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初陣 ノ 戦果

 あれ? なんで生きてるの?


 なんで魔術の通路を使ってるの?


 てことはあの通路はルゥが発動したやつ?


 いや、無理だよな。いくら規格外でも、さすがにもう出来ないはずだ。最近のルゥの弱り方はよく知ってる。ギリギリ生きてるって感じだもん。


 さっぱりわからない。なにが起こってるんだ。


 考えていると、マンデイが跳躍。空を飛ぶ俺に抱きついてくる。


 よくわからないけど、とりあえずマンデイの体を抱く。


 『ごめん、マンデイ。俺いま耳が聞こえないんだ。通信機を使ってもらっていい?』

 『うん。先に翼を(たた)んで』

 『いいけど畳んだら落ちるよ』

 『それでいい』


 ん? まぁいいか。


 『状況がうまく呑み込めないんだけど、説明してもらっていい?』

 『ファンが助けてくれた』

 『誰それ』

 『ゲートが開く』


 落下する俺とマンデイの下に魔術の通路が開く。


 えぇっと。


 ファンなる人物がマンデイを救い、俺の救助にも来てくれた感じ? 優しい人もいたもんだ。


 ていうか、なんで魔術を使えるんだろう。使用者は限られてるはずだけど。


 落ちる勢いに任せて魔術通路に入ると、また別の通路が。また別の通路。そしてまた別の通路。それを何度か繰り返すと、平原に出た。たぶん王都の外だ。


 最後に俺たちのそばに通路が開き、中年の女が出てきた。


 なんか知らんがかなり怒っている様子。俺に向かって指差して怒鳴ってる。


 顔立ちは東南アジアの人のみたいに見える。背の低い小太りの中年。クッキー作りが得意で有名なおばさんみたいな、どこにでもいる普通の中年女性だ。


 とにかく怒ってる。


 『マンデイこの人なに言ってるの? 耳が聞こえないからわからん』

 『ファウストが王都を破壊しようとしたことを怒ってる』

 『なるほど。俺の耳が聞こえないことを伝えてもらったうえで通訳頼める?』

 『うん』


 この人がファンなのかな?


 マンデイがファンになにかを言う。


 すると、ファンは一度俺を(にら)みつけた後、指を立て、なにかを叫んだ。たぶん悪態だろう。


 今度はマンデイが怒ったらしく、ファンの肩を掴み、なにかを言う。


 ふたりの間に散る火花が見えそうなくらい空気は悪い。剣呑(けんのん)である。


 100%俺のせいだな。ホント申し訳ない。


 『マンデイ、よくわからんが揉めないでくれ。そしてとりあえずここにいたら危ないから離れよう。ゴマとハクは?』

 『避難してる』

 『ケガは?』

 『ない』

 『わかった。この人がファンさん?』

 『そう』

 『通路を繋いでもらうように頼んでもらっていい? あっ。ムドベベ様とリズは?』

 『先に帰ってる』

 『そっか、良かった』


 何度か通路を潜ってたどりついた場所にいたのはゴマ、ハク、フューリー、そして何故かヨキ。


 まったくついていけない。なにが起こってるんだ。こりゃ通訳頼んでたら(らち)があかんな。


 『マンデイ。耳を治してもらいたいんだけどいい?』

 『うん』


 でも良かった。みんな無事で。


 『ヨキさん。もう二度と会えないかと思ってました』

 『すまなかった』


 ヨキが素直に謝ってる。なんか気持ち悪い。


 『いえいえ。無事だったわけですし』

 『あぁ』

 『リズも無事に保護しました。マグちゃんは家で休んでます』

 『そうか』

 『ひと安心ですね』

 『あぁ。ところでファウスト。お前、王都を全壊させる規模の魔法を使ったそうだな』

 『えぇ。地上班が全滅したと勘違いしてまして』

 『それは別に構わないが、俺を巻き込むかもしれんとは考えなかったのか』


 ……。


 あ。


 『いまとっさに考えた言い訳と、限りなく真実に近い弁明があります。どっちが聞きたいですか?』

 『どっちも言ってみろ』

 『ヨキさんの体はレイスとしての存在があれば何度でも造り直せるから大丈夫かな思いました、というのがいま考えた言い訳です』

 『ほう。で?』

 『仲間がやられたことで頭が真っ白になって、もういいや、こいつらまとめて吹き飛べばいい、王都をぶち壊してやろうと考えたのが真実です。ヨキさんのこと、すっかり忘れてました』

 『ほう』

 『……』


 ごめんて。


 『すいません』

 『もう熱くなるなとマグノリアを叱れんな』

 『まったくです。完全に怒りに支配されてました。リズが音が聞こえないって言うから、やられたものだと思い込んでいたんです。まさかルゥとおなじ魔術を使う人がいるとは想像もしてませんでした』

