雨垂れ石をも穿つには 2
完成した喜びで前書きも後書きも書いてないことに気づきました。ちょっと遅くなったので1の方を見てからだと分かりやすいかなと思います。
ルベリアか他の誰かが来るまで逃げ回るしか手段はないと判断して逃げ続ける。時々発砲をして相手の意識を持っていこうとするがその効果は微々たるものだった。
逃げ続けているうちに足が重くなっていく。息が上がってきた。
近くで何度も雷が落ちるせいで轟音を直に食らって耳が痛い。雷の轟音以外の音が聞こえにくくなっていそうだ。
……満身創痍だけどここで足を止めたら負ける……!
定期的に本体に向けて発砲をしているが、掠ることはあっても芯に当たらない。それに掠った程度だとすぐに回復される。
というか、一度芯に当たったときは動きを止められることもなく瞬く間に回復されていたのでダメージを与えるという点では意味が無いことは既に分かっている。
どういう仕組みなのかは知らないが、傷口に雷を纏って少しすれば傷が消えるらしい。
「雷を少しでも吸収させて消耗させられないかと思ってたけど、やっぱり受け取る側の容量が圧倒的に足りてない……!」
はなからわかっていたことだが、たかだかナイフの金属部分と銃弾ではあまりに無理がありすぎる。雷の勢いは落ちることなくむしろ大きく、速くなっているような気がする。戦いが長引いて、雨が降り続けているからだろうか。
消耗させる方針は多分間違ってはいないだろうが、容量が容量だ。そう簡単にはいかない。
「物が足りない……どうやっても私の持ち合わせじゃ無理だ、でも……」
でも、だって、私は負けられない。勝つことができないなら引き分けにさせる。それだけでも誰かを守ることができるはず。何かの時間稼ぎにくらいはなるはず。
足がもつれて上手く走れなくなってきた。誰かの助けが来るまで待つしかなかった。
「誰か……」
ひゅん、と何かが風を切る音が耳に入る。
それは私にとっての一筋の光であった。すとん、と降りてきたのは空色の衣を纏った一人の細身の男性。
「銃とナイフで単身で雷に対処するとは……。アンでしたか」
スフィーさんが落ち着き払った声で言う。私は肉体的、精神的に疲労していたというのに、酷いものだ。
「はい、本当に、もっとしっかり選ぶ武器を考えればよかったです……」
「いや、ルベリアに引きずられてきたのなら仕方ありませんよ。あいつ、説明を全くしませんから」
確かに説明は後ですると言われたが、ここに来てからもほとんど説明らしい説明はされなかったか。雷に何が効くのかすらも教えてもらわなかった気がする。そう考えると自分なりにどうにか戦っただけでも上出来なのだろうか。
とん、と杖をついてスフィーさんが私たちを覆う薄い膜を作った。
「結界です。アンはここで待っていてください。限られた武器で時間稼ぎをしてくれて助かりました」
結界から飛び出して、雷の神へと果敢に立ち向かっていく。あちこちに雷が落ちて、神はスフィーさんから積極的に距離を取ろうとする。私と違って彼の攻撃はきちんと通用するからだろう。
……魔法を使ってるからか、見た目の割にかなり動きが速い。魔法で身体を強化することもできるんだ。
彼は雷を避けつつ本体に牽制の攻撃魔法を撃っている。神もそろそろ逃げ続けるには無理があると考えたのか、距離を取ることを辞めた。
纏っていた雷が槍の形を取り、その手に収まる。スフィーさんと向かい合う形になった。
「やっと正面から僕と戦う気になりましたか」
槍は出鱈目に投げられ、スフィーさんには当たらない。いや、そもそも当てる気もなかったのだろう。そこから次々と分体のような小さな生き物が出てきた。なんというか、合成獣のような見た目をしている。
人と魚を掛け合わせたようなものや鳥と狼を掛け合わせたもの、様々だった。
なんだか悪趣味な見た目である。鳥や狼は確か、雷を象徴する生き物だったはずだ。恐らく合成獣たちの見た目はそれが関係しているのだろう。
「よく見ていてくださいね、アン」
合成獣がスフィーさんに飛びつこうとするのを杖で全て弾き、一匹一匹魔法で撃ち抜く。だがそれと同時に本体がスフィーさんに向かってきていた。配下の処理に気を取らせて襲う算段だったのだろう。
「スフィーさん!後ろ!」
私が焦って叫ぶがスフィーさんは後ろを全く振り向く気配がない。この膜に阻まれて聞こえていないのだろうか。
……あのままじゃ、殺されちゃうんじゃ!
