雨垂れ石をも穿つには 1
読んでくれてありがとうございます!1があるということは2があるということです。
6/14 ちょっと編集しました。ごめんなさい!!!
薄暗い部屋。ざあざあと外から音がする。窓から見えるのは真っ白なカーテンがかかったかのような景色だった。
雨だ。
「この世界でも、雨って降るんだ……」
ぽけーっとしながら窓を伝う雫を見つめる。ばしばしと雨が窓を叩く音がなんだか心地よく思い、部屋のベッドに腰を下ろす。
「ふあー、今日も特になにも無さそうだし、もうちょっと寝ようかな……」
あくびをしてベッドに倒れ込もうとしたその瞬間、ノックの音が鳴り響く。
……あれ、こんな雨の中でルベリアが来たのかな。
のっそりとベッドから立ち上がり、ドアを開ける。そこにはやはりルベリアが立っていた。大雨の中来たからかびしょ濡れだ。それになんだか急いでいるような感じだ。
「おはよう、ルベリア。こんな雨なのにどうしたの?もしかして討伐要請とか届いた?」
「当たり前だろ、この雨だぞ?アン、雨の神、というか雷だな。が出てきた。詳しい説明はあとでする。早く行くぞ」
ルベリアに手を引かれて部屋着のまま部屋を飛び出す。そのまま走り出そうとしたので慌てて止める。
「ちょ、ちょっと待ってルベリア!着替えだけ!着替えだけはさせて!」
「あー、わかった。急かして悪かったな」
「ありがと……ちょっと待ってて。できるだけ急ぐから!」
部屋に一度引っ込んで手早く着替える。髪を一つに結んでドアを開けた。開けてすぐにルベリアの声がした。
「早く行くぞ、鍵かけな。武器も取りに行くぞ。今回も結構な大仕事になると思う」
部屋に鍵をかけ、ルベリアと共に走り出す。
ルベリアはここに来たばかりの私と違って、行先が分かっているらしい。私が武器庫から出てきてすぐに「ついてこい」と言って、一つの迷いもなく突き進んでいく。私はそれを追いかけるしかなかった。
雨粒が大きくなっているのだろうか。走っていると雨が身体にばしばしと当たって痛い。風も出てきた。
どんどん悪くなっていく天気を尻目に、重そうなガラス製のハンマーを背負ったルベリアの駆ける速さは緩むことがなく、寧ろどんどん上がっていく。
というか、ガラス製のハンマーってなんだ。どうなってるんだ。持ち手は木らしきもので出来ているが、なんと言うのか、打つ部分はガラスで出来ている。
……雷の神ってそんなに即日で倒さないとまずい神なの?
落ちたのは少し遠くの方だと思われるが、雷の音が聞こえてきた。そろそろ目的地につくのではないだろうか。
息を切らしながらルベリアを追いかけていると何かの影が見えた。
「武器を構えろ。神だ。雨は放っておきな、あっちはそのうち水に帰っていく。厄介なのは雷だ。雷を叩け。そいつを潰せば万事解決ってやつだ」
雨音も貫くようなルベリアの落ち着いた声。私は指示に従ってナイフを右手に、拳銃を左手に持つ。
あれからしばらく銃とナイフを使う戦い方の訓練をしていたが、かみさまの殺し屋はある程度身体が守られているということを武器の管理者から教えてもらった。
ある程度頑丈な身体と半実体のような武器。武器が半実体で明確な重量がなくとも威力が減衰することがないのはこの前にも少しだけ言っていた『母』の力のおかげだそうだ。
肝心の『母』とは何かは教えてくれなかったが。
「行くぞ、相手は雷の神と雨の神だ。不用意に近づくなよ」
「わかった」
雨の神と雷の神。どちらも自然神の類だ。であれば一つ一つはそれほど脅威ではないはず。そして一対多数で戦うことは避けたほうがいい。
ルベリアは真っ先に突っ込んでいったが、私はその場に留まり、遠くから神の姿を見てみる。雨のせいで視界が悪い。
人影のようなものが複数見えたが、それしか見えない。大した情報は期待できないだろう。
反動が小さくなっていることによって銃の威力は落ちていないとは言われたが、雨で威力が減衰しない保証はどこにもない。この雨も神の力によるものだ。何が起こるか分からない以上油断してはいけない。
「雷の音が酷い。光がときどき見えるからあれを頼りに近づいてみようか……」
音と光のある方へ走り出す。足を進めるほど雷の音は大きくなっていく。
目の前に迸った閃光と共に鳴り響く轟音。あまりの大音声に耳鳴りがする。
思わず目を瞑り、光が収まったところでそっと目を開く。そこには一つの人影があった。
「雷、そのもの……」
思わず口から言葉が溢れ出る。人影、だがそれが纏う気配は人とは似て非なるもの。威圧感、そしてその存在理由によって雷を纏っている。
それはひと言も喋らない。それに喋る必要など、理由などないのだろう。
