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夢の世界は、満ちていく

 それからは自分のよく知っている人が現れたとしても全員撃ち抜き、ナイフで切り裂いた。


 戦闘中に現れる自分の知り合いは大抵神が成りすましたもの。


 分かっていても傷つけるのは少し気が引けた。

 大切な人に凶器を向けるのはほんの少し体が震えた。

 私が銃口を向けた先はいつだって悪人だった。それなのに、私は今、何の罪もない人に銃口を、刃先を向けている。

 でも、あの時だって銃を向けた、撃った、殺した。

 私は今、現世の人々を守るために『かみさまの殺し屋』をしている。


 なら、なら、撃てるはずだ。


 ……どうして、よりにもよって――

 そんなことを思った瞬間、目の前にいた夢の神が歪に膨らんで弾けた。神の身体がバラバラに散って、私に降りかかる。

 それと同時に意識が遠のいていった。


「……あ、れ?」

 気づけば、私が生きていたときに戻っていた。私は病院にいて、銃弾を受けた場所には包帯が巻かれていた。

 私がさっきまで過ごしていたあの時間は、意識が飛んでいた間に見た夢のようなものだったのだろうか。

 ……夢?

 私が死ぬ前に守ったあの子は元気に生きていて、私も怪我はしたけど致命傷にはならなかったらしい。

 同僚たちの行動も間に合って、上手く犯人を鎮圧できたらしい。


「あぁ、よかった……」

「本当ですね、まだ生きてますよ」

 ベッド横で点滴を付けていた看護師がそう言う。みんな無事に生きていて、私だって生きている。怪我はまだ完治していないようで、同僚が見舞いに来てくれた。

「よ、怪我はまだ痛むか?でも、今度は守れて良かったじゃないか」

「そう、かもね」

 ……今度は?

 同僚の言葉に引っかかりを覚える。私は一度、守れなかったことがあるのだろうか。どこかで、守りきれずに死なせた人がいただろうか。

 そんな覚えはないような気がするが、思い出そうとしても頭に霧がかかっているように思い出せない。

 ただひとつ浮かんできたのは、『かみさまの殺し屋』という言葉。

 ……なんだろ、これ。

 わからなかったし、何かを覚えていたとしてもそれ以外の記憶がほとんど思い出せなかった。

 神は崇高なる其しかいない。なのにそれを殺そうとする存在がいるとでも言うのだろうか。

 頭を振ってそんなくだらない考えを散らせる。私も生きていて、守ったあの子も生きている。ちゃんと守れたというそれだけで十分だ。


 これは現実で、私たちの信じる神の導きなのだ。


 しばらく療養をして、傷口も塞がったようで退院することとなった。家に帰ると懐かしさと同時にどこか違和感を覚えた。


 ここにゴミ箱なんて置いていただろうか。

 しばらく居なかったはずなのになぜ冷蔵庫に入れていた食材は傷んでいないのだろうか。

 私はなぜ、家に身分証を置いているのだろうか。


 さっきまで、私は病院に居たのではなかったか。

「なんで、ここに……?」

 確実に何かがおかしい。さっき病院での支払いはどうしていたのだろう。身分は関係者が証明して同僚が代わりに私の家に身分証を置いた?

 ……いや、そんなことありえない。そんなことしたなら必ず私に伝えているはず。

 ふと、机に置いている家族写真が目に入った。私たちの家の前で撮った写真。でも、一人足りないような気がした。

「父さん、母さん、おばあちゃん、姉さん、兄さん、それに私……」

「……7人?」


 この写真は8人で撮ったはずだ。一人足りない。おじいちゃんが、いない。


 おじいちゃんはこの時、確実に生きていたはずだ。私の記憶の限り、この写真はおじいちゃんの余命がそう長くないということを伝えられてから、病院の前で撮ったものだ。


 そう、病院の前で。


 なぜ、この写真は私たちの住んでいた家の前で撮られている?


 訳が分からなくなってベッドに腰を下ろす。なぜおじいちゃんが写真に映っていないのか、1週間は空けていた家がなぜこうも小綺麗なのか。

 挙げてみればキリがなくなってきた。取り敢えずきっと心配しているだろう家族に退院したことを連絡しようとしてスマホの電源をつけた。


 43:76


「……は?」

 スマホが示す時間に目を疑った。驚きが口から零れ落ちる。でも何度見ても、どれだけ目を擦っても、その数字のまま変わらなかった。

 まるで夢のような出来事。でも間違いなくこの感覚は現実で、奇妙なところなんてないように思えた。

 存在するはずのない時間、記憶と食い違う変な写真、どこかおかしい部屋の中。

 ……もっと調べて、確かめてみないと。

 まだ見ていないシャワールームとトイレ。そこに行ってみよう。立ち上がってまずはシャワールームを見てみる。鏡には私がちゃんと映っていて、シャワーもあって、何も問題はなかった。

