表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

かみさまの単位は?

「アン、君の魂は適合し、我々の仲間に迎え入れることとなった。我々は神々の数を調節し、唯一、神を殺す手段を持つ『かみさまの殺し屋』だ」

 私が目を覚ました途端、真っ白な世界で、杖をついた老人が私に向かってそう言った。私は現世で死んだはずなのだが、どうやら死んだ者の中で魂が適合する者は『かみさまの殺し屋』となるらしい。

 私は生きている間は唯一神を信じていたのだが、どうやらその信仰はここで打ち砕かれたようだ。

「私、唯一神を信じていたんですけど……」

 私が気まずくもそう言うと、老人が優しく微笑んだ。一体どういうことだろうか。

「おや、唯一神を信じていた者だったか。だが心配するな。お主の信じていた唯一神は完全なる唯一だ。なぜならあの神は信仰から生まれた神だからな。我々が干渉していい存在ではない。……尤も、信仰が無くなれば処分の対象にはなるがな」

 あごひげを撫でながら老人がそう言った。


 『信仰が無くなれば処分の対象になる』

 つまり信仰があれば私の信じる其は唯一の存在であり、かみさまの殺し屋の世話になることはないのだろう。


「それにだな、生前、唯一神を信じていた者は我々の仲間には数多くいる。我々が処理する神は信仰に関係なく生まれる自然神や民俗神だ。……とはいえ民俗神の一部は信仰から生まれるんだ。その信仰から生まれた神は除いている」

 『信仰』

 神々の世界では信仰が唯一の存在になれる鍵なのだろう。生きていた頃の私たちが信じて生み出した神や世界にありふれたものに宿った神。私たちは神は一つしか存在し得ないと思っていたが、存外世界は神で溢れていたらしい。

「なら、私はその増えすぎた自然神や民俗神を殺す、ということですか?」

 私の質問に老人は頷く。そして杖をカン、と地面についた。その瞬間に光が溢れ、普通、と言うには少し古い建築様式の建物が並ぶ街に転移した。


 そこにはたくさんの人がいた。弓、槍、剣、カタナ、ハルバード……全員が武器を持っている。でもどこか緊張した面持ちで戦闘経験がそれほどあるようには見えなかった。

「ここにいる者たちはお主と同じ、かみさまの殺し屋に魂が適合した者たちだ。既に下級の神を殺した経験を持っている者たちだな。だがまだ慣れていない。この中にはお主と同じ唯一神を信仰していた者もいるぞ。さて、後進の教育をしている者のところへ行くぞ。ここからは歩きだ」

「後進の、教育……」

 つかつかと私の前を歩いていくその老人についていく。初めに見た時は腰が悪そうだったが、案外そんなこともないらしい。


 しばらく街を歩いていると一つの建物の前で立ち止まった。老人がそのままその建物の中に入る。私もそれについて行った。

「お、爺さんじゃんか。その後ろの子は新しい仲間か?」

 私たちが入ってきた途端、赤毛に金の瞳をした、正に姉御と言ったような姿の女性が老人に声を掛ける。背には戦闘用らしき斧を背負っていて、へそ出しの服を着ている。

 ……寒くないのかな。

「そうだ。この子はかなり見込みがあるぞ。戦闘経験が生前あったみたいだ」

 確かに戦闘経験はある。生前は警察官だったし、体を動かすことには慣れている。腕っぷしにも自信があった。

 ……けど!神を相手にしてそれが通じるかは話が別だと思うんだけど!

「いや、いやいやいやいや……何を言っているんですか!私、確かに戦闘経験はありますけどその、あの……!」

 老人からの言葉に私が焦っていると赤毛の女性が豪快に笑った。

「あっははは!大丈夫さ、体術の類は神にも通じる。それに初めは人型だから簡単さ。いいか、神っていうのは強くなればなるほどヒトの形からはかけ離れていく。だがあんたみたいなひよっ子がそんなのに当たることはまずない。そういうのはあたしらみたいなのの仕事だ」

