第十三話 3カウント!
起きてすぐに伸びをして洗面所へ向かう。
いい朝だ。
顔を洗い、鏡を見た。
なぜだか、いつもよりイキイキしている気がする。
ソファでイビキをかいている後輩を横目に歯を磨く。
(さて、いよいよだな。)
夜まで時間があるので、各々の準備は夕方までに済ます予定だ。
(コイツ、起こした方が良いのか?)
そう思って一応頭を叩く。
「フゴッ」そう言ってむくりと起き上がり大欠伸をして起きた。
「朝だぞ。」
「早えなぁ。」そう言って起き上がった後輩は、しばらくぼーっとした後に、「一回帰るわ」と言い
出て行った。
準備を終えた俺は少し暇になったので軽く散歩に出かける。
いい朝だ。それなりに人々が起きてきて近所の家から生活音が聞こえて来る。
(平和だなぁ。)
散歩を終え夜の一戦に備えて俺は、休むことにする。
気づけば寝ていて、夜になり、少し早いが名古屋に向かう事にした。
走りながら雑談をする俺たちはいつも通りすぎて、今から何をやるのか忘れそうになる。
一昨日来た名古屋の街に再び戻ってきた俺たちは、観覧車を過ぎ、少しして曲がる。
コインパーキングに車を停め、タバコを吸う。
「コレ吸ったら、そろそろ行くか。時間あるから少し寄り道しよう。」
そう言って、俺はドン・○ホーテやコンビニにより、少しだけ時間を潰す。
ほんの10分15分だけだが。
時間になったので、お互いの役目のため二手に分かれた。
俺は錦の雑居ビル群に向かい歩き出す。
時々止まったり、周りを気にしたりしながら進む。
突然小走りになりビルとビルの間の裏路地に入る。
ここは、少し奥に行くとちょっとした空き地があるのだ。
空き地に差し掛かる建物の角に身を潜めた。
足音が近づいて来る。影を確認しながらタイミングを合わせて俺は、相手の胸ぐらと袖を掴み、
払い腰、と言うよりは体落としの様な技でぶん投げた!
受け身に失敗した男はお尻から着地し、
「ゔっ!!」
と声をあげてうずくまる。
襟を正しながら男に近づき、少な目の髪の毛を掴んで引き起こす。
「よう、話すのは初めてだな。」
ビンゴだ。カメラの映像に映った男。
新城市で散歩をしていた男。
ガールズバーの帰りに俺と後輩の間をすり抜けて行ったサラリーマン風の男だ。
そして何よりもやはりコイツからする香りは何度も嗅いだ柔軟剤の香りがする。
男はしらばっくれる。
「ちょっ!ちょっと!な、何ですかいきなり!」
「惚けるなよ。残り少ない髪の毛全部ぶち抜かれてぇか!何の用があって俺を尾けてる。」
そこで後輩が合流した。
「お、捕まえてんじゃん!」
そう言って歩いてきた。
「結構アッサリだったぜ。」
後輩には時間差で空き地に来る様に指示していた。
万が一逃してしまっても出口には後輩がいるという保険だ。
再び男に目を戻す。
「俺は色んなツテがあるんだ。2年ぐらい帰れない漁船か、山一つぶち抜かねぇと帰れねぇトンネル作業員どっちがいい!」
そう凄んで男を睨むと、髪の毛をブチブチとちぎりながら男は土下座した。
「すっす、すみません!じ、自分は、た、探偵で、依頼されて貴方を尾けていました!!」
(同業?だと?)
「探偵?誰の依頼だ!」そう聞いた時俺は少し油断していた。俺の掴む手が緩んでいた事を察した男は、後輩が背後に立っていない事を土下座しながら確認していたのだ。
するりと手の内から逃れ、俺たちに着ていた上着を投げて目眩しを仕掛けた!
(しまった!)そう思いながらも上着を払い除け走り出す!後輩はすでに建物の角を曲がったところだ。
(連日気を張りすぎていて捕まえた瞬間にゴールだと勘違いしていた!後輩も俺に付きっきりだったので一緒だろう。)
裏路地を抜けて左右の確認をする!
後輩と男の後頭部を発見!すぐに追いかける!
日頃からタバコで心肺機能に負荷をかけているせいか、少し走っただけで限界がチラチラと顔を出す。
俺が掛けた保険はあと2つ。
1つは2人とも取り逃がした時に、車を停めた場所に対してインコースを取る事。
俺たちがコインパーキングに入った後に時間差で男が向かいの駐車場に入ってきたのを確認した。
逃げるなら車か、街中かだ
この状態でタクシーは捕まえられない!
インコースを走れば少なくとも距離が離されることは無い!逃したとしても、車の場所は把握済みだ!
しかしコレは予想外!
この男地味に足が速い。
「くっそ!そんな見た目で体育会系かよ!」
後輩がじわじわと距離を詰めるがいかんせん人が多い。なかなか縮まらない!
男はチラリと後ろを振り返り車とは逆の方向へ曲がった!
(ヨシ!良いところを曲がった!)
俺の最後の保険。
こっちは(掛け)というよりも、(賭け)になる。
(頼むぜ!腐れ縁!)
そう思いながらも角を曲がる!
(居た!)俺の最大の保険にして最強の切り札!
諸刃の剣!!
「先輩!!そいつ捕まえてくれ!!」
叫んだ俺の先にはあの反社の先輩が居た。
ギロリと声のする方を睨む先輩の眼光に3人とも一度脚がブレーキをかけるが、思い直して走り出す!
「先輩!そいつ!先輩の欲しい情報持ってるかも!!」そう叫ぶと先輩はジャケットを脱ぎ捨てた。内側から弾けそうなほどの凹凸。筋肉の塊がTシャツ越しに露わになった。
肩まで袖を捲り上げ、腕の節々に浮き上がった血管と7部丈ほどまで入った両腕の刺青が男を睨む。
前門の虎後門の狼となった男は大通りをチラリと見るが、人、ガードレール、タクシー、バスなど、障害が多い。後ろから見ている俺にも悩んでいるのが分かった。
そんな一瞬の判断が運命を分けた。
突進してきた先輩のラリアットをモロに受けた男は一回転して倒れたー
「よっしゃぁ!」そう叫んだのも束の間、
虫の居所が悪かったのか、先輩は男を背後からガッチリとホールドし持ち上げた!
「「げぇっ!!?」」俺と後輩は叫ぶ!
「ちょっと!先輩!?」
「それはやばいッス!!」
しかしそんな俺たちの声も届かず、
男は後頭部からコンクリートの地面にダイブした!
ドッゴォン!!!
10メートル離れている俺の耳にも聞こえた轟音。
脚に響いた振動。
「マ…マジかよ!?」
息を切らせながら現場に追いついた。
「はぁはぁ……無事か…?」
「…いやぁ……多分…死んだぜコレ…」
そう言う俺たちの目の前には
全盛期のカールゴッチを思わせる様な綺麗なブリッジが架かっていた。
(写真撮って額縁に入れ飾ろうか。)
そう思ってしまうほど綺麗なジャーマンスープレックス。
あれほど喧騒していた名古屋の街は静まり返り、
まるで時が止まったのかと錯覚するほどだった。
時刻は22時07分。気温は17度。
過ごしやすい名古屋のそんな夜に、
男は完全に白目を剥いて泡を吹いている。




