ツバキとルベリア
もうちょっと頻度を高くしたいという心はあります。でもちょっと色々あってぇ……。今ちょっと白鯨捕りに忙しくってぇ……。
対人戦が終わり、かみさまの殺し屋たちが散っていく。ツバキはしばらく管理人さんや最後に残っていた四人と話していたが、それが終わると私のところに来た。
「あ、ツバキ。さっきの、すごかったね……」
「やっぱり見てた?アンももうちょっと強くなったら模擬戦、参加してみたら?」
「そう、だね……でも私、使ってる武器が銃だから剣みたいに首に添えて投了させる、とかができないんだよね」
頭とかに銃を突きつければいいかもしれないが、それだと銃の強みが関係なくなるだろう。参加してみたいのは山々だが、自分の使う武器を考えると遠慮した方が良いような気がする。銃で模擬戦に参加するのは危険すぎる。矢は矢尻を丸くすればどうにかなるだろうけど、銃だとそういうことをするのも難しいだろう。あぁでも、ゴム弾があるか。
いくら治ると言っても銃は複数で集まって戦うときには向いてない。跳弾もあるし、ルベリアのように、私が銃を使っていたら勘で銃弾を避ける力技ができる人相手じゃなかったら使うのは気が引ける。
……ルベリアみたいなことができる人なんてそうそういないだろうしなぁ。練習用の銃とかないのかな。
「大丈夫!管理人さんに聞けば模擬戦用の武器とか出してくれるよ。遠くからだったから分かりにくかったかもしれないけど、矢とかも実戦用は使ってないし!」
私がふと思いついたと同時にツバキが言う。どうやらあるらしい。ツバキが「ちょっと管理人さんに聞いてくるね」と言って管理人さんの方に歩いていく。もし本当に模擬戦用の銃的なものがあるのなら助かる。私も対人戦はやったことがあるとは言っても、本気で殺すつもりでやったことはない。
……追い詰めたり捕まえたりするためにやってたことだからね。
そういえば、ルベリアはこういう対人戦はやるのだろうか、と、考えているうちにツバキが戻ってきた。
「ただいま、模擬戦用の銃、あるって!」
「なら、もっと強くなってから挑戦してみようかな。ところでさ、ルベリアってこういう対人戦の練習とかはしないの?」
「ルベリアちゃん?あの子、力加減とか知らないから普通のかみさまの殺し屋の子たちと戦うと大惨事になっちゃうんだよね」
確かにちょっとわかる気がする。二人以上での討伐が推奨されてる雷の神をごく稀に力技で倒すことがあるとスフィーさんが言っていたし、なにより一応教育係なのに、私に対するあの適当さだ。
……ツバキみたいなことはまず間違いなくできなさそうだよね。
「なりそう……」
「そ、危ないからルベリアちゃんはボク以外と対人戦しちゃダメって言われてるんだよね。対人模擬戦出禁になってるの」
納得の理由であった。それより、ツバキとしか対人戦を許されていないということは、ツバキはルベリアと渡り合える力を持っているということなのだろうか。
……いつの間にか思ったよりすごい人のところに放り込まれて、思ったよりすごい人と話してる……。
偶然とは恐ろしいものだ。ルベリアとは一緒に死にかけた仲だと言っていたが、それはつまり、私が来る少し前までは一緒に神の討伐に行っていたということだろう。
「出禁にされてるって、そんなルベリアとやり合えるツバキもすごいね……」
「うーん、お互い昔から見てたからね。ルベリアちゃんを初めて見たときは『うわ、あいつ何も考えずに突っ込んでいってる』って思ってたよ。すぐに死ぬんだろうなーって。ルベリアちゃんは一応先輩だったけどね」
ルベリアはやはり昔からあの戦い方で生きてきたようだ。ツバキもルベリアも、ずっと前からこの戦い方で、そしてそれで生き残っている。
……そういえば、かみさまの殺し屋ってどうやって死ぬんだろ。
遥か昔に死んでここに来ていそうなルベリアやツバキがいる以上、寿命という概念は無いのではないだろうか。なら、死という事象はそもそもあるのだろうか。それとも寿命が永遠に近いと言っても過言でないほど長いだけなのだろうか。
……というかそもそも、寿命って言い方で合ってるんだろうか……。
「ねぇツバキ、かみさまの殺し屋に寿命ってあるの?」
「ん?ないよ。神に取り込まれて母の庇護から抜けない限りは死なないんだって」
母。熟練の人たちの口から何度も出てくる言葉。でもルベリアも、管理人さんも、母が何なのかという詳しいことは話してくれなかった。
……ツバキもやっぱり、教えてくれないのかな。
あまり期待はせずに軽く尋ねる。
「ねぇツバキ、管理人さんとルベリアも言ってたけど、その『母』って何なの?」
「さぁ?ボクもわかんないよ。人間なのか神なのかも知らない。ルベリアちゃんが昔にそうやって言ってたからボクも知ってるだけ。ルベリアちゃんは案外ここに詳しいからね」
ツバキが、説明は雑だけど、とボヤく。
ルベリアは、一体どれほど前から生きているのだろうか。私には見当もつかないほど前なのだということしか分からなかった。いや、そもそもルベリアがここに来たときからずっと居るかみさまの殺し屋なんて、いるのだろうか。
……そういう人を探す方が難しそう。
「ツバキでもわかんないか。やっぱりルベリアとか管理人さんに聞いたほうがいいのかな」
「うーん、ボクも不思議に思ってるんだよね。母について。誰も教えてくれないし、知ってる人の方が少ないし」
大体の人に聞いても「何それ?」って言われるんだよねー、と言いながらツバキがふと外を見て、パッと立ち上がる。もうかなりの時間が経っていたらしい。思わず話し込んでしまった。
「おい、もう夕暮れだ。そろそろ自分たちの部屋に戻りな」
ツバキの後ろから管理人さんが私たちに声をかけた。その言葉に私も立ち上がる。
「はぁい。じゃ、またね、管理人さん」
「また今度」
私とツバキは管理人さんに挨拶をして訓練場から出る。ルベリアとツバキ、二人の関係も気になるけど、『母』という存在が気になって仕方がなかった。ツバキよりも長くここにいるルベリア。私の知り合いの中では随一の強さと経験を持っている人。
……確かに色んなことを知ってるっていうのも納得な経歴かも。
ルベリアは圧倒的に教育者としては向いていないとは思うけど、腕も知識も確かなものではあるだろう。
「ね、アン。ルベリアちゃんとはどう?楽しくやってる?」
「え?あ、うん。突然引っ張り出されたりしてちょっと大変なこともあるけど、結構楽しいよ」
「そりゃ良かった。ルベリアちゃんは結構人を選ぶタイプだと思うからね」
ツバキがふふっと笑った。その声色は呆れも親しみも、ルベリアに向けられている感情が全部含まれたような暖かなものだった。
ルベリア、一体いつからここに居るんでしょうね。流石に原始時代とかじゃないです。読んでくださっている皆様も登場人物たちの出自を予想してみよう!