 赤毛の女性はそう言って討伐対象になる神についてを詳しく教えてくれた。


 一つ。討伐対象になる神には分類があること。下級、中級、上級、そして信仰を失った神がカテゴライズされる特殊暴走神。これらが大まかな分類だ。


 二つ。神は『かみさまの殺し屋』にしか殺せない。神同士で討ち合うことはまずないそうだ。神は神としての責を全うするしか能がなく、それ以外のことはできない。


 三つ。だからと言ってそれらが私たちの攻撃に対して無抵抗な訳ではないこと。存在の維持が性のうちに入っているから、らしい。


「あぁ、自己紹介を忘れていたな!あたしはルベリア、上級の討伐担当兼新人の教育係だ。あと、この爺さん多分自己紹介してないだろ?爺さんの名前はマルディ。あんたみたいな、かみさまの殺し屋に魂が適合した奴らを迎えに行くのが仕事だ。実はあぁ見えて強いんだよ。まほーってやつを使って戦うんだとよ。あたしはほとんど見たことがないけどな」

 ルベリアさんが自己紹介をしてあのお爺さんのこともついでに話してくれた。お爺さんはどうやら導く人のようだ。そのままの勢いで私も自己紹介をする。

「えっと、アンです。生きている間は唯一神を信仰していました……これからよろしくお願いします」

「唯一神か、あたしはそもそも神なんて信じてないんだよ。かみさまの殺し屋なんてやっちゃあいるが、あいつらなんて増えすぎた害獣みたいなモンだろ?」

 そんなことを言いながら私に向かってルベリアさんが手を差し伸べる。私はその手を握って握手をした。ルベリアさんの手のひらは大きくて、戦闘を何度もしてきた人らしく女性としては少し硬めだった。

 ……なんだか、懐かしいな。

 私も生きている間は凶悪犯を相手に戦闘をしてきたし、銃も何度も握った。そのせいで手にはたくさんマメができてその度に手の皮が厚くなって、硬い手になった。

 昔は、そんな自分の手があまり好きじゃなかった。でも仕事をしているうちに段々と好きになっていった。この手は、誰かを守ることのできる手なのだと。


 そしてその手が使われるときが、死してなお来たのだ。

「ルベリアさん、良い手ですね」

「え?あたしの手のことか?こんなゴツゴツした手のどこがいいんだか」

 ルベリアさんが呆れたように言う。それでも私は言葉を続けた。

「素敵な手ですよ。何かを守れる手です。私が生きていたときも、そんな手でしたから」

 彼女は私の言葉を聞いてもあまり釈然としないような様子だったが、私のことをじっと見て口を開いた。

「ふーん……何を勘違いしてんだか知らないけど、あたしは何も守っちゃないよ。これはよく知らん何かを殺している汚い奴の手だ。というか、ルベリアさんじゃなくて、ルベリアでいい。アン、あたしはあんたの教育係兼バディになるかもしれない奴だからな」

 そっぽを向きながらルベリアはぶっきらぼうにそう言う。自分の手を汚い手だと言ったその顔はどこか寂しそうにも見えた。

「わかった、ルベリア。これからよろしく」

 私のその返事を聞いて彼女はそのまま歩き出した。私もそれについていく。


 そういえば、気づいたらあのお爺さん――マルディさんは居なくなっていた。


 少し後ろを見て私が着いてきていることを確認して彼女は話を始める。

「多分、そろそろ夢の神が溜まってるところだ。そいつらを殲滅しに行くぞ。……あぁ、その前に武器を選ばないとな、何使う?」

 武器を選べ、と言われてもあまりパッとは浮かんでこない。取り敢えず思いつくものといえば拳銃だろうか。それ以外だとさっき見た槍や剣だが、初心者でも比較的扱いやすい武器と言われている槍はともかく、剣の使い方など教えられた覚えがない。

 私が言葉に詰まっているとそれに気づいたのかルベリアが自分の武器である戦斧を取り出した。

「あたしはこの斧を使っている。生きていたときも斧を使って戦ってたんだ。だからこれが一番馴染みがある。あんたもそんな感じで選んでみたらどうだ?」

 ……斧で戦う?ルベリアって一体いつの時代に生きていた人なんだろう……。

 そう思いながら、ここは死後の世界であることを再認識した気分になった。死後の世界だからこそ、こうやって遠い昔の時代の人と会うことができるのだろう。そんな風に感傷に浸りながらも私はやはり体術と拳銃を使って戦うのがやりやすいと考えた。

