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初恋成就  作者: ayaペンギン


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4/5

本格的な冬の到来が間近に迫ったある日。

私は今日も店先でレオン様が来るのをいまかいまかと待っていた。

手には作りかけの黒いマフラー。

優柔不断な私はレオン様に渡すかどうかをまだ決められないでいる。


あ、レオン様だ!

通りに目をやると、こちらの方向へ歩いてくる騎士たちの中にレオン様の姿を見つけた。

じっと見つめる私に、レオン様は気が付いたようだった。


「こんにちは!今日もこの辺りは平和ですよ!」

と、いつもの調子で声を掛けた私に、

「あぁ。そうみたいだな。」

と言って、レオン様はニカッと笑う。


「そういえば、マフラーはもう完成しそうか?」

「ん-、まだあとひと月くらいかかりそうです。」

最近は会うたびにマフラーについての進捗を聞かれるので、私も返事にだいぶ慣れてきた。


「そうか。ところで、アンナ。何歳になったんだ?」

いつもの会話に短く返事を返したレオン様は不意にそんな質問を投げかけてきた。

私に少しでも興味を持ってくれたのかな?

期待で胸が高鳴る。

「えっと、来月で十八になります。でも…なんで?」

なんでそんなこと聞くのだろうか?


「いや、何でもない。」

「気になるんですけど…。」

「そうか?」

「気になります!」

理由をなかなか教えてくれないレオン様に私は食い下がる。


「そんなに気になるんなら、しばらく気にしとけ。」

いたずらっ子のように笑うレオン様。

珍しい少年のような表情に私は息をのむ。


もうこの会話は終わりだとでも言うように、レオン様は私の頭をポンポンと撫でる。

そして、

「じゃあまたな。」

と短く告げて去って行ってしまった。


さっきのはいったい何だったんだろう?

ほんとに私に興味を…?

いや、そんなまさか…。

嬉しい期待と純粋な疑問が私の頭の中をぐるぐる巡った。

そして、ふと手元のマフラーに目を落とす。

やっぱり完成したら渡してみようかな…?

そんな考えがほんの少しだけ私の頭をよぎった。


―――――


本格的な冬の寒さに包まれる街。

店先のクリスマスローズには霜が降りていた。

あの謎の会話からひと月が経とうとしていた。


もうすぐ完成だ。

店先の椅子に座った私は丁寧にマフラーを編んでいく。


今頃、レオン様はなにしているのかな?

私はレオン様に想いを馳せる。

会えない日でも私の頭の中はレオン様のことでいっぱいになってしまう。


そんな朝のひと時、ふと気が付くと目の前に人が立っていた。


お客様…?ついつい集中しすぎてしまっていたみたい。

私は急いで顔を上げる。

「いらっしゃ…い、ませ?」

顔を上げた先にあったのは、いつもの騎士服ではなくラフな格好をしたレオン様。

「騎士様!?」

急に現れたレオン様に、心臓が止まりそうになる。

私は椅子から勢いよく立ち上がった。


「きょ、今日はどうされたのですか?」

「今日は客としてきた。」

戸惑う私に、レオン様は淡々とそう告げる。


「そ、そうでしたか…。騎士様、今日はどんなお花をお求めになりますか?」

「そうだな。アンナが好きな花をいくつか見繕って包んでくれるか?」

なんとか接客モードに切り替えた私に、レオン様から不思議な注文をされる。


「私のお勧めで本当にいいのですか?送る相手の好みとか…」

そう言いかけて私の言葉が止まる。

この花束は誰に渡すものなのだろう?

まさか恋人とか…?

私の頭に一瞬そんな考えがよぎったが、今は接客中だとすぐに頭を切り替える。


「いや、それは…。――まぁ何でもいいから、アンナの好きな花早く包んでくれよ。」

私の質問にいつになく歯切れの悪いレオン様。

気にはなるが、お待たせしてはいけない。

「はい、かしこまりました。」

私はそう答えて、自分好みの花束を作成していく。


カウンター越しにレオン様の視線を感じ、私の手は緊張で震える。

なんとか時間をかけて包装し終えた私はレオン様から代金を受け取った。


花束を受け取ったレオン様はなぜかカウンターの前から動かない。

こちらをじっと見つめる瞳に耐え切れず、私は目線を少しそらす。


「騎士様、どうされました?」

「アンナ、今日の俺は騎士様じゃねぇ。レオンだ。呼んでみ?」

恐るおそる尋ねる私に、何を思ったのかレオン様が突然そんなことを言い始めた。


え!?今、名前呼べって言われた?

