務所らしき場所に入り声をかける。
「すみませぇん。」
おどおどした様な演技で声を掛けた。
受付?の女の人が対応してくれた。
「どうされましたか?」
「あの、付近で建築工事してるものなんですが、現場で出たゴミとか処分出来ないかなぁって思って聞きにきたんです。」
「あ、すみません。一般のゴミの持ち込みは受け付けていないんです。」
「あーそうなんですかぁ。うわぁ。どうしよう。」
「結構多いんですか?」
「え?あぁはい。大型のバッカン車2台分程ありまして…今日引き取りに来る業者さんが急遽来れなくなったものですから困ってて。」
「あーなるほど……。一度、上の者に聞いてみましょうか?」
口コミ通りだ。
対応が良く、飛び込みで対応してくれる場合があると書いてあった。この後、上司が出てくるはずだ。
「え!良いんですか?お願いします。」
俺の読み通り、5分ほどしてから上司らしき男が出てきた。
「はいはい。どうされましたか?」
俺は、もう一度説明した。
「あぁ〜良いですよ。それでしたら持ってきてください。」
(ほう。確かに対応が良いな。飛び込みで業者を通せるほど懐が深いとは。)
「ありがとうございます。どこに入って行けば良いですかね?」
そうして、男を外に連れ出す。
大きいゴミ処理場の中を少し案内してもらう。
なかなか大きい。広さもかなりある。
場所を教えてもらい、再び事務所まで歩く。
「いやぁ、しかし本当に助かります。きっと社長さんの深い懐がこんなに大きな会社になった秘訣なんでしょうね。」
俺はごますりから会話に入った。
「ええ、社長はとてもやり手の方ですよ。」
「だと思いますよ。今日は会社にお見えなのですか?」
「いえ、忙しい方なので会社にはなかなか…。」
「そうでしたか。しかし、ゴミ処理場は市や区の管理の範囲だと思ったんですが、そういう訳でも無いんですね?」
「ウチは委託でやらせてもらってますね。市から直々にお仕事頂いてます。」
「ほぉ!そうでしたか!なるほどなるほど。この土地もこれだけ大きいとなかなか準備や工事も大変だったでしょうね。」
「ハハ、そうですね。ウチは特に大変だったと言ってました。」
「例えば?」
「土地の権利者が市でも社長でも無いんですよ。言わば借地らしいです。ここだけの話ですよ?」
「もちろんですよ。それはそれは。大家さんがいるという感じですね?こんな事言うとまぁちょっとアレですけど、面倒くさそうですねぇ。」
「結構厄介な人みたいですよ。」
そこまで会話していたら事務所まで着いてしまった。
(もう少し引き出したかったが、まぁ良い。一旦引くか。)
そうして俺は礼を言い、頭を下げて車へ乗り込んだ。
「なんか分かったか?」
車を出しながら後輩は言う。
「正直、事実確認程度しか分からなかったが、土地の名前はやはり藤沢和人で間違い無いだろう。」
俺は作業着の上着を脱いで後ろに投げた。
「藤沢和人は、あまり良く思われていない人物と言う事が分かった。あと、事業自体に関わってはいないようだな。」
俺の推理は、藤沢和人の土地で加藤が何かをやっているのでは無いかと思ったが、どうも違いそうだ。
事務所の中の責任者の名前や、人物。ホームページの社長の顔写真や、届け出証の名前に加藤の名前や写真も無かった。
「まぁ、そもそも、加藤は加藤じゃ無いんだけどな。」
そう言って免許証を太陽に透かすと、偽装免許という事が分かる。
「1回先輩の事務所に戻ろう。藤沢と話をしてみるよ。」
先輩に今回手に入れた情報はまだ黙っておく。
あの人はきっと何かのピースを探しているはずだ。
もしも、あの人の欲しい情報を俺達が既に持っていたとしたら、藤沢は殺されるだろう。
藤沢を生かす道を残すのが目標だ。
先ほどのゴミ処理場に電話をして、さっきの話をキャンセルした。
次の手を考えながら名古屋の街へと向かう。




