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一時休息、戦い方は?

 先の戦闘が終わり、一度本部に帰ることとなった。スフィーさんは転移魔法で帰ると言って、私たちのこともついでに連れていこうかと提案してくれた。だが、ルベリアはそれを「魔法には頼らない。あーいう便利な奴、しかも神が関わってるんだろ?どうせ面倒の種になる」と頑なに断っていた。

 ルベリアと話したいことがあったので私も断って二人で歩いて本部に帰ろうと足を動かした。

「あの、ルベリア。上・中・下って生まれてからどれだけ経ったかで決めてるって言ってたけど、具体的にどれくらいで切り替わるの?」

「あー?切り替わりか?えっとな……生まれたてと生まれてくる頻度が高い奴らは大体下級になる。んで生まれてからある程度、確か一、二年生きると中級。上級は巡回のかみさまの殺し屋たちとか本部が見つけてないうちに成長した奴とか、想定より早く成長した奴、って昔に説明されたな」

 話を聞く限り、中級は下級ほどではないが個体数は多そうだ。一方上級は話を聞く限りでは例外が多そうな感覚がする。上級に分類されるものが大抵本部すらも予測できていない、または観測できていないとなると、それはかなり危険で放置すれば現世にも影響がもたらされるのだろう。

 そんな相手がなぜ私の相手として据えることができるかもしれないと思われたのか。

 ……確か、強い神ほど人間の姿とはかけ離れていくって言っていたよね。もしかして、それ?

「あの、上級とか中級ってもしかして人の形をしてることって少ないの?」

「ん、そうだ。まぁ信仰から生まれた奴らはその信じられている姿になるから人の形の奴もいる。そういうのの相手をするのはそんなに多くないけどな。ま、上級やら中級やらに分けられる神は大体人の形じゃない。たまに人の形した奴がいるが、人型相手なら無心で殺り切れる奴が上級やら中級に挑戦するときに使われることがある」

 ルベリアは思い出すように私に神たちについてを話を始めた。彼女は物覚えがそこまで良くないらしく、曖昧な場所もあるかもしれないと言った。


 だが少しの情報でも私にとっては十分有益だ。その辺りの情報のすり合わせは後でスフィーさんとすればいいだけの話。

「んで、確か神は理解しようとしたりその存在を信じている奴が目の前に現れると力が異常に増幅する、だったかな……まぁいいや、だから神を相手取ったときに深いことは考えるな。よく考えんじゃなくて、とりあえず殴る、飛んできた攻撃は避ける。戦い方なんかそれだけだ。まぁでも、たまにいるんだがな、攻撃が”当たらない”奴が」

 攻撃が当たらない、そんな相手はそもそも討伐ができるのだろうか。

「当たらないって……それ、倒せるんですか?」

「さあな、でも攻撃の種類を変えたら当たることがある。打撃だったら当たるけど斬撃は当たらない、魔法も毒の類も効かない、みたいな奴。少し前から魔法が主流になったせいで魔法も使った上での強さで評価されるようになった。そのせいで魔法が効かない、魔法の強化も貫通してくるような奴か出てきたとき手こずるようになった」

 神についてのことはある程度分かったが、それにしても神相手にも毒が効くということの方が驚きだ。

「毒が効く神なんているんだ……何だか意外」

「そりゃ居るさ。神だっつってもあんたらが信じていた神ほど全能じゃない。勝手に生まれた神はその元の一つしかどうこうすることはできない。あぁそうだ、不変の神のことも話してやる」

「不変の神?」

「そうだ。不変の神は空やら地面やら生死やら……まぁそういう疑いようのないヤツらだ。全部知りたいならその辺はスフィーにでも訊いてくれ。んで、そいつらはあたしがかみさまの殺し屋をやり始めてから今まで暴走したことがないし、それより前にもそいつらの暴走は起きたことがない。生死とか、克服しようとする奴はいるけど誰も存在のことは疑わないだろ?まぁ、そういう奴らのことだ」

 存在が疑われない、必ずあるものたち。つまりは無ければ世界が一気に崩れるものということだろうか。空が消える……想像もつかないけど、だからこそ不変でなければならない。だからこそ、揺らぐことすら許されない。

