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マンデイ ハ 優シイ子

 『次のステップに進むまえにマンデイ、この人をもう一回治療してもらっていい? 申し訳ないけど』

 『うん』


 するとマグちゃんが、


 『また戦うノ?』


 と、若干引き気味で尋ねてくる。


 『いいや、もう戦わない。人の配置とか部屋の位置から家主らしき人はみつけたんだけど確証がないからね。聞き出そうと思って。他の人はもう毒うっちゃったしさ。マグちゃん自白剤うてる?』

 『打てル』

 『効くといいけど』


 この人、意思が強そうだからな。まぁ効かなかったら他の人を探せばいいか。あっ別にこの人じゃなくてもよかったな。裏口の二人組を襲えばよかった。魔力の無駄遣い。なんかマンデイに悪いことしちゃったな。


 『ていうかマンデイ、メイスで殴った時は殺しちゃったかと思って肝を冷やしたよ』

 『手加減した』


 手加減するなら顔以外のとこ殴れよ。マンデイってお茶目だから時々こういうことするんだよなぁ。


 『治療が終わるまで偵察に行ってくるよ。マグちゃん、自白剤お願いね』

 『わかっタ』


 俺が余裕で倒せる相手にマンデイが負けるはずない。マグちゃんもいるから、ちょっと離れても大丈夫だろう。


 《梟》にシェイプチェンジして上空へ。ナイトビジョンとサーモグラスで敷地内を観察する。目立った変化はない。順調だな。


 あっ。


 犬が一匹死んでる。死んでるよな? 冷たいもん。マグちゃん、毒の量を間違えたな。おっちょこちょいめ。仮死状態とかだったらいまからでも救えるかな。


 近づいて詳しく診てみる。完全に脈がなく、瞳孔も開いている。


 あぁあ。可哀想に。


 埋葬しとくか。創造する力ってのは穴を掘る能力みたいなとこあるしな。


 『起きた』


 墓穴を掘っているとマンデイから連絡が。墓石も造っておきたかったが時間がない。落ち葉を変形させた花を一輪創造してお供え、最後に手を合わせる。


 ごめんね。安らかに眠ってくれ。


 『マグちゃん。犬が一匹死んじゃってたよ。気をつけないと』

 『ごめン』

 『まぁいいけどさ。で、どんな感じ?』

 『効きが悪イ』


 やっぱりな。


 そんな感じはしたんだよ。あの人って体デカかったし、意思が強そうだし。


 マグちゃんは毒に関しての理解がまだ浅いから、適量がわかってない。マクレリアならうまいことやってたんだろうが。


 まぁ何事も経験だ。ミスは未来への投資だからな。


 「なぁ。ちょっと協力して欲しいんだけど」

 「うせろ」

 「頼むよ。すぐ終わるからさ」

 「だまれ」


 駄目だこりゃ。


 『マグちゃん。自白剤を増量したらどうなる?』

 『眠ル』


 眠られたら話を聞き出せないなぁ。


 うぅん。この人は眠らせちゃって素直に別のターゲットを探すかな。腕試しとかして時間かけすぎちゃったし。


 『ファウスト。マンデイがやる』


 と、マンデイ。


 『いや、別にいいけどさ。たぶんこの人、無理だよ。ちゃんと訓練されてる感じがするもん』

 『やる』

 『えぇっと、俺が思ってる人が本当に家主かを確認したい。おおよその見当はついてるんだけどさ。映像、送ろうか?』

 『送って』


 導線を使ってサーモグラスで見た映像を送る。


 『はいどうぞ』

 『うん。じゃあ表に出てて』

 『なんで?』

 『出てて』

 『いちゃ駄目なの?』

 『出てて』


 こうなったら譲らないからな、マンデイ。


 『マグちゃんも?』

 『出てて』


 俺たちはマンデイの指示に従い部屋を出た。


 ケブラーマスクを外して少し休憩。マスクって疲れる。


 その時、部屋のなかから、ゴンッと鈍い音が。


 目を見合せる俺とマグちゃん。


 なんだ? なんの音だ? マンデイ、あの人のこと殺したりしないよな。


 次いでボソボソと呟く声。


 あれ? もしかして拷問みたいなことやってる? いや、違うだろう。そんな子に育てた覚えはない。


 ミチミチミチミチ


 絞めてる? もしかして絞めてる?


