第二十四話 カエル帰る
「飛島村ねぇ〜。日本一裕福な村か。」
俺は偽の免許証を見つめながら助手席で足を上げタバコを吹かしながらつぶやいた。
「そうなのか?じゃぁアイツ金持ってんのか?」
後輩は、今日も俺の運転手兼話し相手になっている。
「バカ。そういう訳じゃねえよ。企業が多い癖に人口が少ないんだ。税金の納める額が人口に対して異常なんだよ。」
「何だ。ただの皮肉かよ。」
「国のお墨付きでな。」
他にも理由はあるが、ここでは割愛する。
気になる人は個人で調べてくれ。
「マップで見る限りは、ここの住所はただの田んぼなんだよなぁ…。」
一度、偽の住所を調べてみたところ、周りが田んぼだらけの何もない所だった。
正直、手掛かりがあるとは思えない。だが、情報の一つ一つが鍵となる今は確かめるしかないのだ。
「カエルいるぞ。」
だだっ広い田んぼの真ん中で、後輩はしゃがみ込んで指を指す。
大きなため息が落胆を証明した。
「まあ、そりゃそうか〜。」
聞き込みをしようにも家がない。
何かが建てられていたような形跡も無い。
ここから見えるのは、少し離れたところにある住宅街と、同じぐらい離れたところにある大きな会社の倉庫。鉄塔。以上だ。
「さて、次の予定は?名探偵。」
煽りを入れてくる後輩に舌打ちを返して、また、頭を回す。独り言が始まり、集中に入る。
「免許証の違和感まで辿り着いたんだ。まだ何か見落としている可能性はある…。免許証。名刺。財布。……(そういえば、アイツの携帯…何故着信が無いんだ?何日も連絡が取れないと、依頼者は気になるよな。普通。)いや、尻尾も掴ませない奴らだ。きっと、こっちから連絡する一方的なものなのだろう…。となると、携帯からは辿りづらい…。(あれだけ拷問されて口を割らない男が携帯の番号を教えるとは思えない。)」
俺の独り言は何度も何度も同じ所をループし続ける。
「……。ダメだ。わかんねぇわ。」
「〈迷〉探偵だな。」
後輩はそう言いながら、空中に〈迷〉の字を書いた。
「お前も少しは考えろよ!」
俺たちは名古屋へと帰る。
結局、夜まで色々と調べたり、目に見える位置にある住宅街や、会社で聞き込みをしてみたものの、繋がりそうな情報は無かった。
名古屋のビル群を遠目に、色々と思い出す。
「俺の依頼者が失踪して、殺されてからなぁんか…色々あったなぁ…。」
「有り過ぎだよ。めちゃくちゃ体力使ったぜ。」
「ははっ。確かにな。」
本当に走り回った。文字通り走った。殴った。殴られた。飛んだ。蹴った。蹴られた。変装した。尾行した。撮影した。命の危険を感じる場面なんて、一生分経験したんじゃ無いだろうか。いや、ニ生分かな。
「生まれ変わったら鳥になりたいわ。」
「アンタは、良いとこ鶏だな。」
「せめて飛ばせてくれよ。」
いつぶりだろうか。こんな会話。
考える事が無くなったので、俺たちの口から出る言葉に棘と緊張が無くなっていた。
少し、会話を続けた後に、もう一度思い返す。
依頼者失踪。
依頼者の友人の相談。
マッシュの依頼。
オネエ社長の依頼。
闇探偵の確保。
半グレ潜入。
先輩と対立。
「あぁ、そう言えばガールズバーにまだツケ払ってねぇや笑」
「確かに。完全に忘れてたな笑」
(ん?今、なんか引っかかったな?)
俺は突如襲われた違和感に気持ち悪さを覚えた。
(何だ?払う?いや、もう少し奥にある気がする。
)
「どうした?」
突然黙り込み前屈みになり、指で眉間を押さえる俺に後輩が聞く。
が、俺はそれを右手で制して、考えた。
(どこだ?何故引っ掛かる?)
まるで、昔音楽の授業で歌った合唱曲のイントロの一音目だけ聞かされているようなそんな感覚だ。
(何だっけ?何だっけ?どことどこに繋がってるんだ?この感覚。払うと何だ?)
頭が回り出した。そんな気がする。
雲の中に手を入れて探っている感覚。突如何かが指先が触れた。
「走る。払う。走る?何故走る?何で走る?追いかけた。逃げたから。走って逃げた……逃げきれなかった。逃げ切られたらどうしてた?。」
独り言が始まった。が、終わりは直後だった。
「あっ!」
突然大声を出した俺に後輩はビクッとして少しハンドルがブレた。
「なんだよ?いきなり。ビックリしたぁ〜…」
後輩を見る。
「アイツ、車まだパーキング止まってるんじゃねぇか?先輩に捕まってずっとあそこに居るから、戻れて無いだろ!支払いされて持ってかれる前に寄るぞ!」
俺の予想だが、
探偵から連絡がない。
連絡が無くても、何かあったと把握できている可能性。
GPS。
あるとしたら車!
そこまで瞬時に頭の中に出てきたので、情報の多さから、鼻血でも噴き出すんじゃないかと思ったほどだ。顔が熱い。
「もしも、車にGPS付いてたら、車が移動してない事。連絡が無い。何かあった。捕まったか、殺された。そう考えると、証拠になりそうな車は回収したいよな。」
自分を納得させるための独り言を呟く。
「どうだろうな。そこまでするかは置いておいて、まぁ、どのみち調べる価値はありそうだな。」
後輩はそう言ってアクセルを踏んだ。
スカイボートを横切り少し走って曲がる。
パーキングに着いた。
すぐに車を確認。
「よし、まだあるぞ!」
俺は先に助手席から飛び出して、まずは車の下を見た。GPSは社外には無さそうだ。
車の中を見る。鍵はつきっぱなし。
「違和感はこれか。」
闇探偵の手荷物の少なさに気になる程でもない様な違和感を覚えていた。探偵にしてはあっさりし過ぎている。カメラも無い。盗聴器も無い。
妙な違和感の正体はこれだ。
車のドアを開ける。車内を見回す。
まずはGPSを探すが、それらしきものは無さそうだ。
後輩も合流した。
「さて、それじゃ、手掛かりの捜索と行こうか。」
あるかどうかも分からない手掛かりに何故か直感が疼く。
そんな中年のおっさんは、こう見えて探偵なのである。
時刻は20時38分
車上荒らしと間違えられないかと、少しビビるものの、通り過ぎる人々は全くこちらに興味は無さそうだ。
名古屋の夜はまだまだコレから始まる様だ。