 シャワールームは何も問題がなかった。


 問題があったのは鏡台。私がたまの休日でお出かけをするときに使うメイク道具がなかった。

 違う場所に置かれているとかではなく、無いのだ。

「確実に、誰か知らない人の手が入っているか、何かに変えられている……?」

 部屋に妙に生活感がないのだ。ベッドは綺麗にされていて、机も綺麗に片付けられていて、キッチンにだって洗い物は残っていなかった。

「状況としては誰かが片付けたとしか言えないけど、だったとしてもあの時刻は説明がつかない……!」

 情報が錯綜して、何が何だか訳が分からなくなって頭を搔く。

 ……そうだ、一度顔を洗おう。

 水を出してその冷たさに触れる。顔を洗うと頭の中が少しすっきりしたような気がする。顔を拭いて鏡を見ると鏡の中の私はまだ、顔を洗っていた。

「……え、は、何、なんで?」

 鏡の中の現象のはずなのに、音がまだする。水は止めている。なのに、水音がする。

 驚きすぎてうまく声が出ない。足が震えてきた。立っていられない。バランスが崩れて座り込む。


 水音が止んでから私は壁を支えにして立ち上がった。鏡の中の私はまだ居て、こちらに目を向けていた。

 こちらに、手を差し伸べていた。いや、差し伸べていると言うよりは、私に向かって何かをしようと手を伸ばしている?

 手を、のば、し、て――


「おい、起きろ馬鹿!」

 ルベリアの大音声でハッとした。私の身体には傷は特になく、寝かされている状態だった。

「ルベ、リア……ごめんなさい……」

「なんとか間に合ったみたいだな……いや、あんた、そんなに考えるタイプだったんだな。いきなり初戦で夢の神に連れ出したあたしも悪かったよ。とにかく、始めたばっかでそのまま取り込まれなくてよかった。これからはあんまり深く考えるなよ」

 焦りと優しさが混じった声色に少し笑みが零れた。そんな私をルベリアが叱る。

「おい、なんで笑ってんだ。あんた、あのままだと取り込まれてたんだぞ?」

「いや、ふふ、案外ルベリアは優しいなと思って……」

 ルベリアは訳がわからないとでも言うように頭を振る。私が立ち上がって、ルベリアも立ち上がる。スフィーさんが私の方に歩いてきた。

「アンさん、脚の怪我は魔法で塞ぎましたが、さっきまで夢に取り込まれていましたよね。神はほとんど散らせましたが、何か精神にまだ残っているかもしれないので少し見させてもらいますね」

 七色の光がふわりと私を包み込み、ほんの少しすると消えた。スフィーさんは安心したように優しく笑った。

「うん、特に何も悪いところはないようですね。あなたには夢の神の相手はあまり向いていないかもしれません。深く考えないように、と注意することはできますが、結局は本人がどういうタイプかにもよりますからね。後で僕が本部に夢の神は合わなかったということを知らせておきますよ」

 診断が終わったらしい。私の身体には何も無かったけど、さっきの様子からして夢の神とは相性が悪いらしい。となるとこれからは多分夢の神に当てられることはまずないだろう。

「ありがとうございます。夢の神がダメとなると、他は何になるんでしょうか……?」

 ふとこの手の神がダメならどうなるのだろうかと思い、スフィーさんに訊いてみる。スフィーさんは少し考えこむような表情をしてから答えてくれた。

「まず、あなたは人の形をしていない神に出会ったとき、何を考えますか?」

「……え?特に、何も考えないと思います。だって戦い方も何も分からないんですから 」

 見た目が人間と近ければ、私の中で対人用の動きが身体に染み付いているから考える。

 どういう立ち回りをすれば有利か、人間と同じなら弱点はおそらくここ、力が一瞬抜けたときに押し切る、とか。それは人の身をしているなら神であろうとさして変わらないはずだ。

「なら、中級や上級と戦ってみるのもいいかもしれませんね。もちろん他のかみさまの殺し屋の人と合わせて、ですけど。ルベリア以外の奴もつけないと、もしあなたたちが失敗したときに後が大変ですからね」

 いきなり中級や上級の方がいいかもしれない、と言われて私はギョッとする。下級相手にこんなにも手こずって術にはまっていたのに中級や上級など相手にできるのだろうか。

 不安に思っているとルベリアがそっと私に耳打ちしてきた。

「上級中級下級って決めちゃあいるが、あれは生まれてからどれだけ経ってるかを表してるだけだ。夢はいくらでも現れるから下級だが、長く生きてる奴は大体上級か中級だ。長く生きてると人の形じゃないときも多い」

 どうやら上・中・下の割り振りは強さに準じたものではないらしい。単純にどれだけ生きているか、ただそれだけ。ただ、大抵の神はどれだけ生きているかに比例して強くなっていくのだろう。

「まぁ、ルベリアから聞いたと思いますが、そういうことです。あなたの考え方だと上級や中級の方が相手にしやすそうですね。神と戦うときに余計なことを考えては、いけませんから」

 スフィーさんは曖昧な笑みを浮かべ、遠い目をしながらそう言う。戦いに対する認識、相手である神に対する考え方、そういったものが大きく関係してくるからこそかみさまの殺し屋には限られた者たちにしかなれないのだろう。

 それほどまでに、この役目は厳しいものなのだということを暗に示唆していた。

夢の神が増えすぎるとどうなるんでしょうね?

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