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助太刀

 情報を整理する。


 フューリーの背中にくっついてたやたらと口数の多い小さな女の子は、やはりネズミの獣人だった。名前はリトル・J。なんだか男の子みたいな名前だ。


 出身は虞理山(ぐりさん)でフューリーの幼馴染。獣最強の魔法使いだそうだ。


 得意の魔法は水と電気と風。小さい体に似合わず結構エグい攻撃をするらしい。風と電気は俺、水はマンデイが適性もちだから、彼女から学べることは多いだろう。


 フューリーは俺とデ・マウが戦うという亀仙の予言を聞き、この地を訪れた。シャム・ドゥマルト攻略を手伝ってくれるらしい。こんなに頼もしい助っ人はいない。


 (それでのう、知の。頼みがあるのだが)

 「なんです?」

 (ジェイを強くして欲しいのだ。お主の技術でのう)

 「えぇ構いませんよ。ですが……」


 と、俺はリトル・Jに視線を送る。


 「な、なによ」

 「うまくいく保証はありませんよ? 僕たちのなかで成長する因子(グロウ・ファクター)の打ち込みがちゃんと成功したのは悪魔、人、人魚、犬、これだけです。悪魔と人、人魚に関しては人から採取した細胞を元にしています。犬はフューリーさんの細胞を使いました。獣人はやったことがないので、どうなるかはわかりません。身体的特徴から人と獣、どちらの細胞にもマッチしそうな気はしますが断言は出来ませんね。もしダメだったら何度も針を刺すことになります。うちのマグちゃんはそうやって強化しましたが、かなりつらかったらしい。処置のたびに倦怠感が伴いますし、なにより針を刺すのが痛いです。麻酔下ですることも出来ますけど、麻酔が切れた後の痛みはどうしようもない」

 「いいわ。針くらいでこの私が音をあげるはずないじゃない」

 「わかりました。情報収集の間にやってみましょう」


 どうだろう。半分人みたいな感じだし大丈夫っぽいけど。


 (それとのう、知の)

 「なんです?」

 (我も頼みたいのだが)

 「強化ですか?」

 (あぁ)

 「えぇもちろん。あっ、一応説明しておきますが、どう強化されるかは僕にもわからないので、そこは理解しておいて欲しいです。例えば僕は万遍なく強化されました。マンデイは身体能力、リズは味覚以外の感覚、マグちゃんは飛行速度と反射神経、ハクは魔法関係が強くなって、ゴマはよりタフで力強くなりました。みんなおなじように成長するわけじゃないみたいなんです」

 (また強くすればよいではないか)

 「出来ません。僕たちの体は既に成長限界に達しています。自分の体を使って何度も試しましたが、もう効果がありません。未発達な細胞(ベイビー・セル)はかなり使い勝手のいい技術ですが、それでも万能ではないんです」

 (そうか)

 「僕は毎晩シャム・ドゥマルトに飛ばなくちゃいけないんで、掛かりっきりにはなれません。マンデイが万事ケアしてくれると思いますの……」

 「やだ」

 「!?」


 俺の言葉を遮ってマンデイ。こういう自発的な意思表示は珍しい。


 「なぜ」

 「王都にはついていく。だから細胞の打ち込みはやらない」

 「でもマンデイ、王都は遠いぞ? 毎晩となると……」

 「やらない」

 「いやいや、いくらマンデイの足が速くてもだな……」

 「やらない」


 ダメだ。こうなったマンデイはテコでも動かない。


 「たぶん一日の大半を移動に費やすことになるぞ? 野営とかもしなくちゃいけないかもだし」

 「それでいい」

 「どうして?」

 「約束した。強くなって復讐するって。ファウスト一人にはやらせない」


 約束? いつの約束だろう。うぅん。憶えてない。まぁマンデイが記憶違いをしているとも思えないし、そういう約束をしたんだろうな。


 あっ、ここに逃げて来た時だ。


 確かそんなこと言ってたな。憶えててくれてたのか。


 だがマンデイを連れて行くのは現実的じゃない。直線距離で飛行できる俺と地上を走るマンデイじゃ移動速度が違う。


 通路を繋げて欲しくてもルゥは弱ってるからお願いしにくい。一度繋げてもらってそれを保持する方法もあるが、それじゃ敵に侵入してくれって言ってるようなもんだしな。中間地点に拠点を創造してみるのもいいかもしれないが、俺の行動は《ブルジャックの瞳》で筒抜けだ。夜襲とかが怖い。どうしたもんか。いっそマンデイを抱えて飛んでもいいのだが……。


 でもなぁ。


 二人での長距離飛行に耐えられるスーツは《鷹》だけだが、それでも重量的に厳しい。ジェットを噴出し続けなくちゃならないだろう。王都に着く頃には魔力がギリギリになる。向こうで戦闘になったら……。