 『ファンだな。ファン・マウ』

 『マウ?』

 『あぁ。ルゥの子孫だ。通常は偽名を使っているらしいがな』

 『ファンさんがヨキさんを救ってくれたんですか?』

 『あぁ、そうだ。ファンとその仲間は俺たちの動きを注意深く観察していた。そして俺たちを手助けすることは先々の自分たちの利益に繋がると結論を出した』

 『利益?』

 『デ・マウ打倒だ』


 なるほど。


 『確かデ・マウから人々を守る活動をしてるんでしたね』

 『だが用心は怠るな。完全な味方というわけではない』

 『どういう意味です?』

 『ルゥに良い感情をもってない。お前にもな』

 『僕に良い感情をもってないのはわかりますが、どうしてルゥに?』

 『この状況をつくったのはルゥの責任だと考える者が多いようだ』


 見方によっちゃそうなるか。だがルゥも精神支配的なことされてたみたいだし、なんとも言えん。


 『念頭に入れておきます』


 ルゥの子孫か。魔術師が味方になってくれたら、そりゃ助かるが、変に信頼して、背後から刺されたりしたらたまったもんじゃない。


 出来れば協力を要請したいが、自分たちに負の感情をもつ相手とうまくやっていけるだろうか。


 さっきもマンデイと揉めてたみたいだしな。


 う〜ん。


 『もう治る』

 『ありがとう、マンデイ』


 あぁ痛かった。落下充電する時はちゃんと《コメット》を着用しよう。


 「この度は大変なご迷惑をおかけしました。僕はファウスト・アスナ・レイブと言います。知の世界の代表者で、現在デ・マウと交戦中です」


 耳が治ったから早速謝罪した。今後の展開を考えると、これ以上悪い印象を与えるわけにはいかない。


 謝罪は誠意だ。全力で謝る。


 「私はファン・パント・ラグナー。ファン・マウでもいい。そんなことよりファウスト。一つ訊きたい」

 「なんです?」

 「どうして街を破壊しようとした」

 「仲間がやられたと思って頭が真っ白になってしまい、なんとか一矢報いようという気持ちでやりました。いまは味方のヨキさんや一般市民を巻き込んだらどうなってたかを想像して肝を冷やしてます」


 考え込むファン。


 うぅん。マズい答えだったかな。


 しばらくして、ファンが口を開いた。


 「老婆心から忠告しとくわ」

 「なんでしょう」

 「あんた達、逃げなさい。デ・マウには絶対に勝てない」


 ん?


 「何故です?」

 「ヨキちゃんは人間じゃないわね。どういう仕組みかはまったくわからないけど、自然の摂理を超越した体をもってる。世界中の誰もが(むらや)むような体ね。この子はデルア五将の一人を捕らえて、一人を追い詰めた。この戦果がヨキちゃんの体の理不尽さを物語ってる。でも詰めが甘かった。戦うということをまるで理解してない」


 ヨキ、ちゃん? ちゃん……。


 シリアスな感じだから突っ込みたいけど、突っ込めない。ちゃんが気になって話半分しか入ってこない。


 ダメだ。考えるな。


 「ヨキち……、コホン、さんは経験豊富な剣士ですし、戦うことの意味は誰より理解してると思いますが」

 「この子がなにをしたか知ってる?」

 「さぁ、いま合流したばかりなので」

 「使えば動けなくなる魔法を使ったの。敵を倒すために」


 魔法? ヨキの魔法……。


 あぁ、なるほど。


 「《朝陽》、終の太刀を使ったんですか?」

 「あぁ」

 「それはまた」

 「すまなかった」


 ヨキの奥の手中の奥の手。終の太刀。アホみたいに強力だけど、使った後は体が動かなくなる。マグちゃんが聞いた爆発音はそれだったのか。


 使用するのは味方が速やかにヨキを救出できる場面、もしくは体を捨てて差し支えない場面。つまり数で優っている状況でのダメ押し、あるいは体が弱り切って、かつレイス状態でも逃げ切れるような退路がある状況での自爆がメインになる。


 少なくとも敵を倒す目的で使うような技じゃない。

 

 本人が謝ってるってことは、使い方を間違えた自覚はあるのだろう。欲張っちゃた感じか。


 なんかヨキって自暴自棄なとこあるもんな。死を恐れないっていうか。あっもう死んでたわ。


 「わかったでしょ。ヨキちゃんの甘さが。命をかけることを美化しちゃいけない。本当に戦いに勝ちたかったら最後まで生き残る選択肢を残さなくちゃいけないの」


 その意見には激しく同意する。


 「あと、この子」


 と、ファンがマンデイを指す。


 「マンデイがなにか?」

 「助けてあげたのにルゥの子孫だという証拠がないって急に殴りかかってきて、抑えられて、指を折られそうになったのよ! どういう教育をしたらこんな子になるのか!」


 あっ、ごめん。保護者は俺っす。


 「すいません。知らない人についていっちゃダメって日頃から言い聞かせていたので」

 「ヨキちゃんがいなかったら、今頃私の指は反対側に曲がってるわ」


 たぶん、それだけじゃ済まなかったと思うが。


 「それにあなた。自棄(やけ)になって街を破壊しようとした。王都には私の孫もいるし、友達だっている。普通に生活している、なんの罪もない人たちが」

 「それは本当にすいません」

 「街を落とした、拷問された、脅迫された、奪われた、破壊された。悪い話ばかり聞いてたから、どんな凶悪な奴かと思ってたら、ほんの子供じゃないの。もっと自分を大切にしない。命の重さをわかってないからすぐに暴力で解決しようとする。短絡的で想像力がない。断言する。いまのままじゃ絶対にデ・マウは倒せない」