突然目の前に現れたが、私が攻撃の意志を持っていないと判断したのか攻撃を仕掛けてくることはない。だが、これは放っておけば厄介なことが起きるのだろう。
……神なんて放っておいたら、というか放っておかなくても碌なことがないってルベリアも言ってたし、ね。
自分には敵対する意志があるということを明確に知らせるために銃口を向ける。たちまち光がこちらに伸びてくる。
この光に物理攻撃は恐らく効かないだろう。光も電気も実体を持ったものではない。だが物は試しということで発砲をしてみる。
予想した通り銃弾は雷をすり抜け、当たることなく雨に打たれ、どこかへ落ちていった。雷に物理攻撃は効かない。
ならば、本体を叩かなければいけない。
唯一、実体を持っていそうなあの雷を纏った肉体。概形は人と言えるがその容姿は人とは言い難い。無数の眸子が私を見つめ、纏った雷は棘のように触れるものに突き刺さる。
私が本体に狙いを定めて発砲するのと同時に、ものも言わずに私のすぐ近くに雷を落とす。というよりかは私に当てるつもりで落としたのだろう。なんとかして避けたが。
弾は軌跡を描いて相手に当たったはずだが、傷跡らしきものしか見えない。まさかあの一瞬で治癒したのだろうか。だったとしたらあまりにも早すぎるし、こちらに分が悪すぎる。
異様なほどの回復速度だ。
「存在の維持が性に入ってるってこういうことね……!」
夢の神との戦いでは早いうちに戦闘不能になったせいであまりそれを感じることはなかったが、それを今十分すぎるほどに教えられる。
加えてここでの戦闘不能は夢の神との戦闘とは違って死、もしくは利敵になる。そんなことをしたら悔やんでも悔やみきれない。
だが、このままでは一方的になぶり殺しにされることは目に見えている。私は全く相手に近づけていないし、相手は自身の存在を抹消しようとする存在を残しておく理由もないだろう。
確かに私の戦闘スタイル的には離れていた方が良くはあるが、それは相手にこちらの攻撃手段が通用する前提の話だ。
今、私の攻撃は当てることが難しい上、当てたとしてもたちまち治癒されてしまう。
『おチ、ツらヌき、あタる……よろこばシや……』
防戦一方、どんどん本体らしきものから距離が離されているはずなのに耳元で囁かれるように声が聞こえてくる。
奇妙な感覚に身体が震える。雨のせいもあってか、少し寒気がする。そんな状態でも攻撃を避けるために身体を動かす。
さっき言っていた言葉、おち、つらぬき、あたる――だったか。恐らく攻撃が私には当てやすいということだろう。動きがいまいち洗練されていないからか、それとも他の理由か。
……他の理由?
ふと目を落とす。私の持っている武器は銃とナイフ。どちらも金属が使われている。雷を引き寄せる可能性は大いにあるだろう。それに加えてこの辺りの地形、と言っていいのかは分からないが地形だ。この辺りはまっさらな場所。障害物も何も無い。
雷の性質から考えて、遮るものがない私に攻撃を当てやすいのは当然のことだ。だが、それであればさっき避けることができたのは何故だろう。
「わかんないな……けど、避けられるんだったらそれに越したことはない、よね」
槍のように降ってくる雷を避けながらナイフを投げる。そちらに雷がほんの少し吸い込まれるだけでやはり大した解決にはならない。
本体を叩かなければならないのだろう。
言葉の通り、本体を。
「叩くって言ったって、私の武器じゃ叩くことも儘ならない……!」
雷から逃げて駆け回りながら呟く。私は魔法も使えなければ今持っている武器も相手にはまともに通用しない。
私にこの神をどうこうすることは間違いなくできない。肉を抉ったり切ったりする攻撃はこの神とすこぶる相性が悪いと判断しても差し支えないだろう。
「ルベリア……雷の神がそういう相手なら先に教えてくれたら良かったのに!」
だが連れていかれるときに相手が雷であることは言われていたか。焦っていて考察が出来ていなかった自分のことも悔しく思う。手に汗が滲んで自分が緊張していることを嫌になるほど感じる。
今日のルベリアはハンマーを持っていた。いつもは戦斧なのに今日に限ってハンマーだったことが不思議だったが、そういうことだったか。
武器の選択ミスのせいで本体を叩くことができない私にやれることは一つだ。
この神が他のかみさまの殺し屋の戦闘を邪魔をしに行かないように私が引き付け、ルベリアか他の誰かがこちらに気づいてくれるまで、私はどうにか生き残る。
さぁ、走れ。
雨の神自体が面倒というより雷の神とシナジーがあるのが面倒。雨の神自体は水の神の分体なのでほっといたら吸収されます。雷の神は雷が落ちる度に増えます。雷も雨も自然神の類ですね。雨と雪は自然神の中でも特別な奴ら。