「おっと」
危なかったですね、といとも簡単に背後にいた神を撃ち抜いた。しかも全く後ろを見ずに。だが、神は片腕を失っただけでまだ倒しきれていない。一度距離を取って回復をしようとしているのだろうか。
「回復しようったってそうは行きませんよ」
スフィーさんが追撃を行う。体の一部を失った影響なのか、攻撃の威力が弱まっている。合成獣を出すことなどもしていない。
だがまだ油断はできないだろう。他の攻撃があるかもしれない。いや、そう思っているのは初めてこの神を相手取る私だけなのかもしれないが。
……すごいな、魔法って。
魔法の腕も相当なのだろうが、それ以前に身のこなしも上等だ。さっきも襲ってきた合成獣を杖で弾き、確実に仕留めていたあたり魔法一本で戦ってきた訳でもなさそうだ。
だが、なぜそんな力を持つ魔法をルベリアは毛嫌いしているのだろうか。
「そろそろ終わらせましょう。一つにばかり構ってはいられないんですよ」
神に向かって杖を向け、拘束らしきものを放って動きを止めた。
杖の先に光が集まっていく。雷と光はあまり相性が良くなさそうだが、大丈夫なのだろうか。私は魔法の情報は全く持っていないので知らないが。
ある程度まで光が集まったところで閃光が放たれて目を瞑る。光が収まったときにはもう雷の音も辺りではしなかったし、神も消えていた。
「……ふぅ」
スフィーさんが私の方へ振り向いて結界を解く。
「スフィーさん、凄かったですね……!」
魔法を間近で見たのは初めてだった。あんな風な戦い方をするのかと驚きながらスフィーさんの瞳を見る。だがその瞳は達成感というよりはまだ他の——次のものを見据えているものだった。
「僕はルベリアの援助に行きます。あいつもこの辺りにいるでしょう。アンもついてきますか?」
「え、ルベリア?一人でなんとかできそうな気がしますけど……」
「相手が相手です。時間がかかりすぎるとあちらに被害が……。この神は本来二人以上での討伐が推奨されてるんです。なのにあいつは毎回一人でやろうとする。ごく稀にしか一人で討伐できないのに……」
そう言いながらスフィーさんは歩いていく。私もここから帰る方法も分からないのでスフィーさんの後をついて行くことにした。
「そうなんですね。まぁ、そうか……。私もついていきます。そういえばスフィーさんは一人で討伐しましたよね?やっぱり、魔法を使えるか使えないかが関わってくるんですかね」
「そうですね。雷は遠距離近距離どちらも使える相手を嫌っているみたいですし。逃げようがないから仕方なく生き残るために戦っているような感じがします」
スフィーさんがこくりと頷いて喋る。魔法はただ便利なだけでなく、相手によっては強力な有効打になり得るらしい。私が今まで見てきた創作物では大体魔法というのは属性があるものだった気がするが、ここではそれはないようだ。
「じゃあ、ルベリアだと仕留めきれないってことですか?」
「まぁ、そうなりますね。ごく稀に一人で倒してますけど。あいつの体力はどうもおかしいらしく、ずっと執拗に神を追いかけるんですよ」
スフィーさんが褒めているんだか貶しているんだかわからないような口調で言う。ルベリアの体力はどうやら常識離れしているらしい。とは言っても私はルベリアが最大限まで動いているのを見た事がないのでよくわからないが。
「そう、なんですね……これからどうするんですか?神を探すって言っても、こうふらふらしてて会えるものなんですか?」
「僕は本部と連絡をやりとりすることができますから、大まかな場所は分かるんですよ」
それならばルベリアと直接連絡を取ればいいのではないだろうか。そうすれば手間も省けるだろうに。
「ルベリアと、連絡は?」
「あいつは魔法が使えませんから。連絡を取るのにも魔法を利用しているので」
確かに、夢の神との戦いではスフィーさんに本部に連絡しろと言っていた。あのときはただ戦いの手を止めたくなかったからスフィーさんに頼んだのだと思っていたが、そういうことだったか。
「魔法、万能すぎじゃありません?」
「魔法はそういうものなんですよ。そう信じればその力が失われることはありません。……ルベリアみたいに信じない奴もいますが」
そういうもの、と言ってスフィーさんは足早に歩く。信じればその力を失わない。言葉ぶりからして神が関係していそうだ。
「もしかして、魔法って神の力、なんですか?」
「そうですよ。だってあなたの生きていた世界では魔法は信じられていなかったでしょう」
信じさえすれば存在しないものを作り出せる。人は神だって作り出せる。
「そうですけど……神ってそんなに簡単に作れるものなんですか?」
「それほど簡単ではないらしいですが、僕も詳しくは知らないです。僕がここに来たときから魔法はありましたから」
話を聞きながら歩いているうちに雷の音が近くなってきた。神がいるのだろう。
「そろそろルベリアのところに着くんですけど……あいつ、また追いかけ回してるな。こちらも追いつけるように急ぎますよ、アン、僕の手をしっかり掴んでくださいね」
「え、あ、はい!」
しっかりとスフィーさんの手を掴む。彼はそれを確認して、もう片方の手に杖を持つ。身体がふわりと宙に浮く感覚がして思わず声が出た。
「うわっ!」
「あんまり暴れないでくださいね。もっと速くなりますから」
スフィーさんが言った通りにどんどん加速していく。雷の神を追いかけ回しているルベリアが見えた。
ここから見るに、神は雷が落ちたところにワープしているらしい。いつも単騎で戦うルベリアにとっては確かにこの敵は相性が悪いのがよく分かる。
「見つかりましたね。ここから攻撃しますので、驚かないでくださいね」
「え、ちょっと……!」
それを止める暇もなく魔法が撃たれて、私は戦いに巻き込まれることとなったのだった。
雷の神は金属系の武器による攻撃では動きを止められません。打撃と魔法には弱いです。奴らは切り傷、抉られた傷は治すことができますが打撲みたいな怪我は治せません。それと魔法でできる傷はちょっと特殊なので……




