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潜入

 城って聞いてたから城塞みたいなのを思い浮かべてたけど、武家屋敷とかに近かった。


 無駄に土地が広くて、立派な土壁に囲まれてて、物見やぐらのような建造物がある。


 なんか既視感があると思ったんだがコレ、俺の生家と似てる。城って聞いてなかったら城だとは思えないだろう。金持ちの家と表現した方がしっくりきそうだ。


 「一つ、訊いてイイ?」


 少し離れた民家の屋根の上から城を観察していると、マグちゃんが声をかけてくる。


 「いいよ。なに?」

 「どうして、目立つことをスル」

 「それはヨキとリズを潜入させるためだね。わかりやすく言えば、俺たちは囮なんだ」

 「そんなことをしなくテモ、私とマクレリアがいればなんとかナル」

 「なったとしてもさせたくないんだよ。相手の情報が少ない状態で突っ込んで、死んじゃったら嫌だろ? 俺はルゥの贖罪の手助けをしたい。だけど誰にも傷ついて欲しくない。だから万全の状態で挑む。それにね、最近思うんだ。俺たちはたぶん、フューリーや水の代表者みたいに戦場で武勲を上げるタイプじゃない。俺もヨキもマグちゃんもマンデイもリズも、みんな暗殺やら意識外からの急襲が得意なんだ。警戒していない相手を一瞬で葬り去るスタイルが本来の姿なんだと思う」

 「なら目立つことハ、しない方がイイ」

 「いや、そもそも《ブルジャックの瞳》で俺とルゥの行動は筒抜けだからね。俺が待機してメンバーが攻めるって形でもいいけどさ。俺がいなかったらピンチになった時にどうやって離脱するの? って話になる」

 「みんな速イ」


 そうなんだよなぁ。


 うちの速さの基準がラピット・フライだからか、みんな機動力があるんだよなぁ。ヨキとリズはたいしたことないけれど、しかしその二人も犬に乗って移動したりするからな。ピンチになっても逃げれそうではある。ていうか、アイツら。なんで犬に乗っても酔わずに平然としていられるのだろうか。不思議だ。


 「だとしてもだ。例えばヨキが孤立してるとするだろう? 周りは敵だらけ。そんな時、上空からヨキの体を担いで空中に逃げることが出来るのは俺だけだ」

 「デモ……」

 「言いたいことはわかる。だが少しでも安全な手段を選択しよう」

 「わかっタ」


 ゲノム・オブ・ルゥの理念は工事現場とおなじ、安全第一。


 「最終確認だ。俺たちがすることは建造物の一部破壊と脅迫。ここの責任者にはデ・マウへのメッセンジャーになってもらう予定だから、くれぐれもやりすぎないように。間違っても強すぎる毒をいれたり、命を奪うような打撃を加えたりはしちゃダメだよ? それと今回は俺たち初陣でもある。実力のテストも兼ねてるからそれも忘れないように。敵が強かったらすぐに撤退、もし相手が弱くても勝手なことはしないように。重視するのは連携と存命」

 「うん」「わかっタ」

 「さぁ、それぞれスーツと装備の確認をしよう」


 今回のスーツは潜入、隠密用スーツ《梟》。


 重視したのは消音性。だから速度は他のスーツより数段落ちるし、少ない風で飛行しなくてはならなかったから翼は大きくて軽い。防御性能は移動用《隼》より一段落ちる程度だ。基本的に戦闘能力は高くないから潜入専門のスーツである。もし戦闘にもつれこん場合は、シェイプチェンジ。


