ゲノム・オブ・ルゥ
目を覚ませ! ごめんて!
謝るから目を覚ましてよ。
最高火力で電気魔法を放つけれど、主様の落下は止まらない、意識もないままだ。
とりあえず減速させようと主様と体を密着させ、ジェットを噴射しみても無駄。重すぎてとても支えきれない。
無理だこれ。俺の力じゃどうにもならない。
誰か助けてくれないかな。ハクとゴマは無理。マンデイもどうにも出来ないだろうしヨキは斬るだけしか能がない。リズも主様を助ける手段がない。ルゥはヨボヨボ。マクレリアとマグちゃんは飛べはするが、押し潰されて紙切れみたいになる。
くぅ。
俺がなんとかするしかないか。
主人公補正的な未知の力でなんとかなるかもと、もう一度、主様の体を支えてみるが……。ダメだ。
そうだっ!
攻撃ギアを変化。
《振動・掌底》
ほら! 鳥! 目を覚ませ!
やっぱ無理か〜。
これって大罪じゃないの? 不干渉地帯の主を殺したらヤバいでしょう。死刑とかなる? 間違いなくスタンピード事案だよな。あぁどうしよう。
『ファウストさん、リズです。離れてください』
『リズ? どうしよう。止まらない。主様がこのまま落下する。やりすぎた』
『いいから離れて』
なにをするつもりだ? いまのリズベットに主様を救う手段はないぞ。
とはいえ俺がいてもどうにもならないから、素直に主様から離れてみる。
すると空中の、主様の下のほうにぽわっと魔術の陣が浮かんだ。
ルゥ?
主様の体がフワリと浮遊し、落下が止まる。
『あれ? ルゥって死にかけてるんだよね?』
『彼は規格外ですから』
少しだけ、強くなった気がしてたんだけどなぁ。
上には上がいる。
「助かったよ」
「生還おめでとうねぇ」
と、マクレリア。
軽い。軽すぎる。
「完敗でした」
「最後は勝ったじゃん」
「正面から打ち合ってたら絶対に勝てなかった。無茶苦茶強くて攻撃が通らない。どうしようもなかった。もう二度とやりたくない。トラウマものです」
「でも立派だったよ。まさか君が勝つなんて思ってなかったからさ、クッキーは食べられなくなっちゃったよぉ」
「賭けてたんですか?」
「賭けてたけど?」
とりあえずそのなにか? みたいな顔止めてもらえるかな。人が命がけで戦ってたんだよ?
「ちなみに勝ったのは誰ですか?」
「マンデイちゃんの一人勝ちだねぇ」
さすがはマンデイ。俺の心の拠り所はお前だけだ。
ん? マンデイだけってことは……。
「リズベット?」
「は、はい! なんでしょう!」
「主様に賭けてたんですか?」
「いや、それはですね。なんというか。流れみたいなのがありましてですね……。ファウストさんに賭けたらダメみたいな風潮がありましてですね……」
「ほう。で?」
「すみません」
てかヨキも主様に賭けてたんだよな。
「ヨキさん」
「なんだ」
「僕、勝っちゃいました。ごめんなさぁい」
効いてる効いてる。コイツ、負けるの嫌いだからな。
仲間が戦ってる時に相手側に賭けてたんだ。当然の報い。
しばらくすると主様が目を覚ました。
卑怯なことした後ろめたさもあり、報復されるのではないかとビクビクしていたが、そんなことはなく、ゆったりとした動作で羽づくろいをはじめた。
「よかったねぇ。ファウスト君。正当な手順を踏んで認められた。君の庇護下にあるマンデイちゃんもリズちゃんもマグちゃんもハクちゃんも」
「楽しませてあげられましたかね」
「うん。充分だよぉ」
頼むよアホど……コホン、主様。どうか俺の熱い奮闘を忘れないでくれ。もう二度と戦いたくない。
さぁ、すべきことは終わった。本格的にとりかかろう。
デ・マウの攻略に。