「うーん、やっぱり私は拳銃を使います。ありますかね、拳銃……」

「ケンジュウ?あたしは知らないな。お前の生きてた間にできた武器か?爺さんなら知ってるかもだが、今はあの爺さんがどこに居るのか知らねんだよな。まぁまずは武器が置いてるとこに行くか」

「あ、はい」

 やはり拳銃が何なのかは知らないらしい。私より前の時代、それも斧が戦闘に使われていたのだからかなり昔の時代の人だ。

 武器が置いてある場所に行く、と言ったルベリアのあとに私もついて歩いた。


「ついたぞ、ここが武器の保管庫だ。管理人がいるはずだからそいつにその、ケンジュウ?のことを聞けばいいと思う」

 ルベリアに言われるままに管理人らしき人に話しかけて拳銃について聞いてみるとすぐに見つかった。ついでに接近戦にも備えて小型のナイフも貰って腰に付けておいた。

「ルベリア、選び終わったよ。拳銃もあった」

「へぇ、あったのか。ケンジュウってどんな武器なんだ?見せてくれよ」

 ルベリアに言われて私は腰につけていた拳銃を取り出して彼女に渡した。ルベリアはそれを受け取ってまじまじと色んな角度から見ていた。だがよく分からなかったようで首を傾げて私に拳銃を返した。

「なんだこれ?どうやってこれで戦うんだ?これで殴るのか?それとも投げるのか?」

「いや、殴らないし投げないよ。これはなんていうか……弓みたいなものかな。あそこに的があるから見てて」

「弓?」

 不思議そうに言葉を返すルベリアを置いて、私が的から5メートルほど離れた場所で拳銃を構え、引き金を引いた。


 ……姿勢よし、弾よし。狙いは……頭かな。


 空気が破裂するような発砲音が辺りに鳴り響いて、銃弾は的の中心に当たった。死後の世界の拳銃だからか、とても反動が軽い。片手で持っても撃てそうなレベルだ。

 ルベリアの方を振り向くと、驚いたような表情をして固まっていた。彼女の生きていた時代にはなかったものだし、驚くのも当然だろう。

「なんだあれ、弓とは全然違うぞ。弓は撃つ時にあんなでかい音鳴らないし、矢はあんなに早く飛ばない。すごいな、それ。あたしの目でも見えなかったぞ」

 驚いた表情をしたまま弓とは全然違うと言う。確かに弓とは違うが、それ以外にちょうどいい似たようなものが思いつかなかったのだから許して欲しい。

「んじゃ、ま、行くぞ。夢の神を殲滅しに行かないとな。にしても、初陣が夢の神か……あいつめんどくさいんだよな」

 ルベリアがそう言って歩きながら天を仰いでいた。ずっと歩いているうちに街から出て、真っ白な空間に出た。


 突然、ルベリアが足を止めた。少しすると杖を持った青年が向こう側から現れた。

「あぁ、ルベリアですか。それで、後ろは新人さんですね?それにしても、新人が夢の神の相手をすることになるだなんて、ついてないですね」

 その青年は小さな声でそんなことをぼやきながらも魔法を私たちにかけた。さっきから夢の神が厄介そうだと皆が言っているが、それなのに何故新人である私の初陣として選んだのだろうか。それとも何か相手を選ぶことのできない理由でもあるのだろうか。

「まほーは要らないって言っただろ。あたしじゃなくてアンだけに掛けておけ。身体の感覚が変わって距離感が掴みにくくなるから逆に戦いにくくなるんだよ」

 手をひらひらと振って青年からの魔法を払うような仕草をする。青年はやっぱりなとでも言うような顔で魔法を解除した。

「はぁ……何度も言ってるでしょう。魔法があった方が生身よりは戦いやすくなるし取り込まれにくくなると。長くやってきたあなたなら分かるでしょう?」

「長くやってきたから言ってんだ、まほーはあたしには要らない。あった方が良い奴もいれば無い方が良い奴もいんだよ。それに、魔法はあたしの身体の中まで入り込む感覚がして気持ち悪い」

