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嘘 ノ 応酬

 周囲(まわり)がよく見える。


 俺を取り囲む六人の兵士。建物に登って来ようとしてる死の傀儡(くぐつ)。空で戦う不干渉地帯の主。


 あっリズベット置いてきちゃったな。まぁいいか。ムドベベと一緒なら大丈夫。


 側面から死の兵士が突っ込んでくる。


 前置きなしに襲いかかると女の子に嫌われるらしいですよ。いまから襲いますよ、って宣言してからじゃないと。


 攻めてきたのは一人だけ、死の兵士だ。他の連中は、ただこちらを見てるだけ。


 なんかスローに見える。兵士の動きだけじゃない。この世界のすべての時間の流れが滞ってしまっているようだ。


 目的がはっきりしてるからかな? だから集中できているのかもしれない。


 余計なものはなにもない。あるのは俺と攻撃対象だけ。


 俺は相手の腕を絡めとって、スピンで皮膚と筋肉を破壊、動けなくしてから服を掴んで体勢を崩した。


 兵士は筋肉が断裂しているのに、なんの反応もしない。


 そういえばドミナ・マウの死霊術が使う死体って痛みも恐怖も感じないんだった。


 ギアを貫通に切り替え、喉元から頭部に向けて刺す。兵士は糸の切れた人形のように崩れ落ちて動かなくなった、やっぱ頭部破壊だな。ゾンビと一緒だ。


 なんで一人で突っ込んで来たんだろう。この長身の女の部隊とおなじユニフォームを着た死の傀儡は全部で三体。生きてる奴とゾンビ、みんなで同時に攻めてきた方が対処し(にく)かったのに。


 ……。


 あぁ、様子見か。


 「ちょっとまちなさい」


 と、長身の女。


 「なんです」

 「投降なさい。さっきは挑発目的であんなことを言ったけどまだ生きてるわ。お嬢ちゃんもワンちゃんも」

 「どこにいるのです?」

 「ドミナ! 攻撃を止めさせて! うるさくて話せない! この死体が出てきた建物があるでしょ? そのなかで保護してる」

 「どうして急に交渉しようと思ったのです」

 「もうクタクタなの。戦いたくない。嫌な予感はしてたのよね。初日の長髪の剣士はいままで見たことないような技を使ってきて、さっきのお嬢ちゃんも人間離れした動きをしてた。そして最後はあなた。死んでいたとはいえ私の部下をたった二発で再起不能にする。今回の連戦で多くの部下を失った。もう止めましょう。話し合いで解決した方がいい」

 「僕の仲間をどうやって連行したのですか」

 「どうやって? 普通に連れて行ったわ。無力化すためにちょっと怪我をさせたけど命に別状はない」

 「大変だったでしょう」

 「えぇ。でも賢い生物だったわ。自分たちの置かれた状況をしっかり判断して投降してきた」

 「女の子の方はどうでした?」

 「苦労したわ。でも数で抑えたらなんとかなった。いくら格闘が得意でも、力で制圧したらどうにもならない。あんな小さな女の子なんだもん。でも安心して、殺してはいない。約束するわ」

 「そうですか。なら僕も降参します。一人で戦ってもどうせ勝てないし、それにもう戦いはウンザリです。仲間に会わせてもらえますか?」

 「いいわ。そのまえに、武装解除してもらっていいかしら」

 「ええ、もちろん。しかしこれ、自分じゃ脱げないんです。体に密着しているので。手伝ってもらっても?」

 「いいわよ」

 「すいません。ありがとうございます。後ろを引っ張ってもらったらいいので。実は僕もクタクタなんです」


 俺は深々と頭を下げた後、長身の女に近づき、そして(つまず)くフリをして抱きついた。



 《回転・抱擁(ほうよう)