 うぅううぅうぅ


 低いうめき声。なんかもの凄く嫌な予感がする。マグちゃんもおなじことを考えてるのか目が点になって、口をポカンと開いてる。


 なかで何があってるんだ……。覗きたい。でも、出ていけって言われたしな。


 勝手に覗いたりして、ファウストのバカ、もう知らない、みたいになったら嫌だ。反抗期に突入するかもしれない。


 『マンデイ?』


 折衷案だ、とドア越しに通信してみる。


 『なに』

 『嫌な音が聞こえてくるだけど』

 『大丈夫』

 『殺したりしちゃ駄目だよ? わかってる?』

 『大丈夫』

 『無理そうだったら他の人を探すからね?』

 『大丈夫』

 『本当に無理しなくていいんだよ?』

 『大丈夫』


 どうしよう。まったく大丈夫な感じがしない。


 「ファウスト」


 呟くようにマグちゃんが言う。


 俺も小声で返す。


 「なに?」

 「私にハ、大丈夫だとハ、思えナイ」


 はい。私もそう思います。

 

 「でもまぁマンデイが大丈夫って言っ……」


 うぅぅううぅ、だずげで、だずげでぐれぇぇぇ。うぅぅうううぅ。


 ガン


 ……。


 ミチミチミチミチ


 ……。


 大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫。マンデイはそんな子じゃない。マンデイは良い子。マンデイは優しい子。


 ガチャ。


 扉が開く。出てきたのは、なんかスッキリした顔のマンデイ。


 『あれが家主で間違いない』

 『そうかマンデイ。ありがとう』

 『うん』

 『あの人、死んでないか?』

 『まだ死んでない』


 そうだよな。そんなことするはずないもんな。


 マンデイの頬についた血液は見なかったことにしよう。




 マンデイ が ハイキック を はなった


 てき を たおした


 マグちゃん が どく を うった


 てき を たおした


 ファウスト は にらみつけてた


 てき は もう たおれている




 たいした苦労もなく侵入成功。口を開けて豪快なイビキをかいている初老のおばさんの寝室に忍び込めた。

 

