第十八話 薬物ダメ。ゼッタイ。
「待ってくれ!本当に俺は何も知らないんだ!!助けてくれ!!」目の前の男は身体を縛られながらも必死に土下座し、命乞いをした。
最近はタトゥーを入れている、ヤンキーかぶれの様な、不良もどきの様な奴らが多すぎる。
(偽物のチンピラばっかりだな…)
車に戻り大きなため息をつく。
「はぁ〜。幸先が良かったのは最初だけか。」
俺たちは前回同様に似た手法で強引な情報入手をしていた。
「コレで3回連続外れだな。」
流石の後輩も、3日連続で、ゴールの見えない事態に少々疲れが見える。
「とりあえず今日は帰ろう。」
そう言って、車のギアを入れた瞬間に、またすぐパーキングに戻した。
一瞬だけガクンと首を振った車と後輩。
「何だ?どうした?」
しばらく空を見つめる。
そして閃いた。
「あ、いい方法思いついた。」
そうして後輩を見て、車を降りてさっきの男の元へ走っていく。
後輩は(はぁ?)という顔をして、俺の後を歩いてついてきた。
俺が走って近づいてくる事にビビって縛られた男は必死でもがく。
「な、な、な!何ですか!?何も知らないって言ったじゃ無いですか!た、助けてくれるんじゃ無いんですか!?」
「まぁ、落ち着け。別件のアテを聞きにきたんだ。お前、売人のツテあるか?」
今度はこの男が(はぁ?)という顔をした。
ボロボロのアパートの一室は夜中だと言うのに明かりがついている。
「ほー。これがさっき言ってたやつか〜。」
俺は、携帯の画面を見ながら後輩にも見せた。
ソファでくつろぐ後輩は眠たそうな顔をこっちに向けて、ふーんと鼻を鳴らしてアイマスクを下ろした。
俺が次に目をつけたのは、薬物の売人だ。
コイツらなら、もっと確実に情報へ辿り着くルートが出来るだろう。
「しかし、最近はアプリやらネットやらで取り引きするんだなぁ。時代だねぇ…。」
そう言って携帯の画面をスクロールしたり、タップしたりしながらページを見ていた。
「グオッ」後輩がイビキをかきはじめる。
次第に俺も眠たくなってきたので、掛け布団を乱暴にソファへ投げて、寝室に向かい眠る事にした。
ここ最近の疲労のせいだろうか、
目が覚めた時には昼をまわり、夕方に差し掛かっていた。
(めちゃくちゃ寝たな。)そうして寝起きの一服。
後輩はまだ寝ているようだ。
(成長期かよ…。)軽く心の中でツッコミをいれて起こした。
一度解散して、夜にもう一度集合する事になったがもう数時間後の話なので、もう一度夜に備え寝る事にした。
辺りが暗くなった頃、俺は、本日2度目の起床をした。今日は売人と取り引きの約束をつけてあるので、また、名古屋へと向かった。
相手はオアシス21の鉄骨階段を指定してきたので、そこへ向かう。
「潜入までいけると良いな。」
「まぁ、運次第なところもあるが、上からしたら末端はいくつあっても損じゃ無いからな。穏便には、いけると思うぞ。」
薬物の世界に関してはほとんど無知に等しいので、この方法がどこまで通用するか分からない。
今回は、売人と取引した後に、売人として雇ってもらう。コレを目標とする。
オアシス21は、夜だというのに意外と人通りが多い。
取引、交渉は後輩。潜入は俺。
交渉は、Bluetoothイヤホンで俺が指示を出す事にした。
相手らしき人物が来た。
黒い帽子に、黒いマスク。茶色っぽいシャツに、ジーンズで靴は白。普通の大学生みたいな見た目だ。
手に白い封筒を持っている。おそらくあの中に、薬物が入っているのだろう。
「んじゃ、行ってくるわ」
そう言ってスタスタと対象者に向かって歩き出す後輩。
俺は少し離れたベンチから指示を出す。
こちらは、黄色い手帳を手に持つという目印を、相手に伝え、後輩に持たせた。
手帳の中には10000円が挟んである。
「ども。」
後輩が話しかけて手帳を出し、開いた。
相手も、小さく返事をし、封筒をこちらに渡す。
「お兄さんさ、人要らない?」
突然話題を振られた相手は、少し戸惑っていた。
「はい?」聞き返してきた。
「1人、金に困ってる奴いてさ、売人要らないかなって思っただけ。要らないなら別に良いんだけど。」
そう言ってその場を離れようとする後輩に対象者は声をかけた。
「聞いてみましょうか?」
(当たりを引いたかもしれない!)心の中でガッツポーズをして指示を出した。
「本当?助かるよ。スグじゃなくても良いから、良かったら電話かけて来て欲しいって伝えておいてくれ。」そうして、ブツを受け取った後輩は車に向かって歩き出す。
交渉は焦りを見せると、突然不利になる。ここは一度引くのがベストだ。
(私はどちらでも良いですけどね〜ぐらいのスタンスが良い。)
車に戻り、走り出す後輩。
俺は残り、歩き出した対象者を尾ける事にした。
(誰かに電話掛けてるか?)
対象者は、肩と耳で携帯を挟み、もう一つの携帯をポケットから取り出して画面を見ながら話していた。
(プライベート用と仕事用か?)
聞き耳を立てる。
「…が……って言われて……いや、スグ………ました……はい。いえ、そ……うには見えな…。………しました。…礼します。」
おそらく上の人間に取引と、先程のことを伝えたのだろう。
会話を察するに、怪しまれては無いような気がする。
すると対象者は、近くに路駐していた車に乗り込んだ。
俺はすかさずタクシーを捕まえる。
「どこまで?」扉を開けながら運転手が聞く。
対象者は、まだ出発していない。
「あの車について行って貰っても良いですか?」
すると、おっ!と目を輝かせた運転手。
「何?お巡りさん?探偵さん?」
何度か経験したやり取りだ。やはり、非日常的な頼みなのか、皆同じような反応をする。
「探偵です。すみません。」何故か謝り、タクシーに乗車して後を追う。
後輩には、俺のポケットに入れたGPSを追いかけてもらうように指示を出し、後で合流する事にした。
タクシーは警戒が薄いというメリットがあるが、何も無いところで相手が止まると、運転手はオロオロしたりするので、なるべくこちらで指示を出して走ってもらうようにする。
車はオアシス21を東へ走り1本目の交差点をUターン。そのまま国道19号線を走り、堀川を越え、少し走ってから左折してマンションと言うには少し低く感じる建物へ入った。
(ここは西区か?)
タクシーを降りて、料金を払い、運転手のおっさんに「頑張ってください」と何故か敬礼をされ、
俺も何故か敬礼を返した。
(何でやねん…。)関西弁のツッコミの王様が、俺の頭を横切った。
オートロック式のマンションの近くの路地に身を隠して、入り口を見張る。
(さて、ここが拠点なら、ますます潜入しないとな。)
オートロックマンションを突破するのは容易では無い。カメラもセキュリティも、普通のマンションとは、格が違うのだ。
(おまけに、このまま入ると建造物侵入罪になるからな。リスクは避けるだけ避けたいところだ。)
対象者の姿が見えた。やはりオートロックマンションに入って行く。
ここで、潜入がうまくいかなかった時用に、
また1つ頭を回さなくてはいけなくなった、35歳不良探偵。
「少しは優しくしてくれよ。神様…。」
そう言って脱力し見上げた空は、
星々が鈍く輝く春の空。
時刻は、21時27分。
後輩は道に迷って、俺はこの後30分放置プレイされたのだった。