「いまから第一回、《ゲノム・オブ・ルゥ》の会議を開催します。拍手」
俺が宣言すると。
「あの……」
と、リズベット。
「意見がある方は挙手で」
「あっ、はい」
「どうぞ、リズさん」
「ゲノムなんちゃらって、なんのことですか?」
「僕たちのチーム名です。他になにか?」
「いいえ、ありません」
「チーム名を変えるならいまのうちです。意見のある方はいますか?」
沈黙。
「はい決定。僕たちはこれから《ゲノム・オブ・ルゥ》と名乗る。では作戦会議をはじめます」
早速、本題。
とりあえず俺がマクレリアから聞いた情報を元に考えた、おおまかな戦略をまとめた。
一つ、デ・マウを隔離して撃破する。
当然だ。味方が多ければ多いほど力をつけるデ・マウ。孤立させないと話にならない。
二つ、不意打ち、意識外からの強襲をする。
正面から戦ってどうなる相手じゃない。油断させ、タイミングを見計らい、一撃で仕留める。
以上。いま思いつくのはこれだけ。
「どうやってするの」
と、マンデイ。
「いまのところアイデアはない。だから情報収集からはじめようと思う。デ・マウの行動パターン、敵戦力の把握。警備の穴や兵士の錬度。通信手段の有無や連携のレベル」
「……」
「情報収集はマンデイ、リズさん、ヨキさん、このなかから二人、もしくは三人に任せようと思ってます。選出されたメンバーが首都シャム・ドゥマルトに潜入。相手方は《ブルジャックの瞳》という魔道具で僕の位置を把握している可能性があるので僕は潜入できません。ラピット・フライだとばれたら騒動になるかもしれないのでマグちゃんとマクレリアも却下。以上の理由からマンデイ、リズ、ヨキさんの三人を選んだ。異論は?」
沈黙。
なんか一人で喋ってると寂しくなってくる。なんでもいいから意見して欲しいもんだ。
「マンデイはどうだ。リスクが伴うが」
「行かない。ファウストと一緒にいる」
そうくると思ったよ。可愛い奴め。
「そうか。リズさんはどう?」
「私は構いません」
やる気充分って感じ。頼もしいな。だが……。
「無理はしないように。情報を集めてくれればそれでいいから」
「はい」
次は……。
「ヨキさんはどうです? リズ一人に任せるのは心細いので、ぜひお願いしたいのですが」
「いいだろう」
ヨキが一緒なら安心だな。いつも冷静だし、砂の体は初見殺し性能が半端じゃない。
「二人が潜入したら僕が毎日デルアの上空を飛びます。そして通信機で情報の交換をしましょう」
「あぁ」「はい」
「次、《ブルジャックの瞳》の対策ですが、すでに僕の近くにいるヨキさんとリズの魔力の質は相手方にばれている可能性が高い。ですから魔力を遮断するマント、魔力を変質させる洋服を創造します。ゴマかハクにシャム・ドゥマルトまで運んでもらったら、お二人は人混みに紛れてマントを脱ぎ捨ててください。相手が魔力で探そうとしてもすでに別人、探しようがありません。ですが昔、それと似た手段で僕が追跡されてしまった経験がありますので、念には念を入れて対策します。僕のスーツのシェイプチェンジは何度か見てますね?」
「あぁ」「はい」
「それとおなじ要領で洋服が変態します。変態すると魔力の質が変わるので、潜入した翌日に、人混みで洋服の形態を変えてください。ここまでやりますが、お二人が行くのは敵陣のど真ん中だという事を絶対に忘れないで欲しい。常に気を抜かないようお願いします。そしてなにかあったらすぐに報告を。それと退避用スーツ《デコイ》をヨキさんとリズに渡しておきますので、常にどちらかが着用しておいてください。洋服の下にも着用できますし、そう目立たないと思います。いいですか?」
「あぁ」「はい」
