第二十三話 名探偵
「山本はもう捕まったぞ。加藤と五島ももうじき捕まるだろう。お前が黙っている理由は何なんだ?」
俺は縛られた男にカマをかけた。
「……誰ですか、それ…。」
男は力無く答えた。
(名前に少しだけ反応したな。でも、気になるほどじゃ無い。)
尋問は難航していた。
この男は本当に吐かない。いろんな方法を試してみたが、今の所はこんな感じだ。
・持ち物
免許証。携帯。車の鍵。名刺。財布。(現金のみ)
・加藤の名前にやや反応。山本と五島は効果なし。
(コレだけかよ…。)
頭を抱える。
とりあえず、もう一回事実確認からしてみるか。
俺は免許証と名刺を手に取り、確認した。
「名前と生年月日、住所と職業を言え。」
「…何のために?」
「ただの暇つぶしだ。」
「……。」
男の名前は(中谷圭吾)
職業は探偵。生年月日は昭和49年5月8日。
「何だ、監禁されてから、誕生日迎えたのか。おめでとう。」
俺が皮肉混じりに男に伝えたが、男は反応しなかった。
「住所言え。」
口を開いた男は住所を答えたが、一部を省略した。
「お前、先輩に蹴飛ばされたの忘れたか?(番地)抜けてんぞ。」
俺をイラつかせるためなのか、フッと鼻で笑う男。
コイツは俺が暴力を振るわない事をすでに見抜いている。余裕なんだろう。
「お前、1週間後に殺されるんだぞ。分かってるのか?情報吐けば生き残れる道もあるんだ。悪い様にはしねぇ、俺が先輩との間に入ってやる。言え。何を知ってる。何を黙ってる。」
男はまた、黙秘を続けた。
「そもそも、先輩はコイツの情報の何が欲しいんだ?」
後ろで椅子に座っていた後輩が口を開く。
「分からん。以前会った時に「ハエ」が名古屋を飛び回っているって言ってたからな。それにコイツが前言った、最近できた半グレ集団ってのが当てはまるんだろう。」
おそらく、推理は正しい。だが、先輩はその半グレの情報と、この男の持っている情報の何かが一致する材料を待っているのだろう。
「はぁ〜埒があかねぇ…。」
そうして俺も別の椅子に座り込んだ。
俺は頭の中で先輩のした尋問を思い出していた。
(アレほど痛めつけられて、コロコロと情報を吐いた男だ。黙ってる理由が見当らねぇ。)
そうして免許証を上に持ち上げながらタバコに火をつけて眺めた。
ふと、昔の雑学を思いついた。
免許証の1番下桁の数字は、紛失して再発行をかけた回数らしい。
「ははっ。アンタ2回も免許証再発行したのかよ。管理がなってねぇな。」
そう言う俺の免許証を確認すると、3回になっていた。この事は隠しておこう。
「いや、無くして無いですよ。変なカマかけないでください。無駄ですから。」
「いやいや、何言ってんだ、あのなぁ、免許証って言うのはなぁ……………。」
違和感。
俺の頭が回転する音が聞こえた気がする。
(まて、何か変だ。何だ……。)
情報の処理が始まる。
(コイツはなぜ今、嘘をついた。免許証を無くすなんて、記憶にこびりつくんじゃないか?俺だって無くしたときに、車の運転や、身分証として手元にない事の焦りは覚えている。)
「再発行した事無いのか?」
「は?何を言ってるんですか?何の話ですか?」
「答えろ!お前、本当に免許証無くした事無いんだな?」
「だから無いって言ってるじゃ無いですか!何なんですか!私が喋らないからってイライラぶつけないでもらえますか?」
俺は免許証を持って部屋を出る。
階段を駆け上がり、扉を開けた。
「あ?何だお前。もう吐かせたのか?」
先輩は事務所のテレビを見ていた。
「先輩!ライト持ってないか?結構眩しいやつ!」
「お前、携帯のライトじゃダメなのか?それ。」
先輩にそう言われて、ハッとし、携帯を取り出す。
しかし、先の戦闘で携帯の画面が割れていて、操作が出来なくなっていた。
「あぁー!ちょっと先輩!アンタのせいで携帯壊れてるじゃ無いですか!!」
「証拠あんのか?」
そう凄まれて俺は咄嗟に
「あ、いえ、無いです。スンマセン。」
と情けなく謝ってしまった。
後輩が上がってきた。
「扉ぐらい閉めてけよ。」
「どうせ逃げられねぇだろ。」
そう答えて、先輩の携帯のライトを借りる。
俺は免許証の裏に当てた。
「やっぱりか。」
この免許証は偽物だ。
裏から光を当てた時に、浮き上がる模様の透かしと、チップが入っていないのだ。
「何で分かった?」
先輩が俺に聞く。
「理由は2つ。さっきアイツ免許証の紛失はした事無いって言ってたんですよ。でも、ここ見てください。下桁が2になってるでしょ?コレは紛失等の再発行した数なんです。」
先輩とその舎弟は免許証を取り出して確認した。
「俺はゼロだな。確かに無くした事は無ぇな。」
「自分は1っす。無くしたとき焦ったので覚えています。」
先輩と舎弟は雑学に対し、面白そうに答えた。
「そうなんですよ。免許証って、無くした事覚えてるんですよね。なぜか。でもコイツは2回も無くしたのに、無くしてないと言った。言動に嘘は感じられなかった。」
「もう一つの理由は?」
後輩が言った。
「アイツの住所の略し方だ。」
俺の仮説はこうだ。
免許証が偽物で、作られて間もないとしたら。
住所を覚えきれてない可能性がある。
普段からそれほど見返したりするほど用事のあるものではない。無いと困るが、ある分にはとくに表に出す機会がない。住所を覚えてなくても当然だ。
そうなると、財布の中にクレジットカードが入っていない事も理に叶う。そう説明した。
「アイツは住所を略したんじゃなくて、この部分を覚えてきれていなかったんじゃないですかね。」
その場にいた一同が、「「「おぉ〜〜!」」」と、感動して拍手をした。
「あ、どうも。」
何だか少し恥ずかしくなった。
「先輩、この住所確認してますか?」
「いや、そこまではしてねぇな。」
端的に答えて先輩は続けた。
「で、どうする?」
「まずはこの住所と、本物の住所を洗います。そして、並行してアイツの正体を明かす。」
ようやく探偵らしい行動を始めた俺は、こんな状況だと言うのに、なぜか充実した気持ちになっていた。
携帯を取り出して時間を確認しようとしたが、
壊されていた事を思い出し、少しブルーになる。
時刻は未だ不明。
明日はとりあえず携帯ショップに行く事が確定した中年不良"名"探偵である。




