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初恋成就  作者: ayaペンギン


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3/4

心地よい秋晴れのある日。

店内は色とりどりのダリアが並ぶ。


今年の冬は何を作ろうかな。

カウンターで商品のミニブーケを作りながら、私は次の作品を考えていた。


マフラーでもつくろうかしら。

レオン様なら臙脂色が似あうかな?あ、黒でもかっこいいかも…

と、考えたところで私ははっと我に返った。


渡す勇気なんてないのに、私ったら何を考えてるんだろう…。

でも、私もマフラーほしかったし…

もしかしたら、渡すチャンスがあるかもしれないし…

私は少しの期待とともにマフラーを編むことに決めた。


やっと午前の営業が落ち着いた今のうちに毛糸を買いに行ってしまおう。

作業を終えた私は早速母に外出の許可を取ることにした。


「ねぇ、お母さん。冬用にマフラーを編もうと思うの、これから毛糸を買ってきてもいいかな?」

「もうそろそろお昼休憩の時間だしいいわよ。レオン様に渡すの?」

私の心を読んでいたかのような母の言葉に私はドキッとした。

「違いますー!私のです!お母さん変なこと言わないでよ。」

私は慌てて否定すると、店の外へ飛び出した。


そんな私の背に、

「レオン様が来るまでに戻ってくるのよー!」

と母の声が飛んできた。

「もう!大きな声で言わないでよ!わかってるんだから。」

そう言って私は手芸店へと駆け出した。


花屋から歩いて十五分ほど、大通りから一つ角を曲がったところに目的の手芸店がある。

手芸店に到着した私は早速毛糸を選び出した。

「あ、この毛糸手触りがいいな。色は黒がいいかしら…。いや、この赤も捨てがたいし…。」

こっちの毛糸のほうがいいかな、あっちの色がいいかなとさんざん悩んだ結果、私は黒色の手触りのよい毛糸を買って帰ることにした。

「おじさん!これ下さい。」

「こちらですね。今包みますからお待ちください。」

私は、手芸店の主人に声を掛ける。

おじさんは手早く商品をまとめると、すぐにお会計まで終わらせてくれた。


店をでると、太陽の位置がだいぶ変わっていることに気が付いた。


あ!もう、レオン様が来る時間だ!

そう気が付いた私は、慌てて花屋へと戻る。

しかし、無情にもレオン様は店を通り過ぎた後であった。


「会えなかった…」

三日に一度の大切な日なのに…

私は思わず店の外へ出て、きょろきょろと辺りを見回した。

でも、何度見回してもレオン様の姿を見つけることはできなかった。

「はぁ…。」

私は大きなため息をつきながら店内へと戻る。


そんな私を見て母がよしよしと頭を撫でてくれた。

「今日、騎士様からアンナはどうしたのかって聞かれたのよ。きっとアンナのことが気にかかったのね。」

「えっ!?それ、ほんとう?」

優しい声で告げられた、その言葉に私は少し気分が浮上するのを感じる。

レオン様もほんの少し私のこと気にしてくれてるってことかな?

そうだったら嬉しいな。


私は母から聞かされたレオン様の様子を想像して胸がときめいた。

レオン様に早く会いたいな。


たった三日…それなのに私にはその時間が永遠のように長く感じた。


―――――


今日は絶対見逃さないんだから!

と意気込んで、私はいつも通りそわそわしながらレオン様が通るのを待っていた。

編み物をしていても、ついつい意識は通りの向こうを気にしてしまう。

でも、今日はいつもの時間帯になっても一向に現れる気配がなかった。


どうしたんだろう…?

だんだん不安がつのっていく。

「騎士様、今日はいらっしゃらないのかしら…」

約一週間ぶりの再会を心待ちにしていた私は思わず声に出してしまう。


「アンナちゃん、今いいかい?」

そんな時、お客様に声を掛けられた。

近所のうわさ好きの奥様だ。

「娘が結婚することになってね、お祝いのお花を買いに来たのよ。あの鉢植えをいただけるかしら?」

「はい。もちろんです。少々お待ちくださいね。」

私は寂しい気持ちを押し込めて、接客のため席を立つ。


店内に戻り作業を始めた私にお客様から声がかかる。

「そういえば。アンナちゃん知っている?街のすぐ東にある森で魔獣が出たらしいの。街の治安維持を担っている騎士隊の皆さんが討伐にむかったそうよ。お気に入りの騎士様にはしばらく会えないかもしれないわ。心配ねぇ。」


え!?

