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鼠 ト 狼

 格上と戦うなら不意打ちとか罠といった搦手(からめて)、能力の対策は必須になってくる。正面から打ち合うなんて展開には持ち込まれたくないし、出来ることはなんでもしておきたい。


 ヨキとリズがシャム・ドゥマルトに着くまで、もう少し時間があるだろうし、いまのうちに装備を整えておこう。


 彼らが王都に到着したら俺は、毎晩連絡のために王都と不干渉地帯を往復しなくてはならなくなる。それなりに多忙になるはずだ。なにか造るならいまのうちかもしれない。


 ヨキとマンデイ、マグちゃんに対して造ってあげられるものは、いまのところなさそうだ。


 ヨキには《夜風》と《朝陽》という二本の刀、体とおなじ要領で粒子化できる服を造ってあげた。戦闘スタイルはすでに確立しているし充分に強い。ていうかいま以上の装備を造れる自信がない。


 マンデイに創造したのはスーツとメイス。それだけだ。それだけで完成してしまった。


 創造する力はシンプルな物を造る時に反則的な力を発揮する。例えば《夜風》は斬ること、《梟》の消音性。そういう風になにかに特化させれば、圧倒的な性能になる。


 マンデイのメイスは《頑丈さ》に特化している。固くて衝撃に強くて、重い。未発達な細胞(グロウ・ファクター)で身体能力が大幅に向上、スーツのアシストもあるマンデイにとってはお誂えの武器になった。


 スーツは二層の液体を柔軟性のあるいくつもの膜で保護した代物。マンデイは水の魔法を使って、スーツを自在に操る。


 造るのにはかなり苦労した。液体の行き来だけは阻害せず、かつ壊れにくいという特徴がなくてはならないのだから。血のにじむような試行錯誤の末、完成したのは人の細胞をモデルにしたスーツ。細胞間を水分が行き来する機構を模倣した。ヨキの《夜風》に使った技術、自己再生能力もつけている。いくら品質が高かったとしても、絶対に壊れないということはありえない。そして水魔法で操作するという性質上、液体でなくてはならない。傷がつけば液体が漏れ、性能が落ちる。


 そのため細胞を模した一つ一つの空間をの範囲を小さくして、漏れる液体量を最小限にするようにデザインしているのだが、それだけでは心もとない。だからもし傷ついても戦えるように自己再生は必須だった。相手の血液や肉を吸収させればあら不思議、壊れたスーツが元どおりに!


 スーツの内側の層は衝撃を吸収させることに特化させた。ある程度の攻撃は吸収できる。


 外側の層は疑似筋肉。マンデイの水の魔法で操作可、瞬発的にイカれた火力を発揮でき、魔力操作を操作することですごく硬くなる。攻守に優れた性能になった。


 これだけの装備でマンデイは、近接戦で変態的な性能を発揮するようになる。


 相手の攻撃は持ち前の運動神経と読み、スーツのアシストでひょいひょいと回避し、光魔法で目くらまし。怯んだら高火力の足技とメイスでとどめをさす。一発一発の火力が半端じゃない上、スーツのお蔭で素早く、防御力まである。


 このようにしてマンデイは近接戦闘の鬼になった。これ以上なにが必要かわからない。


 マグちゃんに造ったスーツは、効率的に毒を打ち込むための飛び出す針とグレネードなどの小物、最低限の防御性能、以上。


 ルゥと魔力をシェアしているマクレリアのような特例を除けば、ラピット・フライは魔力の保有量が少ない。しかも体が小さいから防御力が極端に低い。だから魔力タンクや、もっと優れた防御性能のスーツを着用して欲しかったのだが、本人が拒否。


 ――重イ。


 とのこと。


 重量のせいで速度が落ち、敵の攻撃を食らうのだったら本末転倒だ。そもそもラピット・フライって種族自体が、当らなくてはどうということはない戦法だからね。


 問題はリズベットと俺。


 リズベットには必要なものが多すぎる。あれも欲しい、これも欲しい。シンプルな性能で最も力を発揮する創造する力とのシナジーが悪いのだ。どうにかしてあげたいが、いますぐに解決できるような種類の悩みじゃない気もする。


 次は俺。


 戦闘スタイルは中衛。飛行能力で戦況が悪化した場所に駆けつけて加勢する、というスタイル。だから、どんな状況にも対応できなくては意味がない。万能でなくてはならないのだ。


 このまえの主様との戦い。あれは一対一だったから良かった。しかしゲノム・オブ・ルゥのみんなで戦っていたらどうなっていただろうか。高度勝負なんてトリッキーな真似は出来ないし、接近戦では火力が絶望的に不足していた。


 火力不足は以前から懸念していて、フライングスーツと並行して魔力変換式攻撃ギアを創造した。


 魔力を衝撃、振動、貫通の三パターンに変化させて対象物を破壊するというものだが、それぞれに相性がある。


 衝撃はだいたいどんな相手にも効果があるが、柔らかい物に対しては弱い。主様の羽みたいにね。


 振動は硬い物に効果的。壁、甲羅、殻、そういう物に。


 貫通はエネルギーを連鎖させて奥の方へダメージを与えるタイプで、生物の内臓を損傷させるのが主な目的になる。羽毛のように一枚一枚が分かれているような構造には効果が薄い。


