第14話:聖騎士の転職、正義の再雇用
帝国と聖教国の国境沿い。
そこには、聖教国が誇る「第一神罰騎士団」の五百名が陣を敷いていた。
彼らは「魔女エリザベート」を討つべく送り込まれた精鋭だが、その実情は悲惨なものだった。
「……腹が減ったな。最後にまともな食事をしたのはいつだ?」
「三日前の干し肉半切れだ。大司教様は『空腹こそが信仰を研ぎ澄ます』と仰っているが……」
騎士たちの鎧はくすみ、その瞳には深い疲労の色が滲んでいる。
聖教国の財政がエリザベートの「治癒サブスク」によって破綻した影響は、末端の兵士に真っ先に出始めていた。彼らの給与は「天界への貯金(という名の横領)」として差し引かれ、支給される聖水(ただの水)だけで士気を保てという無理難題を強いられていたのだ。
そこへ、一台の輸送馬車が、護衛もつけずに悠々と近づいてきた。
御者台に座っているのは、かつての勇者レオン。
そして馬車の中から現れたのは、雪のように白い毛皮を纏ったエリザベートだった。
「――お疲れ様ですわね、聖教国の皆様。……あら、随分とお顔の色が悪くていらして?」
「魔女エリザベート! 覚悟しろ!」
騎士団長ガウェインが剣を抜こうとするが、あまりの空腹に膝が笑い、剣先が定まらない。
エリザベートは、そんな彼を扇で隠した口元から、慈しむように見つめた。
「あらあら。……そんな震える手で、誰を救えると仰るの? 貴方たちの主は、豪華な椅子に座って私の悪口を言うのに忙しく、貴方たちの胃袋のことなど一ミリも考えていないようですけれど」
エリザベートが指を鳴らすと、馬車の荷台が開放された。
そこから漂ってきたのは、香ばしく焼けた肉の匂い、焼き立てのパンの香り、そして贅沢な香辛料の刺激。
「これは……!? スープに、分厚いステーキだと……?」
「帝国軍の『標準的な給食』ですわ。……そして、こちらが貴方たちへの『提案』です」
セレーネが騎士たちの前に、一枚の巨大な紙を張り出した。
それは、帝国の「聖騎士再雇用プログラム」の求人要項だった。
『アルカディア帝国・特別治安維持騎士団 募集要項』
・基本給:聖教国の10倍(金貨支給、天界貯金なし)
・勤務時間:実働8時間(超過勤務手当あり、魔導時計による完全管理)
・休日:週休二日、夏季・冬季休暇あり
・福利厚生:魔導治癒サブスク使い放題、家族手当、退職金制度完備
「き、基本給が10倍……? 週に二日も休んでいいのか……?」
騎士たちの間に、戦慄にも似たどよめきが走った。
彼らにとって、それは神の言葉よりも「奇跡」に近い内容だった。
「ガウェイン団長。貴方の手元にあるその聖剣、研磨費用も自己負担だそうですね? ……帝国に来れば、専属の魔導技師が毎日無料でメンテナンスいたしますわ。もちろん、残業代も分単位で支給されます」
「ぐ……っ、俺たちは神に誓ったのだ! 金で魂を売るなど……!」
「あら。魂を売っているのは、貴方たちの忠誠心をタダ同然で買い叩いている大司教様の方ではありませんこと?」
エリザベートがレオンに視線を送ると、レオンが懐から一通の「帳簿の写し」を取り出した。
「ガウェイン。……お前たちの年金(退職金積立)、教会上層部の豪華客船の購入費用に消えていたぞ。この帳簿、エリザベート様が聖教国の隠し金庫から『監査』で暴き出したものだ」
その瞬間、騎士団全体の空気が変わった。
怒りと、虚無感。そして、目の前の温かな食事への渇望。
「……もう、限界だ」
一人の若い騎士が、剣を地面に投げ出した。
それを皮切りに、次々と剣が落ち、金属音が国境に響き渡る。
「ガウェイン団長、ご決断を。……誇り高い騎士として飢え死にするか。それとも、私の『所有物(社員)』として、正当な対価を得て、真に守るべき人々を守るか」
エリザベートは、震えるガウェインの前に、最高級のペンを差し出した。
「さあ、契約書にサインをなさい。……『ブラックな聖域』から、貴方たちを解放して差し上げますわ」
ガウェインは、悔し涙を流しながらも、そのペンを手に取った。
この日、聖教国最強の「盾」は、求人票一枚によって消滅した。
帝都へ向かう馬車の列の中で、肉を頬張りながら涙する騎士たちの姿を見て、エリザベートは満足げに微笑んだ。
「ふふ……。正義で飯は食えませんが、飯を食わせてくれる人間が『正義』になるのですわ。……さて、次はどこの部署を『引き抜き』ましょうかしら?」
「正義」を労働条件で完封する。
これこそが、エリザベート様の最も合理的で冷酷な「聖域解体」ですわ。
聖騎士たちが肉を食べて号泣する姿に、至高のカタルシスを感じていただけましたら、
ぜひ下の【☆☆☆☆☆】を評価に入れて、帝国の求人拡大を応援してくださいな。
皆様の評価がある限り、聖教国は「人手不足」で物理的に崩壊することでしょう。
次回、第15話『神の代弁者、定年退職の勧告』。
ついに行き場を失った大司教に、エリザベート様が「早期退職(強制)」という名の引導を渡します。
お楽しみに。