「いまから一週間かけて《デコイ》の練習をします。本番で使えなかったら話になりませんからね。それとリズ、なにがあるかわからないから、接近戦の練習は怠らないように」
「はい」
良い返事。優等生って感じだな。気持ちがいい。
「ヨキさんは《朝陽》を使いこなす練習をしてください。必要になるかもしれません」
「あれは好かん」
「嫌いなのは知ってますが、いまは譲ってください。今回、ヨキさんはリズの護衛という側面もあるんです。練習不足のせいでリズが怪我をした、なんてことになったら笑えませんよ?」
「チッ」
ちょっとはリズの素直さを見習ってくれればいいんだけど。
まぁヨキの性格だ。なんだかんだ言っても練習はするだろう。
「マクレリアさん、ちなみにルゥって、あとどのくらい生きていられそうですか?」
「さぁどうだろう。ちゃんとしてれば、半年はもつんじゃないかな」
「そうですか」
その日の夜。俺はルゥのベッドサイドへ。
顔はすっかりやつれて、骨と皮。眼窩は窪み、生気がない。
「聞こえますか?」
首肯。見慣れた仕草だが、明らかに動きが弱ってる。痛々しい。
「あなたの贖罪、必ず成就させましょう」
首肯。
「もう少しだけ、もう少しだけ頑張ってください」
それから一週間。
俺は必要な物品の創造に追われた。スーツ《デコイ》の調整、魔力遮断マント、シェイプチェンジ機能をつけた魔力を変換する洋服、旅行に必要な保存食、パラシュート三つと階段、そして贋金と身分証明書、顔を隠すケブラーマスクと揃いのユニフォーム。贋金造りは倫理観が疼いた。
身分証明書は、デルアで使用されている物を精密に模倣。ヨキは元々草原に暮らす一族でデルア国民だ。でっちあげるのは難しくない。
一つ問題があるとするなら、首都のシャム・ドゥマルトは人間至上主義の都市だ。悪魔であるリズベットは奴隷として扱うしかない。奴隷の証明書はルゥの著書のなかに見本があったからその通りに造ってみたが、ずいぶん昔の情報だ。うまくいかないかもしない。一応ヨキが生前に見た奴隷証明書と変わりはないようだけれど、不安は拭えない。人の記憶というものは曖昧で信憑性がないものなのだ。
リズの代わりにマンデイを、とも思ったのだが、マンデイは頑なに拒否、リズもやる気まんまん。
報告には毎日行くし、なんとかフォロー出来るかな。
「さて、準備が整った。《ゲノム・オブ・ルゥ》の初陣だ」
「はい!」「あぁ」「うん」「わかっタ」
「レイシストの変質者野郎に挨拶といこう」
第一段階。
潜入。
が、そのまえに、相手の注意をヨキとリズから逸らしておく必要がある。
魔術の通路を使ってしまうと感知され、警戒される可能性があるから、ヨキとリズとゴマには自力で壁を越えてもらわなくてはならない。フューリーみたいにジャンプで越えられるはずもないから、内側に階段を創造。登ってもらう。外に出る時はパラシュート。
ゴマ用のパラシュートの創造は骨が折れたが、楽しくもあった。やっぱ難しい物を造ってる時って幸せだ。
残った俺たちはルゥの魔術通路で壁の外に出て、デルア王国領の城の一つに攻め込む。別に落とすことが目的じゃない。目立ちさえすればそれでいい。
ターゲットは壁から最短の砦、ファブ・レインという田舎町にある城。
不干渉地帯からの恵みで潤っているファブ・レインは見事なまでに平和ボケしていて、保有する戦力も少ない。俺たち主戦力は城に潜入し、好きに暴れたらいいわけだ。
こっちが目立ちまくっている間にヨキとリズが首都に潜入。陽動作戦である。
もちろん不安要素がないことはない。悪い想像は考えはじめるとキリがないのである。
成功するといいのだが。




