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『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、10人の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』  作者: マサキ


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第38話:十二人目の守護者、帰還(中編)

第38話:十二人目の守護者、帰還(中編)


 主寝室の扉が砕け散った衝撃は、単なる物理的な破壊に留まらなかった。

 それは、11人のメイドたちが築き上げてきた「佐藤家」という名の閉鎖された楽園、その均衡が完全に崩壊した合図であった。


 「健太様……今、お助けいたします。」

 凛の声は、狂気の色に染まっていた部屋の空気を一瞬で凍りつかせ、凛烈な殺気へと変貌させた。


 「凛……。貴女がそこまで愚かだとは思いませんでしたわ。わたくしたち11人を相手に、たった一人で何ができるというのです?」


 結衣が、健太の髪を愛おしそうに撫でる手を止め、蛇のような冷ややかな視線を凛へと向けた。


 「数ではありません。意志の強さです。貴方たちが抱いているのは愛ではなく、ただの腐り落ちた独占欲だ!」

 凛が床を強く蹴り、弾丸のような速度でベッドへと突進する。


 「させないわ! 健太は私のトレーニング・パートナーなのよ!」

 壁の影から、意識を取り戻した遥が再び立ち塞がり、丸太のような腕で凛の進路を遮った。


 「遥さん、先ほども言いました。貴女の力は、守るべき人の痛みを無視している!」


 凛は遥の豪腕を、流れるような円の動きで受け流し、その勢いを一点に集中させて遥の膝裏を鋭く突いた。


 巨躯の遥が体勢を崩した一瞬の隙を見逃さず、凛は彼女の肩を足場にして高く跳躍し、ベッドの上の結衣へと迫る。


 「フフフ……。高い所は、影の領域よ。」


 天井の隅から、舞が音もなく降り立ち、その手に握られた暗殺用の短刀が凛の喉元を狙う。


 「舞さん、貴女の影は、健太様を救う光を遮る障壁でしかない!」

 凛は空中で体を不自然に捻り、舞の刃をミリ単位で回避すると、着地と同時に舞の手首を掴み、そのまま壁際に配置された志保のコンピューター・ラックへと投げ飛ばした。 


 「ああっ! 私の、私の健太管理データが……!」

 志保が悲鳴を上げる中、凛はついにベッドの端に手をかけた。


 しかし、そこには莉奈と陽葵が、毒々しい色の液体を湛えた皿とカップを手に、不気味な笑みを浮かべて待ち構えていた。


 「凛ちゃんも、私のシチューを食べて、一緒におかしくなっちゃえばいいんだよぉ……。」


 「そうだよぉ……。私のハーブティーで、嫌なことは全部忘れちゃおうねぇ……。」

 二人が液体を凛に向けてぶちまけようとした瞬間、凛は周囲のカーテンを力任せに引き剥がし、それを盾にして毒液を防いだ。


 「莉奈さん、陽葵さん。貴方たちの料理は、もう誰の心も満たしません。ただの毒物です!」


 凛はカーテンを二人に向かって投げつけ、視界を奪った隙に二人を床へと組み伏せた。

 「健太様……!」


 凛が健太の体に触れようとしたその時、背後から無数の「髪の毛の糸」が彼女の体を縛り上げ、動きを封じた。

 「凛ちゃん……逃がさないわよ……。健太様は、私の糸で編み上げた繭の中で、永遠に眠るの……。」


 琴音が、自らの髪を振り乱しながら、執念に満ちた瞳で糸を操っている。

 「琴音さん……。その糸は、貴女自身の孤独を縛り付けているだけです!」

 凛は全身の筋肉を一度に弛緩させ、次の瞬間に爆発的な力で引き絞ることで、鋼鉄よりも硬いはずの髪の毛の糸を物理的に引きちぎった。


 「なっ!? 私の、私の愛の糸が……!」

 琴音が絶望に染まる中、絵里と詩織、そして杏奈が最後の防衛線として立ち塞がる。


 「凛、貴女のような野蛮な女に、健太様という高貴な芸術品は相応しくありませんわ!」


 絵里が健太の体に覆い被さり、盾になろうとする。

 「そうよ、この物語の結末は、私が決めるの! 邪魔者は死ぬ運命なのよ!」

 詩織がインクに塗れたペンをナイフのように構え、狂ったように凛へと突っ込んでくる。


 「お兄ちゃんは杏奈と遊ぶの! 意地悪なメイドはあっち行って!」

 杏奈が凛の足にしがみつき、鋭い歯で噛み付こうとした。


 「皆さん……。もう、おやめなさい。これ以上、自分たちの心を汚すのは……私が許しません。」

 凛の声は、怒りを越え、深い悲しみに包まれていた。


 彼女は杏奈を優しく、しかし確実に剥がし、突進してくる詩織のペンを最小限の動作で奪い取った。


 そして、健太の前に立ちはだかる絵里の肩に手を置き、静かに首を振った。

 「絵里さん。貴女が愛しているのは、健太様ではなく、健太様を所有している『自分』です。そんな虚像のために、これ以上彼を壊さないでください。」


 凛の手から放たれる圧倒的な覇気と、迷いのない言葉の重圧に、絵里は力なく膝をついた。


 ついに凛の前に、結衣だけが残された。

 「結衣さん。貴女が、この狂気の中心ですね。」


 「……凛。貴女一人で、この屋敷のすべてを敵に回して、健太様をどこへ連れて行くつもりです? 彼にはもう、ここ以外に居場所などないのですよ。」


 結衣は健太の首筋に冷たい指先を這わせ、挑発するように凛を睨みつけた。

 「居場所は、自分で作るものです。奪い合うものではありません。結衣さん、最後通告です。その手を……離してください。」


 凛の体が、微かな熱を帯びて発光しているかのように見えた。

 それは、彼女が極限の修行の果てに得た、生命力を物理的な衝撃波へと変換する秘術の予兆であった。


 「離さなければ……? わたくしが、このまま彼の心臓を止めて差し上げたら、どうなさるかしら?」


 結衣の指先に力がこもる。

 「――その前に、貴女の執着を私が断ち切ります!」


 凛が動いた。

 それは目にも止まらぬ速さ、一筋の雷光のごとき一撃であった。

 凛の掌が、結衣の胸元に触れるか触れないかの距離で静止し、そこから目に見えない衝撃が結衣の体内へと流し込まれた。


 「……っ、あ……ああ……。」

 結衣は声を漏らす暇もなく、糸が切れた人形のようにベッドから転げ落ちた。

 外傷はない。だが、その一撃は結衣の中にある「健太への異様な執着心」という神経回路を一瞬だけマヒさせる、凛の究極の奥義であった。 


 部屋を支配していた重苦しい気配が、霧散していく。 


 凛はついに、誰にも邪魔されることなく健太の体を抱きかかえた。

 「健太様……。遅くなり、申し訳ございません。今、本当の空が見える場所へお連れします。」


 凛の腕の中で、健太の瞳が微かに揺れ、一筋の、今度は誰にも奪われない涙がこぼれ落ちた。


 しかし、佐藤家はまだ、その牙を隠し持っていた。

 屋敷全体のセキュリティが、侵入者である凛を排除するために、最終殺戮モードへと移行し始めたのである。

 「……凛。逃げられると……思わないで……。」


 床に伏した結衣が、血を吐きながらも、屋敷の自爆装置を起動するスイッチに指をかけた。


 第38話、終了。


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