 体中に魔力を(まと)い、それを回転に変化さる。


 だが女の体が予想以上に固く、出血は少量。


 が、それでいい。少しでも傷があればそれでいいんだ。



 《毒針》



 すぐに反応したのは、女自身よりももしろ女の仲間。四方から一斉に襲いかかってくる。


 最初に来たのは死んだ兵士二人組。


 近い方の喉元に《回転》を打ち込み機能停止させ、他の兵士に攻撃されないように、体を盾にする。


 そして《衝撃》に切り替え、死体を飛ばす。巻き込まれたのは女の部下。まだ生きている兵士。


 「仲間がどうなってもいいの!?」


 もう一体の死の兵士も回転で再起不能にしたところで、敵の女が制し、最後に残された兵士は動きを止めた。


 賢明な判断だ。


 「嘘はダメですよ嘘は。マンデイを力で取り押さえた? そんなの出来るわけないじゃないですか。犬が投降した? 一頭は戦闘経験豊富な最強の獣。もう一頭は仲間を救うためなら命さえ惜しまない優しい獣。最後の一頭は誇りが傷つけられるくらいなら死を選ぶほどプライドの高い獣。頭がいいというのは慧眼(けいがん)ですね。戦いのなかで観察し、そう判断したのでしょう。確かに他の獣とは比べ物にならないほど頭が良い。連携もスマートだ。だからこそ、捕まってしまえばどうなるかくらいの想像は出来るんだよ!」

 「ドミナ!」


 ふたたび動き出す死の傀儡の群。


 こんな奴らに負けたのか。マンデイは、ゴマは、ハクは、フューリーは。


 こんな奴らに……。


 もう散々ムドベベ様が暴れたし、住民の被害も相当なものだろう。


 いまさら百や二百の死者が増えたところで変わらないか。



 シェイプ・チェンジ



 この国は壊そう。国民も建物も土地も全部。


 女が膝をついた。呼吸が荒くなっていく。


 「苦しいですか?」

 「なに……を。した」

 「教えるわけないじゃないですか」

 「くっ」

 「僕、この国を壊すことにしました。全部。国民も、土地も、建物も、兵士も、文化も、生活も。僕からすべてを奪った国だから。僕もあなた方のすべてを奪おうと思います。恨まないでくださいね。先に手を出したのはそっちですから」

