第十一話 影
高速を降り、数分ほど走ったところで車を止めて店に入った。
(この辺は、名東区か?)
住所は後で確認することにし、時間差で店内へ入る。対象者は、カウンターに座り、店員と話している。机の上には工具が置いてあった。
(こういう時はフリマアプリとか使うのが相場だと思っていたが。わざわざ店に来るなんて変わってるな。)そんな個人的な意見を浮かべながらもカメラは冷静に相手を捉える。
売却を終えた対象者は店を出て車に乗り込みまた走り出す。
証拠は取れたが、まだ何かあるかも知れないと思い尾行を開始。
車での尾行は神経を使う。出来ることなら、車がもう一台。欲を言えばバイクも一台いると好ましい。
信号や、トラック。バスにタクシー。その他乗用車は勿論だが、俺が尾行している車輌などとは思わないからだ。自分本位に走る車を躱しながら追いかけねばならない。だがしかし、そこは元暴走族。
運転技術はそこらの一般人よりはるかに高い。はず。
突然着信が入る。
運転中だった為、画面を確認せずにBluetoothで応答した。
「もしもし?」
「お〜す。後ろ後ろ」
「は?」
何事かと思いミラーで後方確認。
見慣れた車だ。
助手席にはキノコのようなシルエット。
マッシュを乗せた後輩が、俺の車の後ろに付いていた。
「おー!よく俺って分かったな!」
こっちはレンタカーだ。普通にしてたら気付かないはずなのに。
「マッシュが見つけた。さっきあそこの店居ただろ。」対象者を尾行して入った古着だとか、カードだとか色々置いてある店だ。マッシュと古着を見に来ていたらしい。
「突然で悪い!用事あるか?暇なら少し付き合ってくれ!」
こんな偶然なかなか無いので少しテンションが上がったのを覚えている。
後輩にナンバーと車の特徴を伝え、連絡を取りながら連携を取り尾行を続けた。
名古屋の中区へと入り、対象者はコインパーキングに車を停める。
俺は後輩に車を任せて先に徒歩尾行へ移る。
対象者が歩いた方角とどこの何本目の道をどちらに曲ったかを独り言のように言いながら歩いた。
そうすればその通りに歩く事で、後輩は俺を追いかけ合流することが出来る。
横断歩道で対象者が引っ掛かる。
その間に早歩きに近い小走りで後輩が俺に追いついた。
「おう。カメラ持つか?」
追いついた途端に仕事モードに切り替えた後輩が小声で問う。
「いや、とりあえず大丈夫だ。マッシュは?」
「アイツ連れてくるとバレそうだったから置いてきた。」
意外と頭回るんだなと思い少し後輩を見直した。
スカイボートという名の観覧車の前を通り過ぎ、
すぐに道路を渡り雑居ビルの密集する地区に入る。
この辺は錦だ。
飲み屋がかなり多く、人もうじゃうじゃ居る。
見失わない様に気をつけながら歩く。
対象者は集団と合流した。
5人グループの若い集団と少し楽しそうに話しながらそのまま彼らの目の前に建つビルへと入った。
後輩にカメラを渡し、
「ちょっと待っててくれ。」そう言って俺もすぐにビルに入る。
エレベーターに乗り込む集団を一度見送り、
何処の階で止まるのかチェックする。
2階で少し停まったがすぐに動き出した。
2階のテナントが入った看板を見たが、不動産会社だったので、おそらく誰かが乗り込もうとして見送ったのだろうか。
4階に停まり、しばらく数字が変化しなかった後に下へ降りてきた。
(4階はキャバクラか?)降りてきたエレベーターへ乗り込む。
一応2階も覗くか。2階のボタンを押し、少しだけ立ち寄るが、40代ぐらいの男が乗り込んできた為、(多分コイツが乗ろうとしたんだな)と解釈し、4階へ向かうことにした。
40代ぐらいの男は3階の居酒屋で降りた。
俺は4階に着き、キャバクラへと潜入した。
「いらっしゃいませ。1名様ですか?ご指名は?」
黒服にそう聞かれて、後から連れが来ると言い一度トイレを借りる。店内に入り、すぐのところにトイレがあるが、見晴らしのいい店だったので対象者とそのグループを見つけた。
(仲間同士の交流か?)
トイレに入り、このまま尾行するかどうかを考える。
(依頼自体は成功条件を達成しているな。年齢層も若い。おそらく、地元の仲間か。遊ぶ予定が出来たから、工具を売りその足で名古屋に来たというところだな。この後に何か俺にメリットのある進展がある可能性は低い。ここは引いても良いだろう。)
そう判断した俺は黒服に
「集合場所間違えたわ」と
伝えビルを出た。
「もう良いのか?」後輩が俺にカメラを返して言った。
「あぁ、条件はもう達成したからな。車も返したい。この後新城市まで戻らないといけないからな。」そう言って、後輩とコインパーキングへ戻る。
「新城から来たのか。じゃあ、また今度だな。」
「そうだな。この後は新城に行って車を返して、アパートに戻って報告書を作って、依頼人と会って終わりだな。しばらく仕事はしたく無いわ。」
そう言って肩をすくめる動作をした。
歩く道中に後ろから風が吹き、またあの匂いがした。
俺は立ち止まる。その時いくつかの映像が、俺の頭の中で映し出された。
「もしかして……。」後ろを振り返る。
喧騒の響く名古屋の街の中に少しの違和感を覚える。
「どうした?」突然立ち止まり振り返る俺に疑問を抱く後輩。
今日は妙についてる。頭も冴えている。後輩の方を見た時にはすでに作戦は出来上がっていた。
「お前、明後日から少し時間あるか?」
今日、名古屋に来たのは幸運だったかも知れない。
緊張と不安と好奇心の入り混じる、そんな夜。
このガヤガヤとした雑音は奴へのRequiemとなるだろう。頭の中でそう格好をつけた35歳、中年の不良探偵であった。




