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ひととき

遅くなりました、平和回です。

 スフィーさんとそのまま別れて本部に入ったが、何をしたらいいのか分からない。そもそも、本部に関する説明もほとんど受けていなかった。

 少し休もうと思って近くにあったベンチに腰掛ける。次々と他のかみさまの殺し屋が出入りしているのが見える。誰かと居たり居なかったり、武器を持っていたりいなかったり。


 色んな人たちのことを見るのは楽しかった。だが、

「私はどうしようかな……特にやらないといけないことっていうのもないし、それにルベリアも居ないし……」

 どうしようか途方に暮れていたが、入ってきた人のほとんどが本部の受付のような人に話しかけているのに気づき、自分も受付の人に声をかけてみようと思った。

「すみません、私、アンというのですけど、まだここに来て日が浅くて……。さっき夢の神の殲滅に行ってこれからどうすればいいのか分からないなと思って。どうしたらいいんでしょうか?」

 自分で言ったがなんとも曖昧な話し方である。イマイチ伝わっているような気がしなかった。だが受付の人は優しかったようで基本的なことを話してくれた。

「あぁ、アンさんですね。ルベリアさんが先程あなたのことを話していました。そのうち来るから案内をしてやってほしいと。まず、あなたの個別のお部屋とルベリアさんの部屋の場所をお伝えしますね」

 受付の人に色々とどこに行けばいいのか、指令がない間は何をすればいいのかを教えてもらい、部屋の鍵が渡された。まずは別館にあるという自分の部屋に行ってみることにした。