 やはり俺たちって暗殺とか裏で働いている方が輝くのかもしれない。もう代表者とか勇者稼業とか気にしないようにしようかな。


 でもこういうのって果てしなく地味だ。なによりカッコ良くない。やっぱ戦場のど真ん中で伝説の剣を振り回したりしたいな。


 自己嫌悪はこの辺にして、仕事にとりかかるか。


 『マンデイ。いまから起こすから抵抗しないように抑えてて。マグちゃんは幻覚作用のある毒を少しだけ入れて』

 『うん』『わかっタ』

 「おい。起きろ」


 このお方、随分と寝起きが悪いみたいで、何回か頬を叩いてようやく目を覚ましてくれた。


 「な、なに! なに?」

 「黙れ、殺すぞ」


 家主はすぐに状況を察したようで、キッと俺を睨みつけてきた。


 「なんのつもりか知らないけどね。いまに警備が……」

 「殺した」

 「え?」

 「全部、殺した」

 「だって……」

 「嘘だ」

 「は?」


 なんかリアクションが面白かったから遊んじゃった。なにやってんだ俺。


 「殺してはない。殺すつもりもない。ただ無力化させてもらった」

 「な、なによ! なんのつもり? なにが目的なの?」

 「俺たちは神の使者だ。そして貴様は伝書鳩。ほら、鳴いてみろ」

 「は?」

 「鳩みたいに鳴いてみろ」

 「なに言っ……」


 パチン。


 「次は刺す。その次は切断する。その次はない。ほら、鳴け」

 「そんな脅しに」


 スーツから毒針を伸ばして腹部を刺して抉った。


 「鳴け」

 「うぅううう」


 痛みで喋れないか。


 『マンデイ、治療』

 『うん』


 あんまり痛めつけたくない。早く心が折れてくれればいいが。


 「次は切る。どこを切るかは想像にまかせるよ」

 「……」

 「ほら鳴け、鳩だ」

 「はと?」

 「鳥だよ」

 「クル、クルッ」


 あっ、そっちか。俺のイメージではホーホー、だったんだけどな。まぁ鳩を知らないみたいだし、それを考慮すると奇跡的な解答かもな。


 ちょっとやりすぎたかな? あんまり怖がらせたくなかったんだけど、必要なことだし、ある程度はね。


 「賢い選択だ。これからも選択を誤るなよ。長生きしたいだろ?」


 首肯。


 「いまから俺が言うこと、これから起こることを伝えろ。いいか?」


 首肯。


 「神を冒涜した罪を贖え。薄汚れた貴様の国を潰し、俺が新しい王になる。首を洗ってまってろ。どうだ、憶えたか?」

 「憶えました」

 「復唱しろ」

 「神を冒涜した罪を償え。汚れた貴様の国を潰し、俺が王になる。首を洗ってまってろ」


 少し違うがまぁいいか。要点はちゃんと押さえてくれてる。ていうか一回で憶えられるの何気に凄いな。賢いおばさんだ。


 『マグちゃん、眠らせて』

 『わかっタ』


 おばさんが眠ったのを確認して次のステップへ。


 『よし、やりたいことやったし、建物の一部を破壊して敵をおびき寄せよう。この感じならたぶん負けることはないだろうけど、真剣にやってね。連絡は絶やさないように。危なくなったらすぐ離脱するけど、《梟》はマンデイを抱えて逃げれるほどの性能がないから、マンデイは特に気をつけてね。マグちゃんも視野を広く、マンデイが傷つかないように細心の注意を払ってくれ。あと無駄な殺生はしないように。でも、どうしようもない時は殺してもいいからね』

 『うん』『わかっタ』

 『さっきサーモグラスで確認した熱源の情報を送るから、そこを避けて壊しちゃおう。じゃあマンデイ先生。お願いします』

 『うん』


 マンデイのスーツがミリミリと音をたてる。そして……



 ドスン



 腹の底が震えるような振動。蜘蛛の巣状に伸びた亀裂。ドミノみたいに崩れていく建物。



 ドスン



 瓦礫の山。土煙。鐘の音。四方からあがる叫び声。


 『マンデイ。もういいよ』

 『うん』

 『マグちゃんは毒を打ち込んでいって。魔力と体液の管理はしっかりね。俺は毒のストックが五発しかないから打ち切ったら上空から指示を出す。危なくなったらフォローするから。マンデイは怪我しない程度に暴れてくれたらいい』

 『うん』『わかっタ』


 《梟》のシェイプチェンジ先、裏は《蜘蛛》。とても軽くて動きも速い。だが悲しいことに、俺以上にマグちゃんが速いから一人も倒せない。


 ならばとマグちゃんのフォロー寄りの立ち回りをしながら索敵して、ようやく見つけたと思ったら、あと一歩のところでマンデイのメイスや蹴りに吹き飛ばされていく。


 俺は終始、瓦礫の山を走り回っていただけ。


 勇者の落ちこぼれなんて嘆いていた頃はまだマシだった。仲間にも置いていかれるとは。


 スーツが! スーツが悪かっただけだもん! 俺のせいじゃないもん!


 『仕上げに門を破壊して終わろうか……』

 『うん』

 『マンデイ先生。やっちゃってください』

 『うん』

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