 「マグちゃん。針は出る?」

 「デル」

 「軽く毒を出してみて」


 針の先端から水滴が滴る。


 「はい。じゃあ洗浄」

 「出来ル」

 「よし。《ミスト》は?」

 「でル」

 「出発前に《グレネード》は試してきた?」

 「きタ」

 「問題なさそう?」

 「なイ」


 まぁ、そこそこ使ってるからな。急に不具合が出たりはしないとは思うが。


 「次はマンデイだな。いつもの要領でスーツを動かしてくれ」

 「うん」

 「どうだ?」

 「大丈夫」

 「目立ちたくないからフラッシュ系はいまは使えないが……」

 「出発前に試してきたから」

 「そうだな。なにかあったらすぐに言ってくれ。小さな違和感とか。気になったこととか」

 「うん」

 「さぁ二人共、マスクを装着してくれ。行くぞ」


 マグちゃんのケブラーマスクが可愛い。写真とりたい。武装してる妖精。そのミスマッチさが俺のなかのなにかをくすぐる。


 いかんいかん。仕事だ。


 ゴーグル・ナイトビジョンを装備し、上空へ。


 いままでも何度か試運転したが《梟》は本当に音がしない。


 まえの世界で子供の頃、両親が電気自動車を購入したのだけれど、初めて乗った時はその静かさに驚いた。《梟》の驚きはそれに似てる。この音で飛べるんだ、っていうね。


 城に接近し、《ストレンジャー》を起動した。《ストレンジャー》は潜入用ドローンとして開発されたもの。スーツとおなじでまったく音がしない。


 さて《ストレンジャー》がお仕事をしている間に俺も……。


 ナイトビジョンからサーモグラスに切り替え、敷地内にある熱源を感知する。


 『ファウストだ。聞こえる?』

 『うん』『聞こえル』

 『敷地内にいるのは四十人ってとこだな。鳥小屋がある。サイズ的に家禽、マグちゃんとおなじくらいの大きさ。戦闘用じゃなさそうだから放っておいていいかも。敷地内の庭に、犬らしき生物がいる。三かな、いや四だ。サイズは普通、大きくも小さくもない。マグちゃん。犬を眠らせてきてもらっていいかな。明日の朝まで目を覚まさないように』

 『わかっタ』

 『門は屋敷の中心からみて北北西と南南東、大きな通りに面してる。あと西南西に裏口みたいな小さな扉があるね。裏口には警備兵らしき熱源が二、門にはそれぞれ五。ちょっとやりたいことがあるから、どっちかを襲おうと思う。マンデイ、どれがいい?』

 『どっちでもいい』

 『まぁそう言わずに選んでくれ。願掛けなんだ。北か南か裏口か」

 『北』

 『わかった。すぐに行動できるように北の門付近で待機してくれ』

 『うん』


 そうこうしているうちにマグちゃんが仕事を終える。


 『やっタ』

 『マグちゃんはマンデイと合流してくれ。《ストレンジャー》が戻ってくるまで待機』


 しばらく待っていると、《ストレンジャー》が戻ってきた。さっそく核との導線経由で、情報を解析してみる。


 『屋敷の構造から家主らしき人物を探し出したんだけど、夢のなかにいるみただね。部屋の位置はたぶん把握できたと思う。いまから北の警備兵を襲う。合流するからちょっと待っててね』

 『うん』『わかっタ』

 『これからは声を出さないでね。意思の疎通は全部通信機で』

 『うん』『わかっタ』


 警備兵は五人。槍のようなものをもって門の脇に立っているのが二、ちょっと低めの物見やぐら的な建造物のなかにいるのが三、うち二は横になっていて、一は椅子に座っている。交代要員だな。リスクが少ないのは裏口の二なんだろうけど……。


 マンデイが選択したんだ。きっとうまくいく。


 『じゃあマグちゃん。門の脇に立っている兵士を眠らせてきて。俺とマンデイは休んでる三人の方を襲うから』

 『わかっタ』

 『じゃあ行こうかマンデイ』

 『うん』


 俺がやぐらの上に飛翔すると、マンデイがジャンプしてくる。スーツの機能で着地音はわずかだ。衣擦れの音がやや気になるくらいかな。


 

 シェイプチェンジ《蜘蛛》



 『いいかマンデイ。二人は倒していい。だけど一人は残す』

 『うん』


 扉をノック。すると椅子が軋む音がして、次いで足音が。


 「どうした?」


 扉が開いた瞬間に兵士の口を塞いで、首元に毒針を打ち込んだ。


 毒は事前にマグちゃんに生成してもらった麻酔の一種。一回量は成人の意識を奪い、呼吸の抑制を起こさない程度の量だ。


 すかさずマンデイが部屋のなかに侵入。眠っている兵士の顔をメイスで殴る。


 おいおい。それ、死んでないか? 大丈夫か?


