雨垂れ石をも穿つには 3
雨と暴風の中、雷があちこちに落ちる。面倒なものだ。あたしには神がどうとかは分からないしどうだっていいが、取り敢えずこの面倒な奴らを殺せばいいということだけは分かる。
ここではそれさえ分かれば良い。
「どこでも湧いて出てくるもんだな、飽きないんだか」
飽きる飽きないの話ではない、それは知っているがあたしだったらずっとこんなことをしていたら飽きる。他のことをしたくもなるだろう。あの時からずっとこの生活を続けているが、もう既に飽きが来ている。
……アンが来たから最近はちょっと楽しいけどな。
雷はいつ見ても相も変わらず気味の悪い見た目をしている。この世界のどこにも属していないような姿だった。
「あんなに目があんのに、あいつは雷だ。目なんて一つも関係ない。訳わかんねぇ存在だよなぁ」
雷の討伐のために引っ張り出してきたハンマー。ガラスで出来ているから壊れやすそうだが、母の加護でそう簡単に壊れることはない。
……母、な。
何度も降り続ける雷を避けて距離を詰めていく。雷の落ちた場所に移動していくので遠距離攻撃ができた方がやりやすいことは百も承知である。
だが、雷に効く遠距離攻撃となると魔法くらいしかない。
「魔法は使わない。あんなのはどうせ……いや、そんなの考えてたってどうにもならんな」
どれだけ距離を詰めてもすぐに逃げようとする。ただ単純に戦いたくないのか。戦ったら散ることが分かっているからか。どちらでも構わないが。
……遠距離がいないとこいつずっと逃げ回るんだよな。
面倒な相手なことは変わりない。こういう時には魔法が必要なのだと理解はしているが、やはりアレは触れたくない。
「距離詰めて殴るか」
強く地面を蹴り、本体まで距離を詰めるがあともう少しで射程圏内というところで転移する。まるでこちらを翻弄して楽しんでいるようだ。
「チッ、こっちの体力削ろうってか?」
生憎こっちは体力を気にするほど弱くはない。一度立ち止まって雷がこちらに寄ってきたりしないかと思ったが、来るわけもない。
「めんどくせーな、いつまでも逃げてばっかりで話になんねぇ」
……雷、いちいち避けていても消耗するだけだな。
落ちてくる雷を避けるのではなく試しにハンマーで打ってみる。
「おっ、結構いけるじゃん」
神の方には飛ばなかったが、軌道を変えることはできるらしい。飛んで行った方を見ているといきなり変な動きをした。どうやら本体の方に戻って行ったらしい。
「奇妙なもんだな、あれ」
ただの雷というか、意志を持っているように見える。そんなことはどうだっていいが、攻撃の手段には使えなさそうだ。雷が飛んで行った先を見ている間に少し魔法の光が目に入る。スフィーも善戦しているらしい。
……あいつ、遠近どっちもいけるから多分あたしよりも早く終わるんだよな。
そんなことを考えていると雷がまた落ちてきた。ハンマーで弾いてその場に立ったまま相手の出方を見てみる。やはり距離を取る逃げ腰なのは変わらない。
「やっぱりこのままやってたら平行線だな、こいつ」
遠距離型が来てくれないだろうか。本来こいつは確か二人以上での討伐が勧められていたんだったか。遠距離ならまだしも、近距離で単騎は分が悪い。それでも今のところは一人でやるしかないだろう。
雷があちこちに落ちる。轟音で耳がやられる。
……一発でも入れられたら勝ちなんだけどな。
当てれば一撃の自信があるだけに手が届かないのが悔しい。すばしっこい面倒な奴だ。耳が役に立たない今はそれ以外の全てを尖らせるしかない。
「あいつに頼るのは嫌なんだよな」
遠距離が使える奴としてスフィーが頭に過ぎるが見なかったことにする。魔法は自分のために使いたくない。それが例え他人が行使するものだったとしても、何がきっかけで自分にも与えられるのか分かったものではないからだ。
「よし、いくか」
走る。雷より早く動くことが出来なくても行く方向を予測することはできる。あいつはあたしからずっと離れようとしているが、そう簡単には逃げられない。
逃げ切ろうとしてもあたしは必ず追撃をする。体力は無尽蔵ではないが、伊達にこの役目を長くやっている訳じゃない。
……そう簡単に振り切られる訳ないだろ。
相手は遠すぎるところには移動できない。あたし以外にも雷の相手はしているし、時間経過で強くなっていくとしてもたかが知れているはず。増える速さよりも減る速さの方が早いだろう。
しばらく追っているが、雷の量が減る気配がない。他がまだ手こずっているのだろうか。
……そういえば、アンのことほったらかしだな。まぁ、あいつならなんとかするだろ。