 「やめ…」

 「それでは御機嫌よう」


 上空に飛び上がる。


 途中、アホみたいに多い飛竜の群れと戦っているムドベベ様に伝えておく。


 『ムドベベ様。いまからこの辺一帯を吹き飛ばします。巻き込まれたらシャレにならないので、すぐに退避してください』

 『ちょっとまってファウストさん。なにを?』

 『リズさん。皆やられました。まだ気配はないのでしょう?』


 こっちにくる飛竜の相手をしながら、通信する。


 やっぱ数の暴力は強いな。いくら個が強くてもどうもならない。


 『ありません。でもここには普通の人も生活しているんです。一帯を吹き飛ばすってそんなことしたら……』


 たぶん俺はどこかで間違ったんだ。最初から軍隊を造る方向で考えなくちゃいけなかった。失っても心が痛まないような原始的な行動原理で生きる生物の軍隊を。


 正しかったのは虫の代表者のやり方だった。


 『彼らの罪はデ・マウに庇護されていることです。そしてデ・マウの国に住んでいること』

 『でも--』

 『議論している暇はありません。すぐに退避を』



 《適応力》



 開発途中の技だから、安全性は確立されていない。たぶんスーツも体も無事じゃないだろう。《コメット》があればよかったんだけど、ないものはないからしょうがない。


 急上昇しながら、攻撃用の子機を展開する。


 足音がないってのはそういうことだ。急に消えるってのはそういうことだよ。


 シカの一件からなんも成長してないな、俺。


 なんも守れない。


 どうしようもないな本当に。


 また会いたいなぁ。


 これが終わったら会えるかな、家族や仲間に。アスナに。マンデイに。


 寒い。苦しい。辛い。


 これ以上いったら《適応力》でごまかせなくなる。この辺が限界か。


 スーツのヒダをすべて立てて充電状態に、そして子機も充電滞空モードに変形させる。


 全部、なくなってしまえばいい。


 落下。


 風の魔法でバランスをとりながら、周囲の風を操作、子機に集めていく。


 子機とスーツが高く、大きな音をたてる。


 落下充電に対応するために、《コメット》には遮音(しゃおん)機能がついているのだが《鷹》にはそれがない。


 子機とスーツの発てる轟音は、なんとも形容しがたいものがある。


 連続する爆発音。違う。


 飛行機のジェットエンジンの音。それも違う。


 工事現場をひどくさせた音、あるいは無数の鳥の鳴き声。そんな感じに近いかもしれない。


 音より痛みに近い。刃物で耳の奥を切られるような痛みに。


 鼓膜破れたりしないかな。まぁ耳くらいなら聞こえなくなってもいいか。


 しばらく落下を続けているとなにも聞こえなくなった。


 案の定、耳がやられてしまったらしい。困った困った。


 だが音がないってのはいいな。静かで。


 もし深海とかに行けたらこんな感じなのかもしれない。


 なにも、ない。


 無いという状態が()るだけだ。


 今度生まれ変わるなら、深海の生き物がいいな。エビとかチョウチンアンコウとか。そして静かに暮らしたい。


 子機を一箇所に(まと)めて、結合。機体のなかで魔力を回転させていく。


 本来はこれも中々に音のする作業なのだが、ありがたいことに俺の耳はもう壊れてる。


 魔力が充分にあることを確認したら最終工程。性質を変化させていく。半分は風、もう半分は電気。


 あとは仕上げをするだけだ。


 風と電気の魔法を丁寧に丁寧に融合させていく。自前の魔力で放つ魔法とは規模が違う。失敗したら大惨事だ。大雑把なことは出来ない。


 二種類の液体が混じり合うイメージは、ホワイトソースに近い。ベシャメルソースと生クリームを混ぜるみたいに。


 タイミングを見誤れば焦げつき、ダマになる。


 慎重に慎重に。


 自らのエネルギーに耐えられず、子機が粉々に壊れた。


 現れたのは膨大な力の結晶。


 電気と風に変換されたエネルギーは、白く輝く月のようだ。


 綺麗だなぁ。


 さよならみんな、さよなら異世界。


 マンデイの仇だ。デ・マウ、お前の造った物すべて、(ちり)に変えてやる。


 降り注ぐ流星、爆ぜろデルア。



 《複合魔法・天体衝突》



 俺が投げた魔法が、ゆっくりと落ちていく。


 このままでは巻き込まれてしまうと思いはしたがら最早そんなことはどうでもよかった。


 結局、生き残ったのはリズとムドベベ様だけだ。おそらく不死のフューリーも無事だろう。


 だがそれ以外は皆、死んだ。


 認めよう。デ・マウは強かった。


 数がいる、というのはそれだけで強力だ。


 もっとうまくやる予定だった。相手の弱点を調べて暗殺なり不干渉地帯の生き物のスタンピードを活用しての戦闘なりを考えていた。


 が、失敗した。


 失ったものは取り戻せないし、時間も戻らない。


 もっと強い能力を貰っていたら……。


 今更そんなこと言ってもしょうがないか。それにもし違う能力だったらみんなとは会えてないもんな。


 うん、これでよかった。


 俺は王都に落下する《天体衝突》をただ漫然(まんぜん)と眺めていた。


 激情に任せて最悪なことしちゃったな。


 一般市民が大量に犠牲になる。


 完全に悪役だこれ。


 世界を救う奴がすることじゃない。でも、もう止まらない。しょうがない。


 と、俺の魔法が地面に衝突する直前、魔術の陣が浮かび上がった。


 うわ〜魔術を使う人がいるんだぁ。なんて思って見ていたら、陣は俺の魔法を呑み込んだ。


 少し遅れて背後から衝撃が。


 そっか。デ・マウも魔術を使えるんだ。五百年の間にルゥとおなじ通路の魔術を習得してたんだな。


 こりゃ完敗だ。


 なにやっても勝てん。


 と、また魔術の通路が開く。


 魔術の陣から出てきたのは黒いスーツに身を包んだスタイルのいい……。


 ん? マンデイ?

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