 残った兵士がようやく異変に気がつき目を覚ます。


 「あんだ? あんだどうした」


 まだ舌が回ってない。よれよれのパンツしか着用しておらず、胸毛がジャングル。


 なんか悪いことをしちゃった。寝込みを襲うのって反則だよな。


 しかし……。


 「黙れ。殺すぞ」


 こっちも仕事なんだ。許してくれ。


 「おい! お前たち! なにが目的だ!」


 兵士が声を荒げる。あんまり騒がれると厄介だな。


 「黙れ」


 兵士の鼻づらを殴ると、顔を抑えてうずくまった。あんまり強く殴ったつもりはないが、結構効いたみたいだ。あっ鼻血でてる。


 そんなことをしている間に、マグちゃんが戻ってきた。あっちも瞬殺だったようだ。


 『お疲れマグちゃん』

 『ウン』

 『あっ、マグちゃんは目立つから、簡単に敵のまえに出ないようにね』

 『わかっタ』


 マグちゃんが俺の後ろに隠れる。まぁ今更遅いが、暗いから大丈夫かな。


 「おい胸毛。お前の仲間は皆殺しにした」


 してないけどね。あっ、顔面にメイスをぶちこまれた彼は死んだかもしれない……。


 兵士は氷漬けになったみたいに固まっている。


 「返事はするなよ胸毛。わかったらうなずけ」


 首肯。


 「俺たちは神の使いだ。神を冒涜する者共を粛清しに来た」


 首肯。


 「訊きたいことがある。素直に答えれば殺しはしない」


 首肯。 


 「お前は兵士のなかでは強い方か? 返事をすることを許可する」


 兵士の唇が震えている。こんなことされたら怖いよね。本当にごめんな。悪気はないんだよ。


 「わかりません。強くも弱くもないかと……」

 「ここにいる兵士のなかで一番強いのは誰だ」

 「アイツです」


 と、指差された先には、さっきメイスで顔を殴られた兵士が。


 チッ。


 『マンデイ。そいつの治療をしてくれ』

 『うん』

 『マグちゃん。コイツの記憶を消したいんだけど、そんな毒ある?』

 『脳を壊せばイイ』

 『それはちょっとやりすぎかな。眠らせるだけでいい』

 『わかっタ』


 ブン。


 兵士の背後をとったマグちゃんが、背中に毒針を打ち込む。すると兵士は糸の切れた操り人形みたいに崩れ落ちた。


 『マンデイ。治療は出来そう?』

 『うん』


 よかった、死んでなくて。俺は毒を打たれて倒れた兵士を部屋の隅に押しやって、マンデイの治療が終わるのをまつ。


 たぶん俺は知っておいた方がいい。一般的に強いとされる人間と俺との力の差を。


 最近はルゥとかマクレリアとか主様とかフューリーとかこの世界でも上位に位置するであろう実力者としか会ってない。その尺度でデ・マウ攻略に立ち向かうと、絶対にどこかで齟齬(そご)が生まれる。相手を舐めてはいけない、がリスペクトしすぎても委縮してしまう。


 正確な位置を把握しなくてはならない。いま俺が立っている場所を。


 もちろん俺がこの兵士に負ける可能性もある。その時はまた強化するまでだ。勝てるまで何度でも。


 誰かが倒れた門番を発見したら騒ぎになる。だから悠長なことはやってられない。こういうチャンスが次いつ訪れるかわからないから、いま試しておくのだ。


 『二人とも聞いてくれ。この男が目を覚ましたら俺は決闘をする。自分の力がどれだけ通用するのかを知りたい。腕試しをしたいんだ。だからマンデイ、治療が終わったら室内を照らしてくれ。俺の拳が相手に見えるように。もし俺が負けるようなことがあったらマグちゃん、迷わずこの男を眠らせて欲しい』

 『うん』『ファウストは強イ。試すまでもナイ』

 『俺は小心者なんだ。自分の実力を知らないまま、大切な仕事をしたくはない』

 『わかっタ』


 マンデイの治療が終わると、兵士はゆっくりと体を起こした。


 「なんだ、お前たちは」


 確かに強そうだな。


 突然の事態にも慌てた様子もみせないし、声を荒げるでもない。自分が置かれた状況を冷静に判断しようとしているようだ。どこかヨキと似た雰囲気がある。


 まぁいくら強くても、寝てるところをメイスで殴られたらどうしようもないよな。


 「俺たちは神の使いだ。貴様、兵士のなかでも強いのだそうだな」

 「誰から聞いた」

 「そこに倒れてる男だ。安心しろ。まだ死んでない」

 「そうか。で、お前たちの目的はなんだ」

 「俺と戦え。断われば殺す。妙な真似をしても殺す」

 「戦ってどうなる」

 「貴様が俺に勝つことが出来れば、俺たちは退く」


 はぁ、と兵士がため息をつく。寝起きだからか息が臭い。


 「ここまで意味のわからない賊は初めてだな」

 「武装しろ。そして戦え」

 「わかった。ちょっとまってろ」


 兵士と戦ってみてわかったこと。


 一、格闘という分野で俺は、かなり出来る部類に属する。


 ふざけているのかと思うくらい相手の動きが遅かった。敵の攻撃はてのひらで弾き、いなすだけでいい。それだけで防御できてしまう。反撃にと軽く殴ってみたのだけど、かなりダメージを受けている様子だった。冗談抜きで指一本で勝てる位の実力差があったと思う。


 二、ヨキは剣士としてかなりの実力者だ。


 もしこの兵士が人間のなかでも強い方なら、ヨキは人間のなかでは頭一つ抜けた実力をもっていることになる。俺と互角に戦うからね、ヨキ。


 三、マンデイは化け物。


 純粋な戦闘能力ならマンデイって、俺とかヨキより高い。一般社会に入ったら、化け物みたいな扱いになると思う。今後、人前に出ることがあればしっかり手加減してもらうとしようか。マンデイの実力を権力者なんかが知ったら絶対に面倒なことになりそうだ。


 四、全生物のなかで、俺のいまの立ち位置はたぶん中の上くらい。


 上の上にルゥとか水の代表者、侵略者がいる。上の中に主様とかフューリー。上の下にマンデイ、マクレリア、マグちゃん。そして中の上に俺とかヨキ、リズがいる。我が家の二匹のワンちゃんも中の上くらいかな。そんな感じ。


 人間って生物のなかでも弱い方だから、この戦うことを生業にしている強めの個体でも下の上ってところだろう。


 いい勉強になった。

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