「ここが別館……多いなぁ。それに見た目がアパートみたい……」

 別館と言っても、かみさまの殺し屋はたくさんいるのでいくつもあるらしい。それぞれの建物には番号が振ってある。私の部屋は一番の館の十階、その突き当たりにあるそうだ。

 私がかみさまの殺し屋に選ばれた頃、丁度そこで暮らしていた方が戦闘中に神に取り込まれ、亡くなったらしい。

 ……それで入れ替わりでここに入ったってことだね。それにしても、ちゃんと死も存在するんだ。

 一度は死んでいるからか、なんとなく、何度でも甦れるような気がしてしまう。だがかみさまの殺し屋たちは一度死んだだけで不死になった訳ではない。


 油断していれば簡単に死ぬし、その死は現世を左右する大きなものとなりかねない。現世で生きていたときよりも自分の命がもたらすものが大きくなった。

 増えすぎた神の数を調節する仕事と軽く言いはするが、自分の失態がもたらす影響は莫大だ。どんなときも気が抜けない、生前の仕事と同じかそれ以上に責任重大な仕事。


 物思いに耽りながら歩いていると自分の部屋に着いた。渡された鍵を使って扉を開ける。

「遠目で見た時はアパートみたいって思ったけど、昔の建築様式だ。水道とかってあるのかな……」

 不安に思いながら部屋に入り、設備を見る。壁には電気のスイッチがついていて、水道もある。どうやらインフラは整っているようだ。

 ……あれ、でもそういえば外に井戸とかあったような……。なんでだろう。

 後でルベリアかスフィーさんに聞いてみようと思いながら備え付けのベッドに座る。

 それにしても殺風景な部屋だ。トイレとお風呂、それとちょっとしたキッチン……というよりは台所と言った方がいいようなもの。それ以外にはベッドしか置かれていない。

「部屋に家具って増やせるのかな……もうちょっと部屋について受付の人に聞いとけば良かった。まぁいいや、他にできることも教えてもらったしそっちのことやろ」

 ベッドから立ち上がり、部屋を出る。死後の世界でもきちんと昼夜の概念はあるらしく、赤々とした夕焼けが見えた。

「夜でも武器の訓練場は開いてるって言ってたからゆっくり行ってもいっか。ルベリアの部屋も教えてもらったしルベリアが居るかどうかちょっと見てみようかな……」

 ルベリアが居ると教えられた建物を見ながら少し考える。

 ……ルベリアのことだから部屋の中でゆっくりしてはいなさそう。

 まずは訓練場に行こう。反動の少ないあの銃に慣れて、より動きを効率良くすればきっと今より戦いやすくなるだろう。

 私が生きていた間と比べると色々なものが違う。


 まずもって、生きていた頃は戦うことが主ではなかったし、戦う相手も必要な心構えも全然違う。その時点で私の経験は大した役には立たないだろう。

 だが身体を動かすことに慣れているという点は十分なアドバンテージになる。


「それにしても、ルベリアが言ってた、魔法が面倒の種になるってどういうことなんだろ……」

 スフィーさんから強化の魔法を掛けられたときもすぐに解けと言っていたし、転移の魔法も使わないと断っていたルベリア。

 動きに慣れない、面倒になる、など色々な理由を付けていたが、そこまでして断るのにはもっと深い理由がありそうに思える。

 そんなことを考えながらふらふらと歩いていると、大きな建物の前、訓練場に着いた。

「んっと……?ここが訓練場、で合ってるかな?」

 少し不安に思いつつも訓練場らしき建物に入ってみる。武器が置かれている部屋に通されて、自分の使っている武器を取る。

 やはり生きていたときのものより銃が軽い。何故なのだろうか。疑問に思って武器の管理をしている男性に聞いてみた。

「あの、この銃なんだか軽いように思えるんですけど……なんでなんでしょうか?」

「あー、生きていた世界と違ってここではそういうものを作るための資源とかが取れないだろ?だからここにあるものは現世にあるものの写し身、みたいな感じで持ってきてるんだ。簡単に言えば擬似的な夢の神の力かな。厳密には『母』が……まぁ、その辺はそのうち分かるさ」

 母とはなんだろうか。説明を聞いても理由はよく分からない。現世を必要に応じて転写して使っているようなものなのだろうか。イマイチよく分からないが、明確な実体がないから軽いのだろう。多分。


 その話を聞いてからは反動の少ない銃に慣れるために何度か撃って、近接攻撃もできるようにするために短剣の使い方も教わった。近接で刃物を使うことは生きている間は基本的になかったので新鮮な体験だった。

 ……新鮮な体験だとは思ったけど、これからはこれが普通になるんだよね。

 警察ではなく、かみさまの殺し屋として。そのためには違う戦い方と違う考え方を身につけなければならない。そう思うと自然と手に力が入る。

「体力的にはもう少しやれそうだけど、次の討伐要請がいつ来るのかもわかんないし休もうかな」


 かみさまの殺し屋の仕事はあるときとない時の差が激しいし、初めのうちは要請が来るタイミングを上手く掴めないから早めに休みをとった方がいい。


 と、親身な受付の方に教えてもらった。武器を返し、居住区の近くにある食料品が置かれているところに歩いていく。

 どうやらここには通貨などはないらしく、欲しいものは好きに取っていっていいらしい。なんとも不思議な感覚だ。

 食べたい物を取って部屋に戻る。キッチンに持って帰ってきた物を置いて料理を始めた。ナイフやまな板などは備え付けられていたのでそれを使う。

「よし、できた。久しぶりだけどいい感じじゃない?」

 作ったのはチリコンカン。私の好きな料理だ。パンに挟んで食べよう。少し固めのパンを半分に切ってチリコンカンを挟む。

「さ、食べよっと」

 久しぶりに作ったが、味はいい感じだ。少しなら持つので余った分はまた今度食べよう。もぐもぐと食べながら今日あったことを思い出していた。

 ……死んだと思ったら新しい仕事が与えられるとか色々あったけど、なんか一瞬だったな。

 これからもこの日々が続いていくと考えるとまだ現実と受け止めきれていないように思えた。

「あ、そういえば水ないや。煮沸しないと……」

 水を火にかけてしばらく放っておく。質素な部屋のベッドは綺麗に整えられている。さっきの夕食の続きを食べていれば煮沸できているだろう。

「……む、ちょっとヤバいかも?」

 のんびり食べているとぶぐぶぐと音が聞こえてくる。パンを急いで口に放り込んでポットの前に行く。沸騰しすぎて溢れそうなところを止める。

「ふー危ない。溢れたらめんどくさいからちゃんと見ないといけない……けどずっと立ってるのもめんどくさいよねぇ」

 ポットを火から外そうと思ったが、鍋敷きがない。このまま置くとよくない気がする。

 ……うーん、このままコンロに置いとくか。

 ポットを置いて、しばらく放っておく。煮沸するのを忘れていたのは失敗だった。お湯が冷めるまで待っておかないといけない。

「熱いまま飲んでもいいんだけど、そんな気分じゃないしね……」


 それから少し放っておいて冷めた水を飲み、布団に潜り眠りについた。

作者はチリコンカン食べた覚えがないです。もしかしたら小学校の給食とかで食べてたのかもしれない……。

母についてはそのうち分かります。母は母です。神じゃないとだけ言っておきます。

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