私は突然の発言に一気に顔が真っ赤になっていくのを感じた。

心臓も壊れそうなほど鳴り響いている。


「ほら、早く。」

「…っ!れ、レオン様…。」

焦る私を急かすレオン様に私は一瞬息を飲み、消え入りそうな声でその名を呼んだ。


「よし。それでいい。」

私の耳に、満足げなレオン様の声が聞こえる。


名前呼びしちゃった…

恥ずかしすぎて、真っすぐ目を見ることもできない。


「アンナ、俺、昇格して城内警護の部隊に移動することになった。」

真っ赤になったまま固まる私に、レオン様が不意に言葉を続けた。

「だからもう、ここらの巡回には参加しない。」

「えっ…?」

突然の話題に冷や水を浴びせられたかのように体が冷えていく。

さっきまでの雰囲気とは一変した空気。


「お、おめでとうございます。すごいですね!」

私は沈黙に耐え切れず、心にもないおめでとうをレオン様に告げる。

昇格はすごいことだ。でも…会えなくなってしまう。

そう思うと素直に喜ぶことができない。


「アンナ、ほんとにそう思ってる?」

カウンター越しに私の方へレオン様がぐっと身を乗り出す。


寂しい…でも、そんなこと言ったらレオン様を困らせてしまうかも…。

おめでとうという言葉以外にレオン様にかける言葉が見つからない。

ここで泣いてはいけない。

しっかりと笑顔でおめでとうと言わなくちゃ。


「ほんとですよ!おめでとうございます!」

私は複雑な感情を押し込め、努めて明るくレオン様におめでとうと告げた。

「そうか…」

そう短く返すレオン様の表情が一瞬悲しそうに見えたのは気のせいだろうか。


少しの沈黙の後、レオン様は手に持っていた花束を私に差し出してきた。

「えと…?レ、レオン様?」

「これ、アンナにやる。誕生日祝いだ。部屋にでも飾ってくれ。」

「お、覚えてくださっていたのですか?」


この花束は私へのプレゼントだったの?

つい先ほどまで悲しい気持ちでいっぱいだった私の胸に灯りがともる。

今日は予想外のことばかりで感情が忙しい。

「ありがとうございます!嬉しいです!」

私は今度こそ素直にレオン様の目を見て言葉を返すことができた。


「じゃぁ用件も終わったし、そろそろ帰るわ。」

嬉しそうな私にレオン様は満足げに頷いた後、店を出るために踵を返した。

「あ、待ってください!お見送りします!」

私は慌ててレオン様の背中を追う。


これが最後になるかもしれない…

私はもらった花束をギュッと抱きしめた。


店から出たところでレオン様が私の方へ振り返る。

別れの言葉をくれるのだろうか…

私はレオン様の言葉を身構えながら待っていた。


少し間が空いた後、

「来週の同じ時間に迎えに来る。それまでにそれ完成させとけよ。じゃあな。」

と、唐突に予定を告げられた。

そして、私の返事を待つことなくレオン様は街の人ごみに消えて行ってしまった。


残されたアンナは花束を抱えながら床にへたり込んでしまう。

今日はなんて日なの…!

初めての名前呼びに浮かれていたところに、レオン様の移動のお話、そして誕生日プレゼント。

それだけでお腹いっぱいなのに、来週もレオン様が来る?


そういえば最後にマフラーを指さしていなかっただろうか?

完成させとけってことは…ばれてたってこと!?

マフラーは渡すことになってしまったのだろうか。

それに迎えに来るとはどういう意味だろう。

いったい私に何が起こってるの!?

私は周囲の目も忘れて店先でぐるぐると目を回していた。


―――――


「アンナ?どうかしたの?」

どれくらい時間が経っただろうか。

おつかいに出ていた母が店先でへたり込む私に声を掛けてきた。


「お、お母さん!大変なの!」

母の声にようやく思考の海から帰ってこられた私は母に縋りついた。

「まぁまぁ。おちついて、アンナ。いったん仕事はお休みして中でお茶でもしましょう。」

様子のおかしな私をなだめながら、母に家の中へ促される。


家に入ると、母は私の大好きな蜂蜜入りのミルクティーを入れてくれた。

私はそれを一口飲んで、はぁっとため息を吐いた。


「さぁ。もう落ち着いたかしら?さっきは泣きそうな顔でしがみついてくるから驚いちゃったわ。」

母は私の隣に座り、私の背を優しくなでてくれた。


私はようやく落ち着いて今日あった出来事を母に順に話していく。


「それでね、来週会う約束をしたのよ。マフラーのこともばれちゃってたみたいで…」

最後まで話し切った私に、これまで穏やかに話を聞いていてくれた母が豹変する。


「え!?それって絶対デートのお誘いよ!マフラーもきっと自分が欲しいって思ってるんだわ!こうしちゃいられないわね。一週間なんてあっという間よ!さ、アンナ。お母さんと服を選びに行きましょう!」

言うが早いか、母はさっそく私をクローゼットまで引っ張っていった。

「え!?お母さん!?デートじゃないかもしれな…」

反論しようとする私の言葉を最後まで聞くことなく、

「それでデートじゃなかったらお母さん、騎士様に一発張り手でも食らわせるわ!」

母が威勢よく言い切った。


お母さん…騎士様に張り手はまずいんじゃ…?

私はそう思ったけれど、母の鬼気迫る迫力に反論の余地はないことを悟った。


それからは怒涛の一週間だった。

頭のてっぺんから足の先まで母のアドバイスのもと、レオン様とのデートコーデが完成していく。

最初は半信半疑で母に振り回されるばかりだった私も、1週間が経つ頃には一目会ってマフラーを渡すだけでもいいじゃないかと思えるようになっていた。


必死に編んだマフラーも何とか完成し、きれいにラッピングした。


明日はいよいよ約束の日。

私はいつもより早く布団に入った。


マフラーもらってくれるだろうか?

明日はたくさん話せるといいな。


私はそんなことを考えているうちにいつの間にか眠ってしまっていた。

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