プロローグ
……首が痛い。
「…寝落ちしちまったか」
重たい瞼を擦り、机に突っ伏した体を起こす。
目の前には、書類の山。2ヶ月前に来た依頼。
「ったく。貴族絡みの依頼はいつだって文字と紙の枚数は立派だ」
窓の外では、灰色の霧が街を覆っている。
フィクサーになって10年。
grayの名が裏社会に知れ渡ってから、もう長い。
この依頼も、“今日”で終わる。
——その筈だった。
木の軋む音と共に階段を降りてくる気配がした。
「おはようございます、grayさん。夜中もずっとやっていたんですか?」
こいつは俺の助手だ。いかにもお人好しの顔をしてる。…実際そうなのだが。
だが、射撃の腕だけは一級品だ。
「よう、ヘイル。この書類の束から解放されると思うと嬉しくてな。あいつらはいつも表面上では綺麗でいたがるんだ。」
ヘイルはおもむろに溜め息をついた。
「えぇ…そのせいで書類が増えるんですから…全く、勘弁してほしいです。…まぁ報酬はうまいんですけど。」
俺は目の前の書類を叩く。
「そこがタチ悪りぃんだ。あいつらは金で釣ってくるからな。」
そこまで言うと、俺は机の引き出しに手を突っ込む。
「これが今回の作戦だ。覚えたら燃やしとけ。それと、銃の整備は忘れずにな」
ヘイルの目は、不安と期待で妙に輝いていた。それもその筈、あいつにとって大きい依頼は初めてだからな。
ヘイルが部屋に戻った後、俺は引き出しから自分の銃を取り出した。
ウェブリーリボルバー…この仕事を始めてからの相棒だ。
最近書類仕事ばかりだからか、僅かに埃が積もっている。
「弾は…切れてるじゃねぇか…買いに行ってくるか。」
俺は腰を上げた。