突然の情報に驚いた私は作業の手が止まってしまう。

「そ、そうだったんですか?騎士様が…」

お怪我されてないといいけど…


「ふふふ。でも、きっと大丈夫よ。これまでもたくさん守ってくれていたでしょう?」

心配や不安で胸がいっぱいになった私に、お客様から優しい声がかけられる。


「はい!そうですよね!」

私はなんとか笑顔を作り元気よく返事した。


今は仕事中だもの…しっかりしなきゃ!

私は気持ちを切り替え、鉢植えを丁寧に包んでいく。

最後にメッセージカードを添えて、お客様へお渡しすると

「いつも可愛く包んでくれてありがとね。」

とお褒めの言葉をいただいた。

その言葉に私は、

「ありがとうございます!」

と自然な笑顔でお礼を言うことができた。


お会計を終え、お客様を店先まで見送る。

「アンナちゃんも、来年にはうちの娘と同じように嬉しい知らせを聞かせてくれるのかしらね。」

と最後に何気なく投げかけられた言葉に一瞬レオン様を思い浮かべてしまった私。

うまい返しをできるはずもなく、ただただ顔が熱くなるのを感じながら立ち尽くしてしまった。


それから数日、レオン様に会えない日が続いた。

私は店先で黒色のマフラーを編みながら、指折り数えてレオン様と会える日を待っていた。


「今日は騎士様来るかしら?お怪我などされてなければいいけど…」

心配と期待でぐるぐるする感情にマフラーを編む手が時折止まる。


「どうした?何か心配事か?」

不意に、私の耳にレオン様の声が甘く響いた。

その声に、私はかっと体が熱くなるのを感じた。


「騎士様!魔獣が出たって…あ!その包帯!お怪我を!?」

ぱっと顔を上げた先に居たレオン様の姿に安堵がこみ上げると同時に、その左手に巻かれた包帯が目に入った。


「慌てんなよ。かすり傷だ。」

何でもないことのようにレオン様が言っているが、心配でたまらない。

「でも…」

と言いかけた私の言葉を遮るように、レオン様が言葉を重ねる。

「それ何作ってるんだ?」


「あ、こ、これは、マフラーです。」

咄嗟のことに、言葉に詰まる。

まだ怪我のことが気になる。

でも、レオン様のいつにない真剣な眼差しに私はこれ以上怪我のことを聞くことができなかった。


「ふーん…んで、それ誰のためのだ?」

そんな私を見て不審に思ったのか、レオン様からさらに質問が飛んできた。


「え?」

そんなこと聞かれても困る。

渡すかどうかわからないのに、あなたの為ですとも言えない。

やましいことは何もないはずなのに少し気まずい沈黙が流れる。


「今作ってるそれだよ。誰にやるつもりなんだ?」

いつもならこんなに聞かれないのに…。

答えに詰まる私を見る、レオン様の視線が鋭くなったように感じた。

「…言えない相手か?」

レオン様の声がいつもより低くなる。


「あ、えと、…自分のためです!」

これは何か答えないとまずい!

そう思った私はなんとか答えを絞り出した。


体が熱い…私の顔はきっと真っ赤になっているだろう。

そんな私をよそに、レオン様は口元に手を当てて何かを考えている。


「そうか。それならいい。…巡回に戻る。またな。」

先ほどまでの鋭い視線が嘘のように、穏やかな表情を見せたレオン様は私に背を向け去っていく。


それならいいって何…?

謎の言葉に私は別れの挨拶をすることも忘れてしまっていた。

会えた嬉しさとあの言葉の意味がわからないもどかしさで胸がいっぱいになる。

気づけば私は編みかけのマフラーをぎゅっと抱きしめていた。

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