 だがまぁ確かにマンデイの言うことも一理ある。敵に襲われたりした場合、俺一人で切り抜けられないかもしれない。マンデイがいれば安心だ。


 そもそも俺が連絡に行くっていうのはデ・マウの敵意(ヘイト)をヨキたちに向けさせないための挑発も兼ねてる。挑発しててやられましたじゃ話にならん。


 連絡は三日に一回くらいにするか。王都攻略のまえに、デルア領の拠点をいくつか攻撃しときたいし、造りたい物もあるし、フューリーさんとリトル・Jの処置もあるし。


 そうなるとヨキとリズベットが不安だ。三日に一回だと向こうで問題が発生した場合に反応が遅れるかもしれない。ならば……。


 「マグちゃん。もしよかったら王都の二人組と合流してもらっていい?」

 「うン」

 「魔力を遮断するコートと魔力を変質させるスーツを急ピッチで創造するから、二人とおなじ要領で潜入して欲しい。マグちゃんの仕事は有事の際の連絡と二人の護衛。なにか異変を感じたら熱くならずに冷静に離脱してこっちに帰ってきてくれ。戦闘よりも逃避が大切な役回りだから、それは忘れないように。あと住民には絶対に見つからないようにしてね。目立っちゃうから。いい?」

 「わかっタ」


 フューリーとリトル・Jの処置は一度が限界だろうな。未発達な細胞(ベイビー・セル)は打ち込みから効果を発揮するまでに時間がかかる。本番で体力がないなんて展開は避けたい。リトル・Jの実力はまだわからないが、フューリーが強いのは充分知ってる。彼が欠けるのはナシだ。


 とりあえずマグちゃんの潜入用装備の創造からだな。同時進行で打ち込みもしておきたい。ケアはマクレリアにお願いするか。なんかあったらスタンガンで未発達な細胞(ベイビー・セル)の活動を止めてもらおう。


 そうと決まれば早速作業にとりかかろうか。時間もないし。


 「いまからマグちゃんの装備の創造と、フューリーさんとリトル・Jさんに処置を施します。マンデイ補助を」

 「うん」


 農園に行こうとしたのだが、リトル・Jが、


 「私のことはジェイと呼びなさい、鳥。毎回フルネームで――」

 「わかりましたジェイさん。僕のことはファウストと」

 「アンタまた話を遮って! どういう教育を受けたらアンタみたい――」

 「時間がないので抗議は後でゆっくり聞きます。さぁ行きますよ」

 「はぁ? なんでアンタの言うことを――」


 するとマンデイがスッとリトル・Jに近づき。


 「従いなさい」


 と、ひと言。


 「なによ! この鳥が悪いんじゃない。だって――」

 「従いなさい」

 「なにそれ! 脅してるつもり? 全然――」

 「従いなさい」


 諦めろリトル・J。マンデイがそのモードに入ったらどうしようもないぞ。


 イヤイヤモードのマンデイは世界最強だ。




 「チクッとします。その後、細胞を打ち込みます。これがまた痛みます」

 (あぁ)

 「ではいきます」


 打ち込みの箇所は既にマンデイが調べている。事故はないはずだ。


 「大丈夫ですか?」

 (この程度なんの問題もないのう)

 「じゃあ続けます」

 (うむ)

 「今回はフューリーさんが来てくれて助かりました。正直、不安しかなかったので」

 (お主には悪魔を救ってもらった恩がある。それに亀仙が知の代表者だけは殺すなとうるさくてのう)

 「そうなんですか?」

 (亀仙はずっと先の未来に少し触れたと言っておった。お主は侵略者との戦いの最後の切り札となる)

 「え?」


 マジか。それは嬉しい。すげーモチベが上がる。ブティックの店員さんじゃなくて一安心だ。


 (亀仙の予知は断片的な上、必ず当たるとは限らん。が、その者の進む先はおおよそわかるんじゃのう)

 「進む先、ですか」

 (例えばお主は世界を救う鍵となる。我は獣の王。そしてデ・マウとその配下のなかには、今後世界の敵となる者たちがいる。そういったところじゃのう)

 「デ・マウの配下が気になりますね。教えてもらっても?」

 (元よりそのつもりだ。一人は……)


 デルアには今後世界の流れを左右する重要人物が三人いる。


 一人はデルア王国の第三王子ミクリル・クレン・フェルト。デルア王国は彼を《知の世界》の代表者にして次期国王だと正式に発表していて、王子のなかで最も力がある。幼少より秀でた武の才を発揮し、聡明で見目麗しいとのこと。