「けど不変の神はよく分かんないんだとよ、ずっと昔から。他の神とは格が違うっていうただそれだけ。本当は神ですらなかったりしてな」

 ルベリアがふは、と息を吐きながら適当に流す。神についての情報というのはこの役目を持ってからまだ浅い私にはとても重要なものだ。


 そうして話しているうちに本部に着いた。スフィーさんは私たちが帰ってくるのを待っていたようで、扉の前に立っていた。私たちが歩いてきたのに気づいて目が合う。

「あ、スフィーさん!遅くなりました、今着きました!ほら、ルベリアも」

「あいつが気にかけてんのはあたしじゃなくてあんただ。それにあたしはいつもこういうことしてるからな。もうあっちだって分かってるだろ」

 ルベリアは面倒そうに私の言葉を適当にあしらう。私はスフィーさんの目の前で足を止めたが、ルベリアはそのまま扉を開けて本部に入っていってしまった。

「あ、ルベリア、先に行っちゃった……えと、スフィーさんに聞きたいと思ってたことがあるんですけど、いいですか?」

「聞きたいこと、ですか?僕が答えられる範囲なら答えますよ。何でしょう」

 スフィーさんはルベリアの前では見せたことのないような優しい笑顔をして私と話を始めた。

 ……まずは夢の神の力の詳細と増えすぎるとどうなるのか、だよね。それと不変の神についての話も聞かなきゃ。

「えっと、夢の神の力と不変の神についての話なんですけど、大丈夫ですか?」

「あぁ、それについてですか。あなたはどこまでの情報をルベリアから伝えられていますか?それによって、どこから話すのか決めますから」

 どこまで、と言われても説明がしづらい。夢の神についてはそこまで話はしていない。不変の神がそれになる基準はある程度教えてもらったが、ルベリアの説明は大分細かいところは端折られているだろう。

「えっと、不変の神については少し。基礎的な話はしてもらいました。夢の神については全く」

「なるほど……全く、やっぱりあの女、戦いのことばかりで知識の面ではあまり使えないな。まぁいいや、じゃあまずは夢の神についての話をしましょうか。何が聞きたいですか?」

 スフィーさんが少し毒吐きながらも私に質問を促す。私は考えていた疑問をそのまま吐き出した。

「まず、夢の神って増えすぎるとどうなるんですか?それと私が取り込まれかけていたって言ってましたけど、取り込まれたらどうなるんでしょう?」

 危ないところだった、もう少しで取り込まれるところだった。そう言っていた周りの人はどこか焦りと私を見ていないような目をしていた。

 私ではなく、取り込まれることによって起こることに目を向けているように見えた。

「そうですね……取り込まれるというのは、神の一部となるということです。つまり、神の糧となる。そうなれば何が起きるかは想像に難くないでしょう?」

 神が強化を得る。よりにもよってこちらの戦力を奪う形で。

 ……なるほど、だから魂が適合した者しかこの役目は任されないっていうことなのかな。

 適さない人はさっき私がやってしまったみたいに神に感情移入をしたり、背景を考えたり、戦っている最中に余計なことを考えてしまう癖が生前の習慣のせいで抜けきらないのだろう。

 そもそも、その傾向があればどれほど弱い神でも強くしてしまう可能性が大いにあるから弾かれる、と考えるのが自然だろうか。

「確かに、大変ですね。神が強化を得るときって、何がきっかけなんですか?」

「神が強化を得るきっかけ……うーん、神が強くなる条件ってとても多いんですよ。その上一つでも満たせばすぐ強化を得ますし、満たしている条件が増えれば増えるほど強化は重なっていく。いちばん気をつけないといけないのは『目の前に信仰する存在が現れたとき』ですかね。次点で理解をしようとすることです。信仰する存在の方は言わずもがなです。理解の方は……神たちは信仰に飢えているんです」