 ……。


 弱ったな。返す言葉がみつからない。


 「僕は戦争とは無縁の穏やかな場所に住んでいた期間が長かったですし、ヨキさんもこの体になって間もない。この白い狼と女の子も生まれたのは最近でした。この銀の狼は獣の世界の代表者で、フューリーさんと言います。戦士として完成しているのは、おそらく彼だけでしょう。認めます。我々は未熟です。判断ミスをしますし、無謀なことをやりました。楽に勝てる相手じゃないのも充分に理解してます。ですが逃げるわけにもいかないんです」

 「追われるから? それともル・マウのために?」

 「ヨキさんに聞いたんですか」

 「えぇ、おおよそのことはね」

 「どちらも正しい。デ・マウが生きている以上、僕は安心して暮らせません。デ・マウも王子を代表者だと発表しているのなら後には引けないでしょうし。だから僕とデ・マウは、どちらかが力尽きるまで戦わなくちゃいけないんだと思います。そして幸運なことにデ・マウ打倒は僕の命の恩人の悲願でもある」

 「そういえば、あの人死にかけてるんでしょ?」

 「そうですね、かなりギリギリの状態です」

 「はぁ、まったく。ル・マウが亡くなったらデ・マウがどう動くかわかったもんじゃない。最悪の兄弟喧嘩だよ」


 最悪の兄弟喧嘩。その通りだ。


 トントントン、とファンが指で拍子をとる。


 なに考えてんだろ。


 協力するって展開になってくれたらありがたいんだけどな。


 むむむむむ。


 沈黙が痛い。


 「ねぇファウスト、一つ約束して欲しいんだ」

 「はい、なんでしょう」

 「今回みたいなことは二度としないで欲しい。あんたには戦う理由があって、戦う力もある。でも大抵の人間はそんなの持ち合わせちゃいない。まったく巻き込むなとは言わない。私たちだって誤ってなんの罪も無い人間を手にかけたことがある。でも今回みたいなことだけは、もう絶対にするな」

 「はい。もちろんです」


 心から反省してるから、もうやらない。


 「それを約束できるなら、戦える奴を何人か貸してやる。でも殺すんじゃないよ」


 よっしゃ! なんか魔術師ゲット!


 「そしてあんたも死ぬんじゃないよ。この世界を救うんだろ?」


 良かった。助かる。


 あっ、そうだ!


 「ファンさん。よかったら不干渉地帯に遊びにきませんか? ルゥにも会って欲しいし」


 ビクっ!


 ん? なにその反応。


 「えぇっと、嫌ですか?」

 「ヨキちゃんから聞いてはいたんだけどさ。あんた、本当にあそこに住んでるの?」

 「住んでますけど?」

 「信じられない。生き物を傷つけたら襲われるんだろ?」

 「あぁ、そうですね。でも意外と判定は緩いですよ。悪意をもたなかったら狩っても大丈夫ですし。土地をリスペクトして、生き物をリスペクトして、で、祈りながら狩るみたいな」

 「そ、そう」

 「安全だから是非遊びに来てみてください」

 「機会があればね」


 それ、行けたら行くとおなじやつだ。


 「そうですね。じゃあそのうち」

 「えぇ」


 ファンとの会話を終えるとすぐにフューリーが。


 (色々とすまなかったのう、知の)

 「こちらこそすいません。暴走しちゃって」

 (お主は人形のこととなると熱くなっていかんのう)

 「まったくですね。僕とマンデイは人生の一番辛い時に支え合っていたので、思い入れが深いんです」

 (うむ。今回、お主の魔法から王都を守ってくれとファンに依頼したのも、お主の人形だったのう)

 「え! そうなんですか?」

 (お主が上空に飛びはじめた時から、お主の行動を読んでおった。そして言った。王都を壊せばお主が必ず後悔する、と)


 そっか。


 「ありがたいですね」

 (いい仲間だ)


 あぁあ。最悪だ。


 負傷者が出て、間一髪で助かった味方がいた。下手したら全滅してたかもしれない。


 全然ダメだ。


 まぁ最初からうまくいくわけないもんな。


 とりあえず。死者はゼロ。ちょこちょこ情報も得たし、相手の力もなんとなく把握した。


 次だな。


 次はもっとうまくやる。


 仕切り直しだ。

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