 三つとも効果がない生物の存在を確認した以上、新しい攻撃手段が欲しいところではある。


 中遠距離の攻撃手段も欲しい。


 フライングスーツの弱点は重量制限である。飛行するというスタイルにはなにかと制約が多いのだ。


 攻撃ギアの新しい形と、中遠距離の弾。うぅん。どうしたものか。


 「ねぇねぇファウスト君」


 一人で頭を捻っていると、マクレリアが声をかけてきた。


 「なんです?」

 「フューリー君が来たよ」

 「へ? どこに」

 「さっき壁を飛び越えたねぇ」

 「マジですか? ちょっと迎えに行ってきます」

 「いや、行かなくてもいいと思うけど……」

 「行きたいんです!」


 なんて良いタイミングなんだフューリー。最高。イケメン。愛してる。


 「マンデイも来るか?」

 「うん」

 「ハクは?」

 「バウ」

 「マグちゃんも行く?」

 「行ク」

 「よし! みんなで迎えに行こう」


 あぁ、早く会いたいなぁ。久しぶりだなぁ。ルーラー・オブ・レイスと水の代表者の件があった時が最後だから六年振りか。ヤバい、すっごくワクワクする。早くフューリーに会いたい。


 『すれ違わないように周囲には気を配っててね』

 『わかっタ』『うん』


 しばらく飛んでいると、遠くの方に陽の光を反射してキラキラと輝く銀色の毛が視界に入ってきた! 視界がいい場所を走っていてくれて良かった。樹木の下だったら見逃していた可能性もあったからね。


 『見つけた。マグちゃん、行こう。マンデイはハクと一緒に俺を追ってくれ。ゆっくりいいぞ』

 『うん』


 フューリー、フューリーだ! やっぱ速いなアイツ。


 まぁ俺の方が速いけどね、ふん!


 「フューリーさん!」


 上空から叫ぶ。フューリーは足を止め、見上げる。


 (なんだ? 知の、お前か?)

 「僕です僕です」


 そのままの勢いでフューリーの首筋に抱きついた。フカフカしてて、気持ちがいい。あぁフューリーだ。


 「痛っ!」


 ん? 痛い?


 「ちょっとなによあんた! バっカじゃないの! 急に飛びついてきて!」


 フューリーの首元には掌サイズの、それはそれは小さな女の子が乗っていました。


 誰?


 「だいたい常識ってのがないの? 代表者ってのはみんな! あんたの言うことを信じた私がバカだったわ。なにが真面目で実直な男よ。尻尾が千切れるとこだったわ! なんでいきなり抱きついてくるのよ、この鳥人間! 抱きつきたい時はね、いまから抱きつきますけど構いませんか、って尋ねてから抱きつくのよバカ! 私が死んだらどう責任とってくれるの? 私にはね、家族がいるのよ!? 可愛い妹と弟がいっぱい! ちゃんと保証してくれるんでしょうね!」


 なんだこの喧しいネズミ人間は。


 「あんたもそうよフューリー。いっつも急にいなくなって! あんたがそういう風にだから突然抱きついてくるような変な友達しか出来ないの! わかってるの? あんたたち、女子に嫌われるタイプね。失格! 順序を踏まない男は絶対にダメ。初デートでいきなりキスするタイプでしょ? 女心がわかってないとそういうことを平気でするのよね、くだらない! 良いサプライズと悪いサプライズってあるの。わかる? 記念日とかに上等な麦をもってきてくれて、耳元で愛してるよ、って囁くのは良いサプライズ。あんたみたいに飛びかかってくるのは悪いサプライズの典型よ。そりゃ私だって……。ねぇ聞いてんの? 無視してんじゃないわよ! 鳥のくせに! バーカ! バーカ!」


 なんかよくわからんが、このひたすら(やかま)しい奴はネズミの獣人みたいだな。丸い耳と灰色の髪の毛、ヒゲ。サイズ的にマグちゃんとおなじ位か。


 「急に抱きついたことは謝ります。すいません。あなたがいることを知らなくて」

 「ふん。謝っても許しませんけどね。それで許されるなら……」

 「とりあえず、家に行きましょうか。もう少ししたらマンデイとハクが合流します」

 「なによアンタ! 鳥人のくせに私の話を遮って!」


 う、う、うざ!


 話長いし、超面倒臭い。可愛いのは見た目だけだな。マグちゃんの方が二億倍良い。


 「だいたいね……」


 ネズミが言いかけた時に、ハクとマンデイが合流。良かった、もうネズミの長話につき合わされたくない。


 (ん? これはあの人形か? 人と見分けがつかんのう)

 「まだ話は終わってないわよ! 鳥!」

 (おぉ。ハクも立派に成長しておるのう。しかし、いささか立派過ぎる。フロスト・ウルフの成長を考えるとこの大きさは)

 「(うるさ)イ。ファウスト。こいつ、寝かせル?」

 「うるさいってなにようるさいって! 寝かせる? やれるもんならやってみなさいよ。アンタみたいな……」

 (いやはや、知の。しばらくみないうちに随分と変わったのう。その翼はなんだ? お主が創造したのか?)

 「ファウスト。ヤル? ヤル?」

 「だーかーらー。やってみなさいって言ってるでしょうが。虫! アンタなんてね。私の毛にだって触れさせないんだから。ほら、ほら、かかってきなさいよ! ほら、ほら」

 「ファウスト。騒がしい」

 「バウ」

 (ところで知の、悪魔はどうした。達者か?)

 「ほら来なさいよ虫! 私必殺の……」

 「やろうカナ。ファウスト私、やろうカナ」

 (ところで知の、我が……)


 う、う、うるせぇ!


 とりあえず黙れ!

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