第二十六話 影を掴む
「お、お邪魔しまぁ〜す。」
時刻は00時02分。
俺達は藤沢の部屋へと侵入した。
「誰に言ってんだよ。」
小声で後輩にツっこまれた。
音を立てない様に気をつけて扉を開き、中に入る。
手には手袋をし、マスクに帽子。
見てくれは完全に空き巣だ。
「はぁ…。こんな歳になってまで情け無い。お袋が見たらなんで言うか…。」
泣き言を言いながらも静かに玄関へ立つ。
まずは部屋の暗さに慣れる為、少し待機。
じわじわと目が慣れた頃に部屋の大体の景色が見えてきた。
「意外と片付いてるんだな。」
後輩は少し感心した様に呟いた。
確かに、男の一人暮らしにしては片付いている。
部屋の奥へ進み、カーテンを閉める。
全ての部屋のカーテンを閉めて、外から見られることのない様にしてから電気を付ける。
普通だ。本当に普通の部屋だ。どちらかと言うと、物が少なく、まとまっていて少し物寂しさを覚えるほどだ。
「とりあえず、手掛かりになりそうな物を探そう。何か見つかったらお互い報告だ。」
そう言って二手に別れ捜索を開始した。
捜索開始直後にまず目に付いたのは写真だ。
おそらく昔のだろう。
藤沢と女の人。少し目つきの悪い男の子と、女の人と少し面影が被る女の子だ。
(離婚した相手と子供か?息子と2人で暮らしてるって言ってたが、女の子の情報が無かったな。母親について行ったのか?)
写真は飾ってあったので、持っていくのは少々申し訳なく、携帯で写真を撮っておいた。
キッチンへ向かう。シンクは特に気になるところは無かった。シンク下の戸棚を開ける。
塩。砂糖。醤油。みりん。予備のスポンジ。漂白剤。
(ふむ。普通すぎる。こう言う奴が1番厄介なんだよなぁ…。)
突っ込み所がある人間だと、情報の露出が早いが、
特に目立たない普通の人間というのは違和感や矛盾に気づき辛い。
寝室に来た。ここにも特に違和感は無く、布団があり、そばに扇風機が置いてある。
仕事部屋に居る後輩の方へ向かった。
「どうだ?」
俺は部屋の敷居を跨ぎながら聞いた。
「いや、特にはだな。パソコンにファックス。引き出し付きの机。本棚。ぐらいか?」
「引き出しは全部開けたか?」
「いや、一つだけ鍵が掛かってるんだ。今、鍵を探してる。」
ふと閃いた。
「それ、上の段の引き出し引っこ抜いたら見れないのか?」
俺は回り込んで引き出しを見た。
鍵が掛かっているのは1番下の大きな引き出しだ。
1つ上の段を抜いてみる。
少し上に持ち上げながら引っ張る。
小さくガコッという音がして突っかかりがとれた。
「お、取れた。」
中を覗き込む。
「は?」
覗き込んだ目の前には新聞紙に包まれた謎の物体があった。
後輩の方を見て、中を見ろと顎でジェスチャーした。
顔を突っ込む後輩。
「なんだコレ?」
「分からん。が、少し触るのが怖いな。」
正直、触りたくない。
俺の勘だが。おそらく碌な物じゃない。
健全な物で、新聞紙に包まれて保管されている物など見た事無いからだ。
「とりあえず、一旦後にしよう。」
そうして、俺は本棚を物色する。
本棚のファイルを出して1つずつ確認する。
中身は、顧客リスト的な物や、市役所、区役所関系(?)の書類。名義変更。同じ人の名前がいくつか登場するまとめられたファイル。
「コイツ、探偵じゃないな。」
おそらくやつは行政書士か何かだろう。
ファイルにひと通り目を通して気付いたが、探偵に関する書類が無い。
「探偵は副業か?いや、名刺が偽名だったから、届出も出してない探偵もどきか。」
そう言ってファイルを閉じた。
さっきまで普通だと思っていた男のイメージに影が出はじめた。
パソコンを開いてみる。
ロックが掛かっており、パスワード式だ。
「一応誕生日入れてみるか…。」
ダメ元でパスワードを打つが弾かれてしまった。
「ま、そうだよな。コレは諦めよう。」
「こういう時に探偵は解読するもんじゃ無い?」
「俺を誰だと思ってるんだ。」
そう言うと、後輩はしばらく目を合わせた後に、
「確かに。」とまた手掛かり探し始めた。
それからしばらく手掛かりを探していたが見つからず、とうとう新聞紙に包まれた物体を机の上に出した。
ゴト。
「うわぁ。」
手に持って机に置く。そんな動作の中で、俺はほぼ確信した。
「銃だろ…これ…。」
「来るとこまで来たって感じだな。」
2人して机の上の物体に視線を落とす。
無言の時間がしばらく続いた。
10分程経っただろうか。
どちらにしろコレを確認しない事には始まらない。
そう思い覚悟を決め俺は新聞紙の包みを解いた。
「あっちゃぁ〜…」
予想は大当たり。
トカレフっぽいが、微妙に違う。
中国産かフィリピン産だろう。
トカレフ型マカロフ型と言われる、暴力団が良く密輸する銃だ。
「もう一度家の中を探そう。コレが出てきたって事はまだ何かありそうだ。」
そうして、先ほどよりも念入りに捜索を開始した。
冷蔵庫の中。レンジの中。換気扇のダクト裏や、エアコンの上。
あらゆる所を調べた。
そうしているうちに、ふとトイレに意識が向いた。
「まさかな。」
そうは思ったが、一応トイレに入る。
洋式の水洗トイレだ。
俺はおもむろにタンクの蓋を開ける。
「まぁ、流石にベタ過ぎるか。」
昔、何かの番組でヘソクリを隠す場所にトイレのタンクの中に隠していた主婦の話を見た事があったがどうも考え過ぎた様だ。
一応蓋の裏を確認する。
「あ?」
蓋の裏には茶封筒が貼ってあった。
封筒を剥がし中を見る。
出てきたのは免許証だ。
「あ。」
後輩の元へ行き免許証を差し出した。
「あ。」
俺と全く同じ反応をした後輩の目に映る免許証には、丸顔の少し小太りな男が写っていて、
名前の所には
「加藤秀明」の文字。
「こんな所で加藤とつながったか。」
そういいなが見る免許証の男はどこかで見た事ある様な無い様なそんな顔をしていた。
「さて、材料はもう1つぐらい欲しい所だが、どうする?」
そう言うと後輩は本棚の裏から茶封筒を取り出した。
「何だそれ?」
「ちょうどアンタが部屋に来る直前に見つけた。中身はまだ見てない。」
2人して封筒を開く。封筒は角形2号の大きな物で
中には(登記識別情報通知)の文字があった。
「土地の権利書か!」
俺たちの踏み込んだ事件は真実に近づく程大きなものになっていっている気がする。
遠くの山が視界に収まる様に。
時刻は2時44分。
一度休憩を挟んだ俺たちは人の家で偉そうに胡座をかいていた。
権利書の住所には港区の文字が書いてある。
(次は海か…)
昔と比べて、体力の回復が遅くなったと感じるそんな時間になった。