 その男がどこまで真実を知っているのかはわからないが、代表者と名乗っている以上、俺と仲良くなることはないだろう。


 それにしても見た目良くて運動できて頭もいいだって? 話を聞いてるだけでムカついてくる。


 (この者は生かす)

 「いいんですか?」

 (この者が及ぼす影響は、我々にとって好ましいものじゃのう)

 「へぇ」


 よくわからんがフューリーがそう言うならそうなんだろうな。


 二人目はデ・マウの直の部下、死霊術師のドミナ・マウ。魔術は一つも使えず、死体を操る魔法、呪術で戦う。


 (こやつは必ず仕留めねばならぬ。逃せば脅威になる)

 「強いんですか?」

 (お主と一緒じゃのう知の。準備期間が長ければ長いほど強くなる)


 ドミナ・マウは死体を操作して戦う。どれだけの量を一度に操作できるかはわからないが、もし上限がないとするなら集めた死体によっては、ちょっとした軍隊になる。


 確かに脅威になりそうだ。


 「いまのドミナ・マウの戦力はどんな感じなんですか?」

 (わからぬ)

 「それは困りましたね」


 どうしたものか。


 予定ではデ・マウを暗殺して終わる感じだったんだけど、そんな厄介な奴がいるとなると話が変わる。いま現在、何体くらいの死体を保有しているんだろう。どれくらいの数を同時操作できるのかも知っておきたい。


 もしかしたらルゥの知り合いかもしれないから、後でマクレリアに尋ねてみるか。


 フューリーが来てくれて良かったと思ってたけど、急にハードモードになってしまった。いや、先に情報を得ることが出来てラッキーだったと考えるべきか。


 「あと一人は誰ですか?」

 (あぁ、それはのう)


 最後の一人はグラド・アン・シャルバル。彼はテイマーなのだが、将来的に世界に影響を与えるのは彼ではない。彼が従えている生物だ。


 (これは我等、獣の世界の責任でもある。どうしても仕留めねばならない)

 「どういう生物なんですか?」

 (牛じゃのう)

 「ウシ?」

 (おおよそ五十年前のこと……)


 五十年前。


 不干渉地帯には、いまより少しだけ若いルゥとマクレリアがいた。主は鳥ではなく、それはそれは見事な体格の牛。名前をハマドという。


 ハマドは理知的で強く、なんの申し分もない主だった。性格はフレンドリーで温和、ルゥとの関係もこの上なく良好。素晴らしい主が管理するこの頃の不干渉地帯は、絵に描いたように平和で穏やかな場所だった。


 だがある日を境に、この土地は地獄となる。


 (病じゃのう)


 ハマドは明暗由来の感染症を発症してしまったのだ。症状は抑えきれない空腹感と理性の崩壊。ルゥとマクレリアはハマドを治そうとあらゆる手を尽くした。だが、原因となった微生物の増殖がルゥの治療より早く、効果がない。


 そんな時、ふと正気に戻ったハマドは言う。


 ――友よ。俺を殺しては……、くれないか。このままでは……、この美しい土地のもの……、すべて食べ尽くしてしまう。


 ルゥは考えた。どんな理由があったにせよ、主を殺せば自分たちはこの土地を追われるだろう。だがどちらにせよ殺さなければ不干渉地帯は崩壊する。


 自分のことを友と呼ぶ、この気の良い生物を殺していいのだろうか。なんの文句も言わずに土地を提供してくれて、狩りを許可してくれる相手を傷つけていいのだろうか。


 ハマドはルゥの懊悩(おうのう)を気取る。そして、穏やかな口調でこう言った。


 ――すまない、友よ……。卑劣な……、頼みであった。そなたが……、私を……、殺せるはずがない。聞いてくれ……。私は……、最後まで……、この土地の……、主として、そしてル・マウ。そなたの……、友として。生きよう。この土地を……。この美しい土地を……。頼む……。


 ハマドは空気を切り裂くような雄たけびを上げて、壁に突進した。何度も、何度も。ルゥの静止を振り切り、マクレリアの沈静毒に耐え、何度も壁に突進した。


 そして壁を破った。


 「どうなったんですか?」

 (デルアが捕らえた。いまはデ・マウが物を食べる幻覚を見せ続け、選ばれたテイマーが指示と身の回りの世話をすることで生きながらえておるらしい。ハマドは間違いなく王国の最高戦力じゃろうのう)


 その後、新しい主が選ばれた。ハマドに負けず劣らず巨大な体と誇りをもった、ちょっとだけアホな鳥が。


 ルゥは友の約束通り、この土地を守り続けている。


 もり には おおきなけもの が すんでいて わるい ひと を まるのみ に します

 

 最強の魔術師の一人、死の指揮官、病んだ先代の主様か。


 参ったなこりゃ。

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