 二人が言い合っていたが少ししたら時間になったようで、ルベリアが戦斧を構えた。

「おっと、もう来たぞ。おいスフィー、アンの支援はお前がやれよ」

 スフィー、どうやらあの青年の名前らしい。彼も共に戦ってくれるようだ。私の援護をするらしいが、私は銃での遠距離攻撃なのでそれほど援助は要らないのではないだろうか。

「アンさんは銃を使うんだから遠距離攻撃でしょう。僕の支援は必要ないはずです」

「あー、そういやそうだったな。じゃあお前が近接やればいいだろ。その杖、他の武器に変えることもできるんだろ?」

 どうも魔法というのはかなり万能らしい。私の生きていた現世の物語では万能には代償があるのが付き物だったが、ここではどうなのだろうか。

 そんなことをふと思いながらも私は攻撃に備えて警戒をする。物音が後ろでしたのが聞こえて咄嗟に後ろを振り向く。そこには小さな子どもがいた。

 どこかで見たことがある、いや、そんな程度ではない。私が死ぬときに犯人が撃った銃弾から庇って助けた子だった。

「……え?もしかして、あなた、ねぇ!あの後、どうなったの……?」

 服装も、髪型も、あの時見た何もかもと一緒。でも一つだけ違うのは、そのちいさな手にはナイフが握られていること。

 私の質問にはその子は答えない。ただ答えずに私の手を引いてずんずん歩く。

「おねえさん、このまえはありがとう」

 私の方には振り向かずにその子は感謝を言葉にする。ナイフの握り方はあまり綺麗ではなく、慣れていない人の握り方だった。自棄になって自殺をしようとするときの犯人によくある握り方。まるでおもちゃでも持っているかのような握り方。

「ねぇ、あなた、もしかして……」

 嫌な想像が頭を駆け巡る。私で守りきることができていなかったら、同僚たちの行動がもし間に合っていなかったら、もしこの子が死んでいたら――

 突然、足元に鋭い痛みが走る。まるでそう――ナイフで刺されたような。

「いっ……!え」

 私が攻撃を受けてすぐに足元を見たところ、そこには私の脚にはナイフが刺さっていた。そしてそのナイフを刺したのは恐らく、あの子。その状況に私が混乱している間にルベリアが音もなくやってきてあの子を真っ二つにした。

「……あっ!」

 手を伸ばす。切られたあの子はそのまま光に紛れて消えていく。

 もしや、あれがさっきから言われていた『夢の神』なのだろうか。

「これでわかっただろ、これから出てくる知ってる人間は全部神だと思いな。さっきのも夢の神だ。傷はスフィーが治す。あいつらは記憶を浸蝕して自分のものみてーに使ってくる。あたしとスフィー以外は全員敵だ。わかったな」

 ルベリアが私の方には一切目を向けず、ただ冷たい声で言う。

「あ、え、はい!」


「まずいな、いつもと同じスパンで殲滅に来てるはずだがいつもより多い。まだ湧いてくるか。多分2倍、いや3倍だな。おいスフィー、本部に連絡しとけ!見える限りでも想定個体数は基準値の2から3倍、手早く終わらせないとあっちに行かれるぞ!」

「了解」

 あっち、恐らく現世のことだろう。そういえば、神が増えすぎるとどうなるのかを聞いていなかった気がする。あとでスフィーさんかルベリアに聞こうと思って私はナイフを右手に、拳銃を左手に持つ。

 拳銃を左手で撃つのは慣れていないが、いざとなれば右手でナイフと拳銃の両方を持つこともできる。それでどうにかしよう。

「……よし。気を引き締めないと」

『かみさまの殺し屋』です。よろしくお願いします。

いっぱい神が出てくるし登場人物はほぼ全員一神教徒か無神論者です

現実の世界と然程違いはないと捉えてもらって読んでください。多神教徒はかみさまの殺し屋にはいませんが、日本みたいな多神教が文化として染み込んでいるところの人はたまに居たりします。そもそも魂が適合しなかった奴らは死にっぱなしです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