「信仰に、飢えている?」

 信仰で神が強くなる、それは初めにあのお爺さん――マルディさんが話していた。だが信仰に飢えているとはどういうことだろうか。

「まぁ、本当に飢えているかどうかは定かではないですけとね。奴ら、理解しようとするとか、感情移入するとか、その存在について考えるだけでも信仰として数えるんです。自分の存在を保つことも性のうちに入っているせいだとは言われていますけど、本当のことはよく分かってないんですよね」


 神たちはルベリアが死んだばかりのときからいる。ルベリアの話し口からして彼女は気が遠くなるほど遠い時代の人間だ。それほど昔から存在するのにも関わらず、解明されていない。解明をしようとすれば無意味に強化を与えることに繋がりかねないからだろうか。


「そうですか……では、取り込まれかけていたっていうのは?」

 これ以上引き出せる情報もなさそうだと思い、話を変える。私は夢の神に取り込まれかけたことがある。そもそも取り込まれるとはなんなのか。取り込まれたら何が起こるのか。それが知りたかった。

 ……でも、そんなことわかったところで大した意味はないんだよね。

 この質問はただの私の好奇心でしかない。でももし誰かが私の目の前で取り込まれそうになったら何か助けが出来るかもしれない。自分が取り込まれかけたときにその意識が持てるかもしれない。そんな淡い期待も混じっているが。

「その話となるとまず、取り込まれるとは何なのか、から説明した方がいいですね。僕たちはかみさまの殺し屋である以前に、元は人間でした。だから信仰して神を生み出すことができますし、強化を与えることもできます。さて、暴走した神や増えすぎた神が求めているのは何だったでしょうか?」

「……主体の存続、でしょうか」

 神は存在の維持をするために私たちの攻撃に抗う。私たちに反撃をする。

 神、そんな大層な名前がついていても私たち生き物と同じように生存本能を持つものだ。

「そうです。それに加えて信仰ですね。信仰があれば奴らは理性を得ることができ、力をより効率的に、厄介に扱える。自身の存続のための力を得ることができる。自分以外の者を取り込めば、使役することができる」

「となると、取り込まれた場合は神の糧……信仰をするだけの傀儡とかにされるってことですか?」

「正解です。他にも色々なことに使われることもありますが、ほぼ全ての神は必ず『信仰の傀儡』としての役割を与えます」

 信仰の傀儡としての役割を与える。だが、それだけであればかみさまの殺し屋たちにだって対策のしようはあるはずだ。

 例えばそう、取り込まれた仲間を殺すとか。殺して存在を無くせば強化は減らされるはずだ。

「えっと、つまりその傀儡にされたかみさまの殺し屋を殺してしまえばいいんじゃないですか?」

「いいえ、それは難しいんです。取り込まれてただ信仰をさせるだけではすぐに潰されることをあちらも分かっているようで、戦力としても使ってくることが多いのです」

 信仰の傀儡、加えて自分の駒としても使う。自己存続の性はあまり甘く見ない方が良さそうだ。戦闘中に少し前まで仲間だった相手が敵に回る可能性も大いにある。油断はしない方がいい。

 もし敵に回るのがルベリアだったらどうなるだろうか、想像もしたくない。

「なるほど……やはりそもそも取り込まれないことが大切なんですね」

「そうですね。奴らは心が弱い者や余計なことを考える者を取り込むことが多いです。でも元の力が強くなると物理的に取り込んで自身の一部にすることもあります。戦うときに余計なことは考えない方がいいかと」

 それだけ言ってスフィーさんは遠くを見遣るような瞳をしていた。私もこれ以上は聞くこともないので黙る。

 静かな時間が少しの間流れた。このまま立ち去るのはなんだか申し訳ないな、と思ったから。

「あの、スフィーさん、お話ありがとうございました。それでは、私はここで……」

「あぁ、はい。また何か困ったことがあったら聞きますからね」


 私はスフィーさんに手を振って、本部に入った。そしてふと気づいたのだった。

「私、ここからどうすればいいんだろう……」

そういえば本部についての説明は全くされていませんでしたね、アンちゃん。ルベリアも先に帰っちゃったし、爆速で戻ってスフィーに話しかけに行くのも気まずいですね。さて、これからどうするのでしょうか。

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