ちら、と視界の端に魔法の光が見えた気がした。スフィーか他の魔法使いか、どちらにせよ邪魔が入ってしまったらしい。
「まぁ今回は全然弱らなかったから仕方ないか……」
打たれた魔法は神に当たり、その後も次々と追撃がされる。
魔法攻撃で動きが少し止まった。それだけあれば追いつくのには十分だ。あれは一撃でも入ればすぐに沈む。
地面を蹴り、ハンマーを振り上げる。魔法で足止めされている神の頭上に思い切り振り下ろした。
持ち手から伝わってきた確かな手応えと共に、神が消えていく。
「あー疲れた。んで、さっきの魔法は誰だ?」
すとん、と音を立ててスフィーとアンが降りてくる。一緒にアンも連れ回されていたらしい。まさか魔法で飛んでいるスフィーに掴まって飛んでいたのだろうか。
……スフィーならやるな。
あたしに色々と小言を言う割にあいつも決めたら決めたで速攻でやるような奴だ。アンがスフィーと一緒に飛んでいたのもその性格のせいだろう、多分。
「ルベリア、アンのことを放ってしかも雷の性質を教えないだなんて……お前はアンの教育係だろう。危うくアンが死ぬところだったぞ」
「えっ、いや、全然大丈夫でしたよ!ちょっと……危険でしたけど」
やはりアンはアンでどうにかしていたらしい。それなら心配は要らないだろう。
……けど性質を教えなかったのは流石に不味かったか。でも教えたところでそれに応じた戦い方なんて突然できないと思うが。
と、思う心の声はしまっておく。こういうことを言うとスフィーがうるさくなるのは分かっている。あたしはまだアンがどれくらい戦えるのかは完全には分からない。知るのにも苦労するだろう。
……また今度一緒に訓練でもするか?
アンとあたしが共闘することは多分、これからもそこまで多くはないだろう。そもそもあたしは誰かと戦うのは得意じゃない。けどアンの戦い方を知っておくのも神殺しを楽にするために使えるかもしれない。
「いやスフィー、お前もあたしのこと言えないだろ。新人連れて飛ぶとか馬鹿か」
どう考えたってあたしよりも危険なことをしているだろう。たまたま肝が据わっているアンだから大丈夫だっただけで普通の奴だったら飛んだことに驚いて思わず手を離すやつもいただろうに。
「アンなら大丈夫だと思ったので。僕なんかよりもルベリアのミスの方が致命的なので、これからは気をつけてくださいよ」
死ぬ奴は死ぬし、生き残る奴は生き残る。世の中なんてそういうものだとあたしは思っているが、スフィーはそうではない。確かに相手によっては死んだら相手を強くすることもあるが、今回は違う。雷の相手を出来ずに死んだのなら、そいつはその程度だったというだけだ。
「あー、わかったわかった。今度からは気をつける。んで、まだ雷は残ってんのか?」
まだ雷が残ってるならここでペラペラ話している場合ではない。スフィーが本部からの連絡を確認する。
「いや、残りは直ぐに片付くらしい。僕たちはもう帰っていいとのことだ」
帰っていいならここに長居する必要もない。あたしはアンに話しかける。
「アン、もう帰っていいんだとよ。帰るぞ」
「え、あ、うん。というか、いつも帰るって言ってるけど、これってどうやって帰ってるの?景色とか全然変わらないけど……」
「帰ろうと思って歩いてたら帰れるんだよ。母が道を繋いでくれるんだ」
『母』ここに絶対に必要な存在。誰も姿は見た事のない者。ただのそういう仕組みとすら思ってる奴もいる。
「へぇ……母ですか。ちょっと会ってみたいな」
「会えないよ。あれには」
会えない。そう、会えない存在だ。そういう仕組みだからではない。実体がないからでもない。
「そうなの?よく分かんないな……」
アンが首を傾げながらもあたしの隣で歩く。そういえば、と思って戦い方についての話をしてみた。
「なぁ、アン。お前、今回の戦いでどう思った?」
「え?うーん、他の武器も使えるようになった方がいいのかな、とか魔法も使えるようになった方がいいのかな、とかかな」
魔法、やっぱりそこに辿り着く。雷みたいな奴を見たあとだったらどんな奴もそう思う。弓矢が効かない奴だからとあの時までは昔も魔法を使う奴が多かった。
「魔法な……あたしは詳しくないから、スフィーとかに後で聞いときな。他の戦い方だったら教えてやれるからさ」
それからは本部に着くまで、特に何も話さなかった。話すのもそこまで得意じゃなかったし、嫌ではなかった。
雷の神
発生してから放っておくと雨が降ってないのに雷が落ちたり、音だけが聞こえたり異常な量の雨が降ったりする。天候上何の問題も無いはずなのに海が荒れることもある。海の神への畏怖、信仰を誘発してどんどん事が大きくなるので早めに討伐しないといけない。




